目指せ!映画批評家

時たまネタバレしながら、メジャーな作品からマイナーな作品まで色んな映画を色んな視点で楽しむ力を育みます★

借りぐらしのアリエッティ ★★★

2010-08-17 22:53:19 | ★★★
スタジオジブリの最新作を上大岡のTOHOシネマズで鑑賞してきました。

今回は宮崎駿監督作品ではないのですが、巷では宮崎吾朗監督作品の「ゲド戦記」よりも
割と見に行った人が多そうなイメージです。

最近は事前に他の人の評を聞いたりしてしまいがちなのですが、よい評判がほとんどなく正直あまり期待せずに観に行って行きました。

結論から言うと、非常に面白い小品、といったところでしょうか。ジブリ映画に観られるような大スペクタクルであったりとか近年では宮崎駿監督の特異で稀有な世界観をたっぷり見せ付けられる、ということはまったくなく、大きな破綻もなく、最後まで安定して映画を見せてくれました。そういう意味では、小さくまとまりすぎている、という風にも思えますが、大風呂敷広げてたためなくなるよりははるかにマシな着地点だったかな、と思います。

あらすじやセリフ、舞台設定からは、これといったテーマ性を読み取るのも困難なくらいストレートに童話、という印象を受けました。粗筋としては、現代の日本を舞台として、別荘地のような場所で手術前に療養することになった病気がちな青年がその別荘の縁の下で暮らす小人アリエッティとその家族と出会うことでお互いに影響されあう、といった話。気になったセリフは予告編にもあったような「君たちは滅びゆく種族なんだ・・・」などですが、まあ、それはそれとしてあまり物語上で大きな意味合いを持つほどのものでもなく、小人たちの今後やこれまでについても断片的に描かれるだけで徹底して何か意図を持って描くようなこともしていないので、これは本当に童話的お話として観たほうが面白い映画なのだろうな、と感じました。

アリエッティという14歳になったばかりの小人の少女は迂闊な行動で家族を危険にさらしてしまうわけですが、アリエッティというキャラクタ自体は非常に魅力的に描かれており、また、「借り」という行為の説明にあたる序盤のシークエンスも非常に躍動感溢れるものになっていたと思います。「お父さん、借りって楽しいね!」というセリフがありますが、あのセリフはそのまま観客も同じように感じていたと思います。「ミクロの決死圏」や「南くんの恋人」的な面白さ。やはり小人の目線はもとより、聴覚などの感覚をうまく表現できていて面白いシーンでした。キッチンや時計の音の表現には非常に唸らされました。特に時計の音がしているシーンは良いと感じました。人間にとっては普通の時計なんだけど、小人にとってはとんでもない大きさの時計台が時を刻んでいる、というシーン。

ストーリーとしてはよくまとまっていると感じましたが、青年がアリエッティたちに台所をプレゼントするシーンでいきなり内緒の家の場所がドンピシャでバレている部分がちょっと描写不足といえば不足でしょうか。やや唐突です。このシーンは青年のような人間と小人たちでは生活のスケール感が違っていて、青年はよかれと思ってやったことなのに、アリエッティたちにとっては引越しへの決定的な引き金になる、という身体のサイズの違いから起きる常識のすれ違いを描くシーンとして、必要かつ良いシーンでもあるのですが、ちょっと青年が決意から行動を起こし、具体的に小人の家を発見し改築するまでが唐突すぎる印象は受けました。だって、恐らく何年も小人たちが隠れて暮らせてたのに、縁の下に住んでいるというヒントだけで家を簡単に見つけ出せてしまいそれが家の倉庫の床の扉開けたすぐのところ、というのはちょっとなんだか・・・。

まあ、そういうところを抜きにしても十分に楽しめる映画であったことには間違いありません。映画の「動」的表現に限って言うならこの序盤の「借り」のシーンを上回る心躍るシーンは確かに後半にはないのですが、後半には後半でそれなりのシーンは用意されていてそれほど物語として退屈には感じませんでした。映画の1シーン、1シーンの静的表現とも言える各シーンの画は見ごたえのあるものでしたし。

「ベスト・キッド」も観に行きたいところですが、「アリエッティ」もそれほど悪くない、と思います。お勧めです。