私が若い頃、週刊漫画雑誌が全盛期で名前は少年マガジン、少年ジャンプなどと
子供対象のようにみえるのに、子供に限らずサラリーマンや学生の読者が多かった。
人気があるので当然のこと食堂や喫茶店には、これらの雑誌が置かれており、発刊
日には客の取り合いになるほどだった。その頃、少年や大人ですら興味を抱くだろ
うかという原爆を題材にした『はだしのゲン』の連載が始まった。掲載の経緯や人気
度合についてどのような評価だったのかよく覚えていないが、かなりリアリティーのあ
る漫画で、戦時中の日本兵の行状、被爆経験の実態は、これに近いものだったので
はないか思わせた。この頃、私は広島の安芸郡府中町に住んでいた。比治山のお
蔭で直接的な影響を免れたこの地域には、市内中心地から運ばれてきた被爆遺体
が学校の校庭で山のように積まれ、荼毘に臥され、町は異様な臭いに包まれたと、大
家さんから話を聞かされていた。私たちの年代ですら、戦争の実態についてはかなり
オブラートで包まれかけていたが、それでも日本兵は鬼のような行状を働いたとの話
もあった。ただ、こうした話は尾ひれに尾ひれがつき、100の善行より1の蛮行で評価
が反転してしまうから、真実は分からないが戦争そのものが蛮行だから起こしては
いけないのだ。はだしのゲンは子供漫画ながら戦争の悲惨さ、とりわけ原爆がもたらす
人間破壊の実態を分かり易く教えている。つまり、分かり易くは具体的だから残酷な場
面であろうと、そのまま表現されるのだ。日本は過度にこうした事を隠したがる。戦争に
於ける残虐な行為や、実態についても同様だ。全てを包み隠さずとは言わないが具体
性のない教材の中で、いくら原爆は人類を滅ぼすほど残虐だと軽い教材で教えても身
につくはずはない。人が傷つくとはどんなことか、痛みとはどんなことか経験はできない
から、しっかりとした教育するための努力は何も為されず、子供たちが傷つくなどと詭弁
を使っている限り、真の意味を理解させることは出来ない。
松江市の教育委員会は、この漫画が子供に悪影響を与えるからの理由で図書館での
貸出しを制限してしまった。市の教育委員会にどんな権限があって子供たちの閲覧を
制限するのか、私には理解できない。一部報道によると市民から制限の要望があった
らしいが、市議会は否決しているのに松江市教育委員会は要望に従う格好になった。
市議会は形式上、市民の代表で市民の良識、意見を代表している。
教育委員会が何をしているのかよく分からないし、学校で事件があっても責任転嫁ば
かりしている組織の代名詞になっており、なくても困らない組織ではないのかと私などは
思う。教育委員会は自身の良識に従って市議会の決議を覆しての決定だから、マスコ
ミに取り上げられ騒ぎになっても、主張を曲げない覚悟はあるのだろう。仮にも、この騒
ぎが大きくなり色々な批判を受けるようになったら『閲覧禁止の解除』なんてことに、しな
いだろうな。
もし解除でもしたら、市議会の決定よりもマスコミ報道の方が重い、議会軽視そのものと
いうことになる。それほど松江市教育委員会の立場は尊いと言うのか。その前に、そん
な判断しかできない松江市教育委員会を解体してしまえ。そんないい加減な姿勢で教
育現場を管理される学校教育に何一つとして良いことはない。
いじめがあっても『いじめとは認識していない』と平気な顔で説明できる教育委員会も、
松江市の教育委員会も骨のない組織だから、私たちから見るとナマコと話をしているよ
うで噛み合わない。