明日元気になれ。―part2

毎日いろいろあるけれど、とりあえずご飯と酒がおいしけりゃ、
明日もなんとかなるんじゃないか?

長い取材の後で

2008-11-20 18:39:09 | 仕事
なんだか違うなぁ……という思いを否めない。

今日は新事業の立ち上げに使うサンプル制作のための取材。
朝10時からで、終了が2時半。
長い長い取材だった(途中、お昼ご飯も挟む)。

82歳。
本をいくつも書かれている、偉い先生だ。
でも、想像していたのとは全く違い、なんともにこやかで素敵な方だった。
80を過ぎているとは思えないほど、耳もよく、言葉もはっきりしている。
足もしゃんとしていて、健康そのもの。

よくいるような勝手にしゃべる年寄りとは違い、
こちらが質問したことに的確に答えてもくれる。

ありがたいお話をいっぱい聞き、
ありがたいご本をいただいた。

だけど、取材が終わってみれば、全く先生の人生が見えてこない。
というのは、別に私が取材を上手にできなかったからではなく、
先生には書いてほしいことがあったのだ。
それは、ご自分の師の教え。
取材のほとんどがその「師」の教えで終わった。

せっかく突っ込んで聞いたプライベートなことは「書かないで」とおっしゃる。
先生が一瞬見せた、人間らしい「陰」の表情。
そこをもう少し詳しくお聞きして書きたいと思ったし、
ライター魂が揺さぶられた。

でも、これは商品。
先生のために作るものであって、先生の想いを反映させなくてはならない。

取材の後、電車に揺られながら考える。
なんだか違うなぁ……と。

もちろん、良いお話はたくさん聞けたし、人生の「流れ」のようなものや
だいたいの節目の事件は把握できた。
だけど、せっかく作る「自分史」が、ほとんど「師の言葉」になってしまう。
それほど先生の人生に影響が深かったということで、
この「師」がなければ先生の人生はなかったのだから、
これはこれで一つの形としていいのだろうけれど。

だから、今回作るものがいいとか悪いとか、そういうことではないのだ。
これはこれでいいものができると確信する。

ただ、当初、私が思い描いていたものとは「違った」だけ。

ごく普通の人の人生にスポットを当てて、
実は「普通」なんてないんだと、
一人ひとりが小説の主人公になれるんだ、と思えるような、
そういうキラキラしたものを書きたいと思っていたし、
それができる自信もあった。

私はよく中小企業の社長さんを取材するのだけど、
そういう方たちにも必ずドラマがある。想いがある。キラキラした瞬間がある。
それを書けたらいいのにと、いつも思ってきた。
だから、この第一回目の仕事がこんな感じに終わって、
少しあてが外れたような気分。

いつかやっぱり会社を通さず、個人対個人で「自分史」の代筆を仕事にしたい。
世の中にはきっとたくさんいると思うのだ。
自分の人生を形にしたい人。
でも、文章が上手に書けなくて実現しない人。
そんな人の取材を1ヶ月くらいかけてじっくりやって、
私がカタチにできたらどんなにいいかと思う。

今回の仕事はかなりこれに近いのだけど、
やっぱり限られた時間だし、会社を通すので自分のやりたいようにはできない。
ま、そんなもんかな。
こういう仕事がまわってきただけでも感謝しないといけないな。

この間、再読フェアを実施していたとき、
沢木耕太郎の「壇」を読んだのだけど、
1回目に読んだ時と同じような感動があった。
この本は本当にスゴイ。

壇一雄の「家宅の人」を読んでいないと、意味がわからないかもしれないけど。
最後の最後に、また打ちのめされるくらい、
沢木さんの構成力にまいってしまった。

文章を書くことを生業にしている私としては、
バイブルと言ってもいいほどの優れたノンフィクションだといつも思う。

伊坂幸太郎の新作「モダンタイムス」もこの間読んだのだけど、
これはダメだ。
作品として、というより、私の趣味として。

楳図かずおの恐ろしい漫画は平気で読めるのに、
ほんのちょっと文章に「拷問」のシーンが出るだけでもうダメ。
映像や絵はそれほど怖くないのだが、文章は本当に怖い。
どこまでも自分を襲ってくる。
この本を読んだ後、数日間はちょっとしんどかった。

前回の「ゴールデン・スランバー」がめちゃくちゃ良かっただけに、残念だ。

ちなみに再読フェアのほうは、現在、宮本輝の「優駿」。
これもいい本だね。

今日はなんだか疲れてしまったし、幸い急ぎの仕事もないので、
夜は仕事を一切止めようと思う。
カキを買ってきたので何か作って食べよう。


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