目指せ!映画批評家

時たまネタバレしながら、メジャーな作品からマイナーな作品まで色んな映画を色んな視点で楽しむ力を育みます★

ゼロ・グラビティ ★★★★★

2013-12-15 10:50:03 | ★★★★★
ゼロ・グラビティ ★★★★★



(あらすじ)
地表から600km上空。すべてが完璧な世界。そこで、誰もが予測しなかった突発事故が発生。スペースシャトルは大破し、船外でミッション遂行中のメディカル・エンジニアのストーン博士(サンドラ・ブロック)と、ベテラン宇宙飛行士マット(ジョージ・クルーニー)の二人は、無重力空間
《ゼロ・グラビティ》に放り出されてしまう。漆黒の宇宙で二人をつなぐのは、たった1本のロープのみ。残った酸素はあとわずか。地球との交信手段も断たれた絶望的状況下で、二人は果たして無事生還することができるのか…!?

主演は米アカデミー賞®受賞のサンドラ・ブロック(『あなたは私の婿になる』『しあわせの隠れ場所』)とジョージ・クルーニー(『シリアナ』『マイレージ、マイライフ』)。監督はオスカー®ノミネートのアルフォンソ・キュアロン(『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』『天国の口、終
わりの楽園。』『トゥモロー・ワールド』)。オスカー常連のキャスト&スタッフが集結し、最新VFXと3D技術を駆使した、リアルで臨場感に溢れる大迫力の未体験空間が、あなたを待っている。

(以上 公式サイトより)

TOHO川崎で鑑賞。
とんでもない映画を作りますね…。最初のシーン、随分長い長まわしでしてこのシークエンスを観てるだけで息が詰まるようでした。これは演出的にわざとそうしてるのだと思いますが、それにしても思わず手に汗握る、もしくは息を止めてしまうような映画でした。うまい。
監督は「トゥモローワールド」の人、とくれば、この長回しも納得です。


宇宙ステーションで事故に遭った2人は一体どうやって生き残るのか!というのをたったの90分で描き切るのですが、(劇中でもおそらく4時間弱しか時間は経ってないと思われる)宇宙や宇宙ステーション、に詳しくない人でも描写を見ていけばある程度は理解できるようになっています。
ちなみにマニュアル読みながら主人公がなんとかその場を凌ぐような場面がありますが、恐らく主人公たちは半年とはいえ元の素養と技術者としてのバックグランドがあるからこそ、なんとかなってるシーンも沢山あると思われます。
また、宇宙飛行士がいかに楽天家でなければ務まらないか、というのもまたよくわかる映画でもありました。良作です!一見の価値はあります、が、ぜひ画面の大きなスクリーン、IMAXで字幕無しで観たいものです。




盛大にネタバレします!








タイトルバックからいきなり、真空の宇宙で静かな船外活動の場面から話は始まります。ここからずーっと長まわしが始まるのですがゆうに10分近く、長まわしが続き、ジョージ・クルーニー演じるマットがサンドラ・ブロック演じるストーン博士をキャッチするまで延々とワンカットで話が続きます。人工衛星の破片がどんどん飛んできて、船外活動中に投げ出されたストーン博士をなんとか、マットが助けに向かうのですが、ここまでが全てワンカットなのです。船外活動の風景も映し出されるのですが、これがまたすごい映像です。CG全盛時代とはいえ、一体どうやって撮影したのか?と思うくらいの映像でした。

助けられたストーン博士と共にマットは宇宙船を経由しISS(国際宇宙ステーション)に向かいます。結局、宇宙船では誰も生き残っておらず、マットとストーン博士はなんとか、ISSに辿り着きますが、うまく飛び移れず、マットはそのまま、宇宙に投げ出され、帰らぬ人になってしまいます。悲しいのはマットもまたここでうまく飛び移れていれば、恐らく無事に地球に帰還できていたであろう気がすることです。まあ、映画なので、もしもはないのですけども。
ジョージ・クルーニーとサンドラ・ブロック、2人しかいない出演者なのに、途中で1人になってしまうという思い切った脚本です。
マットとの最後の交信はとても皮肉にもストーン博士を後押しし続け、宇宙服の中が二酸化炭素で充満し死の淵に立たされるストーン博士と、既に死の淵を超えて彼岸に立つマットが挫けそうになるストーン博士にエールを送り続ける、という悲しい対比になってしまいました。
瞳の色についての会話などの節々から宇宙という環境で、人は自分のパーソナリティに向き合うのだなあ、と感じさせられました。

ここまでもストーン博士の酸素がいきなり10%しかないところから始まっており、この酸素が切れるかどうかハラハラするところも序盤の要素の一つになっています。
ISSに到着できた、ストーン博士ですが、ここでようやく、宇宙服を脱ぐことができ、一瞬だけ息をつくことができました。この瞬間がとても構図的に美しかったですね。真空かつ仲間の命を簡単に奪った宇宙環境の中で、扉一枚隔てて、生と死を分かつエアロックの中で一瞬の静寂に包まれる。丸っこい宇宙服を脱ぎ捨ててスタイル抜群のサンドラ・ブロックが出てくるシーンでようやくこの映画は有機的な生き物の全身を画面の中に映し出すわけです。このシーンを除くと後はラストシーンしか、サンドラ・ブロックが生身の全身を晒すシーンは無いのですが、これもまた狙った意図があるものと思われます。
ここに至るまで仲間は真空の中で凍りつき死に、1人はデブリが顔面を貫いていてなかなかに衝撃的な絵面が続いていただけに、観る者にも飛んでくるデブリ(破片)の恐ろしさ、真空の宇宙へ放り出される恐怖を叩き込んでくれます。
それだけに宇宙服はこの冷淡かつパーフェクトな宇宙と人体を隔てる壁、鎧となって人を包んでくれている、ということを端的に伝えてるわけです。


この後、火事になってしまったISSを脱出しますが、なかなかISSを脱出出来ない、という展開がまた焦らされます。デブリが再び飛び交う中でなんとかパラシュートの残骸を振り切って脱出します。

が、ここで燃料がなぜかゼロになっており、どうしようもなく自暴自棄になったストーン博士は死を覚悟します。どうやっても助からないと悟る直前、大声で憤る彼女の声は真空の宇宙には届かない、ということを宇宙船の窓から映しだす演出もまた素晴らしい。この宇宙でたった一人なのだ、ということが端的に表現されす。
絶望した彼女は酸素供給を止め、眠りにつこうとしますが、そこへなぜかマットが再び登場します。彼は宇宙船のエアロックを外から強引に開け、入ってきて彼女に逆噴射ロケットは試したのか?必ず生きて帰るんだ、と言います。これは結局、ストーン博士の見た幻想なのか、幻覚なのか、わかりませんが、やはりマットは席の隣にはおらず、しかし、これが逆噴射ロケットを試すきっかけ、そして彼女を奮起させることになります。


幻覚の中でマットはストーン博士に、逃げるのではなく、地球できちんと自分と向き合うんだ、と諭します。ここに至るまでにマットとの会話の中で、ストーン博士は幼い娘を亡くしてそれからはずっとやるせない気持ちに囚われていたことを吐露していました。そんな彼女に生きろ、生きて向き合え、とマットは言い続けるわけです。

彼女は脱出手段が残された中国の宇宙ステーションに着陸時に使用する逆噴射ロケットを使って向かいます。

中国の宇宙ステーションに飛び移るシーンなどは多分、文字通り「天文学的にラッキー」なんだとは思うのです。軌道計算とか綿密にすれば、試す気にもならないくらいには厳しいトライアルだとは思うのですが、一度死ぬ気になったストーン博士にとってはそこは乗り越えられる問題だったのでしょう。

中国の宇宙ステーションでもまた各種スイッチが中国語だったり、既に大気圏突入状態だったり、ととんでもないことのオンパレードですが、彼女は遂に大気圏突入し、地球へ帰ってくるわけです。


そこから、脱出ポッドが湖?に着水し燃える機内から脱出しようと扉を開けると水が流れ込み彼女は今度は溺れ死にそうになります。

上手いなあと思うのは、作中、殆どの間、ストーン博士を包んでいた宇宙服が最後の最後で水中で足枷になる、という展開です。観ている方はやたらとハラハラとさせられるシーンなのですが、ほんのちょっとしたことで足を取られ、死に至ることがあり得る、ということですよね。トゥモローワールドでもあっけなく序盤で仲間が殺される展開とかありましたが、この監督はその辺りの機微や思い切りは素晴らしいものがあると思ってます。

ストーン博士は宇宙服を脱ぎ捨てて、水面になんとか浮き上がります。そして、岸辺に辿り着くのですが、なかなか起き上がれません。重力が彼女を縛っている様がまた長い宇宙生活を物語らせます。(この辺りの描写は上手い!と思います。宇宙で生活してると自立するための筋肉が必要無いので、筋肉は衰えてしまうんですよね。筋トレ必須です)

そして、彼女は歩き出し、映画はgravityの7文字とともにエンドロールに向かいます。

この映画、パーフェクト!じゃないですかね。うん、特に腐すような部分が殆どない。
デブリが彼女にだけはなぜか当たらない、というのは作劇上仕方のない都合の良さでしょう。地球を一時間半で周回してくるデブリが少しでも掠ったらそれだけで即死亡でしょうし。
中国の宇宙ステーションの人たちはどうなったのだろう?とか気になることは他にも幾つかありますが、それもまあ描く必要のない些末な話ですし。

宇宙飛行士という仕事は近年、何かとフィーチャーされることが多いですが、(日本でも宇宙兄弟とか仮面ライダーフォーゼとか色々ありましたよね)問題解決のスペシャリストである必要があるのだな、と毎回思わされます。限られた資源、限られた時間、限られたリソースの中で常に答えは一つじゃない。同じ答えでも解き方は一つじゃない。発想の転換が必要。一瞬の判断のミスが自分だけでなく、仲間を殺す。優秀さが全てではない、冷静さだけじゃなく、楽観性がとても大事になる。能力は平均的に高く、何かは必ず突出したスペシャリストでなくてはいけない。
様々なことをうまーく、この映画は描いている上に、人間までしっかりと描き切っています。

それでいて、宇宙空間の表現としてはおおよそ考えられる限り、文字通り見たことのない映像を人々に届けてくれました。繰り返しになりますが、この映画は3DかつIMAXでぜひ見て欲しいです。その価値がある映画だと私は思います。


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