叙事詩 人間賛歌

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「目覚める人・日蓮の弟子たち」三十一

2010年07月27日 | 小説「目覚める人」

 法華経の行者 五 *

 燭台の火が風であふられたのかゆらいで、三郎と義昭の影が大きく
揺れた。
三郎夫妻が客席につき雅子や峰子がそれぞれの席についたのを見て、
小源太は、

「暮れでお忙しいところを大学どのご夫妻はよくおこしくだされた。
出来合いの手料理だが、ご遠慮なくお召し上がりくだされ。」
 と挨拶した。

末席の峰子がっと立ちあがると三郎の前に礼儀正しく座り、盃にすみ
酒をついだ。
    
箱膳には椀に盛った飯に、魚の干し物や生もの、むしあわび、焼きた
こ、えび、などの魚料理に雉の足や柿、干しなつめなどの果物も添え
てあった。
山海の珍味とはいかないまでも当時としては、客をもてなすに充分な
ご馳走が盛られていた。
    
和やかな宴が半ばになったころだった。小源太が三郎の横に座ってい
るかねをむいて言った。

「かねどのは松葉ケ谷の上人さまのお弟子になられて、法華経の題目
を唱えておられると承っているが..」

 突然、小源太に聞かれてかねは驚いた様子で顔をあげた。

「まあ御前、よくご存知ですが、どなたからお聞きになられまし
た。」
 とかねが問うのに小源太は、

「いや雅子から聞いたのだが、お気を悪くしないように、実は三郎ど
のと相談したのだが私らも上人の説法を聞きに、法座とやらに伺って
みようと思っているのでな。」

「まあ御前と主人が、それはさぞ上人さまもお喜びになるでしょう。
どなたでも法座には参加できますから、なんでしたら私が法座のある
日を聞いてお知らせしましょうか。」

「いや有難いがそれには及ばない。わしの方にも心当たりがあるの
で、日にちが分かったらこちらから三郎どのにおしらせしょう。
ところでかねどのは、たしか念仏を唱えておられたと雅子から聞いて
いたが、
 なんで題目を唱えられるようになったのか、宜しければわけを教え
てもらいたいのだが。」

続く   



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