学生たちが編集・発行する「上智新聞」最新号の特集は「ラジオ」。
その記事の中で、ラジオの魅力について解説しています。
心に寄り添うラジオ
大震災を機に見つめ直す
大震災を機に見つめ直す
東日本大震災を機に、ラジオが見直されてきている。今回はラジオというメディアの魅力について、文学部新聞学科教授でメディア論が専門の碓井広義教授に話を聞いた。
碓井教授が考えるラジオの特徴は大きく分けて二つある。一つ目は「マス・メディアであると同時にパーソナルメディアである」点だ。ラジオは本来マス・メディアの一種だが、単なる大衆に向けた情報伝達の手段ではない。音のみで情報を伝えることから「話している相手と聞いている『私』との間に一対一のメディア空間を形成する」と碓井教授は語る。話し手が自分に語り掛けているという印象を、ラジオは聞き手に与えることができる。そのため、聞き手が親近感を抱きやすいという意味でパーソルなメディアだ。
二つ目は「マス・メディアでありながら地域メディアである」ということ。震災時、テレビでは犠牲者数など全国向けの情報が多く流れた一方、ラジオでは給水車や食糧配布の場所など、被災者が「今欲しい情報」を堅実に伝えた。また被害状況にとどまらず、地域住民の無事を伝えたことは、ラジオが地域の人々の心に寄り添ったメディアだということを物語る。
震災時のラジオの活躍は、内容の面だけではない。地震や津波による停電でテレビをはじめとする他のメディアが使えなくなったときも、電池で動くラジオは唯一稼働するメディアとして、存在自体が被災者を元気づけた。「ラジオの向こうに生きている人がいると感じられることが、被災者に安心感を与えた」と碓井教授は話す。
近年では震災時の活躍が目立つラジオだが、その他にもラジオの魅力は多くある。ラジオは映像が伴わないことが弱みだと捉えられがちだが、「ラジオの弱みは裏を返せば強みにもなる」と碓井教授。画面に映らないという理由から、出演者はテレビに比べてリラックスして話すことができる。そのため、ニッポン放送の『オールナイトニッポン』に見られるように、出演者の人柄や素の部分を引き出せる点がラジオの面白さ。聞き手は逆に想像力を使って楽しめるというところもラジオの魅力だ。
最近はスマートフォンの普及や、ラジオ放送をインターネットで同時配信するサービスの登場により、ラジオに親しみ始める人が増えている。最後に碓井教授は「震災後の防災意識の高まりや、スマートフォンの普及を背景に、ラジオという古くて新しいメディアにもっと多くの人が接するようになるのでは」と語った。
(上智新聞 2013.05.01号)
