目指せ!映画批評家

時たまネタバレしながら、メジャーな作品からマイナーな作品まで色んな映画を色んな視点で楽しむ力を育みます★

エルピス 希望あるいは災い

2023-03-09 00:37:44 | ★★★★★


連ドラのレビューはあんまりやらないのですが、Amazonプライムで全話一気見鑑賞したので少しだけ。
1話は冒頭、だるかったのだが、途中からだんだん加速していく流れに目が離せなくなった。まさに連続ドラマでなければやれない展開。後半、ありきたりな展開にいくのかなと思いきや、そこは割と現実的な、ハッピーエンディングでもない着地へと向かう。
パンドラの箱を開けた先には希望があったのか、それとも…ということをタイトルで既に言ってしまってるわけで、「パンドラとは何か」も割と早い段階から目配せがある。
ありきたりな展開というのはまさに最近のドラマでよく見る揉み消したのは国の中枢…といった権力側との対立構造である。エルピスではこの権力側に立つ者として鈴木亮平演じる政治部の斉藤を配しているが、彼がまた絶妙な佇まいなのである。他のドラマのキャストとは全く違う空気を纏えている。(他のキャストは基本、バラエティ系という設定があるから、というのもあるのだろう。)
テレビ局が政治部を上層として報道、バラエティというヒエラルキー構造にある、というのは言われてみるとそんな気もするが、なかなかピンと来ないもの。マスコミの本来の役割を考えれば納得と言えば納得なのですが。

また、このドラマはエンディングクレジットで9冊もの参考文献が紹介されていることでも話題となった。以下の書籍だ。

 「冤罪 ある日、私は犯人にされた」(菅家利和)
 「訊問の罠 足利事件の真実」(菅家利和、佐藤博史)
 「殺人犯はそこにいる 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件」(清水潔)
 「足利事件 冤罪を証明した一冊のこの本」(小林篤)
 「刑事弁護の技術と倫理 刑事弁護の心・技・体」(佐藤博史)
 「冤罪 足利事件『らせんの真実』を追った400日」(下野新聞社編集局 編)
 「東電OL殺人事件」(佐野眞一)
 「偽りの記憶『本庄保険金殺人事件』の真相」(高野隆、松山馨、山本宜成、鍛冶伸明)
 「21世紀の再審 えん罪被害者の速やかな救済のために」(日本弁護士連合会人権擁護委員会編)

特に足利事件をモデルにした内容が大いに含まれている。

が、単なる冤罪事件モノというわけでもなく、マスコミの内部構造であったり、そこに働く人たちの群像劇としても観られる重層構造になった作劇。

長澤まさみはこれまでも様々な映画やドラマで主演を演じてきて、特に近年ではコンフィデンスマンJPでのコメディエンヌぶりが目を引く活躍。シンウルトラマンでもどちらかというとヒロインなのだが、コメディエンヌ寄りのキャラ設定であった。
目標とする女優は松たか子と公言してるが、今回は松たか子のように歌唱にも挑戦しておりエンディングテーマでは毎話変わるアレンジの中でボーカルを務めている。近年では3D CGアニメSingの吹替版でも歌を披露している。
今作では努力家でもあった落ち目のキャスターを演じているが、芯の強い、それでいて時に弱い女性を見事に演じている。
一方、もう1人の主演と言える真栄田郷敦は千葉真一の息子、新田真剣佑の弟ということでそうとは知らずに観ていて俳優として良い素質があるのでは、と感じさせました。芸事というのは観る者の感じ方に大きく依拠するところがあるので、親が誰かというのは割と大きな要素だが、その前情報を全く入れずに観ていたので、今調べてなんだか納得してしまった次第。良い役者さんになるだろうなあと思わされた。今回の役が母に過度に可愛がられていた息子という設定だったわけだが、そこもまた現実との面白い符号具合であった。
鈴木亮平は強烈な存在感で、いわゆるザ・テレビマンっぽくない豪胆な感じやダンディさを出し続けていた。普段から相当鍛えているのでは?と思わされるスーツの着こなし、立ち姿であった。
本作での白眉、1番美味しい役どころだったのは岡部たかし演じる村井だった。強烈な出立ちとセリフとで場をさらっていった。カラオケで毎週どんちゃん騒ぎするだけでなく、途中から芯があり、信念があり、報道魂を見せ始める。
この村井が動き始めるあたりからドラマとしては一気に面白さが出てくる。それは長澤まさみ演じる浅川と眞栄田演じる岸本が2人では超えられそうにない壁を越えることができたからなのだが、この辺りがドラマとしては最大にフィクションに近いところなのかもしれない。(実際、ああいうどうしようもないバラエティで調査報道パートが制作されることはあるのだろうか…と気になってしまった)最終話の浅川の本番前の斉藤との対峙シーンもまたフィクション感が凄まじい。10分の休憩という無理矢理な展開からの対決。ギリギリの駆け引きに痺れる展開でした。斉藤が最後に交換条件に応じるところで、大門?と電話で会話しているシーンが何とも言えない。浅川に妥協したところで、実質斎藤の負け。そして、でも、あと数分しかないところで、岸本がTV局のロビーにいるのが痺れますね。最後の最後まで、信じてその場に立ち続けることの意味を教えてくれます。

調査報道自体はTV番組でも見かけることが出てきたわけだが、時と場合によっては記者にも様々な嫌がらせがあろう。また、情報化社会で耳目を引く動画などに人々が群がる現代社会では、なかなかコストのかかる調査報道はウケづらいだろうし、ましてや政治の世界に手を突っ込むのはなかなかTV局からするとリスクなのかもしれない。

それにしても本作では冤罪事件において、誰もが蓋をしたがる構造であることが手伝って、本当に色んな形の妨害が入ってくる。そこに落ち目のキャスターの報道に対する意地とか、ぼんぼんの若手ディレクターののめり込み、過去の贖罪、そして没頭が拍車を掛けていく。劇中、どうしようもない状況に、部屋でまどろむ浅川や岸本のリアルな姿、全て終わった後の牛丼屋とか印象に残るシーンが多かったです。

最後の最後まで、厳しい戦いを強いられ続けるものの、最終話でなんとか一矢報いることができる、そんな話で、途中本当にダウナーな展開で重圧もあるのだけど、それでも…