鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

138 楽園の春愁

2020-04-23 13:57:00 | 日記

今年の春は稼業のスケッチの旅にも行けず、常にも増して怠惰な花時を過ごしてしまった。

近所の野で一人聴くBGMはただただ美しいサラ・オレインのタイムトラベラーズだ。

この曲は今は亡き画友とよく行った花巡りの旅を思い起こさせる。


まだ隠者の楽園に現世の災厄は及んでいないが、世人皆この愁いの春は心から笑い合うような事も無く過ぎ去ろうとしている。

詩画人なら春愁の情もより深める事で精神も鍛えられるのだから、むしろ積極的に愁いに浸り切るべきなのだ。

しかし一般の社会人や若い人達の不安や閉塞感は、出来るだけ和らげて欲しい。


国難の中で芸術や娯楽が罪悪のような風潮は、第二次大戦下の非国民扱いに似て来た。

フランス映画の金字塔「禁じられた遊び」では、戦時下の孤児の哀しいほど無垢な十字架の秘儀が描かれている。

モノトーンの美しい農村風景がたまらなく郷愁を誘う。

この草花の咲き乱れる村は、孤児達にとっての仮初めの楽園だった。


自然美に対する観応力は全人類共通の心情だが、残念ながら個人差が大きくて優れた自然観応力を持つ人は全体の12割だろう。

ジャン・コクトーの言った「人は絵に描かれた霧を見て、初めて霧を認識する」とは、物事を視覚では見ていても心で感じていない人が多い事を言っている。

戦時下でも十字架と花のファンタジーを創出した子供達に負けず、今の我々も花咲き鳥が歌う日常世界をこれまで以上に感受し慈しみたい。


情け無くもこんな時期に足を骨折してしまった。


しかしながらこの風姿は紛争地域の負傷兵のようで気に入っている。

どうせ外出自粛中なので、ゆっくり療養させてもらおう。


©️甲士三郎