神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] 空の都の神々は

2012-03-18 18:51:18 | SF
『空の都の神々は』 N・K・ジェミシン (ハヤカワ文庫 FT)





FTレーベルでの出版だが、本国ではヒューゴー賞、ネビュラ賞候補。立派なSFですね。

超古代文明の遺物が残る世界。その最たるものが“神々”だった。いや、“神々”こそが最初に存在したのか。

神々の都に生まれた王女を母に持つイェイナは、そびえる塔の上に栄える都に招かれ、否応なく王位継承争いに巻き込まれる。しかし、それは同時に、絶対的な力を持つ神々の争いに巻き込まれることでもあった。

母はなぜ都を出たのか。神々はなぜ人々の奴隷であるのか。世界はなぜこのようであるのか。

イェイナが生まれた部族は女系社会で、そこはかとなくジェンダーSF風の役割の逆転が見える。ただ、それはちょっとしたフレイバーのようなもので、あまり主題にはならない。

主題はあくまでも、絶対神となった光の神と、奴隷となった闇の神の確執、そして反逆劇。イェイナは彼らの駒となり、あるいは自らの意志で運命を覆す。

空の都の王侯貴族たちは割と類型的で人間離れしているところがあるのだが、逆に神々たちが非常に個性的で魅力的に描かれている。闇の神ナハドは淫靡なイケメンで、子供のシアはいつまでも子供を演じる。もっと登場する神々の種類を増やしても良かったような気もするけど。

彼ら神々の歴史というか、神話はなかなか面白い。最初に闇の神があり、光を欲っして光の神が生まれた。そして、黄昏と暁の女神が生まれ、子供たちが生まれた。しかし、光の神は絶対的な権力を望み、黄昏の女神を殺し、闇の神を奴隷にしてしまう。

このあたりの話は、多神教から一神教への変化を感じさせる。一神教は中央集権の象徴のようなもので、この作品でも王権の集約と崩壊に通じる。いわば、古代エジプトのアテン神一派とアメン神一派の戦いのようだ。

SFなのかファンタジーなのかはさておき、超越的な文明と中世以前の社会が入り混じるような世界は魅力的で、細部まで作り込まれており、まるで実在世界のようだ。この手の話は、和製ファンタジーに多いのだけれど、ちゃんと世界観が練り込まれていて作り物感が無い。これだけの世界を作り出せる力というのは、尊敬に値する。しかも、これが処女長編なわけだし、今後にも期待できそう。

そしてまた、ラストの一文がSFっぽくていい感じだ。この未来へ、宇宙へ広がる感覚はSFならではのものだろう。


[SF] エラスムスの迷宮

2012-03-18 17:57:27 | SF
『エラスムスの迷宮』 C・L・アンダースン (ハヤカワ文庫 SF)





フィリップ・K・ディック賞受賞。ディック賞といっても、ディックとはあんまり関係なく、ペーパーバック・オリジナルで出版されたSFの賞ですね。日本でいうと、文庫本SF賞みたいなもんですか(そんなものはありませんが)。

感想は一言でいうと、読みずづらくて長いです。

読みづらい原因のひとつは、ファーストネームとファミリーネームが入り乱れて、なおかつ(日本人には)近い発音の名前が多くて混乱することですかね。登場人物表を付けてくれたら、随分読みやすかっただろうにと思う。

後は、基本的に謎解き物であるにも関わらず、その謎がちゃんと提示されないということですかね。複数の視点があって、それぞれにとって謎に思っていることがあり、それらを調べていくことになるのだけれど、それぞれの関わり合いが今一つよく見えず、登場人物以上に読者が混乱してしまうような気がする。要するに、ストーリーが分からずに迷子状態になるのだ。これぞ、迷宮wってことですかね。

ネタのひとつひとつを見ると興味深くはあるのだけれど、どれもとってつけたような感じで、無くても良かったような水増し感がある。主人公の家族ネタなんかもそうで、最初と最後で重要なシーンとなっているのだけれど、これが他のネタとはまったく絡まずに独立しているように見える。逆に言うと、夫や子供との絆を描いたおかげで、死んだ同僚との絆が甘くなってしまっている。ということは、そもそも主人公がこの謎に飛び込んだ動機が薄くなっているということだ。

そして最後の大ネタは、ちょっと途方もなさ過ぎて「へぇー」っていう感じ。今まで読んできた謎解きの解決篇というよりは、全く別の小説の設定を読まされているような気がした。あまりに万能な話で、実はそうだったのかという納得感が得られなかった。

アメリカではこのところしばらく水増ししたような長い物語が好まれているようだけれど、ちょっと勘弁してほしいなというのが正直なところ。


ところで、C・L・ムーアってサラ・ゼッテルの別ペンネームらしい。C・L・ムーアにあやかったんだろうか。読み終わってから知って、「ああ、サラ・ゼッテルねw」とある意味納得してしまったよ。以前に読んだ奴も読みづらくて長かったよ。


[SF] ワン・ドリーム ~みんなでひとつの悪い夢~

2012-03-18 17:07:48 | SF
『ワン・ドリーム ~みんなでひとつの悪い夢~』 中井拓志 (角川ホラー文庫)





これはコメディなんだろうか。それとも、他人の悲劇は喜劇に見えるというやつだろうか。

他人に悪夢を見せられるという能力を、科学的に増幅して非殺傷兵器にしようというプロジェクト。戦争をしちゃいけない自衛隊にとては、確かに喉から手が出るほど欲しい兵器かもしれない。しかし、それを一般市民にまで意図的に被曝させ、データを取ろうなんていうのはいい迷惑。

自衛隊内の派閥争いや足の引っ張り合いがイラつく。陸自と空自ってこんなに仲が悪いのか。そして、海自はどこに行った。なぜかこの自衛官たちが、まるでサムライみたいな怪しい言葉づかいをしているので、実は偽物で正体は某国の……なんて変な深読みをしてしまったくらい。自衛隊内ってこんな言葉使うのか?

SFネタとしては、夢の伝播ということなんだろうけど、今回は科学ネタとしてもちょっと強引か。カルト宗教なんかの集団幻覚は一種の催眠術みたいなものなのではないかと思うのだが、そのあたりの科学考察が弱かったような。

しかも、最後に待っている真相は、確かに度肝を抜かれるが、もう笑ってしまうしかない。完全なる喜劇。

ラスト直前までは、何が起こっているのだかさっぱりわからない感じで進むのだが、怒涛の解決篇が馬鹿すぎ。最初から意図してこんな構成にしたのか、ちゃんとホラーを書こうとしていたのかは判断が付かないのだけれど、もうなんというか、「馬鹿すぎw」としか言いようがない。

こういう馬鹿話は好きなのだけれど、前半の読みずらさがマイナス。もうちょっと話の筋を整理しても良かったんじゃなかろうか。

ただし、この小説で語られる、「物語の救い」の強さと、その強さゆえに惑わされる人々という構図はなかなか興味深いし、日ごろ自分が考えていることにも通じる。

現実が不幸だったり、退屈だったりするある種の人々にとっては、物語は麻薬なのですよ。要するに物語中毒。それがなおかつ伝染性を持ったら、というアウトブレイク小説だったりするんですね、これ。



[SF] グイン・サーガ・ワールド 4

2012-03-18 17:01:15 | SF
『グイン・サーガ・ワールド 4』 天狼プロダクション監修 (ハヤカワ文庫 JA)





〈グイン・サーガ〉続編プロジェクトの第4回。とりあえず、第1期はこれで終了。

栗本薫の著作がこれ以上読めないのは残念だ。「スペードの女王」は冒頭だけしかないが、伊集院大介が大槻教授や韮澤編集長やマツコ・デラックスと戦う(微嘘)続きはぜひ読んでみたかった。

今岡氏が明かす奥さんの秘話には毎度驚かされるのだが、今回の『ぼくらの時代』に対する記述にもたいへん驚いた。大介よりも薫くん派だった自分にとっては、ある意味衝撃的。でも、本当にそうだったら、『ぼくらの時代』はそのまま使い捨てにされ、『魔境遊撃隊』という《グイン・サーガ》や《魔界水滸伝》にとっても重要な作品には繋がらなかったような気がするんだけど、どうだろう。

このプロジェクトについては賛否両論あるらしいけど、自分としては完全に賛成。グイン・サーガの世界はこのまま閉じられてしまうには惜しいほどに魅力的だ。シェアワールドもので熱狂的に好きな作品というのは確かに無いのだけれど、グイン・サーガだけはシェアワールド化したら是非とも読み続けたい。

もちろん、それにはシェアワールドに参加する作家人の力量というものが問題になるのだろいうけど、今回の3人はまったく問題ない。久美沙織も牧野修も実力派だし、宵野ゆめは初見だったのでちょっと心配したが、蓋を開けてみれば栗本塾の弟子ということで、もっとも栗本薫に近い世界を描き出していた。

こんな感じで季刊ペースで続けてもらえたらうれしい。作家陣は入れ替わってもいいし、続投でもいい。特に宵野ゆめは連投で!



「星降る草原」 久美沙織
ハクシルが結局なんだったのかよくわからないし、リー・オウって本篇ではどういう扱いだったんだっけ? なんとなく、ちょっと割り切れない感じが残る。しかし、スカール出陣のシーンの緊迫感はさすがの盛り上がりで、若きスカールの格好よさと、幼いリー・ファの健気さにノックアウトされる。

「リアード武侠傳奇・伝」 牧野修
グイン・サーガ後の世界の描き方として、こういうのもありなんだと納得の作品。物語としては一番完成度が高いかもしれない。最後には牧野的グログログチョグチョの片鱗もちょっとだけ見せてくれた。そして、セムのリアードの最期に泣いた。

「宿命の宝冠」 宵野ゆめ
ついに出たよ、アンダヌス・ザ・ブッチャー(笑) このネタを持ってくるあたりが、さすがはグイン・ファンだなと思わせる。中原からキタイにいたる世界情勢なんかも、グイン本編に混じっていてもまったく違和感がない。栗本薫本人よりも、ファンクラブの中の人の方がグイン世界に詳しいとか、そのあたりのことを思い出したり。実は男の娘ってあたりも、栗本薫が好きそうなネタでありながら、新時代を感じさせる(爆) 枚数制限の影響か、ラストはティエラもアウロラもちょっと唐突なシーンに見えなくもないが、そこを補って余りあるほどのグイン・サーガっぷりだったと思う。次回があれば、ぜひもう一度我々を〈中原〉へ連れて行ってもらいたい。



[コンサ] 2012 J1 第2節 神戸 vs 札幌

2012-03-18 16:56:41 | コンサ
2012年 J1 第2節 ヴィッセル神戸 2-1 コンサドーレ札幌 @スカパー


前日の飲み過ぎで朝帰り。危うく乗り過ごすところを起こされて無事帰宅。そんな状況だったので、完全なる二日酔いで迎えた第2戦。スカパー観戦じゃなかったら、スポーツバーに出かけて見るなんてとてもできない感じでしたよ。

しかし、そのムカムカ感を吹き飛ばすような立ち上がり。早いプレスから前線でボールを奪い、跳ね返されたこぼれ球もことごとく拾い、連続CKで完全に神戸を圧倒する。なんだこれ、コンサじゃない(笑)

神戸は前節、アウェイでガンバを倒してのホーム開幕戦で気合が入っていただろうに、いったいどうしたわけだ。もしかして、札幌ってJ1上位に行けるんじゃないのかと思わせるくらいの攻撃だった。

なんだなんだと思っている間に、怒涛の分厚い攻撃から山本真希がこぼれ球をきれいに蹴り込み、遂に先制。落ち着いて浮かせずに蹴り込むあたり、さすがJ1仕様の選手だ。

すべての選手が前を向いてプレーをすることができたので、積極的なプレスになってボールを拾うことができた。それはやはり、前田がボールをキープできたからなのだろう。ポストプレーというと、アジアの大砲、高木のイメージが強いが、そういうハイボールの競い合いではなく、グラウンダーのボールをキープして時間を作るという形のポストプレー。この攻撃の形を選手全員が理解し、体現できるようになりつつあるということだろう。

しかも、前田一辺倒ではなく、近藤や内村もそういうボールを落ち着かせるプレーを見せていたので、ターゲットも分散して守りづらくなっていたかもしれない。この形を完成させれば、J1でも前半30分のように相手を圧倒できるようになる。

しかし、一瞬の隙を突かれ、イレギュラーなバウンドにホスンが対応できずに失点。そこから徐々に神戸にペースを握られ、後半に戸倉が入ってからは押し込まれることも多くなり、遂に逆転される。

最後はキリノ、上原、大島と、FWをどんどんつぎ込んでパワープレーに行ったものの、追いつくことはできずに終了。かなり惜しい感じの逆転負けだった。


こんなことを言うと馬鹿にしてるとか言われるかもしれないが、正直言って札幌がここまでできるとは思っていなかった。神戸戦の前の浦和-柏を見ていても、ちょっとレベル高すぎで、この中で試合をするのは厳しいと思った。実際、去年のJ2だってギリギリでの昇格だったし、今年のJ1でダントツの降格候補であることは否定できない。

しかし、この内容ならばやれるよ。確かに、今回は負けたけど、まだ勝ち星は無いけど、歯が立たずにボコボコにされるようなことは無いと断言できる。磐田戦も悪くなかったけど、神戸戦では前田が一気にチームにフィットしてきた。もちろん、まだまだ納得のできではないけれど、攻撃の形はできあがってきた。

決められるときに決める。ゴール前で危険なミスをしない。難しいけれど、あとの課題はこれだけだ。


次は浦和? いつかみたいにぎったんぎったんにしてやんよ。「お前はもう死んでいる」ダンマク忘れるなよ!


あ、その前にナビスコで新潟か。久しぶりだな、Jリーグカップ。J1なんだという実感がして、ちょっと幸せ。

宮澤とか櫛引とか、今年出ていない選手も見てみたいね。あと、藤田征也も(笑)