さて、今回はこんな質問です。
「親のことなんですが、10年ほど前から耳が遠くなってきたなとは気付いていたんですが、最近、特に聞こえが悪くなってきて、私の話もよく理解出来ないことがちょこちょこあって、言った言わないで喧嘩のようになることもあり、困っています。補聴器を付ければと言ってはいるのですが、外出することも少ないし、家族以外の人と話す機会も少ないので、補聴器はいらない、このままで良いと親は言います。私は、もっと親に元気に活動してもらいたいのに、引きこもりがちで心配です。聴力が衰えていく中で、本人はどんな気持ち、心理状態になっているのか、教えてください。」
引きこもりがちな親御さんのこと、ご心配ですね。
親御さんの気持ちを理解したいという、とても優しい方なんですね。実は、このように難聴高齢者の置かれている状況や心理を周囲が理解することは、とても大事なことですね。
高齢難聴の痛みと状況
難聴は、”人と人”とのつながりに障害を生じさせます。
相手の声がはっきり聞き取れないために、話のやり取りに苦労する、名前や場所を聞き違える、約束を交わした時間に遅れるといったトラブルを経験すると、失敗を警戒して人と関わることを避け、引きこもりやすくなることがあります。
加齢による難聴は肉体的な痛みはありませんが、人との関係から生ずる精神的な痛み、心理的な痛み、社会的な痛みを伴います。
でも、この痛み、本人にとってはとても深刻にもかかわらず、周りの人にその不自由さがよくわかってもらえないために、さらに本人を苦しめることになります。
そして、難聴であることを周りに知られたくない心理が働き、コミュニケーションが消極的になります。言われたことに何でも「うん」で済ませ、わかった振りをする。なるべく本心を表明せず、相手の意見に合わせ従うなど、受け身の姿勢を取るようになります。
反対に、一方的に自分中心の発話を続けることで、やり取りの失敗を避けようとする人もいます。
好きなことや関心のある話、すでに知っている事柄、慣れた人の声などに対しては耳が良く働きますが、未知のことや新出語には中々踏み込んでいけなくなります。
高齢難聴の聞こえの特徴と周りの配慮
高齢難聴の人と会話するとき、どんな話し方をしているでしょうか?
聞こえないのでついつい怒鳴るように話してしまう、耳元で大きな声で話すといった方が大半かもしれませんね。
でも、その話し方だと逆に聞きづらくなってしまいます。
高齢難聴の方の聞こえの特徴は、小さな声が聞き取りにくく、子音が明瞭に聞き分けられない。大きな音には敏感で不快になってしまうという特徴を持っています。
全体的にくぐもり、ハンカチを口に押し当てて発声されたような、ハッキリしない感じに聞こえるのです。
また、騒音の中では音がぼやけてしまう、反響のある所では音が歪んで聞こえ、早いスピードの会話には付いて行き難くなります。
ただ、音が小さく聞こえるだけではないんですね。
高齢難聴の方と話すときは、口元が見えるように、面と向かって、1メートルぐらいの距離で、ゆっくり普通の声で、生き生きとした表情、心のこもった話し方で話すという配慮をお願いします。
まとめ
親御さんが引きこもりがちな生活から、周りと関わり、生き生きと前向きになるには、家族として親御さんの”聞こえの痛み”に寄り添うことから始めてみてはいかがでしょうか。
家族と会話していく中で、コミュニケーションの楽しさを思い出し、きっと補聴器を使ってみようという前向きな気持ちに変化していかれると思います。