これはかなりの傑作になっているのではないでしょうか。新海誠作品の最新作。アマプラで12分ほどの本編映像のティーザーを観てしまったことでどうしても気になり、新宿のTOHOシネマズで観て参りました。土曜朝の回でしたが、かなり混んでましたね。新海誠作品でもついに○○(キャラ名)の△△(何か)といういわゆる「王道タイトル」での作品が出てきたなあと思わされます。
ネタバレしますのでまだ観てない方はここで読むのをやめてください。
色々と気になる目配せはあります。
特に、日本アニメ映画の大家である宮崎駿に対する目配せは2度3度出てくるわけですよ。
ビジュアル的にモロ・シシ神様的なミミズ、勤労少女描写、ユーミンのあの曲、と。
更に芹澤のオープンカーはOn your markで、と一体どれくらい宮崎駿作品へのオマージュ、ないしはインスパイアがあったろうか。
テルーの歌っぽいエンディングとか、電車に乗る猫という意味では猫の恩返し、宗像はハウルだったりハク(aka.千と千尋)だったりと…盛りだくさん。
元々、少女2人のムービーを考えていたというインタビューからも分かる通り、これはまさに魔女宅的な要素やもののけ姫的な要素が含まれているわけですね。(神をなんとか沈めるという話としては似通ってしまう要素があるのはまさにそうですよね。)
宮崎駿やジブリ映画への目配せがこれだけありつつ、思想的には真っ向から対立?するアプローチなのが面白い。
宮崎駿は戦争的なガジェットや舞台装置を好みつつも、左翼的だったり、反戦だったり、する思想の持ち主で(風立ちぬでしっかり描かれる) 神の捉え方もまた独特なところがあった。(それはもののけ姫と千と千尋で描かれる)
新海誠は割と、右寄り思想なのは以下のふせったーなどでも伺える。(そして、たぶん、左も右も作品のクオリティには関係無いとも思ってそう)
https://fusetter.com/tw/KXi4ajFr#all
https://fusetter.com/tw/livpWjp6
一方で10年ほど経ち、日本では3.11という題材をなんとか取り扱える時代にもなったわけです。なんなら主人公のすずめは震災経験者かつ、被災者で幼い時に母親を震災で亡くしている高校生なわけです。つまり、それくらい現実世界でもアニメ作品世界でも時間が経った、という描写が可能になり、直接的に地震の描写ができる時代になったということでもあります。
震災の記憶は時間でしか癒すことが出来ませんし、被災者の記憶は薄れることはないわけです。その意味ではなかなか東北の人には直視が難しいシーンも出てくるやもしれません。
日本ならではというのが、たびたび全国各地で起こる大きな地震であり、この20年で増えた廃墟であり、今も変わらず続く土着の神さまへの信仰だったり、神社や要石なのでしょう。本作のオリジナル要素でもある閉じ師と廃墟の扉という組み合わせもまた変に新鮮で面白さを感じました。
実際には地震大国であるのは火山国だから、というのが科学的な通説である一方で、こうした神道も絡んだかのような非現代的な描写や設定は「君の名は」「天気の子」でもありましたが、面白いですね。少し不思議的なSF。
何度となく登場する描写である「地 スマホでの緊急地震速報のアラーム」などはその精度や頻度からくる利用度や必要性から考えてもまさに日本独特ですよね。
こうした日本独特の文化や生活感が随所に出てくるのもまた、描き込み上手と言えるのでしょう。(音を変えているとは言え、ドキッとする人も多かったかもしれませんね。)
日本は先進国でしたが、いまや衰退国であり課題先進国と言われています。人口は少子高齢化と都市への集中、晩婚化、GDPの減少などの複合要因で減り続けており、高度経済成長期に作られた様々な建物が廃墟と化しており地方では社会問題となっています。3セクが作ったような箱物も急激な人口減により、かなり無用の長物化しており、次から次へと寂しい場所が生まれていっているわけです。そんな苦しい地方の各都市に、忘れられたような扉があって、そこと、死後の世界的な常世が繋がっているというのも、突飛ながらも面白い設定と言えるのでしょう。絵の美しさで、かなりアニメらしい表現ながらも、美しく描き切っています。(実写だとうまくいかない絵面ですよね。)
神戸と東北、そして東京を同じ地震をテーマにしたビッグバジェットムービーでそれぞれに市井の人々も含めて映し出した作品は空前絶後だったのではないでしょうか。普通は観客の反応が怖くて出来ないですよ、こんな絵。これで東海地方まで描いてたら色んな意味で怖すぎたろうなあ…四国は描いてるので南海地震は想起させるわけですが。
エンターテイメントにどうやって現実の本当に深刻かつ苦しい情景を入れるかは永遠のテーマかもしれません。普通は避けます。が、果敢に挑戦する人もいる。そんなことを感じた一作でした。
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