鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

88 荒庭の中世料理

2019-05-09 13:34:10 | 日記
連休前の話だが、庭にローリエを摘みに行って月桂樹の花盛りなのに気付いた。
我が荒庭の月桂樹は年々あまりに蔓延るので枝や蘖(ひこばえ)を無造作に切って来たため樹形が悪く、花は小さくて地味な黄土色で枝いっぱいに咲いても目立たない。
切花で暗めの背景で活けてようやく何とか写真になる程度だ。
勿論この後のローリエは葉を干してハーブとして使う。
我家では洗って縁側にしばらく陰干にするだけなので簡単だ。


鎌倉らしく程良く荒れた庭を維持するのはかなりの難事だが、今回は月桂樹の荒廃の様が結構良かったので過去世から父祖達を呼び出して荒庭の宴(うたげ)を催そうと思い立った。
父がまだ健在の頃には鎌倉にも茅部き屋根の堂々たる古民家が幾つもあった。
その中の見事な巨柳のあった一軒は、私も晩生はこんな家に住みたいと思っていたのが、いつの間にか壊され木も切られて更地になっていた。
月桂樹ならそのしぶとい生命力で切られてもまた生えて来るかも知れない。
そんな変転を辿り荒れ果てた地にもなお生きる樹々を見れば、我が祖達も感慨深いだろう。


愚痴はさておき「中世ヨーロッパのレシピ」と「魔法使いの料理帳」と言う本を見付けたので、さっそく月桂樹下の夢幻界にて中世の献立で失われゆく文化と父祖の代の春を悼もうと思う。
大正風の和洋折衷文化には料理も含まれていたろう。
---重代の荒れたる庭に父祖達を 呼び出す秘術中世レシピ---


生憎夕刻から風が強まって来たので宴席は屋内に移ったが、花の枝折をテーブルの脇役に置けば雰囲気は良く、料理の不出来を誤魔化せる彩りと香りになった。
隠者は血糖の呪いに掛かっているので、この程度の料理で精一杯の御馳走なのだ。
我家代々の家訓に「食べ物の美味い不味いを言ってはいけない」と言う一条がある。
これは武家特有の戦場訓で、古来兵糧が美味かった試しが無かったのだ。
戦場では泥を啜ってでも生き延びなければならないので兵には当然の訓だ。
当然父祖達も料理の不満は一切言わないので助かる。

©︎甲士三郎