「桜の花の咲く頃に」が忘れられない。

フジテレビ系列で１２月９日再放送された「桜の花の咲く頃に」を
偶然観た。まったく予備知識もなかった。
放映が始まる前に「第1回　日本放送文化大賞グランプリ」と
「平成17年　日本民間放送連盟賞　最優秀賞」を獲得した作品と
いう紹介があった。
それでは時間もあるし観てみるか、ということになった。
テレビの前に,だれもいなかったのも幸いした。
日頃テレビに批判的な私にはチャンネル権はない。

さて、この作品はどうだったのか。

「テレビに釘づけ状態になってしまった」

この手の作品には、とんと弱い私ではあるが、やはり作品が
素晴らしいのだ。
ダブル受賞はよくわかる。

ここで少しそれらしいことを書かなくてはならないので困って
しまうが、北海道に思い入れの強い私としては、なんとか
こなさなくてはならない。

このドキュメントの舞台となる北海道の別海町は酪農の町である。
私がこの町の名前を知っているのは、よく飲む牛乳のパックに
町の名が書いてあるからだ。
この町の歴史について調べてみようと机上にある「北海道の歴史散歩」
を調べてみるが、なんと１行も書かれていない。

そこで、別海町のＨＰを観た。
なかなかよく出来たＨＰになっている。
観光案内もわかりやすい。でもこの町の歴史の記述はほとんどない。
開拓のために多くに人々が明治期に移住したことは確かだ。
普通の人が普通に開拓した町といえる。
しかし、北海道の普通というのは、本州に住んでいる人々からみれば
桁外れの「普通」なのだ。
この北海道の「普通」の町で生きていくことが、人をどのように
鍛えるのか。
このドキュメントが教えてくれることになる。

「北海道物ならフジテレビ」というのは、「北の国から」という
２０年物をみればわかる。
自然の美しさをこれほど丁寧に撮影したドラマは他に知らないが、
それをドキュメントで撮ればどうなるか、という一つの解答である。

このドキュメントは、別海町立高等学校の３年生と教師を一年に渡って
追っていく。
スタッフは、カメラマン一名と、企画演出を担当する横山隆晴氏の２
名である。この点が「北の国から」とまったく異なっている。
ドキュメントとは、このように創るものだということを教えてくれる。

ドキュメントの場合は、出演することになる普通の人々（俳優ではない
という意味）との関係づくりが重要になってくるのだろう。
カメラを無視してくれるようになれば、撮影する最低条件はできた
ことになる。
それでも、それだけではドキュメント作品にはならない。
観客の心へ訴えることを表に裏に積み重ねていく必要があるのだろう。

この作品は淡々と時を刻む。表立っては作り込まないという作風は
感じる。それでも、私にはもっと淡々でいいと何度か思った。

さて、ではこの作品は何を訴えようとしているのか。
それはかって日本全土にあった美風へのノスタルジーなのか。
いや、それが現実に存在するということから、未来への可能性を探り、
今の私たちに「目を覚ませ」とまでいっているのか。

このドキュメントを文章化してもあまり意味がない。
例えば、父親を亡くした女子バレー部主将の生徒が、全国大会に出場するが、
ベスト８で敗退し、家計を助けるために薬局に就職する。
母子家庭の男子生徒は厳しい自然の中、郵便配達をして家計を助ける。
親の後を継いで漁師を目指す男子生徒と東京に進学した恋人との別離。
塾もない別海町で北大を目指す女子生徒。
教員採用試験に９年間挑戦しつづけている女性講師。
確かに、題材になりそうな人々が揃いすぎているきらいがある。
しかし、これがすべて事実であることが圧倒的なパワーを持つ。

うーん、やはりこのドキュメントは、若者をはじめ、日本国民への
応援歌なのだろうな。
そして、応援歌がグランプリを受賞するのか。
このあたりは少し残念なことだと私は思う。

追記；2022年2月12日　このドキュメンタリー番組がYouTubeで見ることができるようになっています。

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