ほとほと通信

89歳の母と二人暮らしの61歳男性の日記。老人ホームでケアマネジャーをしています。

優しさの鬼退治

2020-12-16 | 映画
今日も仕事はお休みでした。


思わぬ時間が出来たこともあり、近くのイオンシネマに『鬼滅の刃』を観に行きました。

言うまでもなく『千と千尋の神隠し』の映画興行記録更新も間近の、今年のウルトラヒット作品です。

さすがに平日の初回とあって館内はガラガラでしたが、コロナが急拡大している中、混んでいたらどうしよう…と案じていた私は内心ホッとしました。


作品は原作の1エピソードを劇場映画版に仕上げたもののようでした。

私は、鬼退治をする「鬼滅隊」と鬼の抗争…という程度の予備知識しかありませんでしたが、それでも充分楽しめました。

鬼滅隊側にも鬼側にも色んなキャラクターがいて、それぞれ名前の付いた技を繰り出してバトルするのですが、その激しい戦いとちょっと引いた場面の繰り返しが、M1グランプリで漫才師たちが立ち替わりに出てくる緊張感に少しに似てるな…と感じました。


これだけの大ヒットをするのは、色んな客層に引っ掛かる要素を持っているからでしょう。

私にとっては「呼吸法を正義側の最大技にしていること」「家族の絆が正義側の強いモチベーションになっていること」「悪者や弱者の心情を丁寧に掬い上げていること」などが良い引っ掛かりになったと思います。

もちろん基本的には少年マンガらしく、主人公たちの戦い、ガッツ、成長…などの要素が作品の背骨なのでしょうが、「共感」を大切にする今どきの若者気質にマッチングする優しい肌触りが特徴的だなぁ…と感じたことです。


『千と千尋の神隠し』との比較は意味のないことだと思います。

ただ、コロナ下の長く抑圧的な生活が『鬼滅の刃』のウルトラヒットに貢献したことは間違いないように思いますが、それはそれ、この作品が特異な魅力を持っていることには違いありません。



飢餓海峡

2020-05-20 | 映画
今日は仕事はお休みでした。


午後から、昨日のNHKBSでの放映を録画した、映画「飢餓海峡」を見ました。

昭和40年作の日本映画で、原作は水上勉で監督は内田吐夢、出演は三國連太郎、伴淳三郎、高倉健、左幸子などです。


3時間以上の大作ですが、中学か高校の頃にテレビの年末年始の特別枠で見た記憶がありました。

内容はすっかり忘れていましたが、見ていると「そうだそうだ」と思い出して来ました。


死者1155人を出した現代日本最大の海難事故である洞爺丸事件に想を得た作品で、超絶貧困層出身の男が、過去の犯罪歴を隠して財を成したけれど、ふとしたことから再び人を殺めて破滅する…というのが話の骨子です。

それにしても圧倒的に陰鬱でトラウマ感に満ちた作品でした。

この陰惨なモノクロ作品が大ヒットしたのですから、昭和40年の日本国民も、高度成長期のイケイケ気分ばかりではなかったのかも知れません。


出自を隠して成功した男がふとした綻びから破滅する…という主題では、「砂の器」や「ワンスアポンタイムアメリカ」などを連想しますが、主人公の陰鬱感において、三國連太郎は圧倒的でした。

撮影時まだ四十代になったばかりですが、もっと遥かに風雪を経てきたような凄味があります。

刑事役の高倉健も撮影時は32、3歳ですが、もっとずっと大人に見えます。


戦争と貧困を体験した世代の俳優の顔付きは、優しい顔だらけの現在の俳優から見ると外国人のようだ…という私の持論を強化する作品でした。


歴史的傑作を観て

2020-02-11 | 映画

昨日と今日は仕事はお休みでした。

 
 
今日は午後1時からNHKBSで黒澤明監督の『七人の侍』が放送されました。
 
今まで二、三回は観ているのですが、今日も観始めるとたちまち引き込まれました。
 
 
ただ、今日は休みとは言え、明日の仕事の準備をしなくてはならず、二時に職場に出かけたのです。
 
帰って来たのは四時過ぎでしたが、『七人の侍』はまだやっていました。
 
映画史に残ると言われる、最後の雨中の合戦のクライマックスシーンでした。
 
 
もともと録画をしていたので、夕食を摂りながら初めから観始めました。
 
すぐにまた惹き込まれ、3時間半、最後まで見入ってしまいました。
 
改めて、脚本、演出、演技、カメラワーク、どれをとっても途方もない大傑作だと感じ入ったことです。
 
 
昨日、アメリカ映画のアカデミー賞で、韓国作品が作品、監督、脚本、国際映画の主要部門を受賞したことが大いに話題になりました。
 
私はその作品は観ていないけれど、予告編を見ただけでも作品のもつパワーは伝わってきます。
 
近頃の日本映画からはどうにも感じられないパワーを。
 
 
率直に言って、今世紀に入った頃から、実写の日本映画で40代以上の男性が観たくなるような作品はほとんどなくなったと感じています。
 
話題になるのはアニメ映画かアイドルの恋愛映画かマンガ原作活劇ばかり。
 
私のようなオールド映画ファンからすると、わざわざ電車に乗って出掛けてお金を払って観に行きたくなる邦画作品は皆無に近いのです。
 
言わば、テレビ番組の延長のような作品ばかり。
 
そのテレビ番組と言えば、どれも過剰なナレーションと説明テロップで、何も考えなくても判るように作られています。
 
そういう視聴者向きの映画をいくら作っても、国内向けの映画賞で仲間内で褒め合うことは出来ても、初見の外国のお客さんを引き込む力のある作品が出来るはずはありません。
 
 
ただ、それが悪いことだ…とばかりも言えません。
 
私は、日本に平和な社会が続いた影響が大きいと思っています。
 
特にここ数年は、国民全体の嗜好が「女子化」して、より優して可愛くて好感度の高いものを好むようになった影響が映画作りにも表れている気がしてなりません。
 
 
 
『七人の侍』の三船敏郎も志村喬も宮口精二も強烈な面構えで、現代のハリウッドでも勝負出来るような強い個性があります。
 
そもそも今はあんな強烈な顔付きの日本人はいないし、いても人気俳優にはなれないでしょう。
 
黒澤明のイワン雷帝のような圧力のカリスマ性は、現代日本ではあっという間にパワハラ訴えされるでしょう。
 
彼らの表情の迫力や覚悟、戦闘性は、明らかに戦争体験の影響があると感じます。
 
 
中性風イケメンと秋元康グループ的カワイ子ちゃんがオタク的恋愛ごっこをする映画をいくら量産しても本家アカデミー賞には永久に無縁でしょうが、それはそれで致し方ないか…という気もしたことです。
 
 

巡り合わせ

2020-01-10 | 映画
昨日と今日は仕事はお休みでした。


2日間で三カ所の病院に掛かりました。

昨日は三ヶ月に一度の痛風センターで採血と採尿をしました。

幸い、数値は安定していました。

その後、耳鼻科に行って耳垢掃除をしてもらいました。

ここ数日は特に右耳の聞こえが悪かったのですが、すっかり改善しました。


今日のお昼前に。左の奥歯を抜きました。

歯を抜くのは久しぶりなので朝から緊張していました。

歯科医も慎重になり、念入りに麻酔をしてくれました。

左下の一番奥の下の歯がグラグラになっていたのですが、痛いと思う間もなく、10秒くらいで抜けました。

診察台の上の自分の奥歯を見ると、もの哀しい気分になりました。

六十代、今後もこうやって色んな物を喪失して行くのでしょう。


歯を抜いて帰って来ると、NHKBSで『小さな恋のメロディ』が掛かっていました。

私は、日本で大ヒットしたこの作品をちゃんと観たことがありませんでした。

抜歯の静養を兼ねてベッドに横になって眺めていると、最後まで観てしまいました。

話としては正直たわいないものですが、主演のマーク・レスターとトレーシー・ハイドがとにかく可愛い。

これが封切られたのは47、8年前ですが、当時の日本の十代が夢中になったのも当然…というみずみずしさでした。


改めて調べると、マーク・レスターは私と同年齢、トレーシー・ハイドは一つ下なのでした。

当時の私が観なかったのは、すでに始まっていたヒネクレ症からでしょうか。

約50年後、すっかり干からびた私が、歯周病でグラグラの奥歯を抜いた昼下がり、この甘酸っぱい佳品とようやく出会えたのも、なかなかの巡り合わせと感じたことです。


昭和の洋画

2018-12-27 | 映画
今日は仕事はお休みでした。


買い物、スポーツクラブ、自炊のランチ…と、いつもの休日コースを終えてひと休みしていると、NHKBS放送で『ブレードランナー』をやっています。

見始めたら全て観てしまいました。


おとといの『ワンスアポン・ア・タイムイン・アメリカ』と同じく1980年代の作品で、言わずと知れたリドリー・スコット監督のSF映画の記念碑的名作です。

公開時には観ませんでしたが、ビデオになって評判を呼び、レンタルして観た記憶があります。

恐らく30年以上経っての再見でしたが、見覚えのあるシーンがたくさんありました。


夜と雨と煙が主調音の悪夢のような世界ですが、光と陰を鮮烈に使ったスタイリッシュな映像美はやはりすごい。

レプリカントと言われる使役用の人造人間を始め、キャラクターたちの造形も強烈かつユニークです。

舞台が2019年のロサンゼルスとほぼ現在だったことに改めて気づき、よけいに感慨深いものがありました。


『ブレードランナー』本編の放映の後に、ブレードランナー製作の舞台裏を紹介した『ブレードランナー・メーキング』という1時間45分の作品も続きました。

そこでは、『ブレードランナー』という希代の作品が、監督とスタッフとの確執やスポンサーとの悶着など 、いかにさまざまな苦難の末に産まれたのかを描いていました。

驚いたのは、ブレードランナーにはCGが全く使われていない…ということでした。

監督の美意識を、たくさんの部署の職人的技術と意地が拘って手造りしたことを知り、これもまた「昭和の名作洋画」なのだなあ…と思ったことです。