サッカー狂映画監督 中村和彦のブログ

電動車椅子サッカーのドキュメンタリー映画「蹴る」が6年半の撮影期間を経て完成。現在、全国で公開中。

INASグローバルゲームスに出場する知的障がい者フットサル日本代表 デフチームとの強化試合

2015年09月15日 | 障害者サッカー全般

 先日の日曜日、知的障がい者フットサル日本代表vsデフフットサル男子日本代表の試合を観に行ってきた。
 知的障がい者フットサル日本代表は、南米エクアドルで開催される 『Inas グローバルゲームズ』に参加するための直前合宿中であり、一方のデフフットサル日本代表は10月に開催される『アジア太平洋ろう者競技大会』に向けた合宿中。双方の強化の一環としてお互いが対戦したわけである。
 
 知的障がい者フットサル日本代表は『INASグローバルゲームス2015エクアドル』に参加するため今年に入って初めて結成されたチーム。サッカー日本代表は以前より活動しており、昨年ワールドカップ閉幕後にブラジルで開催された世界大会ではベスト4の成績をおさめた。(INASグローバルゲームスについては後述)。
 
 デフフットサル日本代表は少々ややこしい。ろう者(デフ)サッカー・フットサルには、男女のろう者サッカー日本代表、男女のフットサル代表があある。そして、ろう者サッカー男子日本代表とデフフットサル男子日本代表が、10月3日~11日に台湾で開催される『アジア太平洋ろう者競技大会』に参加する。ろう者のアジア大会である。そしてデフフットサル男女の日本代表が、11月にタイで開催されるデフフットサルワールドカップに出場する。つまりデフフットサル男子日本代表は2か月連続で国際大会に出場することになる。しかし仕事の都合などで両大会参加が無理だったり、その他の理由でデフフットサル男子日本代表が2チームが存在する。2チームといっても全く別ではなく、12名中5名の選手は両大会に出場。アジア太平洋ろう者競技大会はサッカーに、デフフットサルワールドカップにはフットサルで参加する者も2名ほどいるようだ。
 ちなみに女子の場合はサッカーとフットサル、両方兼ねている人も多くフットサルの活動が中心になるともう一方のサッカーが休止状態になったりという現状もある。

 強化試合を簡単に振り返っておく。
 両チームともに積極的に相手ゴールに迫るが、より多く相手ゴールを脅かしたのはデフフットサル男子日本代表(以下、デフチーム)。しかし知的障がい者フットサル日本代表(以下、知的チーム)のゴレイロ(GK)青沼選手が迷いのない飛び出しで得点を許さない。身長は小さいのだけど、というかだからこその良いタイミングでの飛び出しだ。以前見た時より進化した印象である。その後、知的チームの木村選手が左足の強烈なFKを決め先制。前半を1-0で折り返す。
 後半に入りデフチームの山森選手がこぼれ球につめ同点に追いつく。しかし知的チームの安達選手が右サイドからシュート、相手DFに当たりコースが変わりゴール。2-1となる。直後にはデフチームの上井選手が遠目からのシュートを決め再び同点。その後も山森選手が素早い反転からゴールを決め逆転。さらには伊賀崎選手のゴール右隅を狙いすましたシュート、その伊賀崎選手からパスを受けた吉岡選手がGKをかわしてゴールネットを揺らし、5-2でデフチームが逆転勝利をあげた。
 
 終了後はPK戦の練習。知的チームは全員が決め、最後は負傷中のGK野崎選手も出場、1本止めた。青沼選手とはいいライバル関係であるようで、エクアドルでは2人でゴールマウスを死守してほしい。
 知的チームは、チーム全員の守備意識がとても高く集中力も途切れることがない。(期待を込めて)世界大会でもそれほど失点はしないのではないか。攻撃の要である浦川選手がこの試合には参加出来なかったため物足りなさを感じる部分もあったが、全員そろえば攻撃力もアップするだろう。またフットサルとサッカーの違いはあるが、昨年世界大会でベスト4を勝ち取ったメンバー、加藤、浦川、櫻井、徳丸、木村、安達選手たちの経験がきっと活かされるだろう。

 デフチームは、最初のうちは連係もうまくいかないことがあったり精度を欠いたりしたが、後半に入ると崩しの形も見えてくるようになった。『アジア太平洋ろう者競技大会』が開催されるころにはさらにチームの連係も深まっていることだろう。

 知的障がいと、ろう者(デフ)の日本代表同士の対戦は、5月のサッカー、7月のフットサル(Fリーグ試合終了後のエキシビションマッチとしておこなわれた)に続いて3回目。今回は純然たる強化試合であり、双方にとってもとても実りあるものだったと思う。

 個人的にも関わってきた知的障がい者サッカー、ろう者サッカー、この2者が対戦する時にどちらよりで見るかは迷うところ。今回は知的チームに知っているメンバーが多かったのでどうしても知的チームよりの見方になった。例えば映画『プライドinブルー』で中心に描いた加藤隆生(今回はフィールドプレーヤーでの出場)もいるし、浦川もいるし、その後の日本代表の練習で見ているメンバーも多かったし。試合の時は全員の顔と名前が一致した状態で観ていました。そんな関係で、試合終了後デフチームの関係者や選手から感想を求められるたのだけどうまく答えられず、失礼しました! いつもは聞かれなくてもしゃべったりするのだが。ちなみに台北デフリンピックに出場した伊賀崎選手のゴールシーンは映画『アイ・コンタクト』にもあります。

 知的障がい者フットサル日本代表の一行は9月16日(水)にエクアドルに旅立つ。エクアドルは2000mを超す高地故に、ワールドカップの南米予選でも常にアウエーのチームが苦戦する国。総力戦で頑張ってきてください!
 フットサル競技は6チーム総当たりのリーグ戦、上位チームが決勝、3位決定戦に進出。試合日程は以下。いずれも日本時間。
 22日(火)1:00~ フランス。
 23日(水)1:00~ エクアドル。
 24日(木)5:00~ ポーランド。
 25日(金)1:00~ ポルトガル。
 26日(土)5:00~ アルゼンチン。
 決勝は27日(日)3:00~、3位決定戦同日1:00~。

 
 さて『INASグローバルゲームス』っていったい何だ。正直自分でもよくわからなかったので少々調べてみた。
 一言で言えば知的障害者のスポーツを統括する国際知的障害者スポーツ連盟(INAS)が運営する国際総合競技大会であり、今回が第4回目の大会である。第1回大会は2004年にスウェーデンで開催、以下チェコ(2009年)、イタリア(2011年)、そしてエクアドル。次回は 2019年にオーストラリアで開催予定。4年周期になったのは今回が初めて。前回のイタリア大会で開催年をパラリンピックの前年にずらして、以後4年ごとに開催していく流れのようだ。
 パラリンピックでは知的障害の競技がもおこなわていた。1996年アトランタ、1998年長野、2000年シドニーである。しかしシドニーパラリンピックでスペインバスケットチームが健常者を大量に出場させた“事件”でパラリンピックから締め出されてしまう。明らかな不正は問題外だが、レベルの高いガチンコ勝負ということになると軽度の知的障害者が出場することになり見極めが難しくなるのもまた事実である。
 その事件を受け2004年アテネパラリンピックではおこなわれなくなった知的障害の競技を同年スウェーデンで開催、それが『INASグローバルゲームス』の始まりのようだ。ロンドンパラリンピックでは陸上、水泳、卓球の限られた種目で3大会ぶりに知的障害競技がおこなわれた。国際知的障害者スポーツ連盟(INAS)側はおそらくパラリンピックと合体したいということなのだろう。
 エクアドルの大会では、陸上、水泳、卓球、ローイング(ボート)、フットサル、バスケットボール、自転車、テニス、テコンドーの9競技がおこなわれ、日本からはフットサルを始めとして、陸上、水泳、卓球、バスケットボール5競技に選手団が派遣される。ところでローイング(ボート)はインドアとHPに書いてあるんだがいったいどんな感じでやるんだろう。

 一方ろう者スポーツの国際競技大会はデフリンピック。2001年よりIOCの承認を得てデフリンピックという名称になった。第1回国際ろう者競技大会は1924年にパリで開催されている。パラリンピックよりはるかに長い歴史を有しているが知名度は低い。こちらはパラリンピックの翌年に開催されている。2021年の開催地はまだ決まっていないと思うので日本が立候補したらどうだろう。しかしその前にやるべきことは手話言語法の制定なのかもしれない。2024年でも遅くはないのかもしれない。
 デフリンピックとパラリンピックの関係で言えば、デフリンピック側としては(商業的に)巨大化したパラリンピックといっしょにやりたいという考えもあるだろうし、独自の(ろう)文化を尊重し取り込まれるずに単独でやっていくべきだという意見もあるだろう。いずれにせよ、他の障害とは決定的に異なる“言語“という問題をきちんと認識し、認識される。そういった場としてのデフリンピック日本開催はとても意義深いと思う。

 最後はデフリンピックの話になってしまった。
 
 知的障がい者フットサル日本代表がエクアドルから笑顔で帰国することを願っています! 


(追記)
デフリンピックにフットサル競技はありません。サッカーは男女があります。

またINASグローバルゲームスでフットサル競技がおこなわれるのは、今大会が初めてのようです。

(追記・試合結果)
 予選リーグ
第1戦 vsフランス   2-4
第2戦 vsエクアドル  25-0
第3戦 vsポーランド  7-10
第4戦 vsポルトガル 0-8
第5戦 vsアルゼンチン 2-9
日本チームは1勝4敗で予選敗退。決勝トーナメントには進めませんでした。 お疲れ様でした。