叙事詩 人間賛歌

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「目覚める人・日蓮の弟子たち」 四十五

2010年10月01日 | 小説「目覚める人」

 法華経の行者 十九

 ある日の夕方、りょうは小源太に呼ばれた。

「りょう、話がある。こちらに来てくれ。」小源太はりょうを近くに
招いた。

「北条家家中の本田景近の二男で、景次という者がいるが、そなたの
婿にして小岩家を継がせたいと思っている。人を介して先方に当たっ
てみたが、先方は乗り気なようなので、そなたの考えを聞きたいの
だ。どうだろうか」

小源太はりょうにたずねた。二十歳になっていたりょうは、いつ結婚
してもよい年頃で当時としては、むしろ遅すぎるほどだった。
小源太はりょうが喜んで承知するものと思っていたが、りょうの口か
ら出たのは意外な言葉だった。

「私は、お武家さまと結婚するのは嫌でございます」

「ほう、武家が嫌とは町家にでも嫁したいと申すか」

小源太が怪訝そうに聞くのに、りょうは、

「いいえ、そうではありません。できればこのままとののお側でお仕
えしたいのです」

りょうは、小源太の身の回りの世話をしながら、行儀作法を学んでい
た。肉親の愛情に飢えていたりょうに、小源太の人を思いやる態度と
優しさが、彼女の中に恋心を生んだのだ。身分が違えば違うほど彼女
の中の秘めた思いは大きくなっていった。

続く

     



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