「ビブリオバトル」を訳せば「良書推薦合戦」とか。
人が集まって互いに面白く読んだ本を推薦し、聞き手の興味を引いた度合いを競いあう競技である。協議は日本各地で催されているが、全国規模の大会が読売新聞の主催のもとに開かれ、2015年の高校生の部では参加校数650に上り、予選を勝ち抜いた36人が500人の観客の前で戦う、という一大行事にまで発展した。
9月5日付読売新聞の1面の「地球を読む」で山崎正和氏(劇作家)の寄稿した一文は論旨明解、展開の鮮やかな質のいいものであった。
小生は「俳句甲子園」に審査員としてかかわったので「読書甲子園」なる切り込み方に大いにひかれた。
人の薦めで本を読むことも結構ある。小生にとってヨミトモF子は新たな世界へ導く使者である。
山崎氏はビブリオバトルがなぜ成功したかについて、人は感動体験を他人に伝えたい本能のようなものがある、としている。
生物は共同体の中に生きる存在であり、人間はその共同体を言葉によって固めてきた。
言葉は古くから噂話や伝承、神話、つまり物語を伝えてきた。
語り継ぐということが人間にとってきわめて大事であり、物語は人から人へ伝わる回数が多いほど信憑性を得てゆく。
山崎氏の論考の優れているところは、ひとつの事物を多角的に検討できる視点である。
実をいえば、近代の個性的な著者も生涯に無数の本を読み、そこで学んだ言葉によって知性と感性を磨き、そのうえで書いているのだから、創造とは語り継ぎの一種だともいえるはずである。
山崎氏が語り継いでいるのは谷口忠太氏の『ビブリオバトル―本を知り人を知る書評ゲーム』(文春新書)。
言葉の再生産、再再生産をして人は日常を楽しんでいることに気づかせてくれる。
オリジナルとはなんぞや、ということを意識し、カオスの中の言葉を思ったりした。