『空の都の神々は』 N・K・ジェミシン (ハヤカワ文庫 FT)
FTレーベルでの出版だが、本国ではヒューゴー賞、ネビュラ賞候補。立派なSFですね。
超古代文明の遺物が残る世界。その最たるものが“神々”だった。いや、“神々”こそが最初に存在したのか。
神々の都に生まれた王女を母に持つイェイナは、そびえる塔の上に栄える都に招かれ、否応なく王位継承争いに巻き込まれる。しかし、それは同時に、絶対的な力を持つ神々の争いに巻き込まれることでもあった。
母はなぜ都を出たのか。神々はなぜ人々の奴隷であるのか。世界はなぜこのようであるのか。
イェイナが生まれた部族は女系社会で、そこはかとなくジェンダーSF風の役割の逆転が見える。ただ、それはちょっとしたフレイバーのようなもので、あまり主題にはならない。
主題はあくまでも、絶対神となった光の神と、奴隷となった闇の神の確執、そして反逆劇。イェイナは彼らの駒となり、あるいは自らの意志で運命を覆す。
空の都の王侯貴族たちは割と類型的で人間離れしているところがあるのだが、逆に神々たちが非常に個性的で魅力的に描かれている。闇の神ナハドは淫靡なイケメンで、子供のシアはいつまでも子供を演じる。もっと登場する神々の種類を増やしても良かったような気もするけど。
彼ら神々の歴史というか、神話はなかなか面白い。最初に闇の神があり、光を欲っして光の神が生まれた。そして、黄昏と暁の女神が生まれ、子供たちが生まれた。しかし、光の神は絶対的な権力を望み、黄昏の女神を殺し、闇の神を奴隷にしてしまう。
このあたりの話は、多神教から一神教への変化を感じさせる。一神教は中央集権の象徴のようなもので、この作品でも王権の集約と崩壊に通じる。いわば、古代エジプトのアテン神一派とアメン神一派の戦いのようだ。
SFなのかファンタジーなのかはさておき、超越的な文明と中世以前の社会が入り混じるような世界は魅力的で、細部まで作り込まれており、まるで実在世界のようだ。この手の話は、和製ファンタジーに多いのだけれど、ちゃんと世界観が練り込まれていて作り物感が無い。これだけの世界を作り出せる力というのは、尊敬に値する。しかも、これが処女長編なわけだし、今後にも期待できそう。
そしてまた、ラストの一文がSFっぽくていい感じだ。この未来へ、宇宙へ広がる感覚はSFならではのものだろう。
FTレーベルでの出版だが、本国ではヒューゴー賞、ネビュラ賞候補。立派なSFですね。
超古代文明の遺物が残る世界。その最たるものが“神々”だった。いや、“神々”こそが最初に存在したのか。
神々の都に生まれた王女を母に持つイェイナは、そびえる塔の上に栄える都に招かれ、否応なく王位継承争いに巻き込まれる。しかし、それは同時に、絶対的な力を持つ神々の争いに巻き込まれることでもあった。
母はなぜ都を出たのか。神々はなぜ人々の奴隷であるのか。世界はなぜこのようであるのか。
イェイナが生まれた部族は女系社会で、そこはかとなくジェンダーSF風の役割の逆転が見える。ただ、それはちょっとしたフレイバーのようなもので、あまり主題にはならない。
主題はあくまでも、絶対神となった光の神と、奴隷となった闇の神の確執、そして反逆劇。イェイナは彼らの駒となり、あるいは自らの意志で運命を覆す。
空の都の王侯貴族たちは割と類型的で人間離れしているところがあるのだが、逆に神々たちが非常に個性的で魅力的に描かれている。闇の神ナハドは淫靡なイケメンで、子供のシアはいつまでも子供を演じる。もっと登場する神々の種類を増やしても良かったような気もするけど。
彼ら神々の歴史というか、神話はなかなか面白い。最初に闇の神があり、光を欲っして光の神が生まれた。そして、黄昏と暁の女神が生まれ、子供たちが生まれた。しかし、光の神は絶対的な権力を望み、黄昏の女神を殺し、闇の神を奴隷にしてしまう。
このあたりの話は、多神教から一神教への変化を感じさせる。一神教は中央集権の象徴のようなもので、この作品でも王権の集約と崩壊に通じる。いわば、古代エジプトのアテン神一派とアメン神一派の戦いのようだ。
SFなのかファンタジーなのかはさておき、超越的な文明と中世以前の社会が入り混じるような世界は魅力的で、細部まで作り込まれており、まるで実在世界のようだ。この手の話は、和製ファンタジーに多いのだけれど、ちゃんと世界観が練り込まれていて作り物感が無い。これだけの世界を作り出せる力というのは、尊敬に値する。しかも、これが処女長編なわけだし、今後にも期待できそう。
そしてまた、ラストの一文がSFっぽくていい感じだ。この未来へ、宇宙へ広がる感覚はSFならではのものだろう。