目指せ!映画批評家

時たまネタバレしながら、メジャーな作品からマイナーな作品まで色んな映画を色んな視点で楽しむ力を育みます★

映画「好きだ、」と大人になること。

2007-11-12 00:00:38 | ★★★★★
もう10年以上前の話なんですが、

私は当時、人を好きになるっていう気持ちがどういうものか
知らなくて、どうやって人にそういう気持ちを伝えたらいいのか
知らなかったのです。誰でも最初はそうだと思いますけど。
今でもとてもそういう部分は
不器用で褒められたものではありませんが。

学生時代、座席が近くていつも近くに居た子のことが
なぜかいつも心にひっかかっていました。

私、あの人のことが好きだ、と自分の感情に気づいた翌日のこと。

既に相手には好きな人がいて、付き合い始めたんだよ、って
別の友達に聞かされたときのことは今でも
なぜかすごく鮮明によく覚えています。

その日の夜、湯船に漬かりながら
初めてやり場のない感情に地団駄を踏んだことも。

それから数年、その行き場をなくした気持ちは宙を空回りしました。

時間が経つにつれてそういった、熱だけを失った気持ちは
熱を失ったまま形だけ残りました。

きっと、私は同窓会でその人に会っても声をかけることも
出来ないんだろうな。

別に今でも好き、とかそういうわけではなくて。

私の好きだ、という気持ちは

永遠にその人に伝わることはないんだろうな。



この映画に出てくる主人公は
毎日、河川敷らしき場所で帰り際、ギターを弾くヨースケ(瑛太)と
それを見つめるユウ(宮崎あおい)という構図で描かれています。

毎日、少しずつ距離が縮まったり
遠くなったり、少しずつ、少しずつ。
その絵はある意味、ほかのパワフルな
楽器やったり学生運動したり
っていう、世間の青春映画と比べると
おとなしすぎて、躍動感には著しく
欠けるんだけど、そこはかとなく
それはリアルな現実を描いているようにも
感じさせてくれます。

静かな、曇り空の下で風に吹かれながらも歩いて帰る2人、
縮まらない距離、言い出せなかった気持ち、そういうものが
とてもはがゆくて、そして切ない、淡い感情を観る者に
拙いギターの音がしみこませていきます。

「言えなかった言葉、伝えたかった思い」そういったものが
心の中でどこかひっかかったまま、二人は別々の道を進んで。
前半ラストの宮崎あおいの感情の発露はとても切なくて
とっても静かな映像の中で輝くものを残していきます。

自分の大切な思いを伝えられなかった、
という経験はは誰にでもあると思います。

同窓会なんかで

「昔、実は俺、君のこと好きだったんだぜー」

「え、実は私もー」

なんてお互い別の人と結婚してからカミングアウトする、

なんていうことも世の中にはよくあることなのかもしれません。

昔、ある人に伝えられなかった大事な気持ち。
この映画の前半、私の胸にはある人への想いが去来した。
そういえば、言えなかったな、あの言葉、
伝えられなかったな、あの気持ち。


一般論ですが、
たいていはそういうものは、結局は時間とともに風化していきます。
私とてそうだし、10年も15年も
いつまでも後生大事にその気持ちを
大事にしている人など世の中には
おそらくいないでしょう。

学生時代のようにゆっくりとは時間は流れてくれなくて、
次第に社会に流されて、
時間をなんとなく過ごして、本当の気持ちとか
伝える言葉はうまくなっていかないのに、
自分を偽ったり気持ちをはぐらかしたり、
することだけうまくなって。
昔大事だったものとか、
好きだったこととか、そういうものが
どんどん希薄化していって…。

でも、この映画は違いました。
映画だからこそ描けるものかもしれないのですが。

時を経てあることをきっかけに再会した
ユウ(永作博美)とコースケ(西島秀俊)は
言葉を交わすうち、当時言えなかった言葉を、
止まっていた時間を見事につむぎだしていくのです。

河川敷で静かに流れていた音楽が二人の
気持ちや時間を呼び起こしていく様は
見ていて感動すら覚えます。
この後半と前半のキャスティングが
違和感がないのが素晴らしいです。
普通、違う人が演じるわけだから
気持ち悪くなったりするものなのですが。
説得力あるキャスティングが更に映画に
リアリティをもたらしています。

後半は前半とは違い都会の喧騒に
飲まれながらもなんとか
お酒の味もわかるくらいに成長した
二人が少しずつあのころの
気持ちを語り始めるわけですが、
ここから先は映画を観ていただきたい。
後半の展開はやや強引なものもありますが、
エンドロールまでしっかりと見てほしいです。
私は少し幸せな気持ちになれました。

映画というのは、観ている人それぞれが
ひとつの感想を持つのではなく、
観ている人それぞれにさまざまな感情を
呼び起こすから観る価値もあるものだと
私は思うのですが、
この映画は正にそういった意味で
観る価値はあるように思います。

伝えられなかった「好きだ、」という気持ち、
あなたにはありますか?



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