カイロじじいのまゃみゅむゅめも

カイロプラクティック施療で出くわす患者さんとのやり取りのあれこれ。

米原万里 『ガセネッタ・シモネッタ』 文春文庫

2014-09-12 18:16:26 | 本日の抜粋
なんとも痛快な才女である。
おまけに素の無垢をさらけ出し、ご本人はあっけらからんある。
ということで、向かうところ敵なし。

  *****
世界に数ある踊りの中で、最も魅力的な踊りだと私は思っている。一度見た人は必ず取り憑かれる。(中略)
 はじめてジプシー・ダンスを見た人は、一見、ほとんど動きがないことに驚く。というのは、動きの派手で激しい踊りよりはるかに動きを感じ取るからだ。それに、ずいぶん着込んでいるのに、露出度の高い踊りよりゾクゾクするほどに色っぽい。
 それ、なぜか?おそらく、九〇度しか足を上げられない人が目一杯九〇度上げるのと、一八〇度足を上げられる人が三〇度しか上げないちがいではないだろうか。前者のほうが見た目は派手だが、後者の方が、なぜか、かもしだすエネルギーとか色気とか奥行きに迫力があるのだ。つまり、一八〇度まで足を上げたうえで、さらに一五〇度下げるに等しいから三三〇度の運動量が秘められていることになる。九〇度しか上げれない人の実に四倍強だ。
  *****

う~ん。
いささか強引だが、妙に説得力がある。
そして、目の開かれた気持ちにもなる。

四〇数年前、徳さんは学生生活に見切りを付けようと悶々としていた時期があった。
その時、東北の地方都市を旅して、ストリップ劇場を渡り歩いた覚えがある。
大江健三郎のエッセイに、横須賀のストリップ劇場と自衛官の話が書かれていてそれが刺激になっていたのかも知れない。
あの頃の大江はよかった、、、。

ともかく、そんな社会の周辺をウロウロしてたのだ。
今から思えば、噴飯もんだが、、、。

劇場に入る前に、その周辺をうろついていると、劇所の裏手に当たる場所で、一人の中年のおばさんが子どもに行水をさせている。
なんでもない風景だが、母親の泰然自若な態度は印象に残った。

そのおばさんが踊り子だったのだ。
アリランという唄をバックに踊る。
他の踊り子とは違うオーラを発揮している。
その手首の返し方、その足首の動きの高貴さ。
それらを支える、おばさんの秘められた精神力。

そんな時、まずは茫然自失となるしか手はない、、、。

ジプシー舞踊と繋がる話である。


  *****
最近、老人性痴呆症が進行中の母のことで、「高齢者支援センター」なる公共施設に関わることが多くなった。母がベッドから落ちないように高価な手すり付のベッドを買えと勧められる。そうすれば、補助金が出ますよ、と。いまのベッドで十分です。手すりだけ付けたいんです。たちまち相手は無愛想になって、勝手におやりなさい。補助金は出ませんよ、と言う。
 鳴り物入りの介護保険制度開始にともない、いままで福祉など見向きもしなかった企業が砂糖に群がる蟻のように参入してきて、やはり、「高齢者支援」、「高齢者介護サービス」をうたっている。そんな企業に依頼して、車椅子の母を病院から自宅まで、タクシーなら六六〇円の距離を運んでもらったら、気味悪いほど愛想がいいので、不吉な予感がした。案の定、六五〇〇円取られた。その「福祉企業」には自冶体からさらに同額の補助金が下りるということだ。もう一社は、段差解消スロープを粘着テープでチョコチョコッと取り付けて一万一千円を請求してきた。
 ああ、わたしとしたことが、重大な省略を見過ごしていたのだ。「高齢者支援センター」とは、「高齢者(を対象に業務展開する企業を)支援するセンター」のことだったのだ。
  *****

ああ、嘘だらけの、ごまかしだらけの世界。
母をめぐって、同じような環境下に置かれている徳さんとしては、ひたすら同意の拍手を送るのみ。

だいたい、福祉や医療にカネが掛かる、って誰が言い出したんだ。
きっと、時の政治家や財界が作り出したイメージ操作だ。
これも産業に位置づけようと。
いろんな団体を作れば、官僚の天下り先の裾野も広がると。

厳密、公正な会計監査が入れば、社会事業への効率的な適正な費用と、政府がヒステリックに叫ぶ財政難の主張との間にはウン兆円の差が出ること疑いなし。



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