佐藤通雅さんの第八歌集『予感』より
紙縒(こより)とはやさしはかなき文具なり屈(くん)じをる日の春の文机
庄内に入るころほひの無人駅天つくばかり花の大桐
美しき誤算をうたひ生き急ぎ死に急ぎたる昔日あはれ
餌を欲れる鯉はまろらな口あけてたとへやうなき洞(うろ)をみするも
ところてん酸(す)きをすくひて流しこむ心細れるときはうましも
水底に肌(はだへ)さらさら倒木の眠りをるなり湖をのぞくに
けふはここでをはりにしようと筆先で草の芽ほどのしるしをいれる
死ぬるとは口閉ぢ眠ることなのだ白布は顔の凹凸なぞる
栞紐ゆうらりはさみ書(ふみ)閉づる寝ぬるにも礼(ゐや)美しくする
ある日街のベンチに憩ひをりたるに空をつぎつぎ翔びゆく柩
自律病む神経(しん)なだめむと今日も行く枯れ枝の綾を透きて水の面
人の生(よ)はつぎつぎ記憶より消えてゆくわれすらやがてわれより消えむ
いつしかに葉群は影を濃くしたり過去世へうつるものみなはやし
やうやくに暑はかたむきていできたるころころ子らのこゑはよきもの
台風のあめかぜはアニメのやうでありドヒャーッと玻璃戸を打ちて鎮まる
水の面に波のいたれば白鳥は首の白よりまづ崩れたり
そのことをいつてはならぬぎりぎりをふつかみつかはゆきつもどりつ
紙縒(こより)とはやさしはかなき文具なり屈(くん)じをる日の春の文机
庄内に入るころほひの無人駅天つくばかり花の大桐
美しき誤算をうたひ生き急ぎ死に急ぎたる昔日あはれ
餌を欲れる鯉はまろらな口あけてたとへやうなき洞(うろ)をみするも
ところてん酸(す)きをすくひて流しこむ心細れるときはうましも
水底に肌(はだへ)さらさら倒木の眠りをるなり湖をのぞくに
けふはここでをはりにしようと筆先で草の芽ほどのしるしをいれる
死ぬるとは口閉ぢ眠ることなのだ白布は顔の凹凸なぞる
栞紐ゆうらりはさみ書(ふみ)閉づる寝ぬるにも礼(ゐや)美しくする
ある日街のベンチに憩ひをりたるに空をつぎつぎ翔びゆく柩
自律病む神経(しん)なだめむと今日も行く枯れ枝の綾を透きて水の面
人の生(よ)はつぎつぎ記憶より消えてゆくわれすらやがてわれより消えむ
いつしかに葉群は影を濃くしたり過去世へうつるものみなはやし
やうやくに暑はかたむきていできたるころころ子らのこゑはよきもの
台風のあめかぜはアニメのやうでありドヒャーッと玻璃戸を打ちて鎮まる
水の面に波のいたれば白鳥は首の白よりまづ崩れたり
そのことをいつてはならぬぎりぎりをふつかみつかはゆきつもどりつ