天地わたるブログ

ほがらかに、おおらかに

俳句甲子園横浜大会を審査して

2017-06-11 07:19:27 | 俳句

対面して握手して対戦が始まる


第20回俳句甲子園横浜大会はきのう神奈川大学横浜キャンパス(1号館308会議室)で行われ、その審査員をつとめた。
出場チームは、
横浜市立横浜サイエンスフロンティア(フロンティアと略称)
神奈川県立横浜翠嵐高等学校(翠嵐と略称)
慶応義塾湘南藤沢高等部(SFCと略称)
神奈川県立津久井高等学校(津久井と略称)

4チーム総当たりの対戦の結果、フロンティアと翠嵐が2勝1敗で並んだ。当該チーム同士の戦いで翠嵐を下したフロンティアが優勝して8月の松山大会への出場権を獲得した。
最後の旗上げを終えて隣の審査員に「どこが優勝?」と問い「フロンティアじゃない」と聞いたとき「えっ、フロンティア!?」という言葉が出てしまった。
まさかと思ったチームの制覇であった。

ぼくの配点は以下の通り。
【フロンティア】
8点…1句、7点…6句、6点…2句

【翠嵐】
8点…5句、7点…3句、6点…1句

【SFC】
8点…2句、7点…5句、6点…2句

【津久井】
8点…2句、7点…5句、6点…2句

採点は去年より辛目。去年、俳句甲子園松山大会を審査したとき小澤實審査委員長から採点の甘さを指摘され、松山に準拠しようと思った。


ずば抜けた句の数をみると断然、翠嵐である。初出場の翠嵐の女生徒5人はみな溌剌と発言もした。翠嵐(すいらん)は緑に映えた山の気か……勝気でよく笑うお嬢さんたちであった。
それが優れた句の圧倒的に少ないフロンティアに負けるとは……いや、SFCや津久井にしても句の質ではフロンティアを上回っていた。
これは小生のみならずほかの審査員も感じていたところである。
春の選抜甲子園野球のように成績をもとに話し合いで出場校を決めるのなら翠嵐が支持されただろう。
そこが試合の妙。
フロンティアの勝因は、ディベート力と対戦の妙にあったのではないか。つまり作品力において5-0で負けても1敗は1敗。逆に作品点で同点のケースを論戦で勝っても1勝は1勝。ずば抜けた作品のないフロンティアは負けるときは大負け、勝つときは僅差、というのがはまった。運とツキを味方にした。

【ベストバウト】
ぼくの思うベストバウトは次の一戦。

石鹸玉一人は駄菓子食べてゐる 笠原玲那(SFC)

歯の揃わぬ弟たちよしゃぼん玉 杉本 茜(翠嵐)

笠原句に8点が4審査員(一人が7点)、杉本句に8点が5審査員という接戦。ぼくは両者に8点。
両句とも季語からの離し具合がうまい。笠原さんは石鹸玉を吹いていない一人を見ることでこの子の孤独とかあるいは親分的な存在を描くとともに店の懐かしさも伝える。杉本さんはストローを吹く場面で歯をクローズアップして弟たちを可愛いと見る。べたつかない情愛がいい。
笠原句に7点をつけた審査員が「季語からややずれたかな」というのはわかるがそれを考慮しても魅力がある。
ディベートで翠嵐に旗を上げたが勝敗は覚えていない。興奮した。

【最優秀句】
かげろうや人が多くて怖くなる 杉本 茜(翠嵐)
たとえばスクランブル交差点などで大勢の人にまぎれている作者を思う。陽炎でゆらめいている人は実数より多く感じるのである。知らない人の中にいる不安を巧くとらえた。もしかしてゆらいでいる中に死者もいるのではないかという幻想さえ生み出す。
審査委員長田中亜美の一押しの句。ぼくを含め4人も異議なくすんなり同意。

【子規漱石生誕150年記念賞】
窓際の席に替はつて夏来る 吉野航平(SFC)
「窓際の席に替はつて」は生徒であるなら実感することだろう。なんの衒いもなく書いていかにも初夏の光を感じさせるところが5人の審査員の目を引いた。
簡素にできていて実感が無理なく出ているという俳句のよさに高校生は気づきにくい。むつかしく凝った表現が質が高い、という思い込みがありそう。本選に出していない句からわれわれが発掘した。自選は生涯通じてむつかしいものである。

最優秀作品、準最優秀作品をめぐって次の句が俎上に上がった。
教室の壁は冷たし夏来る 伊集院亜衣(翠嵐)
陽炎の中をきれいなバトントス 桐生有希(SFC)
陽炎へ勇者のように歩みだす 加藤剛太郎(津久井)
負け癖がついたかもしやぼん玉を吹く 福島航輝(津久井)

【添削したくなった句】
くつついて石鹸玉は分子模型かな 桐生紗希(津久井)
この句が「くっついてしゃぼんはぶんしモデルかな」と読まれたとき審査員から声が上がった。石鹸玉を「しゃぼん」と、模型を「モデル」と読んだことにである。両方とも問題がある。「ぶんしもけい」でいい。どうしてもモデルと読ませたのならルビを振ること。
発想はおもしろいので、<石鹸玉は分子模型やくつついて>とでもして字余りだがやはり「しゃぼんだま」と読ませたい。
ほかに「しゃぼん」と「石鹸玉」を混同した句に
先輩の吹いたしやぼんが指先へ 桐生有希(津久井)
があったが、これも石鹸玉ということにはならないだろう。手を洗っているとき先輩が石鹸の泡を吹き飛ばした、ととられても仕方ない。文字は文字通りに読まれるものである。そこを崩し出すと俳句は演歌の歌詞になっていくだろう。
<わが指へ先輩吹きし石鹸玉>とかいうことを考えてもいいのでは。

ミーテイング増えて部活に夏立つ日 山口穂花(津久井)
部活のミーティンングは高校生の生活から採った素材でいい。述べ方が散文でいたずらに流れて行く。「夏立つ日」と特定したのも傷。それが災いして7点しか出せない。こうしたらどうだろう。
<ミーテイング増えし部活や夏立てり>
切字二つは強すぎるかもしれないが原句より韻文の切れが出るのでは。

ゼッケンを受け取るように夏に入る 桐生紗希(津久井)
一読して惜しいと思った。「ように」を削って実際に作者がゼッケンを監督からもらったということのほうがずっと臨場感が出そう。たとえば正選手になったあかしにゼッケンをもらうだろう。<ゼッケンを私ももらい夏に入る>とかすれば実感が出るのでは。俳句は実感とともにある。

しやぼん玉ふれようとして風にふれ 山口穂花(津久井)
よくわからないので6点。討論を聞いて「ふれようとして風にふれ」たのは手だとわかった。ならば手を出すべきでは。この句は読者にまず「しやぼん玉」で切れるのか切れないのかということでおおいに惑わす。作者は切れないという思い込みで「手」を意識しているがかなり無理。
「手」を出さないならば、<しやぼん玉ふれようとして風に乗る>とかして上五をはっきり主語としたほうがよさそう。手が風に触れるというのはわかるがそうする前から手は風に吹かれているのでは。

添削したくなった句は津久井に集中した。これは津久井が原石の宝庫であることのあかしである。添削できそうな句はすでにいい句である。
津久井は推敲ともうすこし勇気を出して喋ることができれば飛躍する。攻められたら「君のいってることはおかしい」でも「おまえは間違っている」でもなんでもいい喋ってほしい。黙っていては負けてしまうよ。
そして選句能力。最優秀候補作品も本選に出して来ない句からわれわれは選んだ。

しやぼん玉校舎うつして上りゆく 加藤剛太郎(津久井)
も即物的でよかったが本選に出てこなかった。

試合の妙で勝ったチーム(フロンティア)、新進気鋭の女生徒軍団(翠嵐)、埋蔵量たっぷりのチーム(津久井)、神奈川を牽引する古豪(SFC)。
バラエティに富んだ4校の組合せはおもしろかった。



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