鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

116 離俗の休日

2019-11-21 14:14:34 | 日記
休日の朝は皆それぞれの過ごし方があると思うが、遅めの朝食後に珈琲やお茶を淹れ好きな音楽を聴きながらくつろぐ人も多いだろう。
まあ隠者や世捨人は毎日が休日のような物だが、そんな日の午前もまた私は例によってぼーっと思索瞑想に耽っている。


(茶器 Michikazu Sakai作)
瞑想に浸るコツは禅の只管打坐に近く、思考に方向性を持たせずに混沌の海をふらふら漂うような感じが良い。
有意義な思考だとか修行になるとか思うのは邪念で、純粋にただぼーっと小春日の至福の時間を味わうのが上等だ。
その場をより厳かな空間にしたければ、BGMにキース・ジャレットのクラヴィア平均律のブック2を推奨しよう。
あのタッチの天才が敢えて強弱を付けられないチェンバロで坦々とバッハを弾くのは、毎日同じ祈りを数十年間も捧げ続ける修道僧のような静謐さを感じさせる。
まさに清浄安息の音楽で、世俗を遮断した夢幻界にふさわしい。
朝の光と茶の温もりと妙(たえ)なる調べの空間は、誰にでも手軽に創り出せる小さな楽園だ。

そんな空間での書見や著述も良いだろう。
文芸好きなら昔の作家の直筆の書などを探して飾ると良い。
詩歌人なら歌仙図の一つでも壁に掛ければ、即自分も歌仙達の仲間に入った気分になれる。

(歌仙図 待賢門院堀川 狩野派 江戸初期)

以前にも自分だけの離俗の結界となる小祭壇建立の話をしたが、俗事に追われる中で失われた魂の聖性を少しでも取り戻す為には、自分なりのアーティファクト(聖遺物)を祀り聖域を創る事から始めると馴染み易い。
参考例に我が鎌倉武者の祖である朝比奈三郎兵庫の古画を祀った所を見てもらおう。

(朝比奈兵庫図 土佐派 桃山時代 探神院蔵)

まずは壁際に文机や小箪笥で置き床(簡易の床の間)を設える。
洋間ならテーブルや棚に西欧風の小祭壇でも良い。
そこに自分なりの御本尊かアーティファクトを安置して、花や燭香また音曲などで荘厳する。
供物の茶菓酒肴を共に楽しみ、心を鎮め脱俗の聖域にひたる。
要は己れだけの精神領域をいかに建立するかだ。
こんな感じならお手軽で、一日に十分間でも離俗の時間と空間を確保できる。

その人なりの精神の拠所となる御本尊やアーティファクトを探し求めるのは、己が魂の欠落を埋めるが如く人生の目的の一つとなる。
そして休日の夜は夜で、そんな神宿る品を求めてネットオークションを物色するのも楽しいものだ。

©️甲士三郎