叙事詩 人間賛歌

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「目覚める人・日蓮の弟子たち」四十一

2010年09月13日 | 小説「目覚める人」

 法華経の行者 十五  

 その小柄な兵が小岩六助だった。小源太の近習たちが駆けつけたと
きには敵に囲まれて切り倒され、すでに息が絶えていた。もう十年ぐ
らい前のことである。
 小源太はふと我に返った。

「彦四郎、お女中を屋敷に連れて帰って丁重に看病してやってくれ。
水は飲んでいないから大丈夫だが、このままでは風邪をひく。わしの
屋敷では人目について恥ずかしがるだろうから、暫くそちの家で看病
してやってくれぬか」

と言って小源太は時宗からもらった頭巾をぬいで、

「寒いからこれを頭に着せてやってくれ、顔も見られなくて丁度よい
だろう。」

と言って彦四郎に頭巾をわたした。

「とのはお一人で、」

「うん、一人でよい、幕府のお膝元だ、昼間から人を襲うような無法
者はいないだろう。早く行ってやれ。」

彦四郎は砂の上に泣き伏したままの女を抱き起こした。

「すぐに暖かいものをとらすから、しっかりするのじゃ。」

と励まして彦四郎は、自分の馬に女を乗せた。

「との、」

彦四郎の心配そうな顔に、早く行け、と目で合図すると小源太は馬に
跨った。
海水にぬれた袴が足にまといついて急に寒さを感じた。彦四郎が遠ざ
かっていくのを見届けると、小源太は激しく鞭をふった。

続く  

     
 



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