EXTRACTION 2 (2023)
Behind-the-Scenes break down the most epic chase scenes
映画「タイラー・レイク-命
の奪還-2」(邦題)の英語の
原題はEXTRACTIONだ。
「血統」や「引き抜き」の
意味がある。原題はこの映画
作品の根底のテーマを題名で
も表現している。
だが、邦題は副題で「命の奪
還」とした。血族を引き抜く
意味合いが強い映画作品なの
だが、例によって邦題により
焦点がぼやけてしまっている。
この映画作品は1作目も2作目
も圧巻のアクションシーンが
連続する。
それは特撮とCGを巧みに合成
しての編集なのだが、殆どの
カーアクションシーンなどは
CGを使わずに実写で撮影され
ているのだ。その迫力たるや
驚く。
バイクで敵が追走するのを車
で撥ね殺すシーンがあるが、
さすがにそれはダミーを2体
車で牽引してそれを轢き殺す
シーンとしている。編集で
ロープは消されている。
これはメイキングで明かされ
ている。
本当にスタントマンだろうと
あれをやったら死んでしまう。
『マッドマックス』(1979)で
コンボイの大型貨物トラック
にバイクが正面衝突するシーン
でスタントマンがよけきれず
に即死したように。(そのま
ま映像は作品に使用)
また「タイラー・レイク2」で
は、超高層ビルの軒での戦闘
シーンなどもブルーシートと
の合成だが、まったく違和感
のない仕上がりだ。
何よりも感服するのがワンカ
ットの超長尺でカメラを移動
させながらのシーンが連続す
る事だ。
これもコマを繋いでワンカッ
トのように見せているのだが、
編集が超絶に巧いので全く違
和感がない。
そして「タイラー・レイク2」
では注目すべきシーンがある。
それは敵が何台ものバイクで
追走してくるシーンだ。
ここではモーターサイクルの
事を明確に「バイク」と呼称
している。主演と助演の役者
二名が。主役はオーストラリ
ア人なので can をカンと発音
するが、バイクはバイクと言
う。2台以上の時は複数形で。
メイキングでは motorbikes
と正確な単語で語るが、劇中
の台詞では bikes だ。
モーターサイクルの事をbike
と呼び始めたのは日本人だ。
英語には無い単語。
英語でバイクとは自転車の事
を指す。自転車とオートバイ
(これも日本語)がこの世に
普及してからずっと。
それが、1970年代初期から日
本人が日本語の造語で自動二
輪の事を「バイク」と呼び始
めた。米語にモーターバイク
という俗語があったが、それ
を略して自転車の意味のbike
を日本人が戦後25年後の1970
年以降から使い始めたのだ。
最初は不良少年たちの間で
使われ始めた。
このバイクという単語が使わ
れ始めたのは明らかに1970年
以降の事だ。それまでは単車
もしくはオートバイ、あるい
は英語ズバリでモーターサイ
クル。もしくは日本語で二輪、
自動二輪だ。
1969年から連載が開始された
超人気漫画の『ワイルド7』の
中では最初はオートバイと称
していたが、1970年過ぎあた
りから新語の「バイク」とい
う言葉を使い始めた。作者の
望月三起也氏の先見性だろう。
大人気漫画の影響もあり、特
に不良少年たちはこぞって
それまで単車とかオートバイ
と呼んでいた単語ではなく、
新語の「バイク」を使い始め
た。
主として東京からそれが開始
された。
だが、バイクという言葉を使
うのはティーンの若年層の不
良少年たちだけだった。
1970年代後半になっても地方
では「単車」という呼称だっ
た。これは年齢関係なく。
だが、1980年代に入り、雑誌
名もBIKEという雑誌も創刊さ
れ、徐々に「バイク」という
単語が一般化し始めた。
二輪車ブームが到来した1981
年頃からはもう「バイク」は
不良少年たちだけの言葉では
なく、ごくごく一般的な呼称
になっていた。
だが、それは日本だけの現象
だった。
そこに大変化が現れる。
おりからの世界選手権WGPで
は日本製マシンのみしか勝て
ない時代が到来した1980年代
初頭以降、世界のグランプリ
トップライダーたちが和製語
の「bike」を使い始めたのだ。
ケニー・ロバーツが使い始め
た。最初はモーターバイクと
呼んでいたが、徐々にバイク
と日本人と同じ単語を使い
始めたのがケニーだった。
これによりグランプリ界に
バイクといえば自転車だけで
なくモーターサイクルをも
表現する、という和製英語が
普及し始めた。日本が大好き
なケビン・シュワンツなども
好んでバイクと呼んでいた。
2000年代に入ると、グランプ
リの世界ではすっかりとレー
シングマシンの事を世界チャ
ンピオンや他の選手までもが
「bike」と呼ぶようになった。
バレンティーノ・ロッシなど
はバイク呼称を連呼した。イ
タリア語の時でさえbikeと言
っていた。
もはや日本人が作った「バイ
ク」という新造語の日本語は
世界標準の言葉となった。
玩具空気銃で射ち合う遊びは
アメリカのネルスポットガス
ガンでの撃ち合い遊びである
「サバイバルゲーム」から
始まり、日本人の愛知のK氏
が日本に輸入して日本の玩具
銃で行う事から開始された。
日本国内では1983年にそれが
始まった。
そして、その日本式サバイバ
ルゲームはやがて全世界で大
人気となった。
その日本式サバイバルゲーム
は外国人による和製英語で
いつからか呼称されるよう
になった。
それは日本の製品名(商標)
から採ったもので「Airsoft」
と呼ばれる。日本のエアソフ
トガンからの借用だ。
今や、全世界で楽しまれてい
る日本式サバゲは英語では
エアソフトと海外では呼ばれ
ている。
この現象は実に面白い。
外国人(特に白人系)が日本
語造語の「エアソフト」をゲ
ーム競技名に使い始めたのだ。
それと似たような現象で、モ
ーターサイクルの事を「バイ
ク」という日本語造語の和製
英語で呼ぶ事が今や全世界に
普及しつつある。
映画『タイラー・レイク2』
(2023)はその事を映像に収
めた貴重な作品としても存在
する。
言語学的文化史の貴重な史料
ともなる存在になっている。
映画作品から人類の時代性を
まさに extraction できる事は
多い。芸術作品だろうが、そ
の撮影された時代そのままが
映像で残されているからだ。
戦前や戦後直後のハリウッド
映画などの台詞回しが舞台劇
のようであるのは、それは表
現技法としてそうであるのと
同時に、当時の英語の発音や
言葉回しのニュアンスが包み
隠さず収まっているので非常
に参考史料になるのだ。
それはその時代の風景と共に。
ワイアット・アープが主人公
の『荒野の決闘』(1946)など
は非常に格調高い英語で台詞
回しが語られている。
特筆的なのは日本語吹き替え
においても、その原語にみあ
った上品な台詞に翻訳され、
日本人の声優陣がまるで舞台
劇のような品のある言い回し
で声の演技をしている事だ。
これらは劇場でもビデオでも
看取する事は物理的に不可能
だったが、DVDやブルーレイ
などによりその表現世界に
触れられるという幸運が訪れ
るようになった。
別例では、アニメ『カリオス
トロの城』(1979)において、
英語吹き替えで外国人の声優
たちが原語のルパンや登場人
物の喋り方を可能な限り模し
て吹き替え演技をしている事
が挙げられる。
あれはDVDメディア向けの製
作行動だが、表現技法として
極めて秀逸だ。
できるだけ原作の世界を壊さ
ないようにとの配慮が米国側
製作陣に見られる。
日本の時代劇などでも、正確
な言葉を用いている作品など
では「いかさま(インチキの
意味ではない)」という武士
言葉なども表現で使われる。
そうした表現描写としてでは
なく、見所はその撮影された
時代の特性が作品に反映され
ている点を見る事だ。
言語というものは発音は学術
的に解明されても、イントネ
ーションなどは生音を聴かな
いと判明しない。
例えば、女郎屋の事を江戸弁
では「じょうろうや」と読む
が、そのイントネーションな
どは古典落語での噺家の正確
な表現に触れないと知り得な
い。
映画にはそうした時代性が
詰め込まれている。
邦画にあっても、1950年代の
女性言葉である「~ですのよ」
とか「~でなくて?」などの
山の手言葉は、実際にその時
代には東京では一般化しつつ
あったが、その独特の台詞の
言い回しのイントネーション
などは映画作品や実写映像記
録や音源からしか触れる事が
できない。
映画の時代性はとても貴重な
人類遺産なのだ。
作品としての評価とは別に、
言語文化学的な史料として。
「バイク」という日本語は今
や世界標準になった。
日本のオートバイはスプリン
トの世界選手権では全く勝て
ない論外の製品になってしま
ったが、日本人は「バイク」
という単語を発明して世界に
普及させるに至った。
死して名を残す、というもの
だろうか。
だが、人を支配しようとする
者たちはまず言葉と名前を人
から奪う。
そうした点において、日本人
の編み出した「バイク」とい
う言葉は統一言語を画一的に
強制しようとする世界支配の
目論みを粉砕した。
なお、余談だが、旧名統一協
会は全世界の言語を韓国語で
統一しようとしている。
ショッカーでさえやらなかっ
た事を彼らは目論んでいる。