渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

カスタム・キュー・ラインナップ

2023年01月10日 | open

リチャード・ブラック(存命)

TADコハラ(物故)


アメリカン・カスタム・キュー
は、基本的に一本物であり、
同じデザインは無いとされて
いる。
しかし、実相は異なる。
考えてもみてほしい。
年に数作しか作らない寡作者は
除いて、一般的な作者でも年間
60〜100作前後。
10年続けたら千本だ。
30年で3,000本だ。
どれ一つ同じデザインのキュー
が無いと断言できるだろうか。
そして、多くのカスタム・キュー・
メーカー=ビルダーは定番のデ
ザインを持っている。
その定番スタンダードのライン
ナップは、1980年代にはカタロ
グ化されて代理店が表示してい
た。
本来カスタムとは一点物の注文
打ちの日本刀と同じであるので、
吊るしの作などは該当しない。
だが、あまりに需要が多すぎた
空前絶後の第二次ビリヤードブ
ームの時には注文が殺到したの
で、ディーラーが仕切った、と
いう歴史がある。
また、今の時代とは全く違い、
ビルダーに直に頼むなどはごく
一部のコネを持つ人しかできな
かった。すべては代理店が取り
仕切った。
私が購入したリチャード・ブラ
ック・ブシュカ(上掲画像の⑨)
などは、輸入業者の提示定価は
1988年で57万円だった。
米国内で直に依頼すると$1,800
程だった。1988年は1ドル128円
なので1,800ドルは23万400円。
シッピング等を含めても、日本
の業者は1本あたり34万円の利
鞘を抜いていた事になる。
それでも飛ぶように売れた。
私は並行輸入で30万円で正真
リチャード・ブラックのブ
シュカを入手したが、国内正
規代理店で買ったら57万円だ
っただろう。
当時、アメリカン・カスタムは
値引きは無しだ。それが相場。
まだ、ワシントン条約規制も
あるにはあっても緩かったの
で、日本国内に象牙を使った
製品も象牙本体も持ち込み可
能で、税関でも跳ねられたり
はしなかった。
アフリカ象の象牙の大きな一
本が三千万円程で国内では取
引されていた。
むしろ、ブラジリアン・ロー
ウッドは全く入って来なか
った。

激高の1980年代のアメリカン・
カスタムだったが、1990年代
〜2000年代初頭はかなり価
が適正価格になっていた時期
があった。
これは、私はある輸入販売業者
の功績が大きいと踏んでいる。
直接、アメリカン・キュー作者
たちと強力な信頼関係とコネを
作り、個人的に大量に発注をす
る事により、適正価格=従来よ
りもかなり安い価格=にて販売
していたのだ。端的に言うと、
有名どこでも30万円台。
多分だが、同業他社からかなり
嫌がらせや圧力を受けたのでは
なかろうか。安く売るな、と。
だが、アメリカで20万円の仕入
れの物を日本で30万円で売るの
は暴利貪りの商売ではない。
極めて良心的だ。
また、特定の作者の代理店と
なっている業者で、極めて適
正な価値で販売している業者
が一社ある事も知っている。
それは現実としてそうである
のだから、動かしがたい。
その人の作は並行輸入で扱う
別業者は驚く高値で販売して
いる。
並行輸入のほうが高い。
何だろうそれは、の世界だ。

適正価格で購入希望者に提供し
ていた良心的な業者がアメリカ
ン・カスタムを輸入販売する事
をメイン事業とするのをやめて
から、一気にアメリカン・カス
タム全体の価格が爆発的に高騰
した。
単なるコレクターの買い占めに
よる価格高騰ではない背景が
存在する。
今やTADも170万円からだ。
それ以前は高くても80万円辺り
だった。ファンシーでも70万円
の価格帯が多かった。
今はジナ約300万円〜、バリー・
ザンボは約700万円〜だ。
1988年頃、ガス・ザンボでも
大台の100万円超えか、という
程度だった。バラブシュカでも
100万円程度。
今や、ガス・ザンボとバラブシ
ュカは1,500万円以下では買え
ない。

何かが決定的におかしい。
誰が買って使うというのか。
世の中全員トランプ元大統領や
麻生君鳩山君たちフリーメイソ
ンのメンバーらのような富豪で
はないんだよね。
スポーツ道具の価格には程度と
いうものがある。
日本刀でも、一千万円の歴史的
日本刀を試斬になどは使わない。
私とて、申請すれば重要刀剣認
定確実の三原の古刀を試斬にな
ど使わない。
また、安物であっても、家伝の
刀を試斬になどは使わない。

(家伝小太刀)

TADコハラ作。
日本刀に通じる魂を持つ作が
TADキューだ。
国籍はアメリカ合衆国だが、
日本人であるコハラタダチ氏
が作るキューには日本刀と通
じるものを強く感じる。


カスタム・キューは量産品とは
違って、製作者の魂の結晶であ
るともいえる。

ただ、最近私は、カスタム・キ
ューではないがカスタム・ライ
ンのように作られたキューを
メインで使っている。
非常に良い。とてもよく切れる。
それも日本刀と同じで、無名の
作者の作、無銘の作でも、傑出
作というのはある。
私が今好んで使うキューは、中
古で1,900円で手に入れた物だ。
私の持ちキューの中でトップクラ
スの能力を有している。
時々、ごくまれにこういう物に
出会う。
日本刀でも、最近友人は凄い作
と出会った。無銘ながら明らか
に末古刀の名作者の作。
うちに送られて来たので、今
つぶさに拝見している。
その刀について、電話で2時間
程話した。刀工来歴や作域の所
見についても。多分堀川と合作
した頃の作だろう。見事だ。
上研ぎと新作白鞘、時代金具を
あしらった新作拵入り。センス
よくまとめている。
武用であろうと差料には新物
(あらもの)などは心得ある者は
使わない。本物を使う。アラは
鎺(はばき)のみだ。これは刀身
保持のためにきっちりした新作
が良いが、白鞘鑑賞では時代物
のままのほうが良い。

今、私のメインキューはこれ。
入手金額は実費1,900円だ。












キューも刀も金額ではない。
価格というのは、儲けを出す為
にアキンドたちが設定した額面
の事だからだ。物の真の価値と
は別次元のファクターが働いた
ものなのである。
良い物、大切な物に金額の多寡
は本質的に一切関係が無い。
無関係。
物に値段を付けるのは、別な要
素から来る事に依る。
それが人間社会の真実であるの
で、物の価値を金額面からしか
捉えられない人間は、世の物事
の真(まこと)の実=真実が見え
ていない人間であるといえる。

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