○相手を理解して励ませば實を結ぶ
文芸評論家の小林秀雄氏が亡くなった後、小林氏の追悼集の中で、
小林氏の義弟に当る田河水泡さんが「一番印象に残るのは、私が衰微していた頃、
ホンモノはつぶれないんだよ、キミはホンモノだよ」と励ましてくれた事。
そういう事は絶対言わなかった人だけに、大変うれしかった言葉でしたと言っておられた。
「君は本物」の言葉は田河さんにとって、どれだけ力強い励ましになった事であろう。
○親の励ましが子供を立派にする
相手を見抜く点で、親、とりわけ母親にまさるものはないと思う。
平安時代に地獄と極楽を説き、その著「往生要集」で知らされる源信が十六才の時のこと。
(源信は十三才の時、母のすすめで出家し、比叡山で勉学にいそしんでおり大変秀才であった)
彼は選ばれて村上天皇の御前で仏典の講義をするまでになった。
天皇は、その学才を賞され、立派な白布を下賜されたのである。
これは誠に素晴らしい栄誉で源信はよろこび、その気持ちを書き添えて、
白布をふる里の母に送ったが、母は送り返して、その手紙に「天皇さまの御前で、
おほめにあずかるのは名誉なことです。でもあなたはお坊さんです。
現世の名誉や利益に迷うことは、有難い仏教の教えに、そむくことではないでしょうか。
夢のようなこの世で同じように迷って生きている人々に名を知られ、
それを名誉と思うとは何事です。永遠の悟りを極め、仏さまの御前にこそ、
あなたの名を挙げて下さい」と書いてあった。
源信は手紙を抱いて泣き伏したということである。
やがて立派に成長し高僧になったのである。
母の厳しい手紙が源信に本当の悟りへの道を開かせたのである。
母の厳しい手紙が源信に本当の悟りへの道を開かせたのである。
○励ましは人と人とを継ぐ心のかけ橋である。
そしてその橋を渡っていくものは愛と思いやりである。
励ます人の深い愛と温かい思いやりが素直に励まされる人の心に伝わらなくてはならない。
励まされる人も、励ましてくれる人を理解し、尊敬しなければ、
励ましも、ただのおせっかいに終わってしまう。
○あのイギリスの映画監督、デビッド・リーンの名作、
戦場にかける橋も汽車を通すための橋づくりが映画のテーマではないので、
戦場にあって敵、味方が対立する時でさえ尚、敵、味方を超越した人と人との心の交流、
即ち「心のかけ橋」がこの映画の最大テーマであった
「戦場にかける橋」が人間同士の「心のかけ橋」だったからこそ、
あの過酷なビルマ戦線で多くの尊い人命が救われたのである。
今、人を励まそうとする時、われわれは持てる力の限りを尽くして、
相手が立ち直り、立派に成長してくれることを願い乍ら最大の努力を払わねばならない。
励まされた人は必ずこの励ましに心から応えてくれるに違いない。現在、とがめることの多く、
励まされることの少ない世の中で、親と子、先生と生徒、友と友、先輩と後輩、男と女・・・。
互いに励まし、励まされ、支え、支えられて日々を生きていきたいものである。
時には又自分で自分を励まさねばならない場合もある。
こんな時は、他人をよく理解して励ますように、己を厳しく見つめ
「自分よくじけるな!」「最後までやりぬけ!」などと励まさねばなるまい。
人生には苦労がつきものであるが、わがとわが身を励まし乍ら、
このリハーサルのない人生を価値あるものにしていきたい。この項終り。