きのう黒鐘公園に残る鎌倉街道を通ると茸があった。
ここは東京が武蔵野と呼ばれたころの樹木をそのまま生かした森林公園。土の斜面に茸がぞくぞく生えていた。
食えそうな気がした。
小学生のころ父と茸採りに行った記憶がよみがえった。
この茸を父は「リコーボー」と呼んでいた。
リコーボーは子供が採ると「よく採ったな」であるが父にとっては「今日はリコーボーしかなかった」という代物。とてもポピュラーな茸である。イグチ科の茸は笠が厚く上面が茶色系で光沢があり、笠の中は海綿状である。
図鑑で本名を「〇〇〇イグチ」という。
20個ほど採った。
茸を採って帰っても妻は喜ばない。
「そんな危ないものをわざわざ食べなくたっていいでしょ」と勝ち誇ったように言うが人間のやることはほとんど余計なことばかりだ。余計なことが文化なのだ。
妻の好きなバレエだって客観的にみれば還暦を過ぎて足を痛めてもやる余計なものであろう。
さいわい妻は留守。茹でて水洗いしたものに大根を下してかつぶしと醤油をかけて食べよう。
しかし茸は怖い。
いつか食べたのと微妙に違っていてそれが毒を持っている場合がある。こういうケースで事故が起きる。
それで茹でた茸を三つ食べて腹がどうなるか待った。
2時間して何も起こらなかったので夕食に供することにした。
妻の方は不測の事態が起きたとかで夕方孫二人を連れて帰宅した。
夕食は茹でた蕎麦のみ。ぼくが山芋を磨った。
とろろ蕎麦にきのこを混ぜて食うとうまいこと。
うどんを食う孫が「じじは死にたいの?」という。「明日死なないで起きたらきみんちへ茸を届ける」と応じると怪物を見るような目をした。
妻が止めるのを聞かないで茸は一気に食べてしまった。
今朝、下痢をした。
妻が「便器が汚れている」と不機嫌だが茸のせいとは思わなかったようだ。
小学生のころこのくらい食べたのだが下痢などしなかった。
あのころはしょっちゅう野生の茸を食べていた腹が慣れていたのか。
今日また公園へ行くとリコーボーが生えていた。またいただいた。
今夜は少な目に食べよう。リコーボーは「利口坊」の意味だったかもしれない。簡単に採れるめんこいやつである。