神なる冬

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[SF] SFが読みたい! 2017年版

2017-04-12 23:00:15 | SF

『SFが読みたい! 2017年版』 S-Fマガジン編集部 (早川書房)

 

かなり今さら。(もう4月も中旬です!)

表紙の「好きなものに順位をつけるなんて くだらないと思います」が笑わせてくれるが、BEST SF 2016の結果を見るとなかなか趣深い。なんと、国内SFの10位までに出版元のハヤカワが登場しないのだ!

ハヤカワが国内ベスト10から漏れたのは、例の“冬の時代”の1998年以来だそうだ。

とはいえ、SF全体が沈んでいるわけではなく、創元や河出なんかは大当たりだし、結果的に見れば講談社の頑張りが目立つ。“冬の時代”は、非SFの隆盛のためにSF専門出版が沈んだんだけれども、今はそういうわけでもなさそう。

思えば、1959年のS-Fマガジン創刊以来、60年代にSFの春を迎え、70年代がSFの夏。80年代は豊穣の秋だったものの、90年代に冬を迎える。ゼロ年代に再び春を迎え、伊藤計劃、円城塔が登場。そして、10年代の夏が今まさに終わろうとしている……のかもしれない。

SFが隆盛でセミもまだ元気に鳴いているけれども、よく聞くと鳴いているのはミンミンゼミやアブラゼミではなく、ヒグラシやツクツクボウシで主役交代といった感じか。まったく、比喩としても良くできたものだ。

ただ、海外SF専門のイメージがあった創元がここまで日本SFに力を入れてきたのは驚きだ。やっぱり創元SF短編賞以来、日本SFを牽引してきたのは東京創元社なのかもしれない。

「2010年代前期ベスト」なんていう中途半端な企画で、もっとも活躍した作家として言及されているのが第1回の宮内悠介と、第2回の酉島伝法というのが象徴的。たしかに、これに自費出版出身の藤井太洋を入れた3人が10年代のSF三銃士。

一方、ハヤカワSFコンテスト組は柴田勝家と草野原々のキャラクターが先行してカオス状態に。個人的には嫌いじゃないけど、時代の中心となる雰囲気では無いよな。他の受賞者にも頑張ってもらわないと、日本SF新人賞並みの不作とか言われそう。いや、さすがにそこまでではないか。

さて、個人的な話をさせてもらうと、BEST SF 2016の国内篇で読んだのは、なんと円城塔の『プロローグ』のみ。いろいろ生活が激変した年だったこともあるが、読書傾向が主流と外れてしまった感じ。

1位の上田早夕里『夢みる葦笛』は短編集。基本的に長編志向だったのもあり、ノーマーク。2位の宮内悠介『スペース金融道』は《NOVAシリーズ》で読んだし、そんなに好みでも無かったので見送り。3位の奥泉光『ビビビ・ビ・バップ』も、SFプロパー外でもあり、ノーマーク。

S-Fマガジンが隔月刊になった影響なのか、個人的な情報収集能力が落ちているのか、『夢みる葦笛』が凄いとか、『ビビビ・ビ・バップ』は必読とか、全然聞いた覚えがないのだよな。未読の中で読まなきゃと思っていたのは宮内悠介『彼女がエスパーだったころ』くらい。

SFの出版点数は増えていると聞いているけれども、セカイが広がり、探索能力が落ちているのであれば仕方がないのか。そしてもちろん、こういう発見のために『SFが読みたい!』を毎年買っているわけですよ。

ちなみに、海外篇は積読を含めれば8勝2敗の好成績。残り二つも評判を聞いたうえでの見送りなもので。

ただ、こっちはこっちで、1位はエリスンだし、4位にティプトリーだし、昔の名前で出ていますって感じが多すぎ。挙句の果てに、「クラシックSF」なんてサブジャンルもできてしまった。ここが一番面白そうに見えるというのはおかしい。わしもおっさんに、いや、おじいさんになってしまったものだ。