神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] 影の王国

2013-01-26 23:54:21 | SF

『影の王国』 ロイス・マクマスター・ビジョルド (創元推理文庫)

 

ビジョルドで創元で推理文庫レーベルなので、てっきり《死者の短剣》の続きだと思って買ったら、こっちは《五神教》シリーズの続編だった。とはいっても、前作とは時代も国も違う話。時代も、前作より前なんだか後なんだか。

どんな話だったかすっかり忘れていたけれど、5本指になぞらえられる五柱の神様はなんとなく覚えてた。特にお葬式のシーンは「そうそう!」という感じ。

しかし、この物語では五神教は渡来の新教。もともとあったアニミズム的精霊を、征服者が連れてきた五神教が駆逐してしまい、人々が征服者を押し戻した後でも五神教がこの地に根付いてしまったという設定。しかし、そこで強大な力を手に入れようとした王子が過去の精霊をこの世の中で呼び戻してしまう。

宗教戦争は現実世界でも数々あるが、それ以上にこうやって宗教が混合していくことも多い。日本でも神仏習合だし、キリスト教も耶蘇教となってカトリックとは似て非なるものになっていった。現代でも、南米やアフリカのキリスト教は現地の古代宗教と融合して訳の分からないことになっているらしい。そういう融合の過程の話としても面白いが、その過程で神々が精霊を敵視しないところが興味深い。これは五神教が絶対神を持たないことにつながるのだろうが、おそらくキリスト教徒であるビジョルドがどうしてこういう宗教をモチーフにしたのかというところが、実に興味深い。

神々に支配された人々の中で、精霊たちが果たすべき使命を神々が手助けする。ちょっと見方を変えると、既存の宗教への批判とも取れるわけだ。

それはさておき、宗教的な使命を果たすために命を懸けた男女二人の出会いと恋の物語でもあるし、荘厳な神話の結末でもあるわけで、何も考えずにビジョルド的ファンタジー世界に浸る心地よさを感じた。

そういえば、今回の主人公は珍しくおっさんじゃないとのことだったが、設定上の年齢はさておき、なんだか老成したおっさんぽかったと思うけどな。

 


[SF] 宙の地図

2013-01-26 23:11:51 | SF

『宙の地図』 フェリクス・J・パルマ (ハヤカワ文庫 NV)

 

全世界でSFファンの裏をかき、度肝を抜いた『時の地図』の続編が出た! しかも、正統な続篇。あの人もこの人も健在。そしてなんと、主人公はH.G.ウェルズ本人だ。

前作の『タイムマシン』ネタに続き、今回は『宇宙戦争』ネタ。しかし、この『宇宙戦争』は、我々が知っている『宇宙戦争』とはちょっと違う。それもまた伏線だったとは。

リチャード・アダムス・ロックなんていう知る人ぞ知る実在ネタも、ちょっとだけ違う『宇宙戦争』も、極地の穴から“地底旅行”も、南極に住んでいる白熊も、とにかくマニアな人ほど喜んで騙される。どこからどこまでが歴史的事実で、どこからが捻じ曲げられた歴史なのか、思わずwikipediaで確認しにいってしまうほど。

そして、この地底旅行がまたすごい。今度はベルヌなのかと思いきや、なんと極地の穴まで到達できずに遭難。そこに襲い掛かる化け物。なんだこの“物体X”! 気付いた時には大笑いですよ。

しかしながら、遂に始まってしまった宇宙戦争は悲惨な敗北への道を転がり始める。いったいどうした、このまま終わってしまうのかと思ったところでの、あっと驚く大逆転。そうだよね、『時の地図』の続編だし。

騙されたことで爽快になれる作品なんてそうないのだけれど、これはある意味そういう話。いろんな小ネタが伏線として線につながっていくところは本当に気持ちがいい。

そして、もうひとつ特筆すべきは、物語への想い。エマの祖母から3代伝わる“宇宙の地図”に象徴される、物語の力。著者が本当に伝えたいことはこれなのかもしれない。ひとを喜ばせ、勇気づけ、時にはつらい現実から目をそらさせ……。

いけ好かないマリーが、最後にエマの心をつかんだのも、この力があってこそ。

生きるために切実に物語を必要とする人々は少なくない。そして、物語の力を信じる人々も少なくない。だからこそ、こうやって物語は生まれ、読まれ、伝わっていく。

物語の力を信じる人々に幸いあれ。