Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

おー君の思い出その4

2016-09-08 12:24:32 | 日記

 気持ちが少し落ち着くと赤い花が見えてきました。花の輪郭がくっきりしてくると同時に、私は今日にしようと 決意するのでした。

 気が付くと、丁度眺めていたプランターの傍には新しい側溝が作られ、真新しく綺麗なコンクリートの塊が溝に並べられ、きちんと土を被らないままに埋められる途中の状態となっていました。

古い側溝の木の塊、蓋などが片付けられないまま横に積んであります。

真四角のコンクリートキューブが開け放されて大きく口を開いています。穴の開いた蓋が傍に載せられています。

 あの古い材木片は私のよう、この真新しく綺麗なコンクリートの塊はきっと新しい誰かなのだ。

私はおー君に、新しい素敵なガールフレンドができたのだと考えたのです。

つい最近聞いたおー君の近所の奥さん達の井戸端会議の話、誰それの古女房が捨てられて、新しい妾が家に入ったの言葉を思い出していました。

古く朽ちた材木と、真っ新なコンクリートの造形物、交互に見比べながら、やはり新しい人工物は美しいと私は溜息をつくのでした。

 真新しいコンクリートの無機質な灰色。直線で綺麗に仕切られた立体。そういったきちんとした物体を見つめていると、激高していた気持ちが落ち着いて、自分について考えるゆとりができました。

『こんなにつらいなら、…』

こんなに人を好きになることがつらいものなら、もう人を好きにならないでおこう。そう私は考えました。

好きになる気持ちが無防備に自由な状態にあるから人の攻撃で傷ついてしまうのだ。この四角いコンクリートの箱の中にしまい込んで、この蓋をきちんと閉めて閉じ込めてしまおう。そうすれば私の心は2度と傷つくことはないのだ。

 私はそう考えると、自分の人を好きになる心をその四角い側溝の箱の中に入れ、きちんと蓋をして閉じる場面を想像しました。

現実の側溝の蓋には開け閉めできるように穴が開いています。

開け閉めの穴、穴が開いていると誰かが入ってきてしまう。蓋に取っ手があると開けられて心が取り出され、また傷ついてしまう。

どうしよう、私は迷いました。はっきりと人を拒絶するにはかなりの決断力が要りました。

 終に私は、穴など無い、取っても無い、全く開ける所がない厚みのある平面の四角い蓋を何とか想像しました。

そして、今にもその蓋を四角い立体にドンとかぶせて、と、ホッとしようとした時、

「その蓋には開けられるように取っ手があるよ。」

思いがけずしゃがみこんでいた私の頭上から声が降ってきました。

「その蓋には、時期が来たらちゃんと開けられるように取っ手が付いているんだよ、ね、そうしておきなよ。」

それは紛れもないおー君の声でした。

彼が傍に来ているなんて、私には全く思いも掛けないことでした。


おー君の思い出その3

2016-09-08 11:51:34 | 日記

 「こんにちは、おー君遊びましょ。」

いつものようにおー君の家の玄関で声をかけます。誰か居れば、こんにちは、さあどうぞという声が中からするのですが、今日はしーんとしたっきり何の返事もありません。

留守かな、遊ぼうと約束してあったのにと、中の様子に耳を澄ますと誰かいる気配がします。

何度か呼び掛けて業を煮やした私は、戸を開けますね、いいですか、と言ってそっと戸を開けると鍵は掛かっていませんでした。

そっと覗いてみると、おー君の背中が見えます。こちらに背を向けて黙って座っているのです。 

 なんだ、おー君居たのかと、約束通り遊びに来たことを告げます。おー君は知らんぷりでした。全く無視して背を向けたまま何の返事も返さないのです。 

 私はその後も何度かあれやこれやと呼びかけるのですが、おー君は頑として返事を返さず無言のままでいました。

とうとう私は言いました。

「Junちゃんの事、嫌いになったの?」

そう言っても彼には何の変化も無く、その後の私の呼びかけ、もう遊びに来ないから、それでいいのね、などなど、遂に絶交の言葉を何度か繰り返して彼にぶつけても、彼はピクリとも反応せずに黙ったままでした。

 この時の私の気持ちは筆舌に尽くしがたいものがあります。とても悲しくて酷く悔しい気分になりました。

突然、予想だにしていなかった急な訳の分から無い彼の心変わりという、とても冷たい態度に晒されたのです。

私は決意しました

 「さようなら、もう来ないね。

そう言い捨てると、私は後ろも見ないで一目散におー君の家を飛び出しました。走りながら涙が出てきましたが、負けず嫌いな私は必至でその涙を抑え通りを走り、やがて早歩きになり、角を曲がって人気のない道に入ると、確りと涙が引くまでゆっくりと歩き続けました。大通りに出る頃には涙も引いたかに思えました。

 そうして歩き続け、いつものお店のプランターの前に来ました。

赤い花が目に滲みました。思わずプランターの前に座り零れ落ちそうな涙をこらえて赤い花をぼんやり見詰めました。

ぼんやりしていなくても、赤い色は涙に滲んではっきりとは見えないのでした。

 一体どうして、どうしておー君は急に変わってしまったのだろう?さっき園から帰る時には何時ものように笑顔で遊びにおいでと言っていたのに。それなのに、今さっきのあの態度はどういうことだろう。今までのおー君とは全然違う全く別人のようだった。

私は涙ながらに考えるのでした。

 また、私は今まであんな酷い態度、誰かに全く無視されるような冷たい態度を1度もとられたことがありませんでした。

それだけに、今まで一番仲の良かったおー君の態度が一変したのですから、そのショックは計り知れませんでした。

 少し落ち着くと私はこう考えました。

今までの親しげなおー君が変だったのだ、今日の今見てきた冷たいおー君が本来のおー君なのだ、私は今まで騙されていたのだと、そう結論しました。

世の中には人を騙す人がいると聞く、将におー君がそういう人だったのだ、私は今までそうと気づかずに騙されていた大馬鹿者だったのだ。

そう思うと、益々赤い花は滲んで形も色も見えなくなってしまうのでした。

涙はどっと溢れ、私はしくしくと泣き出してしまいました。