目指せ!映画批評家

時たまネタバレしながら、メジャーな作品からマイナーな作品まで色んな映画を色んな視点で楽しむ力を育みます★

ドラゴンボールZ 神と神

2013-04-13 23:20:22 | ★★★
ドラゴンボールZ 神と神

新宿バルト9で鑑賞。

(あらすじ)
全宇宙の運命を賭けた魔人ブウとの壮絶な戦いから4年後。39年の眠りから目覚めた破壊神ビルスは、付き人であるウイスからフリーザを倒したというサイヤ人の話を聞き、界王星で修行していた孫悟空の前に現われる。界王の忠告を聞かずに久々の強敵に挑んだ悟空だったが、ビルスの圧倒的なパワーを前に手も足も出ずに敗北を喫する。さらなる破壊と伝説の戦士「超サイヤ人ゴッド」を求め地球へと向かったビルス。悟空と仲間たちは地球を破壊神の手から守るために立ち上がる。
(ウィキペディアより)


ドラゴンボールといえば、私たち30歳くらいの人間からすればまさに小さな頃からずーっとテレビを付ければやってたアニメなんですよね。毎週月曜はジャンプを読むのが楽しみでした。一緒に大人になった漫画・アニメと言っても過言ではないわけです。今でも単行本をふと読み始めると止まらなくなります。
劇場版も結構観てました。と言うか、記憶にある限り殆どの作品をテレビ、もしくはビデオで観ており、ターレスやクウラやガーリックJr.、ブロリーなどの劇場版だけに登場する敵キャラクターもよく覚えています。

ネタバレします!




ドラゴンボールはその後の少年漫画に大きな影響を与えた作品としても認知されているわけですが、その要素の中でそのさいたるポイントとして、戦闘力のインフレ化という要素があります。初期のアドベンチャーっぽい作風から天下一武道会、ピッコロ大魔王が出てくるあたりからこの傾向に少しずつ拍車がかかっていくわけですが、主人公の孫悟空はどんどん強くなっていき、神を超え、宇宙最強、銀河最強と言われる敵を次々と倒していきます。これまで世に出た全ての少年漫画作品に出てくるキャラクターの中でもここまで戦いを重ねるたびに桁違いに途轍もなく強くなっていったキャラクターもなかなかいないように思いますが、そんな孫悟空が活躍する劇場版では毎回毎回、その時点で最強の敵が登場し、地球が危機に陥り、仲間たちと協力して倒そうとするものの、仲間たちは次々と倒れ、最終的に孫悟空がその敵を打ち倒して終わるんですよね。この構成は殆どの劇場版作品で変わらずその印象からも「結局はいつも通り、孫悟空が勝つんでしょ~」という気持ちで劇場に向かいました。
(その他にも劇場版では
・序盤ではクリリンたちがはしゃいで遊びまわってたり、
・ピンチになると必ずピッコロが助けに来たり、
・ラスボスにクリリンが必ずぶちのめされ、「なんで、俺だけ…」と言ったりと
お決まりの要素と言うのが色々とありました)

そんな気持ちで観にいった本作品ですが、思いの外、意外な展開と相成りました。

結論から言うと今回出てくる破壊神ビルスに孫悟空は勝てません。これはとても意外な展開でした。そもそも、この破壊神ビルスは設定上、邪悪な存在ではなく、定期的に宇宙の星を破壊して回る存在、として描かれており、界王の小さな星も実はビルスに壊されてあのサイズになった、と言った新事実も語られてたりします。(というか、ベジータの弟ターブルについての言及があったり、と全ての文字通りドラゴンボール関連アニメ作品を全て見ていないとピンとこない部分も幾つかあります。)

で、この孫悟空が勝てなくて、「まいった、降参だ」と言うのは完全体セルの時にもあったりします。
・兄のラディッツとの戦いでは勝てずに死んでしまったり、
・ベジータとの戦いでも命からがらなんとか勝てたり、
・心臓病のせいで人造人間20号にも負けてしまったり、
・かなり遡ると桃白白との戦いでもそもそも初戦では敗れてたりするし、
・天津飯にも天下一武道会では負けていたり、
と案外と純粋な一対一の戦績ベースでは孫悟空は負けてたり引き分けだったりすることも多いのですが、10数年ぶりの久しぶりの劇場版アニメでまさかのこの展開は意外でした。

と同時になんとなく、この展開に妙に納得というか頷く自分もいたりするのです。降参した後に孫悟空はビルスから更に上には上がいることを告げられ、気が遠くなりクラッとして気を失ってしまいます。戦いが好きで純粋に自分の力を積み重ねていき、強い相手を前にするたびに「オラ、ワクワクすっぞ」という言葉を吐く孫悟空でさえ、今回は流石に勝てない相手が出てきたわけです。(ちなみに今回、ビルスと初めて会ったシーンであのお決まりの「オッス、オラ悟空」と言おうとして界王にしばかれるシーンがありますが、これには笑ってしまいました。)

銀河系やら何やら含めて最強の中の最強みたいな存在を倒して来た孫悟空が全く敵わない、しかも戦った後にも後腐れなくお互いにリスペクトしてその場を去っていく、ドラゴンボールにはあまりなかった、展開です。(強いて言うなら、一時期の天津飯との関係なんかはこれに近かったですね)

この展開に、一緒に観にいった同期たちはみんな、「面白かった!」と一様に絶賛だったのですが、これには何と無く、私たちの年齢も関係してるのだろうなあ、と、感じるわけです。
社会に出ておおよそ8年くらいが経って、会社でもそろそろ中堅どころを担うようになってきた私たちなのですが、ドラゴンボールを子供の頃から観続けてきて、向かうところ敵なし、に近い孫悟空に幼少期から、憧れと同時に子供の頃の万能感も重ね合わせて観ていたであろう自分たちも、気が付けば家庭があったり、社会に揉まれて生きてるわけです。今作ではブルマは38歳の誕生日を迎えていましたが、そこから考えるに孫悟空やベジータたちもいい年齢でしょう。(おそらく30台後半から40台前半)そんな彼らにだんだん自分たちも実年齢が追い付いてくるにつけ、今回の作品にはなんとも頷いてしまうような展開がちらほらあるわけです。

たとえば、ベジータがビルスに丁重にお帰りいただくために、その身を挺して歌って踊りまで披露するシーンがありますが(堀川りょうさんの声で楽しいビンゴ!ビンゴ!ハイ!ってのはそのギャップからもなかなか耳から離れませんね)、このシーンなんかは自分の家、妻、子どもを強大な力から守るために「父としての、夫としてのベジータ」がかなり強く出るシーンです。その後のブルマが殴られて激昂するシーンを含めて、珍しくドラゴンボールという作品で家庭を強く意識させる要素でした。(そもそも、ベジータも悟空も家庭を殆どかえりみない描写が多かったですしねえ)

孫悟空が超サイヤ人を超えた存在にまでなって戦った上で負けを認める展開はまさに、社会に出ていろんな軋轢を感じたり上には上がいることを実感として感じてきた30台前半の私たちには色々な意味で感じ入る部分があったように思います。たぶん、悟空が最後の最後はビルスをぶっ倒す展開だった場合、ここまでの気持ちにはならなかったのではないのかなあ、と感じるわけです。「おー、あの孫悟空でも勝てないやつはそりゃ、やっぱりいるよねえ」と私は妙な感慨を孫悟空に感じずにはいられませんでした。(ただ、魔人ブウ後の戦いなら孫悟飯が弱すぎるような気はしますが…)
ちなみに今回の戦闘シーンはさすがの出来です。あのいつもの「早過ぎて見えない!」シーンも出てきますし、さすがの描き込みとスピード感あふれる空中でのバトル、岩山に突っ込んで何個も岩山が破壊されるいつものシーンも含めて、まさにドラゴンボールバトル描写の宝庫とも呼べるような数々のバトル描写でした。

久しぶりのドラゴンボール劇場版、私が観にいった日は平日のレイトショーにも関わらず多くの同世代が観にきていました。オトナになっても楽しめる、そんな作品に仕上がっていたと思います。オススメです。

おおかみこどもの雨と雪 ★★★★★

2013-04-07 17:33:17 | ★★★★★
おおかみこどもの雨と雪

飛行機で観てたら最後まで観られずとても気になっていたので、仕方なくBDで再度観ました。かなり後半まで観ていたのですが、これは最初から観直して大正解でした。雨の日や嵐の日に観るとほっこりとした気持ちになれますね。

色んなところで既にたくさん語られているので、改めて言うことでもないのですが、私がこの映画を観終わって思ったのはこの映画は「"おおかみおとこ"でなくても成立する、」ということです。
だから、しょうもない話だとかそういうことではなくて、むしろ、それくらいに子育てとか家族のこととか人生のこととか、生きづらい都会や田舎の暮らしの難しさのことを克明に描いていると言うことです。素晴らしい映画です。観てよかった、と心底思いました。むしろ、劇場でなぜ観なかったのか。先入観にとらわれてはいけませんね。
今のところ、私は、おおかみこども>時をかける少女>サマーウォーズの順で好きです。

ネタバレします!

(概要)
「時をかける少女」「サマーウォーズ」の細田守監督が、「母と子」をテーマに描くオリジナルの劇場長編アニメーション。人間と狼の2つの顔をもつ「おおかみこども」の姉弟を、女手ひとつで育て上げていく人間の女性・花の13年間の物語を描く。「おおかみおとこ」と恋に落ちた19歳の女子大生・花は、やがて2人の子どもを授かる。雪と雨と名づけられたその子どもたちは、人間と狼の顔をあわせもった「おおかみこども」で、その秘密を守るため家族4人は都会の片隅でつつましく暮らしていた。しかし、おおかみおとこが突然この世を去り、取り残されてしまった花は、雪と雨をつれて都会を離れ、豊かな自然に囲まれた田舎町に移り住む。「時をかける少女」「サマーウォーズ」に続いて脚本を奥寺佐渡子、キャラクターデザインを貞本義行が手がけた。(以上映画.comより)



誰もが直面する子育ての苦労、都会の生きづらさ、田舎の自然の厳しさ、学校生活の難しさ、こういうことをアニメならではの躍動感で描いているのが、この映画なのだな、と感じます。
おおかみこどもたちはやんちゃに走り回り、部屋の中をぐちゃぐちゃにしてしまいます。ティッシュは引っ張り出すし、食べ物はこぼすし、戸棚は全部開けてよじ登ってしまいます。でも、これ、普通のこどももやってしまうことなんですよね。おおかみのこどもだから、柱齧りがプラスされますが、まあ、せいぜいそんなところで、誰もが大人を困らせた行動なのですよね。
おおかみおとこは物語序盤でいなくなってしまいますが、これもまたよくある話でして離婚であったり死別であったり子育ての重圧から来る失踪だったり、世の中にはありふれた話です。(遺体をゴミ収集車に放り込まれる、と言うのはいくらなんでも実写だと残酷描写だなあ、とは思います。ここはアニメでよかったところ)
雪の「匂い」からのひっかきエピソードも別におおかみ、でなくてもよかったりするし、雨が家を出て行ってしまう話も含めて究極的には全てにおいて、"おおかみ"を別のファクターに置き換えてもお話は成立します。
でも、そんな話だからこそ、おおかみというファクターを入れ込むことによって絵的な面白さとお話としての物珍しさも取り入れることが出来、作品としては結果的に面白さはプラスされていると思いました。あ、あと、おおかみである、と言うことで、描写が端的に描きやすい、と言うのも感じるシーンがいくつかありました。

おおかみこどもの母親である花は通っていた大学を中退し、頼る両親がおそらくおらず(劇中父親の葬式があったことが語られる)、田舎町に移り住むわけですが、(ロケハンは富山で行われたようですね)移り住んだ古民家がまたかなり古く、住むのにも一苦労、子育てともあいまって大変に苦労するわけです。彼女はくじけそうになりながらも、次々と目先の課題をクリアしながら、ご近所さんとも徐々に仲良くなり、畑で野菜を育て、こどもは小学校に通うまでになります。
この映画は前半の花の苦労話と、後半の雨と雪のこどもから大人になっていく様を描いた話になっています。

花は序盤から芯は細そうに見えてなかなか肝のすわった女性であり、結果的に1人でこども2人を育て上げます。(結果的に雨は山に行ってしまいますが)
まさに母は強し、を地で行く展開なのですが、そんな彼女が一番動揺するのは旦那さんが亡くなった時でも、野菜が枯れてショック受けてる時でもなく、息子の雨が山に行ってしまうシーンなのですよね。親の子離れを最後に描く、という意味でここで初めて、花は一段成長するのですよね。この先のエピソードが無いのが残念ですが…。

雪の告白シーンは映画の中でも白眉のシーンです。
嵐の日に、小学校にこっそり隠れて残って窓を開けてカーテンが揺らぎながら、姿が人間からオオカミになり、そして、また人間になる。それを、同級生にずっと言えなくてごめんね、と謝りながら涙を流すのですが、ここは涙なくして観られない名シーンではないかと思います。(よくよく考えるとこれもセリフや見せ方まで計算して実写でやろうとするととんでもなく難しく、小説だとこの美しさは伝わらず、まさしく"アニメならでは"のシーンだと感じます。)
この同級生との一連の話は最初の「お前ん家、ペット飼ってるだろ?なんか、獣の臭いがするんだよなあ」から始まるわけですが、全てに殆ど無駄がなくよく考えられた展開だなあ、と思いました。これは映像作品ならでは、ですが、確かに匂い、というファクターは言われなければわからないポイントであり、ここを第一次成長を迎えつつある小学校四年生の女の子に無神経に同級生の男の子が投げかけてしまうところまでいちいちリアリティあるなあ、と。

細田守作品の端的に素晴らしいところをいくつか挙げるとしたら、みなさん、食べ物の美味しそうな描き方を挙げると思います。おおかみおとこが雉を狩ってきて、雉で鳥雑炊を作ってあげる描写などはかなり印象に残ります。食べ物美味しそうに描く、と言うのはアニメでは実は何気なくとても大事なことでして、観ていてほっこりするんですよね。

その他、雨と雪の本格的な喧嘩のシーンなどはこれもまたオオカミに変身するからこそ、やたら激しく家中めちゃくちゃになってしまいますが、「丁寧に母親が掃除して手入れしてきた部屋をあっさりとなぎ倒す子供ら」と言うのも子供の時と親からの目線では違って見えるでしょうし、(花が夫の写真が立ってる本棚をなぎ倒されたときに、一瞬「ああっ」と言うあたり、彼女の心の支えがその写真だったりする、と言うのもまた描かれてて芸が細かい)小学校高学年になると、男の子と女の子では徐々に喧嘩した時の力も逆転し始めたりする、と言うのもリアリティのあるお話です。

挙げればきりがないのですが、この映画はそういった細かい所作の描写の積み重ねで話が構成されており、美しい自然の描写やとても現実的な目線で話が積み上げられてるのですよね。アニメならではの描写とうまく組み合わせつつ、きちんと最後まで隙なく描き切った細田守は完全にジブリとは違う「親が安心してこどもに観せられるアニメとしての細田守ブランド」を作り上げつつあるのではないかな、と確信した作品になりました。次回作にも大いに期待したいと思います。今度は絶対映画館で観たいですね。