サッカー狂映画監督 中村和彦のブログ

電動車椅子サッカーのドキュメンタリー映画「蹴る」が6年半の撮影期間を経て完成。現在、全国で公開中。

難聴の高校球児がドラフト指名される

2014年10月25日 | 手話・聴覚障害

先日行われたプロ野球ドラフト会議が行われ、佐賀工業の山田選手が西武ライオンズから5位指名された。
山田選手は強肩強打の遊撃手で主将を務めた選手のようだが、右耳が難聴であるらしい。
そのことを西日本新聞web版で読んだのだが、なんだかよくわからなかった。

西日本新聞
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/saga/article/122473
yahoo  ニュース 
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141024-00010002-nishispo-base

例えば以下のような一文がある。
「中学時代は硬式のクラブチームに所属した。障害のためか、バットに球が当たらなかった」
右耳が聴こえない聴こえにくいというだけではさほどバッティングに支障があるとは思えないが、難聴が原因で三半規管に何らかの異常があり、回転バランスを保つのが難しかったのだろうか?
そしてその弱点を、創意工夫を凝らした練習で“乗り越えた”ということだろうか?
例えば正常な方の三半規管や脳で平衡感覚を補ったとか?このあたりはあまり詳しくないのでよくわからない。
それとも単純に下手くそだったのか?

以下のような一文も。
「大会によっては難聴を理由に打席に立つことが許されず、守備だけの出場という「屈辱」も味わった」
いったいどういう理由で打席に立てない?危ないから?だったら守備だって危ないだろう?

記事全体も“難聴を乗り越え”というトーンで貫かれていて、どうもよくわからない。

気になってインターネットでもう少しだけ調べてみた。
複数の記事によると難聴は右耳のみ、のようだ。
もし左耳が健聴者並に聴こえるのなら、野球をやるうえではそれほど支障はないだろうと思われる。
(あるいは左耳も軽度の難聴などがあるのだろうか?そのあたりは詳しくはわからない)
しいて言えば三塁線に上がった打球をショートの山田選手とレフトが追う時などは、山田選手の右耳がレフトに向くためレフトの声が聴きにくいことなどがあるのかもしれない。特に本塁からセンター方向に風が吹いている時など。

ところで毎日新聞web版に次のような一文があった。

先天的な難聴で右耳が聞こえにくい。しかし「普通にやれているので、不利に感じたことはない」と野球や日常生活への支障を否定する。

毎日新聞
 http://news.goo.ne.jp/article/mainichi_region/region/mainichi_region-20141024ddlk41050274000c.html

本人はドラフトに指名された今、障害や難聴を乗り越えてという感動物語ではなく、野球の実力でこそ評価してほしいということなのかもしれない。

一方、もっとも地元に密着していると思われる佐賀新聞には一切難聴の文字がない。

佐賀新聞
 http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/117965

野球でこそ評価してほしいという山田選手の気持ちを知る記者の、潔い記事なのだろうか?
「声で鼓舞できるような遊撃手になりたい」という一文に記者の思いが込められているような気もするし。
それとも単に情報がもれただけ? あるいは知らなかった?いやそんなことはないと思うが。

いずれにせよ今後は、野球の実力で生き残っていくしかないことだけは確かだろう。

追記
私、元サッカー部と思われることが多いのですが、実は中学高校と野球部。確か佐賀工業と練習試合をした記憶があるような気もするのですが…。


金沢での電動車椅子サッカー全国大会

2014年10月20日 | 電動車椅子サッカー

10月18日(土)~19日(日)の2日間、石川県金沢市で「マルハンカップ第20回日本電動車椅子サッカー全国選手権大会」が開催されました。大会は日本のローカルルールである制限速度6kmのルールで開催されます。国際ルールの10kmを見慣れるとつい地味な印象を持ってしまいますが、(レベルの高い)6kmは、10km以上に難しい側面もあります。
フットサルに例えて言えば、10kmの競技が通常のフットサルだとすると、6kmは「歩いて行うフットサル」をイメージすると良いかもしれません。もし走行禁止のフットサルというものがあれば、かなり難易度は高そうです。ゴールするためにはとても正確なパスなどが要求されるでしょうし、ボールのないところで、事前に「歩いて」良いポジションを取っておかなくてはなりません。レベルの高いプレーをしようとすれば、相当頭を使う必要があるのではないでしょうか。体よりも頭が疲れるかもしれません。

それはともかく、その大会に私も行ってきました。目的はドキュメンタリー映画撮影のため。
この3年間電動車椅子サッカーのドキュメンタリー映画を撮り進め日本代表選手などを追っていますが、クラブチーム単位でいえば永岡選手などが所属するYokohama Crackersを中心に撮り進めています。日本代表候補選手が所属する他のチームもとても気になるところではあるのですが、基本スタンスとしてはYokohama Crackersの勝ち上がりを願いながらの撮影ということになります。
平野監督を始めとするYokohama Crackersさんには、撮影のみならず電動車椅子サッカー自体をより深く理解するために、常日頃本当にお世話になっているんです。

ところがそのYokohama Crackersが死のグループに入ってしまいまして…。
今大会は18チームが参加、3チームが6つのグループに分けられリーグ戦を戦い、各グループの首位が2日目の決勝トーナメントに進出。2位のうち上位2チームも決勝トーナメントに進出することができます。
Yokohama Crackers(前大会優勝)のグループは、Red Eagles兵庫(同2位)、レインボーソルジャー(同3位、前々大会優勝)。つまり前回大会の1位2位3位が同じ組に同居してしまったわけです。ロシアワールドカップで、ドイツとアルゼンチンとオランダとブラジルが同じグループリーグに入ってしまうようなものでしょうか。
強豪同士の対戦であることを考えると大量得点差勝利は考えにくく、強豪2チームが初日に姿を消してしまう可能性大という組み合わせでした。
またYokohama Crackersは、日本代表候補選手でもある永岡選手が残念ながら体調不良のため欠場。抜けた穴は大きく、全く形にならないまま敗戦、ということも考えられるような状況となってしまいました。
代役に選ばれたのは高校生の清水選手、試合前の緊張感がこちらまで伝わってきました。
そして、初戦の相手はレインボーソルジャー。
試合は早い時間に動きます。
前半2分、レインボーのコーナキックのチャンス。北沢選手のコーナーキックが、エリア内の紺野選手に当たったこぼれ球を吉沢選手が素早く反応、ニアサイドに蹴り込みレインボーが開始早々に先制点をあげます。
前半14分には、再び北沢選手の正確無比の右コーナーキックを、ニアの吉沢選手がスルー、ファーサイドに待ち構えていた内橋選手がゴール左隅にきっちりと流し込み、前半を2対0と折り返します。
後半に入ると、点を取るしかなくなったCrackersが、いい意味で開き直り、分厚い攻めでレインボーゴールに迫ります。ベンチからは「ライン下げるな!」などと声が飛び、サポーター、ご家族、ヘルパーの方々などのチャントの声がスタンドから場内に響き渡ります。
後半9分、熱い声援を受けたCrackersの間接フリーキックのチャンス。三上選手がチョンと出したボールを紺野選手がシュート! しかし吉沢選手ブロック、今度は紺野選手のパスを受けた竹田選手がシュート! 吉沢選手が再びクリアするものの紺野選手が直接蹴り込み、Crackersが1点を返します。
試合には敗れたものの、次につながる貴重なゴールとなりました。

しかし他のグループの試合結果により、Crackersは決勝トーナメント進出のためにはRed Eagles兵庫を相手に5点差以上の勝利が必要となってしまいます。一方のRed Eaglesは7点差以上の勝利が必要!!
現実的には考えにくい数字で、両チームとも目の前の相手に勝つことのみに集中します。
Yokohama Crackers対Red Eagles兵庫の対戦。均衡が崩れたのは後半10分。
三上選手が有田選手との競り合いからゴールに蹴り込み、Crackersが先制点をもぎ取ります。
後半17分、三上選手の左サイドのキックインを紺野選手が折り返し竹田選手がフットガードの前面で押し込み2点目。点差を広げます。
Red Eaglesも意地を見せます。なかなか自由にプレーさせてもらえなかった有田選手のコーナーキックをファーで待ち構える加川選手が決め、試合終了間際に1点差にせまりますが、Crackersがそのまま2-1で逃げ切ります。
Crackersは勝利したものの1日目で姿を消すことになりました。しかし、当初は固さの見えた清水選手は与えられた役割をこなし、紺野選手は意地を見せ、内田選手はむずかしい局面での途中投入で期待に応え、三上選手はキャプテンシーを発揮しチームを引っ張り、竹田選手もいつになく攻撃的な姿勢を見せてくれました。
野田選手、永岡選手欠場という苦しい状況のなか、追い込まれた選手たちが次につながるプレーを見せてくれました。

 1日目の空いた時間には他の試合も少し観ることができました。そのなかで最も印象に残ったゴールは、Nanchestar United鹿児島がSONIC~京都電動蹴球団相手に奪った3点目、エリア内中央絶妙のトラップでボールをキープした東選手が左サイドの野下選手に「そっちにいくよ(的な言葉)」と声をかけ右サイドの塩入選手へパス、塩入選手がそのまま折り返し、逆サイドの野下選手がゴールを決めた場面。3人の意志が噛み合った見事なゴールでしたが、東選手のプレーに思わず「うまっ!」と声を出してしまいました。

2日目はCrackersが大会から姿を消したので、他のチームの観戦や撮影に専念。準々決勝の注目はNanchestar United鹿児島とFCクラッシャーズを観戦することに。前述した塩入、東選手を中心としたナンチェのパスサッカーが観たかったし、何よりも前日はまったく観ることができなかった飯島選手を中心としたクラッシャーズの攻撃を観たかったからです。

この試合は本当に痺れました。
両チームともに相手の良さを消すというよりは自分たちの良さを出そうとしていたのか、なかなか観ることができないような好ゲームになりました。手の内を知り尽くしている同士の塩入、飯島選両日本代表選手の1対1も見所がありました。また得点シーンもいずれも見事なものばかり。
先制点はNanchestar (以下、ナンチェ)のセットプレーから生まれます。塩入選手が強烈なキックを至近距離の東選手へ、東選手が角度を変えてゴール。しかしその直後にクラッシャーズが同点に追いつきます。飯島選手がエリア付近までドリブルで持ち込みフリーの太田選手にパス、太田選手がきっちりとゴールへ流し込みます。
そして後半16分くらい?(はっきりと時間を覚えていません)クラッシャーズがセットプレーのチャンス、飯島、太田選手とボールがつながり、今度はクラシャーズが勝ち越します。このままクラシャーズが逃げ切ってしまうのかと思い始めた残り2分(くらいだったと思います)、ナンチェは上がってきたゴールキーパーの川崎選手が自陣から右サイド深い位置の東選手へロングパス、東選手がそのまま中央へ折り返し、ファーサイドに詰めていた野下選手がゴールを決め同点に追いつきます。コート全面を使ったビューティフルゴールでありつつ、魂のゴールでもありました。
試合は大会規定によりそのままPK戦へ突入。
クラッシャーズの4人目のキッカーは森山選手。試合中は後方から声を出し続ける姿が印象的だった選手。しかし、その森山選手がナンチェの塩入選手に止められクラッシャーズは万事休す。
悔しさに包まれた森山選手の涙は控えスペースに戻っても涸れることはありませんでした。
この試合は本当にいい試合でした。競った得点経過ももちろんですが、イメージとイメージのぶつかり合いというか、そういった観点からも魅力的な試合でした。

そしてそのナンチェは準決勝で地元金沢ベストブラザーズを6-0と破り決勝へ、一方レインボーは、廣島マインツ、奈良クラブビクトリーロードをいずれも5-2で破り決勝進出。決勝はNanchestar United鹿児島対レインボーソルジャーの対戦に。
決勝戦はレインボーが2点を先取、ナンチェも1点を返し意地を見せるものの、2対1でレインボーが勝利を飾り、2年ぶりの優勝。終わってみればレインボー強し!という印象を残した大会でもありました。
レインボーの強さは、コーチの名越さんたちの指導のもと組織としての緻密さや強固さを持つと同時に個の強さをも合わせ持っていること。一時期はパフォーマンスが低下していた吉沢選手の守備の際の読みやボールスピードを利用し“面”でコースを変える技術なども素晴らしいし、北沢選手は相変わらず正確無比なボールを供給、黒沢選手の堅実な守備はチームに安定をもたらし、内橋選手の成長は目を見張るばかりです。
レインボーのレギュラーが全員ストライクフォース(アメリカ製の電動車椅子サッカー専用マシーン)だったのに対し、Nanchestar United鹿児島は塩入選手の一台のみ。東選手も近々ストライクフォースに乗り換えるようですし、来年以降Nanchestar United鹿児島が“準”優勝の壁を破ることができるでしょうか。

Red Eagles兵庫も本来グループリーグで消えるようなチームではないでしょうし、FCクラッシャーズも悔しさをバネに躍進してくることでしょう。

近年Yokohama Crackersとレインボーソルジャー交代で優勝していますが、来年はYokohama Crackersが巻き返しを見せてくれるでしょうか。もちろん永岡選手や野田選手の力も合わせて。


ところで大会を通じて、内海選手が所属する廣島マインツや中井選手所属の奈良クラブビクトリーロードの試合をきっちりとは観れなかったことは残念でした。

(追記)準々決勝の得点経過、並びにレインボーソルジャーの名越さんの肩書に誤りがあり訂正しました。