
きのうの讀賣新聞の文化面に、「AIの進化 感性の領域にも」という見出しの記事があった。そこに、北海道大学が「AI一茶」なる人口知能に俳句を作らせる研究について触れていて、大いに興味を持った。
北海道大学の川村秀憲教授は「俳句は、言葉は短いが、一語にこめる情報量が多い。AIに言葉の意味を正確に受け取らせるにはいい課題だと考えた」と語る。
昨年7月に同大学で人間チームとAIが対決。相手の2音をとって、しりとり形式で俳句を詠むという企画。双方5句ずつ詠み、最終的な成績は人間チームが上回ったが、最高点を得たのはAIが詠んだ「かなしみの片手ひらいて渡り鳥」であった。
ぼくは、「最終的な成績は人間チームが上回った」とか「最高点を得たのは……」には興味がない。これにはAIの俳句に対する判断力や見識は入っていない。そこまでAIの能力が行ってしまったら、いまハリウッドが盛んに作っている、人類がAIに支配されるというSF映画は現実のものとなる。
AI一茶はルールにのっとって俳句を作る能力が今まで以上に向上したのであろう。
以下がAI一茶が作った俳句。
A)花蜜柑 剥く子の道の 地平まで
B)撒くといふ 言葉正して 花見ゆる
C)無人とは 毛深きなりし 狸かな
D)山肌に 梟のこげ 透きとほる
E)かなしみの 片手ひらいて 渡り鳥
B)撒くといふ 言葉正して 花見ゆる
C)無人とは 毛深きなりし 狸かな
D)山肌に 梟のこげ 透きとほる
E)かなしみの 片手ひらいて 渡り鳥
どの句にも全角空きが二か所あるのは上五・中七・下五という分類による組合せがAI一茶が俳句をなす基本であることがうかがわれる。
この5句がひこばえ句会に出たとして、ぼくはA)C)E)は採りたい。物をしかと見せるというタイプではないが、言葉が日常のぬめりを脱していきいきと立ち上り、背後の宇宙へ連れて行かれるワープ感があるだろう。ぞくぞくする。
山地春眠子の労作『月光の象番 飯島晴子の世界』(2015/KADOKAWA)で、山地は晴子の『朱田』時代の俳句観を以下のようにまとめている。
●言葉を得る瞬間の入口は「いき当たりばったり」で、「いい加減」なものでしかない。
●言葉が生まれる暗闇は「なるべく真暗なまま」のしておく。
●この暗闇を突っ切って出口に出られるのは「定型というカプセルの特権」である。
●入口ですでに出口が予想されるような(予定調和的な)言葉では、作品にはならない。懐中電燈で出口を探すような言葉遣いでは、俳句は成立しない。
●作品とは、別の一つの時空の始まる入口である。
●作者の意識の底の不分明なところから偶然釣り上げられて、意識を通ってさらに意識を未知の先の先の時空まで伸ばす、強力な言葉の出現によって俳句は成立する。
●言葉が生まれる暗闇は「なるべく真暗なまま」のしておく。
●この暗闇を突っ切って出口に出られるのは「定型というカプセルの特権」である。
●入口ですでに出口が予想されるような(予定調和的な)言葉では、作品にはならない。懐中電燈で出口を探すような言葉遣いでは、俳句は成立しない。
●作品とは、別の一つの時空の始まる入口である。
●作者の意識の底の不分明なところから偶然釣り上げられて、意識を通ってさらに意識を未知の先の先の時空まで伸ばす、強力な言葉の出現によって俳句は成立する。
AI一茶が作った5句は、この晴子の俳句観をかなり実現しているのではないか。つまり、「いき当たりばったり」で「いい加減」に言葉を組み合わせた作りが思わぬ成果を生んでいるとみたい。
A)の「花蜜柑剥く」は「夏蜜柑剝く」とか「ざんぼあを剝く」とかにしたい。「花蜜柑」としたところは人工知能らしくない非論理的な誤りだが、逆にいうとこの非論理性が俳句をおもしろくしている。ぼくはAIは論理のかたまりであるというふうに思っていたので、目をみはった。
ぼくはAIの作った俳句に多少の添削をしたい。これを発展させていくと、これから俳句は、個人が一人でやっていくことから離れてAIを使いこなしていく作業になりそう。俳句をなす下準備としてAIはすばらしい機能を持っている。
「AI一茶」の次にもっと進んだ「AI芭蕉」も出来するだろう。さらに優れた「819runrun」や「電脳俳諧」も登場して、俳人はどの人工知能を選択し利用するか(下敷きにするか)ということになりはしないか。
早い話、F1や競馬と一緒。
2019年のF1世界選手権に参戦するドライバーと乗るクルマでは、
チャンピオン、ジョージ・ラッセルがウィリアムズに、
2位のランド・ノリスがマクラーレンに、
3位のアレクサンダー・アルボン¬¬がトロロッソ・ホンダに、それぞれ乗る。
また、競馬では、
ディープインパクトと武豊、
アーモンドアイとクリストフ・ルメール、
キセキとミルコ・デムーロ、というコンビが活躍して注目された。
これらに似て、俳句も個人のみならず使う人工知能との関連で注目される時代が迫っているのではないか。
AIを開発、進歩させる技術担当者も重要な位置を占めてくるだろう。F1レースにおいてピットインしたときのメカニック担当者、競馬で飼育する厩務員の働きが大きいように、俳句も1句に異なる分野の大勢が関与するようになっていく。
まあそのときまでぼくが生きているとは思えぬが。いや案外はやくその時期が来るか。とにかく、うきうきする。
写真:ネットの星雲写真集より「ロブスターの星雲」
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