サッカー狂映画監督 中村和彦のブログ

電動車椅子サッカーのドキュメンタリー映画「蹴る」が6年半の撮影期間を経て完成。現在、全国で公開中。

皇后杯決勝~INACのプライド、ジェフの気迫~

2012年12月24日 | サッカー

大宮のNACK5スタジアムへ、INAC神戸レオネッサとジェフユナイテッド市原・千葉レディースの対戦となった皇后杯決勝を観に行った。
天気は快晴。屋根付きのメインスタンドは寒そうだが、陽のあたる暖かいバックスタンドで観戦。

常識的に考えてジェフは守ってカウンター、INACはそこをどうくずしていくのか?という試合展開を予想し、実際その通りになった。
しかし、予想以上にジェフの守備に対する集中力が素晴らしい。
INACはディフェンスラインでボールを回し、チ・ソヨンのドリブルなどもからめゴーベル・ヤネズや高瀬のポストプレーまではボールがつながるが、なかなかシュートまではいけない。
そんななか、最初の決定機を迎えたのはジェフ。
前半18分、ボランチの保坂(だと思う)の左足の強烈なミドルシュートがポストを叩く。147cmの小柄なボランチ保坂選手は、鋭い出足、豊富な運動量でボランチの柳井選手とともに中盤の潰し役として機能。素晴らしかった。例えば、ジェフは両サイドのMFが下がって6バックのようになることも多かったが、両ボランチが走り回り、尚且つFWの1人も下がってきてスペースを与えずINACにミドルシュートも打たせない。
守るジェフ、崩しきれないINAC。
結局、前半はジェフの思惑通りの展開で0ー0で折り返す。

ハーフタイム、後半のINACの怒涛の攻撃を予想しINAC側のゴール裏へ移動。
バックスタンドもゴール裏も自由席なのでこういうことができます。
しかしゴール裏は日陰で寒い。オーバーズボンなどはいているうちに後半が始まる。

後半、最初の決定機もジェフ。
3分に右サイドから小川が折り返しニアに深澤が飛び込むが、惜しくもゴールにはならない。
観客席から「シュートしないとゴール入んないぞ!」という声が飛んだりしていたように、INACはボールは保持するもののなかなかシュートまで持ち込めない。
しかし15分に左サイドバックのベッキーが中央に切れ込み切り返して右足でシュート。これはジェフのGK船田が好セーブではじき出す。
その後、この試合がINACの最後の采配となる星川監督が動く。
持ち味を出せなかった大野に代え、中島を投入。川澄をFWに上げ2トップにし4・4・2の布陣へと変更。その後、中島がトップ下、川澄が右MF、高瀬が左MF、ゴーベル・ヤネズの1トップの4・2・3・1のような布陣に。その中島が積極的に動き回り、INACのチャンスが増えていく。
40分にはゴーベル・ヤネズのスルーパスを受けた高瀬がGKと1対1に。ジェフの粘りもここまでか!」と脳裏をかすめるが、高瀬のループシュートは右隅に外れる。観客席からはため息が漏れた。
1分後には中島のスルーパスを川澄が右サイドの角度のないところから強烈なシュート!GK船田がはじき出し、INACの攻勢が続く。
直後のCK、ゴーベル・ヤネズのヘディングシュートはわずかにゴール右隅に外れる。
そしてむかえたロスタイム。
「延長だな」と思ったが、INACがCKのチャンスを得る。おそらくこのプレーがラストプレー。
「ゴーベル・ヤネズが競り勝つ局面が増えてきていたのでおそらくジェフもそこには集中力を持って対処するだろう。それならばこういった局面では澤がキーを握るのでは?澤がニアに走り込むか?」などと考え、澤を注視しているとファーに動いた。「ゴーベル・ヤネズの競ったこぼれ球狙い?あるいはゴーベル・ヤネズを囮に使いファー狙いか?」などと瞬間的に考えていたら、中島が蹴ったCKを誰か(澤に注視していて誰かわからなかった)が中央で競り合いファーにボールが流れた。ファーに走りこんでいた澤が追いつきグラウンダーのボールを折り返す。誰か(?)がシュートしようとするがジェフDFがブロック(かな?)し、こぼれ球がINAC田中明日菜の前に。そのボールを田中明日菜が押し込み、ついに均衡がやぶれた。
ジェフの選手達にミスはなかった。
星川監督はそのゴールを「気持ち」と表現していたが、女王としてのプライドがゴールを生んだのだろうか。ジェフの選手達も最後まで集中力が途切れることはなかったが、あの時間でCKを与えたことが力の差だったのか?
ゴーベル・ヤネズがペナルティエリアに侵入してきてもジェフのDFはきっちりマークは出来ていたがタッチラインに蹴りだすことが出来なかった。後半40分以後のINACは、CKをとれば得点が生まれるような気配を漂わせていた。そのあたりが勝負を分けたのかもしれない。
そして直後に試合終了。
INAC神戸レオネッサが大会3連覇、皇后杯初代女王となった。

正直、試合が始まったあたりは「面白くねーな」と思っていたが、ジェフの選手たちの最後まで途切れない集中力や球際の粘りなど、彼女たちの気迫が観客席までビシビシと伝わってきて観ている人の心を熱くするゲームとなった。
試合終了後、泣き崩れる保坂選手や小川選手を見ていてこちらまで感極まってしまった。
一方INAC側から見ると、最後には勝ち切る強さは見せたものの、星川監督も試合後のインタビューで語っていたようにあまり内容は良くなかった。
そのあたりが来年以降の課題になってくるのだろうか?

まあ何はともあれ、INAC神戸レオネッサの選手・関係者の皆さん、3連覇おめでとうございます。
そしてジェフユナイテッド市原・千葉レディースの選手・関係者の皆さん。いい試合を見せていただきありがとうございました。
 試合終了直後はINACサポーターのそばにいましたが、INACの選手の優勝の歓喜よりもジェフの選手達の表情を見たくなってしまい、急いでジェフサポータ側に移動。サポーターの方々はよくやった感に包まれていたように感じられました。表彰式が終わって再びジェフの選手がサポーターの元に挨拶にやってきましたが、一度は泣き止んでいた保坂選手が再び悔しさ無念さがこみあげてきたようでした。その表情がとても印象的でした。

灯が落ちたスタジアムを後に大宮駅まで歩いてくると、3人組のラップユニットが歌っていた。INACの公式サポートソングをAllies(エイリーズ)というユニットが歌っていて路上ライブをやっていたのだ。サポートソングを聞いてから帰路に着いた。

昨年(厳密に言えば今年)までは元日に行なわれていた決勝だが、今年から天皇杯の前座ではなく独立した試合になった。女子サッカーを観たい人が観るという意味ではとても良いと思う。以前は「天皇杯のついでに観てます」という人が多かったし、そういう意味では観客席の雰囲気もあまりよくなかった。

余談ですが、ジェフユナイテッド市原・千葉レディースUー18チームは映画「アイ・コンタクト」の上映をかなり早い段階でやってくれて、私も千葉まで行き選手達と質疑応答をしました。そういった意味でもお世話になっているクラブチーム。いい決勝を見せてもらいありがとうございました。
もちろん川澄選手を初めとするINACの選手の方々にも多大なお世話になっています。
川澄選手には単行本「アイ・コンタクト」の帯の推薦文を書いてもらいましたし、関西の女子サッカーチーム主催の上映会には川澄・大野・近賀選手や星川監督がゲストとして足を運んでいただいたようで、ありがとうございました。

来年のなでしこリーグやカップ戦も楽しみ!