鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

107 婆娑羅の投入花

2019-09-19 13:40:52 | 日記
---破籠(やれかご)に野の花盗みこそこそと うろつく画家の罪問ふなかれ---
(実はちゃんと買って来た花)
華道の諸流派には良い所も多いが、世界にはもっと多様で自由な花の飾り方があり日本にも婆娑羅達の立花投入の秘伝があった。


(手付き籠 大正時代 黄瀬戸沓茶碗 江戸時代 探神院蔵)
竜胆 桔梗に吾亦紅、野紺菊に芒など秋野の花を投入れるのには、古びた粗末な竹籠が適している。
あるいは流派花の定石を無視して、打ち捨てられたような破れ壺に秋草をごちゃっと活けるのも良いかも知れない。
いずれにしろ煌びやかな金銀色絵磁器より、秋寂の趣きがある花器を良とする。
つまるところお馴染みの侘び寂びだが、この美意識は他国には類を見ないジャパン オリジナルなので、現代でも十分誇りに思って良いだろう。
侘び寂びも古今集の三夕に始まり室町水墨の枯淡や利休の侘茶までは、冷え枯れのコンセプトばかりが強過ぎて私はあまり好きになれない。
ところがこれが戦国桃山時代の婆娑羅武将達の雄渾な美意識が加わると一変する。
織部に代表されるような意図的な歪みによるダイナミズムや面白味が出てきて、桃山障壁画などの豪壮な美と合わせて繊細優美な貴族文化と対極をなす武家文化が生まれる。

そんな訳で粗末な籠や歪んだ花器に野の花を気ままに投げ入れるのが、婆娑羅の末裔としては正統なのだ。


(黒織部花入 桃山時代 探神院蔵)
婆娑羅の真骨頂は自由奔放さなので、侘びの代表格の黒織部には秋冬まで散らずに残る枯紫陽花を入れてみた。
荒々しい歪みの造形が、冷え枯れだけでは無い生命力の胎動を感じさせてくれる。
婆娑羅の力技はこんな具合に発現するのだ。

伊賀信楽の中では歪み割れ焦げが見ものの水指「破れ袋」が有名だが、実は花入の方にも優品が多くある。
花を引立てるために地味目な色を纏っているものの、形と釉調は我が国の陶器の中で最も派手で変化に富む。
あえて花無しでご覧いただこう。

(古伊賀花入 古信楽蹲壺 桃山時代 探神院蔵)
花入は手の長い宇宙人に見えるような面白い形で、各部ディティールの歪みと非対称が全体ではバランス良く調和している。
上部に降りかかった自然釉と素体の土色、下部の黒焦げまでの色調の変化が飽きない。
右の信楽壺の吹き荒ぶ釉模様と合わせ見れば、婆娑羅的な美意識を感じ取ってもらえるだろう。
こうして捻くれ者の隠者は、同じく捻くれた伊賀信楽に自己投影して悦に入るのだった。

©️甲士三郎