金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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昨日今日明日あさって。(伯爵)7

2022-11-13 10:11:15 | Weblog
 その日はそれで終わった。
けれどクラス委員としては終われない。
至急、答えを出さねばならない。
だから屋敷に戻ってから考えた。
 手持ちの人数は、一年時同様に俺を含めて十八名。
予算は学校から支給されるが、寄付の受領も許されている。
が、こちらは平民なので、そう多くは望めない。
その上で出来るのは・・・。
 貴族なら従者も勘定に入れられるが、うちのクラスは俺以外は平民、
望むべきもない。
現状、人数も予算も圧倒的に足りない。
大道具や小道具も考慮すると演劇や剣劇は無理、
料理屋や喫茶店等も最優秀賞には一捻り二捻りが必要。
そうなると・・・。
別の・・・、斬新な・・・、企画は・・・。

 あっ、前世の学校祭ではクラス対抗球技大会があった。
バレーバール、バスケット。
そうだ、サッカーにしよう。
用具はボールとシューズ、・・・ゴールは、斬新に、
バスケットの様に壁の高い所に置こう。
ジャンプして二段蹴りシュートだ。
空中でトラップ、もう片足でボレー。
忘れてた。
相手は子供達だ、無理だ。

 となると、室内テニスか。
子供仕様の。
ラケットにボール、ネットに笛が必要だ。
今世はそもそも球技がない世界。
まずボール造りから。

 その日のうちに協力者候補三名に文を出した。
至急商用で会いたいと。
何れも冒険者パーティのメンバーの父親達だ。
街に店を構える商会の会長達ばかり。
ただ、彼等は大きな商いをしている訳ではない。
国都内のみの商いだ。
街の商店とも言える。
断る選択はしないだろう。
 流石は子供でもお貴族様の威力。
その日の内に宣なう。
執事・ダンカンが俺の意を汲んで、面談の予定を組んだ。
当然、明日の午後だ。

 教室では何も聞かなかった三人が、下校と同時に俺にくっ付いて来た。
「お父様達に何の用なの」キャロル。
「聞かせなさいよ」マーリン
「そうよそうよ」モニカ
 お貴族様相手に遠慮がない。
「説明は一度で」
「ケチよね、減るもんじゃないでしょう」
 金魚の糞をくっ付けて肛門を、否、校門から出た。 
執事見習い兼従者・スチュワートと兵士二名が出待ちしていた。
「お招きの方々が屋敷でお待ちです」
 どういう訳か、秘書兼任という形で女房も同伴していると。
秘書というより物見高い野次馬だろう。
まあ、増えても構わないけど。
「誰が相手を」
「ダンカン殿やバーバラ殿が」
 俺より先に相手を見定めるつもりなのだろう。
ああ、俺って過保護下にある。

 屋敷に戻った俺はお貴族様なので、
下校したままの恰好で面談の席に着く事はない。
着替えてからになる。
ドリスとジューンが嬉々として俺を玩具にする。
ついでにお茶を一杯。
それから食堂に向かう。

 来客一同が立って俺を迎えた。
慣れない。
でもこれも普通に、儀式として必要な一つ。
互いの為の儀式美、・・・かな。
 招待してないのだが、女児達も整然と顔を並べていた。
それぞれ両親の側ではなく、俺の家族の様に対面の席に。
両親と俺を見比べ、何やら面白がっている気配。
君達は一体、何なのだ、そう聞きたい。
でも聞かない。
時間の無駄だから。
俺は女児達を無視して、両親達を見た。
「食事を済ませてから商談に入りましょう」

 料理長・ハミルトンが良い仕事をした。
平民が相手にも関わらず、俺の意を汲んで
仰々しくはないが申し分のないランチにしてくれた。
メインディッシュはチーズと目玉焼き、ホウレン草、人参を脇に乗せ、
グリーンピースを散らしたクラーケンのステーキ。
このクラーケン、物珍しさから競りで高値を付けた物だ。
これにライス、小鉢三つ、そしてスープ。
大人達も、育ち盛りの女児達も満足してくれた。

 軽い談笑の後、場所を移した。
「こちらへ」
 俺の案内で大勢が敷地奥の芝地に移動した。
何もない所なので皆が面食らう。
「ここは」キャロルが皆を代表した。
「これだよ」
 俺は肩掛けバッグ経由で虚空からテニスに必要な諸々を取り出した。
ラケット四本、ボール四個、シューズ一組、折り畳み式ネットセット二組。
全て昨夜のうちに錬金した物だ。
前世の物とちょっと違うかもしれないが、そこを指摘される恐れはない。
 前もって呼び寄せた兵士達の手を借り、芝地に仮コートを設置した。
コートのサイズはシングルとし、大人の歩幅で縦三十二歩、
横十二歩とした。
その真ん中にネットを組み立てた。
そんな様子を心配そうに見守る庭師長・モーリスに声を掛けた。
「芝地が舞台なんだよ。
だから養生を頼むよ」

 俺はラケットとボールを取り上げ、手本とし、近くの外壁で壁打ちした。
「ポーン、ポーン、ポーン」良い響き。
 ラケットのグリップがしっくり手に馴染む。
ボールの弾み具合からすると、
蜘蛛と蓑虫の糸を練り合わせたストリングは、
もうちょっと細くても大丈夫かな。
点数的には80点だけど、でも、ああ良い仕事をした。
皆の視線がボールとラケットに釘付けだ。
 俺が会長達に声を掛けるより先に女児達が動いた。
勝手にラケットとボールを持ち、壁打ちを始めた。
最初は不器用な動きだったが、直ぐに慣れてきた。
「これ面白い」
「いいわね」
「はっはっは、持って帰ろうか」

 女児達ではなく大人達に納得して欲しいんだがね、君達。
仕方ない、女児達も巻き込もう。
俺は三名のうち、腕力が強いモニカを指名した。
「モニカ、試合をしよう」
「試合ってどうするの」
「説明するからこのコートに入って」
 モニカだけでなく、キャロルやマーリンもコートに入って来た。
興味津々なのは分かるけど、邪魔なんだよ君達。
でも、纏めて説明する方が手っ取り早いか。
外の大人達にも分る様に噛み砕いて説明しよう。

 テニスの試合運びの説明を終えると納得したのか、
キャロルとマーリンがコートから出た。
線審とボール拾いを務めると言う。
そしてモニカを応援した。
「頑張ってね」
「叩きのめすのよ」
 酷い、線審は中立だろう。
それに俺も君達の仲間だろう。
怒りを込めて第一球。
思い切り上から叩きつけた。
ポールがポーンとコート内で弾んだ。
芝地でも良い感触。
ああ、俺って大人げない。
「ダンタルニャン」
「最初から本気ってどうなの」
「これだから男の子は」

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