ほとほと通信

89歳の母と二人暮らしの61歳男性の日記。老人ホームでケアマネジャーをしています。

懐かしい声

2015-04-18 | ほとほと日記
今日は仕事はお休みでした。


昨日、愛川欽也さんが亡くなった件について少し書きました。
私が中学生の頃、愛川欽也さんは『パック・イン・ミュージック』というTBSラジオの深夜放送でパーソナリティをしていました。
ふだんは学校があるので聴けませんでしたが、夏休みなどの長い休みに入ると私もけっこう深夜放送を聴いていました。
「キンキン」こと愛川欽也さんの放送もしばしば聴いていました。


1970年代は、TBS以外にも、文化放送が『セイ・ヤング』、ニッポン放送が『オールナイトニッポン』と、ラジオの在京民放キー局がそれぞれ深夜にパーソナリティを立てた生放送を流し、競うように人気がありました。
人気パーソナリティには若手のフォーク歌手が多い中、愛川欽也さんは「中年の役者」という立ち位置でした。
ちょっとエッチな内容も多いのは深夜放送に共通ですが、自分をイタリアの名優マルチェロ・マストロヤンニに模し、恋人のカトリーヌ(カトリーヌ・ドヌーブ)とのラブストーリーを朗読する…というコーナーが私には印象的でした。
それまでのおどけたDJ口調が一転して、陰影のある俳優の声(と言うより洋画の吹替えの声)になるのが、やっぱり俳優なんだなア…と感じたものです。


私に最も影響を与えた愛川欽也さんの仕事は、フェリーニの名画『道』の吹替えです。
中学一年生か二年生のとき、NHK教育テレビで私は初めてこの作品を観ました。
粗野な旅芸人ザンパノ(アンソニー・クイン)の小松方正さん、主人公のジェルソミーナ(ジュリエッタ・マシーナ)の市原悦子さんと共に、情感に満ちた吹替えでこの名作に触れられたのは、幸福だったと思います。
愛川欽也さんは、ちょっと口が悪くて心優しくて孤独な綱渡り芸人(吹替えでは『キ印』と呼ばれていました)を軽妙に哀しく演じていました。


深夜放送以降の愛川欽也さんの活躍は言うまでもありません。
映画では『トラック野郎』シリーズがあり、テレビでは数々の長寿番組の司会をされました。
ただ、私はそれらの仕事にはほとんど触れたことがありません。
ですから、私にとっての愛川欽也さんは、深夜放送の「マルチェロ」であり、「キ印」であり、『アパートの鍵貸します』などでのジャック・レモンの吹替えの方です。

それらは皆、若い私の心に間違いなく影響を与えた「懐かしい声」でした。