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ジャン・アレチボルトの冒険

ジャンルを問わず、思いついたことを、書いてみます。

池袋のサラ ~ キャバクラ外伝第一話

2008-01-20 15:20:24 | 小説
今回は、小説です。

キャバクラを舞台にした、ちょっとした物語です。全六話の予定で、ジャンルは不明ですが、おそらく、恋愛ものではないと思います(笑)。

では、はじまりー、はじまりー。


第一話

今から十年以上前、まだ肌寒い四月初旬。その日は木曜日で、仕事が、早く終わる日だった。すぐ帰るのもつまらない。乗換駅の池袋で降りて、街をぶらぶら散歩してみた。

ショットバーに入ろうか、迷ったが、カップルに囲まれて、カウンターで一人も、落ち着かない気がした。

交差点を渡ったとき、すぐ先に、キャバクラがあるのを思い出した。地下一階にある、こじんまりした店で、二回ほど行ったことがある。割と安かったはずだ。

入り口に立っていた黒服に案内されて、店に入った。テーブルとソファーが雑然と配置されていて、薄暗く、無愛想な造りだった。

席に着くと、一人の女の子がやって来た。色白で、ほっそりしている。大きな黒い瞳とセミロングの黒髪が印象的だった。あっさりした化粧で、キャバクラ嬢のイメージとは、かけ離れていた。

「いらっしゃいませ。サラといいます」

隣に座るなり、サラは、機械仕掛けの人形みたいに、しゃべり始めた。

「高校を卒業したばかりで、今日初めて、お客さんにつきます。本当は、二月から、店で働いていました。でも、高校生は、接客が出来ないので、外でビラを配ってました。外と違って、中は、暖かいから好きです。でも、やり方が、なにも分からなくて、大変です」

実際、サラは、なにも知らなかった。

その店では、客がトイレから帰ってくると、女の子が、おしぼりを渡してくれる。しかし、戻ってみると、サラは、おしぼりで、自分の手を懸命に拭いていた。それは、客に渡すんだよ、と言うと、目を丸くして、私の顔をまじまじと見つめた。

「ごめんなさい。すいません。ごめんなさい。黒服のひとから、おしぼり渡されたんですが、意味が分からなくて。とりあえず、自分の手を拭いてました」

思わず笑うと、サラも、つられて笑った。

作る水割りも、びっくりするほど、濃い。サラちゃん、これじゃ飲めないよ、と言うと、すいません、すいません、ってひたすら謝ってる。万事この調子で、客として入ったはずなのに、サラに、キャバクラのレクチャーをするはめになっていた。

しかし、なんだか、ひどく楽しかった。サラと一緒にいると、周りにある、テーブルも、グラスも、ブランデーの瓶も、コースターも、ハンカチも、鮮やかに浮き出て見えた。暗い店内で、サラの場所だけ、光が当たっているようだった。

サラを見ていて、ふと思った。綺麗な黒髪なので、ストレートにしたら、もっと似合うんじゃないか。ほろ酔い気分にまかせて、そのことを言ったら、サラは、はい、はい、そうですね、と何度も、うなずいた。

結局、その日は、十一時くらいまで飲んだ。帰り際、木曜は、必ず、店に出ています、とサラが言った。じゃあ、また来週来るよ、言葉が、つい口から出た。

約束通り、次の木曜日、店に行って、サラを指名した。キャバクラで指名したのは、初めてだった。席に着くと、すぐにサラがやって来た。

髪が、ストレートになっていた。

「似合いますか?」

入社面接で、試験官を見るような目で、私を見ながら、サラが尋ねた。

ストレートの黒髪が、色白の肌に映えて、とても綺麗だった。少し、胸が熱くなった。

第二話へつづく

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