目指せ!映画批評家

時たまネタバレしながら、メジャーな作品からマイナーな作品まで色んな映画を色んな視点で楽しむ力を育みます★

シビル・ウォー アメリカ最後の日 ★★★★★

2024-10-20 13:11:26 | ★★★★★
シビル・ウォー アメリカ最後の日
新宿TOHOシネマズで鑑賞。

(以下、映画.comより抜粋)

「エクス・マキナ」のアレックス・ガーランドが監督・脚本を手がけ、内戦の勃発により戦場と化した近未来のアメリカを舞台に、最前線を取材するジャーナリストたちを主人公に圧倒的没入感で描いたアクションスリラー。

連邦政府から19の州が離脱したアメリカでは、テキサス州とカリフォルニア州の同盟からなる「西部勢力」と政府軍の間で内戦が勃発し、各地で激しい武力衝突が繰り広げられていた。就任3期目に突入した権威主義的な大統領は勝利が近いことをテレビ演説で力強く訴えるが、ワシントンD.C.の陥落は目前に迫っていた。戦場カメラマンのリーをはじめとする4人のジャーナリストは、14カ月にわたって一度も取材を受けていないという大統領に単独インタビューを行うべく、ニューヨークからホワイトハウスを目指して旅に出る。彼らは戦場と化した道を進むなかで、内戦の恐怖と狂気を目の当たりにしていく。

出演は「パワー・オブ・ザ・ドッグ」のキルステン・ダンスト、テレビドラマ「ナルコス」のワグネル・モウラ、「DUNE デューン 砂の惑星」のスティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン、「プリシラ」のケイリー・スピーニー。
(以上引用終わり)

面白い。
なぜ面白かったのか?端的に言えば、今後のアメリカの、世界の分断を暗示しているから、ということになるのだろうか。
アメリカの文官統制は割と見た感じうまくいっているため、実際にはこのような事態に至ることは無いのかもしれない。
合衆国陸海空軍以外に州兵などが存在する仕組み上、全くあり得ないとも言えないがよほどの分断が起こらない限りは劇中で描かれるようなことは起こらない、とは思う。
アメリカという国に少しでも住んでみて思うことではある。
彼らは建国のために、そして、南北戦争で文字通り国を分断をして戦ったわけだが、それと同じようなことが起こるか?というと、どうだろうか。
日本で、地域別に起こる分断を考えても、イデオロギーが違いすぎて、地域別に分断が起こる、というのは考えにくいというのが実際のところではなかろうか。物質的にもアメリカは豊かになったわけで。よく指摘されているが、現時点ではアメリカのイデオロギー的にはカリフォルニアとテキサスは相容れない。が、劇中では共闘している。こうした作劇は敢えてこうしているそうである。

勿論アメリカは選挙のたびに国を二分して民主党と共和党が競うし、これまでは考えられなかったこと(議事堂襲撃事件とか)が起こったりもしてきたので、全く100%否定するのは難しくなってきている。(この議事堂襲撃事件やその他の事件でのトランプの責任が有耶無耶なまま、再び大統領選に出馬していたり、トランプが暗殺されかけたりとこれまた映画のような展開が現実にも続いている)
そんな、「もしも、アメリカが大きく分断したら?」という思考実験の映画ではあるが、あり得ないから面白く無いということは全く無く、今のところ、あまり起こり得ないと思われるけど、描かれているその現場というのは今、アメリカ以外の場所では起こっていること、起ころうとしていること、そのものなんですよね。
ガザ、イスラエル、レバノン、ウクライナ、ロシア、その他様々な地域で。
そして、映画は別段、ミリタリー的に、ポリティカル的、思想的にそうした対立の何かを解決しようという話では全く無いのでそこは注意が必要で、あくまで、プレス、つまり、記者たちがそのあれこれを現場で見て知って記録していく、という形を取っている。

映画として観た時には絵的にドーンオブザデッド風味とか、どうしてもしてしまうのは仕方ないところなんでしょうけども。
高速道路のカットとか、時が止まった街とか、「お前はどのタイプのアメリカ人だ」、とか。(ドーンオブザデッドのTVシリーズなどはアポカリプスなアメリカをかなり描き切ってしまってて、後の作品は困ると思うんですよねえ…)、そこを差っ引いてもアメリカの分断というissueを映像でわかりやすくエンタメとして表現して見せたところは喝采を浴びても良いのだと思います。




ネタバレします。
ニュートラルな視点を維持しつつも、政府はプレスを殺し14ヶ月もインタビューには応じないというトンデモ振りで、最後の際まで大統領は無様に描かれているし、そういう意味ではニュートラルとは言えないかもしれない。かなりトランプに寄せて作られたキャラ造形です。
結局、主人公たちはWFという政府とは対立している西軍側で従軍記者をやるわけですし。
大統領の最後の一言を得られたらあとは死のうがどうなろうが、知ったことでは無いというのも含め。
どうしても、大統領やその側近たちの言動に共和党的な香りがしてしまったのもまた致し方ないことなんでしょうね、今のアメリカを思えば。
また、キルスティン・ダンスト演じるベテランカメラマンであるリーが撃たれるシーン以降も、取材は継続される様は何とも言えないところがある。
鑑賞後にピリリと痺れるケレン味があるのはこの辺りだろうか。従軍記者たちも歴史的なシーンを撮影しているという自覚があるからこその緊張感の継続なのだと思う。
この映画はジリジリと後半に向けて不穏さが増していくが、序盤のシークエンスで十分に不穏だ。この先にはデスしかないぞ、とサミーが警告する例のイヤなシーンと同じくらいやばい瞬間に遭遇しているが、事も無げに振る舞うリーとそれを見てヒリヒリして思わずカメラを向けてしまうジェシー。この最初のシークエンスから既にやばいわけですよ。リーは後少し、ジェシーを引き倒すのが遅れていれば自分が爆発を食らっていたわけで…。そんな間一髪が続くんですよね。結局。それは決して普通のことではないけれど、それにいちいち動じていたら、良い写真は撮れないわけですね。この皮肉。
ガソリンスタンドでの給油時に、ジェシーはカメラを向けることすら出来なかった瞬間がありましたが、そんな危機一髪なところでも、まさに動じないわけですね、リーは。

逆にリーはどうして、最後のシークエンスでホワイトハウス突入前までかなり腰が引けていたのか?は気になるところでした。正直、あそこまで激しい陸上戦闘に従軍するとなると、命の覚悟は必要でしょうし、もっと前から覚悟していたであろうリーがなかなか飛び出せないというのはきちんと、サムの死を受けて、きちんと写真を世に出したいと思っていたからなのかもしれません。ここは解釈が分かれますね…。

以下は監督のインタビュー記事ですがこうした記事を通して作品の描きたかった世界観がよく見えてきます。

https://www.cinra.net/article/202410-civilwar_iktay

キングダム 大将軍の帰還 ★★★

2024-10-13 01:20:12 | ★★★
キングダム 大将軍の帰還
誰が書いても似たようなレビューになるとは思いますが…
渋谷TOHOシネマズで鑑賞。公開から日が経っていましたが、まだまだ満席で驚きました。もう何回も観に来てるリピーターもいた様子で後ろに座っていた女性は6回目も絶対来るーと言っていてそんな声が耳に入って驚きました。
四作目ともあり、全体的にさすがの安定感。予算枠もアップしてるそうで、引の絵では合戦シーンでCGを活用しつつも、そこそこのアップのシーンではかなりエキストラを使っており説得力のある絵を描けています。

六大将軍王騎を演じる大沢たかおがもはや主役と言っても過言ではなく後半は彼がずーっと出ずっぱりになります。そして、この存在感のある大沢たかおがしっかりと鍛えたからこその凄まじい説得力を生み出していました。やっぱりね、矛をしっかりと持って絵になるってのが超大事なので、これをがっつり肉体作りからやることが重要なんですね。大沢たかおの場合は山本耕史同様もしかすると趣味かもしれませんが…
三国無双みたいな吹き飛ばしなどは、やはり、肉体美があってこそかなと。説得力が出ます。あと、やはり一作目から見せていた「ンフっ」もハマってるなあと。
山﨑賢人は信の役をかれこれ5-6年は演じてることになりますが、映画シリーズがもしこのまま続いていくと、はてさて、どこまで描けるのかなあとはおもわされます。なにせ、原作漫画がまだまだ続いているだけに…どこかでは打ち止めになるんでしょうかね。それはそれで残念ですが…次にやるとすれば朱海平原ですかね。と思い原作を見返すととてもじゃないけど、そこまでは無理そうな長さ…

さて、今作に話を戻すと、他にも王騎の想い人である摎(きょう)を新木優子が演じていました。こちらは腕の細さがあまりにも細く、ちょっと説得力に欠けたような気もしますね。ビジュアル的にはもちろん、良いのですが…ちょっと衣装がワンダーウーマンっぽいのはなぜだったのかな…

今後も楽しみなシリーズですが、どこまで続けられるか?の方が気になる感じです!

ロストケア ★★★★

2024-09-01 20:38:30 | ★★★★
ロストケア
Amazonプライムで鑑賞。長澤まさみと松山ケンイチの共演となかなか豪華なのだが、映画の立て付けとしては派手さは無く、松山ケンイチは訪問介護士、長澤まさみは検事を演じる。

結論から言えば、非常に考えさせられる映画でした。原作は2013年に書かれて賞を受賞しているミステリ小説。よく読んでいたブログの作者、罪山罰太郎さんがHNを別のもの、葉真中顕に変えて書かれた小説ということを知り鑑賞後に驚きました。

認知症は非常に辛い病気です。何か予防する方法があるわけでもなく、進行を多少遅らせることが出来ても完全な治療法もありません。
そうしたやるせない状況に置かれた人たちを間近で見ていた介護士が犯す罪を誰がどのように罰するのか?というお話でした。劇中、松山ケンイチが演じる介護士は誰にでも優しく、高齢者にもその家族にも献身的です。細かいことにも気がつく、素晴らしい人格者に見えていたわけですが、そんな人格者が実は42人もの高齢者を密かに殺していることがわかり…という。
現実にも起こり得そうなお話なわけです。この小説が書かれたのは2013年ですが、そこから10年経ち、日本の高齢者は年を追うごとに増え、逆に出生率は低下し、今後もこの流れが止まることはなさそうです。人口減少がもたらす、経済へのインパクトは大きく、今後地方の過疎化、そして、地域によっては無人化も進むと思われます。原作では東京都内が舞台でしたが、映画の舞台は長野県になったことにより、田舎の閉塞感はよりわかりやすく描かれていました。
この映画は冒頭から、なかなかにしんどいところを余すところなく描き出します。認知症になった人と一緒に暮らすことがどれくらい大変なのか、現実を直視しなくてはならないことがどれだけ大変か。実は手のかかり方は子育てに近いところがありますが、子育てには子供の成長という楽しみがあります。一方で、認知症患者の自宅介護には家族も本人も消耗していく絶望感しかありません。時間の経過は認知症を悪化させるだけで、どんどんこれまでのことを忘れていきます。徘徊したり、帰宅できなくなるのは序の口で、いずれ排泄も自分で出来なくなり、寝たきりになり、食事も自分では困難になります。なまじ、身体は大人なので、声も大きく、力があるうちは叩かれたりすることもあります。親への愛情がいくらあったとしても、それは親だからですが、親が自分のことを忘れてしまう現実は容赦の無いものです。
この映画はそんな認知症患者の自宅介護の経験者でなければリアルに実感できない辛い現実を短い時間で丁寧に積み上げていきます。
一方で対比として、初期の認知症になり掛けている検事の母親も施設に入った状態で出てきます。認知症の症状は人により進行はまちまちですが、施設などに入ると割と短い時間で認知症が進むような話はよく見聞きはします。(科学的な因果関係は無いのでは?とも思うけど)
劇中、徐々に症状が進行するわけですが、これもまたいかに家族や本人にとって辛いことか、ということを検事は後半に向けて経験を通じて実感を得ていきます。松山ケンイチ演じる介護士がたどった自宅介護の道筋を道程は違えど体感していくわけです。
本人も忘れたいわけではないんですよね。でも、だんだん忘れてしまう。
介護士の父親は柄本明さんが演じていますが、認知症となってしまった寝たきり老人の演技の解像度があまりに高すぎて胸が苦しくなり、直視できないほどです。


ここからはネタバレします。


 
こうして追い詰められた家族を救うという名目で介護士は多くの高齢者を殺害していきます。しかも、それが見つかることなく、次々と殺害されたことが後でわかります。他殺だと扱われなかったことから、ほぼ、完全犯罪といえますが、ある事件からそれが明るみになります。
介護士は罪を最初こそ認めなかったものの、割と早い段階でその罪を認めます。また、彼のその動機と彼の最初の殺人に迫る中で彼の父親が認知症になった話が語られます。父親を自宅介護する中で、仕事が続けられなくなり、生活保護を申請するも、却下され、誰からも救われずに、ついには父親本人の願いにより、彼を手にかけることを決心せざるを得なくなります。
この話は創作、そして映画ですから、柄本明演じる父親はギリギリのところで記憶があって、「自分を殺してくれ」と懇願します。ここが、本当に泣きポイントなんですが、実際には殆どのケースで、こんな美しい話にはなりません。認知症介護経験者なら同意していただけるかと思います。認知症になると、そもそもそのことを認識しなくなり、記憶も時たま蘇るものの、徐々に、でもどんどん忘れていきます。寝たきりになる頃にはもはや、記憶が映画で描かれたように微かに残っていて殺してくれと懇願するなんてことは無いことが多いのでは?と思います。

さて、この映画を観ている最中、私はどうしても自分の祖母のことを思い出さざるを得ませんでした。私の祖母が亡くなったのはかれこれ、もう15-6年ほど前にもなります。
それよりもずーっと前、私は8歳の頃に母を亡くしたために、父の実家に身を寄せ、祖父母と同居し、そして、高校卒業までずっと認知症の祖母のヤングケアラーでもありました。
大正生まれの祖父が主に祖母の面倒を見ていましたが自宅介護というのは想像を絶する世界でした。
現実を知るからこそ、この映画の解像度の高さには慄き、そういう意味では戦慄の映画だと感じざるを得ませんでした。
自宅介護に追い詰められていく人たちがいて…そして、その家族が亡くなることが救いになる人も、たぶん、中にはいるのでしょう。不謹慎ですみません。が、それはあり得ることだと思っています。
劇中、そんな家族も描かれます。

一方で、映画終盤、裁判の傍聴席から飛んできた「人殺し!父ちゃんを返せ!」と叫んだ人のように、自分の大切な人を奪われた、と受け止める人もいるのでしょう。

私は過去の経験から、自分が認知症にかかってしまったら家族に迷惑かけたくないし、スイスででも、安楽死をさせてほしいとすら思っていますが、そんな話を友人や、家族ともしていたところでこの映画を観てもやもやしたのでした。

認知症の介護は初期はそこまで辛くないんですよね。問題はだらだら、ずーっと続くこと、治らないこと、症状が悪化していくこと、未来が無いこと、いつ終わるか誰にもわからないこと、です。
ですが、初めて介護を経験する人は最初はそれがわからないんですよね。だから、家族だし、自宅でなんとかしようとする。長年連れ添った家族だからこそ、施設に入れるなんて考えられない。恥も外聞もある。
なんなら施設に入れるお金が無いケースの方が多いかもしれない。
これから、高齢者がより一層増えていく中で、施設のキャパシティもどこまで増やせるのか、そこで働く介護士の数は確保できるのか、など、より大きなスケールでも悩ましい課題は尽きません。

先進国では人は長生きできるようになり、晩婚化も進み、社会は豊かになりましたが、認知症になっても死なずに済むようになりました。

一方で、認知症になってしまった場合、その人本人の人生の尊厳はどうやって守られるのか?どうなることが幸せなのか?ということは大変に難しい未解決のテーマとして横たわったままのように思うのです。
家族による介護は最適解ではない、と私は思います。可能ならば、施設に入るのが幸せなんでしょうか。それもまたわかりません。結局は人による、家族による、ということなんでしょう。

私はこの映画が投げかけている問題提起は誰しもが避けて通れない道になっていくのでは?と感じている次第です。いつか、脳の解明が進み、認知症を寛解できるような医療技術が開発されることを願ってやみません。

ラストマイル ★★★★★

2024-09-01 20:37:15 | ★★★★★
ラストマイル
これは社会派な映画ですね。とても面白かったです。

「シェアードユニバースムービー」という触れ込みでMIU404とアンナチュラルの2作品と世界観を共有しているということで脚本の野木さんと監督の塚原さんの連作的な位置付けを取ってはいるものの…。
それぞれの作品のキャラクターが出てきてくれて狂喜乱舞した人たち、多いのではないかな。私もそうです。相変わらず、元気なんだなと思えてそれだけで嬉しかったですね。それぞれに続編があってもいいくらいです。

ドラマの軽妙な語り口や、野木さん節のキャラ造形は引き継ぎ、ドラマシリーズの延長にありながら、映画作品としては完全に独立した作品であり、ドラマシリーズとはお話としてはつながってはいない。
そのため、それぞれの作品のキャラクターたちが一堂に会して事件を解決する、というわけではないです。
それでも、番宣やCMできちんと期待値を上げて、そして、作品内容でちゃんと期待値に応える。これは製作陣はすごいなと思いますね。

元々、ドラマ2作品も社会派というか、社会の様々な闇であるとか、息苦しい部分を見事に軽妙に切り取り表現しきるところがあった。(毎話、テーマとしてはそれなりに重めなのに、登場人物たちの軽さがそれをうまく中和していたと言いますか。)

ラストマイルもまた、その過去のドラマ2作品の雰囲気を受け継いでいる。

タイトルの意味
ラストマイル、というのは近年、運送業や輸送車両サービスでよく言われるお客様ないしは目的地までの最後の1マイル(1.6km)のことを指す。 
輸送車両サービスで言えば、ラストワンマイルを埋めるためにUberのようなライドシェアだったり、超小型車両だったり、電動キックボードなどのサービスが出てきている。
運送業で言えば、このラストワンマイルというのはAmazonのようなECサイトが2000年代に出てきてからどんどん状況が変わってきている。具体的には、荷主の巨大化であろう。そして、荷主というか、胴元が変わったことによってビジネススキームも変化し続けている。簡単に言えば、顧客が簡単にネットで買えるようになったことで輸送量が増え続けている。これまでは、小売店に買い物に行かなくてはならなかったのが、家に居ながらにして様々なモノを変えるようになり、非常に便利になったわけです。また、ブラックフライデーのようなこれまでは日本には無かったイベントすら、Amazonは日本に持ち込んで一定の成功を収めている。

ビジネスとしてはAmazonのようなECサイトはインターネットの急速な発達と普及、そして、スマホの普及により、一層ビジネスを拡大して成功してきたわけです。顧客もまた一定以上の恩恵を受けてきたことは間違いがないでしょう。ECサイトででポチッと購入することをポチる、みたいな言葉すら世の中では市民権を得ているわけですね。(ググると似たレベルになってますよね。)
お話の舞台としては巨大なロジスティクスセンターが設定されているものの、映画の主題はラストワンマイルを埋めるための仕組みの中で奮闘している人々そのもの、ということかと思います。
こうしたテーマを描いている点で社会派…という意味は伝わるかなと思います。



ネタバレします!観たい人は観てから読んでください。










作品内企業のデイリーファースト社、通称デリファス社はアメリカの某大手ECサイトであることは疑いようがない。
アメリカではたとえば、ノマドランドのような作品でAmazonが直接描かれたことからも、フィクションでも直球で名前出せないことは無かったのかもしれないが、そこは流石にTBS制作では難しかったということかもしれない。
極度に効率化した社会で、もしも、このような抜け穴をうまく使って爆弾テロが出来るとなると、恐ろしい話、ではあります。(爆弾テロっていつの時代も怖いモノですけどね…)
とはいえ、無差別の爆弾テロなどは明確な予告が無ければ防ぐ手立てなど無いし、警察はいつでも手遅れから捜査を始めるしかない。
避けられる話か?というと、案外と避ける手立ては無いのかもしれない。(恐ろしく手間が掛かるから、そして、情熱というか、ものすごいやる気がある「大した根性」がある人がいないだけで)
それにしても、犯人を探し出すと決めてからの割り出しの早いこと早いこと。今の時代はデータが全て揃ってるし、何かを少し操作してもそれがすぐバレる時代なんだなとつくづく思わされます。条件をうまく掛け合わせればデータの組み合わせであっという間に犯人が割り出せる。

ですが、一方であまりにもデータが揃いすぎてるからこそ、物量は極大化し、人は部品化して、巨大なシステムの中に組み込まれる。その中で、人は部品化したことに悩み苦しみ、そして身を投げる。例えば、AppleのiPhoneを受託製造している鴻海でも2011年に投身自殺が大きな問題になりましたよね。あまり言いたくはありませんが、そんなAmazonもあまり良い噂は聞かないわけです。優秀かどうかはさておき、人材が使い潰されるなんて話は枚挙にいとまがない。倉庫内作業の動きが悪いと、会社の端末で自動的にクビになるなんてシステムまであるわけです。(なので、「倉庫内作業でのパフォーマンスが高い人」という条件で一気に内部の犯人を割り出せてる皮肉)
ダッシュボードに表示されるKPIである配送の効率が70%を切らないように…とかもまさにそういう描写なわけですが、外資系企業のマネジメントはまさに、人が、アナログで行う作業をデジタルでわかりやすく管理して、問題には迅速に対処してKPIが落ちないようにするわけです。また、デリファス社の掲げる「カスタマーセントリック」などのビジョンも、世の中ではカスタマーファーストとかとも言うわけですが、これもまた、エレナが途中で指摘するように、外資系企業ではよくあるレトリックであり、何かがあっても、どのようにでも説明出来てしまう、しなくては生き残れないというのが、これも海外企業あるあるなのだよなあと。
このあたり、脚本の野木さんはよく取材してうまく脚本に入れ込んでると思う。

「爆弾入りの箱を思わず、開けてしまいました」のシーンは昔のドラマ、踊る大捜査線の2話を思い出しました。(あのドラマではトイレに行けてなくていかりや長介がえらい目に遭う)
箱を開けてしまうすんでのところで、エレナが気がつく、というのはまあ、本当にエレナが睡眠不足で変なテンションで気が立っていたからこそ、気がついたのだと思うことにしますが、普通なら開けてしまうところなんでしょうね。(エレナが何かスイッチが入った気がしたというのは勘が良すぎるし、視聴者と犯人しか、その開けた時の感触ってわかんない気もするんですけどねえ。)
このあたり、考察してる人の中には「舟渡エレナ共犯説」を推してる人もいて、世の中には深く考える人もいるのだなあと感心しました。確かに、舟渡エレナが共犯だったとしても、あまり大きな矛盾が生まれないくらいにはこの爆弾を開けるシーンは不自然なんですよね。このシーンがあるせいで、エレナのキャラクターや行動、言動に疑問符がつく。野木さんは敢えてそのようなお話にしてる可能性はありますね。
このシーンを起点にうまく孔からのデータ削除に関する追求を逃れてます。
そうすると、エレナは分かっていて爆弾とずーっと寝泊まりしていたということにもなり、かなりそれはリスキーでは?とも思うし、寝不足になるのもわからないではないですが。もし、共犯だったとすると、舟渡エレナの動機がわからないけどなあ…ガラクタのように使い捨てにされたことへの復讐?)
山﨑佑の情報を消したのはサラの指示だったとして…。

また、運送会社の親子のうち、息子に至ってはこの一連の騒動で2回も死にかける目に遭ってるわけで(お守りで無事というなかなかの描写)本来なら訴訟モノでしょうが、個人の配送会社だとなかなかそんな話にはならないんでしょうね…。この親子が全編で運送会社の闇というか辛さを訴えかけてきます。
息子は過去に日本の洗濯機メーカーで働いていたことが描かれますが、ここ20年で日本の産業構造は大きく変わり製造業は国内で減り、サービス業へのシフトが進んできました。一方で、賃金は上がってないということもよく言われており、特に運送業は厳しいはよく言われてきました。
洗濯機は最後の最後に活躍しますが、でもだからこその切なさが募ります。
また、やっさんは死んだじゃん、のやっさんが、山﨑佑の父なのでは?という考察も見かけました。劇中で描かれている内容からは断定しきれませんし、推定するしかないのでしょうけど。このあたりまで描くには尺が足りなかったということなんでしょうかね。

筧まりか、被疑者死亡でこの事件は幕を閉じるのでしょうが、そこまでも描かれないまま、エレナが葛藤の末、最後は晴れ晴れと退職し、コウがセンター長になり…というところで不穏な形で映画は幕を閉じます。
「爆弾はまだある」というエレナの一言がどういう意味を持つのか?というところは、その真意は明確にならずに終わります。

映画を通じて、たいして根本的な問題は解決されないわけです。
大きなシステム、プラットフォーマー、GAFAMたちを人々は持て囃してきたわけです。実際、便利ですからね。利用しないという選択肢がない。映画でもやはり、それはその通りで、超大都市東京で、ぐるぐる回る配送網を止めるなんてことは簡単なことではないし、そんな配送網の仕組みを構築しているプラットフォーマーをどうにかするというのも難しいわけです。
そして、彼らの作り上げた巨大な仕組み、プロセス、流れに、「人の感情」とか志ははっきり言えば、邪魔なんですよね。感情的にならずに、仕組みをうまく使う側に回って淡々とこなすことが一番効率的だし、効果的なんですよね。でも、心を殺すことができない人というのは往々にしているわけです。2年以上続いた人がいないなんていう、離職率がなぜ高いのか?ということを件のプラットフォーマーは考える必要も無いくらいに仕組みがうまく出来上がっているわけです。(ある人が辞めれば、また代わりが次々に採用される)

エレナは劇中、序盤から後半手前に至るまで感情を押し殺して、「デキるセンター長」を演じ切ろうとするわけです。(このあたりの満島ひかりの細かな演技が最高ですよね。根が真面目な彼女のキャラクター、本当に活きてますよね。)

一方で、そんな「仕組み側の人」としてサラというデリファス社の本社の人が少し出てきますが、このサラも日本法人代表(ディーン)がエレナに責任を押し付けようとしてる時に間接的にエレナを庇ってたりするんですよね。(細かすぎてわからないカモですがサラは本当に、最後の間際までエレナにチャンスを渡せればとは思ってたのではないかなとは感じますね。)
あと、ディーン・フジオカって本当、こういうキャラ、似合いますよね…。(「正直不動産2」でも思いましたが)彼もまた大きなシステムの中でもがいてる1人なのかなとも思いましたが。

それにしても、あれだけ巨大なフルフィルメントセンターで、「社員は7人です残り200人は日雇い」とか、効率よすぎて泣けてきます。
日雇いシステムやバスなどの仕組みも大変によくできています。また、日雇い労働者たちがスコアリングされているのもなかなか怖いものがあります。
配送業者のおじさまたちが「こんな少ない料金でやってられるか!」と怒るのもわからないでもない。あと、お金にもならない再配達の悲哀ね。実際、もっと再配達にお金が掛かるようになれば、人々は置き配袋などを用意するんだろうなとは思います。コンビニなどでも受け取れるようになってきてますしね。(そのうち、再配達しますか?その場合は¥300かかります、とか聞いてくるようになるんだろうな)
ちなみに、アメリカでは配送料金はもっと高いんですよ。あと、国土広いから全然すぐに届かない。翌日配送なんて、殆どありえない。翌週配達なんてザラです。
日本は安いし、超早い。Amazonも楽天があるから、コスト競争せざるをえない。
配送会社ではヤマトがAmazonとの取引を見直したりしていましたが、それが正しい判断だと、言い切れてしまうくらいにはAmazonのような GAFAMの強さって、実際に際立つんですよねえ。

そういえば、作中の「ベリフォン」だけはAmazonがやりたくてもうまくいかなかった施策で、そこは興味深かったですね。Amazonはfire phoneを鳴物入りで発表して、スマホ市場に乗り込みましたが、さっぱり売れずに市場から退場し今も再参入は果たせていません。(その代わり、アレクサでスマートスピーカー市場ではシェアを握るに至りますが、あまり儲けられてはないようですね。)

あと、冒頭からWhat do you want? (あなたは何が欲しいですか?)というデリファス社の広告が出てきて最後まで出てくるわけですが、これは人々の欲望に問いかけているわけですね。人々が欲しいがままに、欲しいモノを安く買う。
デリファスは顧客視点だと言って、輸送業者の輸送費用を買いたたく。でも、「結局、輸送業者の人たちもまた(デリファスの)顧客である」という視点は忘れられてるんじゃないかな、とは思いましたね。
最近ではステークホルダーというのは納入業者も含めてステークホルダーだと考えるのが一般的になってきました。AppleでもUNIQLOでも巨大なグローバル企業はサプライヤーに対して、コードオブコンダクトというルールを敷いていたりして、児童労働を禁止したり、納入業者への監査をしたりしていますね。(だからといって、コストアップを簡単に許容してくれるという話ではないんですけどね。)
消費者には欲望のままに購買行動をとらせる一方で、システムの中で働く人々の幸せは考えられておらず、ひたすらに仕組みをうまく回せ、という人間性の喪失したプロセスを回させているわけですね。こうした皮肉が、やるせなさを思わせるラストに集約していくから、この映画は観終わった後も、もやもやするのかもしれません。

オッペンハイマー

2024-04-28 12:50:00 | ★★★★★
やっとオッペンハイマー観られた。
IMAXではもうやってなくて悲しみつつ…
これ、IMAXで観たらもっとググッと来るところ、いっぱいあったなあ…
とはいえ、普通に観ても十二分にぐいぐい来る映画だった。
あくまでも彼の映画で、描いている部分と描かれていない部分がある。
赤裸々なシーンもありつつも、案外と原爆の威力を確認するシーンではそれそのものは描かれなかった。

私は別段、広島や長崎のシーンを描くべきとは思わなかったが、現地の様子のフィルムを目にしたのであれば、そこは直視して映して欲しかったようにも思う。
彼が罪の意識を感じた根源はまさにそこにあるはずであり、実は一番重要なシーンだったのでは?とは思う。
ただ、そのフィルムを直接的に映してしまうと映画のフォーカスはズレてしまう。
これは難しい問題で、だからこそ、日本でも論争になったのだとも思う。
多くの米国人にとっては真珠湾は忘れないが、広島・長崎はどうだろうか。
日本人もまた同じで自分達がしたことは忘れている人も多いかもしれない。

全部を覚えておくことは出来ないにしても、互いに知っておく必要があることはあるのだろう。
岸田首相が国賓待遇で招かれた晩餐会でのスピーチで彼は6回、最後の最後にまで、広島の名前を口にした。
これはなかなか出来ることではないだろう。
アメリカ人大統領が日本の晩餐会で真珠湾を何度も口にすることはないであろうことを考えると、その関係からしてもなかなかに考えさせられるものはある。

この映画が描きたかったのは何だったのかなあとは考える。
ストロースはオッペンハイマーを引きずり落とすために策を弄したことにより閣僚になれなかった。
オッペンハイマーの名誉は回復された。
しかし、とは思う。そして、不穏に映画は終わる。

世界を焼き尽くすだけの力を人類は得てそれを2度使った。
そして、さらに水爆に発展していく。
鑑賞後、テラーの生涯などを知ると、オッペンハイマーとは対象的であり、そして、20年前までは存命で最後まで核開発推進論者であったと知り慄然とする。
科学者はその自らが開発した成果物を想像して良心の呵責を感じるべきなのか、否か。
こればかりは人によるのだろう。
ノーベルはダイナマイトを開発した、と劇中では述べられている。
核開発に逡巡した人たちもいた。

アメリカの論理からすれば、本土決戦にならなかったことにより、アメリカの人民の命は救われた、とも言え、それは確かにそうなのだろう。
グローブス少将の主張した通り2回落としたことで日本は降伏したとも言えるのだろう。

恐ろしい核爆発や東京大空襲の下で何が起こったのか、克明に描かれる映画がハリウッドで作られることは今後もあんまり無いかも知れない。
インディジョーンズのクリスタルスカルなんかで描かれたような馬鹿げたシーンが描かれなくなれば良いなあとは思う。
クリスタルスカルのシーンは科学的におかしい。
そんな細かいことを娯楽映画で言うなよと思うかも知れないが、核を描くのならば、そこには厳然たる覚悟を持って描いて欲しいとは思うのですよね。
後世の無邪気な人が勘違いしないようにね。

8/6、8/9、8/15を日本人は忘れないと思うが、米国人が12/8や9.11を忘れないのもまた然りなのよね。

オッペンハイマーできのこ雲としてでも広島、長崎が表現されなかったのは良かったのかもしれない。
なぜなら、きのこ雲はあくまで米軍機からの視点でしか見ることができない映像でしょう。
つまり、米国の視点なんですね。それは本当にリアルではないわけですね。被爆者にとっては。
痛みを伴う表現こそが、焼け爛れた皮膚の被爆者たちの映像であり、直視に堪えないものだったはず。そこを描き切ることもできただろうけどノーランはそれはしなかった。あくまで、オッペンハイマーの視覚や想像の中で起こるものが描かれた。

ここを捨象するのか、拾うのかで映画のトーンはものすごく変わったと思う。なんなら、多くの米国人は直視出来なかったと思われる。(=興行収入にダイレクトに影響)米国人もヒューマン系と思って観に行ったらとんでもない映像出てきたらやはり物議になるだろうし避ける人もいるだろう。
戦後オッペンハイマーが反核に近い立場を取ったのは放射能によって何が起こるかを本当の意味で理解したからだと思うのですよね。その他の人たちは本当の意味では理解してない人が多かった。この差分を表現するためには、やはり被曝のフィルムを映画に収めない、というのが選択になりえるのよなあ…

直視せよ!と思う人が多いのは当然と思う。いつの日か、そうした作品が出てくることを切に願うばかり。オッペンハイマーはまさにその途中の作品なのだと思えば、これはこれで大変に意義のある作品だと思える。米国民の原爆に対する意識はまさにきのこ雲であり、それをTシャツにするくらいなので。

この手の話になると思い出すのは核の街、プルトニウムを作ったアメリカの街に留学した子の動画だ。アメリカと日本の認識の差分はかなり大きいことがわかる。
そのほかにもウルヴァリンやダークナイトライジングでも被曝シーンの出来は酷い。ちょっと強力な爆弾みたいになってる。出すならばちゃんと描いて欲しい。











ある男 ★★★★★

2024-03-03 11:35:52 | ★★★★★
ある男

(以下映画.comより)
芥川賞作家・平野啓一郎の同名ベストセラーを「蜜蜂と遠雷」「愚行録」の石川慶監督が映画化し、妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝が共演したヒューマンミステリー。

弁護士の城戸は、かつての依頼者・里枝から、亡くなった夫・大祐の身元調査をして欲しいという奇妙な相談を受ける。里枝は離婚を経験後に子どもを連れて故郷へ帰り、やがて出会った大祐と再婚、新たに生まれた子どもと4人で幸せな家庭を築いていたが、大祐は不慮の事故で帰らぬ人となった。ところが、長年疎遠になっていた大祐の兄が、遺影に写っているのは大祐ではないと話したことから、愛したはずの夫が全くの別人だったことが判明したのだ。城戸は男の正体を追う中で様々な人物と出会い、驚くべき真実に近づいていく。

弁護士・城戸を妻夫木、依頼者・里枝を安藤、里枝の亡き夫・大祐を窪田が演じた。第46回日本アカデミー賞では最優秀作品賞を含む同年度最多の8部門(ほか最優秀監督賞、最優秀脚本賞、最優秀主演男優賞、最優秀助演男優賞、最優秀助演女優賞、最優秀録音賞、最優秀編集賞)を受賞した。
(以上映画.comより)

Amazonプライムで鑑賞。事前情報を全く入れずに観ました。日本映画賞総なめしてたんですね。
それすら知らずに観ましたが、面白い作品でした。

テーマにも触れますので、ネタバレもあるかもしれませんのであしからず。
傑作!とまでは言いませんが非常に面白くよくできた映画だったと思います。

簡潔に言えば、日本社会に広く通底する差別や偏見が生むアイデンティティクライシスのお話でした。
冒頭から気になる引きで始まりましたが最後まで緊張の糸はほぼ切れず、この話はどこに着地するんだろうと思いながら、不穏な感じも残しながら最後まで引っ張ってくれました。出てくる役者さんがベテランも若手も含めて非常にバランス良くレベルの高い演技を見せてくれました。

ラストのシークエンスで、妻夫木演じる城戸までもが、他人の人生になりすまそうとしていて、なぜ?となりましたが、この映画の主題がアイデンティティだと思えば、それはすごく納得感がある終わり方だと思わされたのでした。

劇中、城戸は大祐の人生を追いかける過程で、自分の義理の親からの発言や獄中の男からの発言により、自己のアイデンティティに向き合わざるを得なくなる。
そして、また、その調査の中で浮き彫りになっていく大祐の過去を城戸による調査報告として知ることで、里枝の息子もまた、アイデンティティで苦しむ。ころころ苗字が変わる自分は果たして何なのか?と。
大祐もまた、殺人者の父を持ち、その様を目の当たりにしたことで消えないトラウマを心に抱え、鏡に映る父に瓜二つの自分の顔に戦慄し続けている。逃げても逃げても追いかけてくる亡き父の影に怯える。そして、「何かのきっかけ」で他人の戸籍と交換し人生をリセットする。(しかし、作中ではその何かのきっかけは

自分を自分として規定しているものが戸籍なのか、親なのか、それとも国籍なのか、家族なのか、妻なのか、それとも妻の両親なのか。自分の実家なのか。はたまた、遠い遠い三代も四代も前の祖父や曽祖父なのか。

人殺しの子はやはり人殺しの子だからといってお天道の下を歩けず、人から蔑まれないといけないのか?
在日朝鮮人の子どもは何代かかっても本当の意味で帰化できないのか?謂れのない差別を受け続けなくてはならないのか?
苗字は自分の意思ではないところでどんどん変わってしまい、それでも苗字が自分を構成する要素なのだとしたら、自分は一体何者なのか?そして、それを他人にどうやって説明すればよいのか?

現状、この衰退していく中で極右化が進み差別と偏見の蔓延する日本社会の中で自らの出自や己は何者か?と言ったアイデンティティで苦しむ人たちがそれぞれに結論らしいものは出せず、それでも自分たちなりに自分とケジメをつけて、折り合いを付けながら歩いていくしかない。
どこまで逃げても自分は自分で変えられず、逃げられない、しかし逃げることによって得られた幸せも確かにあった、という話とも思いました。



余談ですが、
多数の死傷者を出した連続ビル爆破事件の指名手配犯 桐島聡が偽名で日常を過ごして、存命かつ、自分の身分を名乗ってから、逮捕もされず、亡くなるという事件が最近ありましたね。結果的にその彼は、人生の大半を偽名で生きて働いていたことが明るみになり、意外と東京都に近いところで、全国指名手配にも関わらず、ずーっと偽名で生きていました。
最後の最後に「桐島聡として死にたかった」と病院で証言したと言われています。
まさにその人のアイデンティティは何だったのか?という話でもあったと思っています。
(勿論、多くの人を殺したから指名手配になっていたわけで、逃げていたこと自体、褒められることではないわけですし、犯した罪を彼は逃げずに司法の場で裁かれ、償うべきだったと強く思います。)
そういう意味では映画の描いた主題に少し近いようなお話なのかなとも思ったのでした。
原作小説や映画が描いているのは、少し違っていて、本作の主題は「偏見や差別が起こすアイデンティティの問題」ではあるので、ずれがあるんですけどね。


ミーガン ★★★

2024-01-14 16:36:44 | ★★★
ミーガン
サンフランシスコから帰りの飛行機で鑑賞。これはなかなかに面白い作品でした。AIが昨年はもてはやされ、今年もその勢いはとどまることを知りませんが、そんなAIが今後どうなるか?のダークサイドを描いた作品とも言えるのでしょう。
両親を事故で亡くしてしまった姪の心を癒すために超高性能な等身大の人形のおもちゃを作りあげた主人公の女性エンジニアがそのおもちゃが引き起こす事態に翻弄されていくお話です。
予告編は結構流れていたのでSFスリラーであることはなんとなく予想できるのではないでしょうか。チャッキーあたりを思い出す人もいるんではないかな。
この女性エンジニアは姪を引き取るのですが、仕事で忙しくてあまり姪をきちんと育てることが出来ません。そんな状況から、人形を作りあげるわけですが、お話の流れからして女性エンジニアは必ずしも良い代理親とは言えず、おもちゃ開発の仕事が忙しすぎて姪の面倒を見る時間も無いわけです。お話の構造的に、こうしたある意味で自己中心的な主人公は報いを受けることが多いわけですが…

それにしても、技術の進歩というのは恐ろしいものでこうしたミーガンという人形のおもちゃが実際に存在していてもおかしくはないなと思わせるような時代になってきました。本当にAI技術とロボティクス技術が進歩した時にこうした事故を防ぐことは本当にできるのか?というのは大変気になるところです。ロボティクスはだんだん小型化していますし、AIやセンサーの技術も徐々に進化していますので確かにいつかはそうした日がやってくるのだとは思いますがそれは意外と早いのかも、そして、私の生きてるうちにそんな日が訪れるのかも、と思わされます。

SFスリラーとしてはなかなか面白かったです。

Barbie ★★★★

2024-01-14 16:35:46 | ★★★★
Barbie
サンフランシスコからの帰りの飛行機で鑑賞。バービーはマテル社のおもちゃなわけですが、そんなバービーがおもちゃの世界バービーの世界であるバービーランドから実際の現実世界、リアルワールドに飛び出してきた、というお話です。
おもちゃの世界、ということで最初からなかなか飛ばしてきますが、設定を理解するにはそんなに時間はかかりません。バービー人形やリカちゃん人形で遊んだことがない人たちは殆どいないわけですから。(大きな手の話もなかなか面白い)
バービー人形について詳しければ、より楽しめる作品になっています。日本にはリカちゃん人形があるため、バービーはそこまで人気ではないかもしれませんが、それでもおおよそ、キャラクター性は類推できるようになっています。(そういえば、リカちゃんの場合、ボーイフレンドは確かイサムくんか何かでかなりジャニーズっぽいイケメンだったけど、バービーの場合のケンがイケメン白人金髪マッチョなのはやっぱりお国柄なんでしょうねえ。)

そんなバービー人形の世界では全てが完璧で、様々なver.のバービーたちが無害なケンたちと楽しく暮らしています。
そこからひょんなことから人間世界に行く羽目になるある「標準的なバービー人形」の話です。

「女性の女性性」というものについて深く考えさせられるような展開が後半に待ち受けるわけですが、前半は楽しげな話が続きます。
バービー人形は元々、子どもたちに好かれるために作り上げられた八頭身の金髪女性の人形なわけで、それは冒頭に説明があります。最序盤は一体自分は何を観てるんだろうなあと思わないでもないですが、後半に至るとそれが全てきちんと伏線になっているという優れた脚本、そして配役です。
マーゴッド・ロビーと言うと、私はディカプリオと共演した作品を思い出すのですが、彼女が圧倒的なブロンド美人であることがこの作品をこの作品たらしめています。(それはなんと作中でメタ的なナレーションでも言及があります)

概ね、ある時、子どもたちは人形遊びをしなくなります。それが楽しいのは年齢が小さい時だけです。バービーたちにとっては受け入れ難い事実です。そんな存在意義に関わる話はさっさと済ませてお話はだんだん思わぬ方向に転がり始めます。

女性が社会的役割として古来から要求されてきた「典型的な女性的であること」を喜んでやっているのか、それともそれは洗脳なのか、押し付けなのか、それとも文化なのか?そんなことを考えさせる展開が待ち受けています。「普通のバービー」はまさにそんな、典型的なあっけらかんとしたノー天気な女性キャラクターを物語冒頭には演じていますが、根本から揺るがされる展開に至り、一度はひどく落ち込みます。

そこから立ち直っていく様が大変興味深いエモーショナルなものでした。現代の女性が置かれている立場は非常に難しいものです。働いている人、主婦、子育てをしている人、母親、娘、大統領、科学者、いろんな立場を合わせ持つことになります。その時々に応じていろんな役割を果たすのはとても骨が折れます。投げ出したくなる時もあるけれど、それぞれが自立した女性でいようとする、それが美しいのだ、という人間讃歌なのかなと思いました。


クリエイター 創造者 ★★★

2024-01-14 16:34:56 | ★★★
クリエイター 創造者
ギャレス・エドワーズのSF大作。
サンフランシスコ行きの飛行機で鑑賞。
こう言う作品は本当は大音響の大画面スクリーンで観たいものです。飛行機の小さな画面で観る映画ではないなあ。

AIアンドロイドが力を持ちすぎて核戦争が起こり、復讐と言わんばかりに米国が徹底的なAI狩りを始めた世界。
AIアンドロイドに人権を認め、保護しているアジアの国々。そこに容赦なくAIを殺すために巨大な兵器を送り込み、アジア人諸共、殺して回るというお話。なかなかに酷い話ですが、別にこの話はAIは関係無くて実際に今でも米国やイスラエルなどの西側諸国や中国、ロシアなどの共産圏の覇権国家が現在進行形でやっていることですね。そこは痛烈な皮肉になっているのかなと。
一方で、AIが進化した先に果たしてどういう行動を取るのか?という問いに対して、この作品は一つの考えられそうな回答を用意しています。
結末は嫌いじゃないなあ。
名優 渡辺謙が日本語を話すAIアンドロイドとして登場します。


ゴジラ -1.0 ★★★★

2023-12-31 13:56:25 | ★★★★
日比谷のTOHOシネマズにゴジラ-1.0(マイナスワン)を観に行ってきました。
いやー、これはなかなか面白かったです。
いろんな意味で日比谷で見たのも良かったですね。音響も含めて満足です。
大ヒットしたシンゴジラの後のゴジラって超難しいのでは?と思われましたが、見事にうまく違う作品を山﨑貴監督は生み出しましたね。
VFXも素晴らしく、特に海のシーンは本当に良かったですね。
(白組の制作体制と山崎監督が即座にCGについてディレクションできることが実現の鍵だったそうで…)
脚本も、なかなか捻られていて戦後すぐの小笠原沖の機雷除去といった実在したであろうお仕事をうまくお話に組み込んだり、主人公が元特攻隊員だったり、退役艦をうまく活躍させたり、完成しなかった戦闘機をうまく劇中に登場させたり、と非常に楽しめるものとなっていました。

ゴジラの「舞台装置感」は気になりましたね。
元々、怪獣映画はそういうところはあるものですが…怪獣映画というよりは「ゴジラvs.神木隆之介」という感じでしたかね。
総合力で戦う話でもあったんですけども。
どうする家康での名演技が光った山田裕貴がいい感じの若者役で出てきたりね。
あと、やっぱり主演の神木隆之介と浜辺美波含めて昭和感のある服装や佇まいが素晴らしかったですね。
浜辺美波はシン仮面ライダーでも活躍していたわけですが、本当に良い役でしたね。サザエさんヘアースタイルもいい感じでした。
あと、子役ね。よく、あのタイミングでうまく泣けるな…と大変に感心しました。
そして、あの年頃の子供というのは本当になかなかに胸に来るものがありました。
米軍が出てこない理由もわからないでもないんですよね、、作劇上は米軍の進駐軍が出てきてしまうと核を落とす落とさないでシンゴジラと同じになってしまう、という某ラジオ批評でのツッコミは非常に頷けるものでした。(あと、安藤サクラ演じる近所のおばさんの「偽善者ぶって」というのは脚本ミス、本来は「善人ぶって」が正しい、というツッコミもなるほどな、と。撮影時含めてなかなかみんなピンと来ないものなのかなあ)

何気に機雷は今でも日本の海にあるんですね…。艦船を沈めるためのものなので、その破壊力はかなりのものだそうです。

2023年公開作品評価

2023-12-31 00:19:31 | 2023年公開映画作品評価
2023年公開映画作品一覧と感想
今年観た作品は16作品でした。

面白かった順に。

フェイブルマンズ
個人的には1番面白かった作品かもしれません。

SHE SAID/シー・セッド その名を暴け

大変面白い作品でした。詳しくはこちらをご覧ください。

スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース
これもめちゃ面白かった。

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス
これはなかなか奇抜な作品で面白く観ました。

ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー
これまた名作でしたね。詳しくはこちら。

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3
面白かった、けれどこれで元のメンバーの活躍が見られなくなるのだとすれば、一抹の寂しさもありますね。  

君たちはどう生きるか
詳しくはこちら。

ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE
こちらも面白かった。

AIR/エア
詳しくはこちら。

ゴジラ -1.0

シン・仮面ライダー
詳しくはこちら。面白く観ました。


search/#サーチ2
飛行機で見ましたね。なかなかスリリングな作品です。形としてはいくらでもお話は続けられるけどだんだんネタ切れしますよね。

ザ・フラッシュ
これも楽しく観ましたが、後一歩かなあ。

インディ・ジョーンズと運命のダイヤル
これが最終作なら残念…

アントマン&ワスプ:クアントマニア
当ブログでもよく取り上げてきたマーベル作品ですが、そろそろ食傷気味ってことなんですかね…昔ほどワクワクしなくなってしまいました。

レジェンド&バタフライ
ある意味では面白い作品でしたがビッグネームの共演という意味では少し物足りない作品でした。



■観てないけど観たい作品
イチケイのカラス
グリッドマン ユニバース
Winny
シャザム!〜神々の怒り〜
名探偵コナン 黒鉄の魚影
劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE
怪物
リトル・マーメイド
FALL
キングダム 運命の炎
トランスフォーマー ビースト覚醒
マイエレメント
バービー
福田村事件
グランツーリスモ
ジョン・ウィック コンセクエンス
沈黙の艦隊
正欲
マーベルズ
ナポレオン
ウィッシュ
屋根裏のラジャー

インディ・ジョーンズ 運命のダイヤル ★★★

2023-11-12 18:39:38 | ★★★
インディジョーンズ 運命のダイアル
面白かった。韓国往復の国際線で鑑賞。

何にしろ、ハリソン・フォードが80歳と高齢の中で続編が作られただけでも嬉しい。
劇中でも考古学の教授としても引退するわけだが、恐らくは次回作は難しいだろうとも思わされる。
それにしても、作中で過去作に比べて、時代の影響もあってか、インディの講義の人気も考古学の地位も下がってるのは少し寂しかった。
インディ・ジョーンズの面白さと言ったらまさに「痛快なアクションとアドベンチャー」なわけだが、それをやりきるにはハリソン・フォードが歳をとりすぎたのかもしれない。
過去作との関連も多く見られる。
最後のインディの選択は確かに、最後の聖戦の頃のことを思えば、やっぱり、そこはその選択はしないべきだと思うんですよね。なんとはなしに。手に入れるべきものと手に入れてはいけないもの、というのがこの世の中には色々とあるんだよな、ということだと思うんですよね。

SHE SAID/シー・セッド その名を暴け ★★★★

2023-07-21 08:31:26 | ★★★★
SHE SAID/シー・セッド その名を暴け

サンフランシスコ行きの飛行機機内で鑑賞。

ハリウッドの大物プロデューサーによる長年にわたる性暴力を告発した女性記者たちの厳しい闘いを実話に基づいて描いた映画作品。ブラッド・ピットなども制作に関わっています。
ニューヨークタイムズに勤める調査報道記者たちがワインシュタイン氏の映画会社における数々のセクハラやレイプなどを克明に記事にしていくまでを描き出します。

結末は分かっている類の映画ですが、冒頭から気になる引きで記者や編集者たちが颯爽と取材を繰り広げていきます。

それにしても、この手の作品を観て常々思うのは司法制度についてです。
米国ではよく様々なハラスメントに対する訴訟が起こります。(パワハラやレイシャル、エイジなど多様)
企業の不当な労働者への取り扱いは直ちに訴訟になる恐れがあり、管理職や経営者はその発言のまさに「節々に」気を付ける必要があります。
証拠が揃っている場合、訴訟では法人サイドは極めて不利な状況になります。
きわめて気軽に弁護士に相談でき、集団訴訟(クラスアクション)も起こしやすく、なんなら米国に住んでるといきなりそうした集団訴訟の原告側になったりもします。
訴訟大国と呼ばれる所以の一つとも言えます。

一方で、ワインシュタインのケースはミラマックスの経営陣であったことや経営陣や弁護士含めて問題を揉み消すべくNDAなどをふんだんに活用しながら動き続けていたこと、ワインシュタイン自身が映画業界全体に非常に強い影響力を行使できていたことなどから、業界である程度問題が認知/認識されながらも、いわば、「言ってはいけないあの人」的な公然の秘密と化していたわけです。

示談に持ち込む際のNDAに関する項目などは劇中に出てくるものの中には後々争えば法的に無効となりうるものもあるようにも思いますが、お金を受け取っている場合には私人間の契約としては有効と見なされるものとも思います。
百戦錬磨の企業弁護士相手に何か事を起こすのは若い女性であれば尚のこと難しいように思います。
まさに法律を知っているかどうかでその後の対応が180度変わるような世界です。

近年日本でも一部の映画監督が似たような事件を起こしていて告発されていましたが、このようなことはあってはならないことであり、被害に遭われた方々の心中は想像を絶するものだと思わされます。
映画業界に限りませんがこうした問題が起こらないようにしていく必要があるのでしょう。

AIR ★★★

2023-07-21 08:30:21 | ★★★
AIR
この映画、よく出来ていました。Amazonプライムで鑑賞。

マット・デイモン主演。ベン・アフレック監督・出演。

2018年にNIKEの創業者であるフィル・ナイトが作者の「Shoe Dog」という本が発売されて日本でも大いに話題になりました。
この本、私は未読なんですが、NIKEの創業当時の苦労話から1980年頃までを描いています。
そして、この本で描かれたNIKEの成功から、数年経った1984年がこの映画の舞台となります。
NIKEはシューズメーカーとしては後発のシューズメーカーですが、市場の先行者であるconverseや adidasと真っ向勝負してランニングシューズではシェアを取ることに成功。しかし、バスケではまったくシューズのシェアを取れていなかった、というところから話が始まります。

私は今40歳のため、世代的に、バスケットボールのシューズと言えばNIKEのエアマックスやエアジョーダンなんですが、そんな私からすると、バスケシューズと言えば、コンバースのオールスターだった時代があるというのが信じられないわけです。(世代ごとに感覚が異なるんでしょうけども)

そんなNIKEが今年も負け戦よろしく、バスケのわからないマーケティング担当者たちが印象だけでコラボ契約する人を選んでいるシーンから話は始まります。
他社よりも少ないだろう予算を数人に振り分けるから、そこそこの選手数名と契約しようという会話。ドラフト5位より下の平均的な選手に予算をバラけさせようとするわけですが、これに主人公は反対し、自分が信じる選手1人に予算を振り向けようと提案します。
それがマイケル・ジョーダンで…
という流れで話は進展していきます。

現実にかなり寄せてキャラを描いているため、どのキャラクターも相当現実味を持って描かれます。走るのが嫌いというキャラ設定のソニーを演じるマット・デイモンはなかなかのお腹のでっぷり具合。

どういう結末に至るかはまさに誰もが知っているわけですが、予算潤沢で評判の高い他社が2社もある中で絶対的な不利な状況をどうやってNIKEが覆していくか、というところが楽しく描かれていきます。

詳しくは作品を観てほしいところです。ビジネスモノとして楽しく、あまりシーンもないのでスポーツモノって感じではないですね。

ソニーたちが働くNIKEのオフィス、80年代からアメリカのオフィスってあんまり雰囲気が変わってないんだなあということが感じられました。

この映画を観て思うのは、前例を覆し、新しい歴史を作る時の判断というのは簡単ではないということでしょう。ビジネスの通例上、考えられないことも、前例が無いという理由で選択肢から除外していることも結局はバイアスなんですよね。そして、誰しもがバイアスを持っていてそれをきちんと認識できて、バイアスを取り除くために適切かつ最短距離のアクションを取れる人がブレークスルーを起こすことができる、と。そして、本質にブレずにきちんと提案できれば、相手にちゃんと伝わるということでもある。契約金は安くてもダメだけど、他社と並べば、後は何を見せて、何をお願いし、譲歩するか、ということだけ、なんですね。

NIKEのバスケットシューズはその後、世界を席巻することは誰もが知っているわけですが、その前夜に起きたこと、というのは1人の男の熱意とそれに影響を受けた人たちによるもので、それが何人もの人の人生を大きく変えるわけで、最初は誰もが無理だと思っていることでも、信念を持ち、貫き通すことができれば、達成出来る、ということが感じられました。

あと、ベン・アフレック演じるフィル・ナイトCEOのコミカルさ、はなかなか特筆すべき点かもしれません。終盤のプレゼンシーンの登場などなかなかに笑える展開でした。

騙し絵の牙 ★★★★

2023-07-21 08:29:27 | ★★★★
映画「騙し絵の牙」

面白かったです。
Amazonプライムで鑑賞。

(あらすじ 映画.comより引用)
「罪の声」などで知られる作家の塩田武士が大泉洋をイメージして主人公を「あてがき」した小説を、大泉の主演で映画化。出版業界を舞台に、廃刊の危機に立たされた雑誌編集長が、裏切りや陰謀が渦巻く中、起死回生のために大胆な奇策に打って出る姿を描く。「紙の月」「桐島、部活やめるってよ」の吉田大八監督がメガホンをとり、松岡茉優、佐藤浩市ら実力派キャストが共演する。出版不況の波にもまれる大手出版社「薫風社」では、創業一族の社長が急逝し、次期社長の座をめぐって権力争いが勃発。そんな中、専務の東松が進める大改革によって、売れない雑誌は次々と廃刊のピンチに陥る。カルチャー誌「トリニティ」の変わり者編集長・速水も、無理難題を押し付けられて窮地に立たされるが……。
(以上引用)

大泉洋を当てがきした原作は未読ですが、映画化にあたって脚本は再構成されてるそうでして、なかなかエキサイティングなお話となっていました。
スピーディーな展開で2時間未満の映画とは思えないくらいエピソードてんこ盛りでテンポの良い映画でした。
雑誌も本も新聞も売れなくなりつつある、と言われています。1996年以降、出版市場は2.6兆円から2022年の1.6兆円まで減少。まさに出版不況だと言われて久しいわけですが、日本に戻ってきて思うのは案外と日本ってまだまだ本屋さん多いなあということでした。生活の中にちゃんと本があると感じるシーンが多いです。
勿論、Amazonで本を買うことも多いんですけども。商店街にあるいわゆる「街の本屋」さんというのも少なくなりました。主人公の松岡茉優の家を本屋さんにすることで、こうした問題についてもうまく切り込んでいます。

伝統を守ろうとする人たちや変わろうとしない人たち、変わることを求める人たち、伝統を破壊してでも次に進もうとする人たちなど様々な人々の思惑が錯綜します。
人間、それまでやってきたことから変わらなくて済むなら、それはとても楽な道ですが、その先にあるのは衰退、ということがわかりきっている時にどういう道を選ぶか。今話題のリスキリングというやつですが、変わるのか、変わらないのか、そんなことを問いかけてくるお話だったと思います。
小難しい文壇と呼ばれる世界がある一方で、そんなものとは無縁だけどめちゃくちゃ売れる作家もいる、という文学界の不思議もまた面白く楽しめました。