Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 90

2019-10-30 10:51:30 | 日記

 「親の言う事は、はいはいと何でも聞いて置くものだよ。」

祖母はこう私に諭したのだが、私にはどうも納得がいかなかった。していない事をしたと言わねばならないのか?どうも釈然としない話だ。それで、私はやはり祖母にその確認をする事にした。

「していない事でもしたと言わなければならないの?。」

すると祖母は、していないこと迄…、と言い掛けて言葉をとぎらせた。そしてやや考えている風でいたが、

「していない事って、どんな事だい?。」

と問い掛けて来たので、私は新たに開いた障子の穴の方向を差して、あの穴だと説明した。父は犯人を知っているのに、私に開けた事にしろと言ったのだと説明した。それでもはいはいと、私は父の言う事を聞かなければいけないのかと、私は祖母に訴えた。

 「その事であの時お前達は揉めていたんだね。」

そう祖母は言うので、私はそうだと言って頷いた。その時、私は彼女が、私と父との言い争いの一件を全てきちんと把握していた訳ではないという事に気付いた。

「お祖母ちゃんはあの時寝ていてね、途中から起きてお前達の揉めている話を聞いてね…。」

そうすまなそうな顔付でしょんぼりすると祖母は私に言った。

「親の言う事を聞かない子だと、あの子の話ばかり聞いていたものだから…。」

彼女はそう小さく言うと、「私が見た時のお前の態度がああだったものだから、てっきりお前の我が儘だとばかり思って…。」と、「すまない事をしたね。」と謝ってくれたのだった。そして、

「いくら親の言う事だって、していない悪い事までしたという必要は無いよ。」

と言うと、あの子にも言って置くからと、私の父にも忠告して置いてくれる事を約束した。

「きっとお前のお父さんにも注意しておくからね。約束だよ。」

祖母は優しく言ってくれたのだった。私は祖母が最後に付け足した言葉、約束の言葉にハッとする物を感じた。祖母の真心を感じたのだ。そこまで私に気を使ってくれるのだと、それ迄の自分の親に照らし合わせて大層嬉しく感じた。感激したと言ってもよかった。


今日の思い出を振り返ってみる

2019-10-30 10:48:05 | 日記
 
土筆(240)

  蛍さんの方は、その様に慌てふためいている祖母の顔色には一切無頓着でした。相変わらずにこにこと、祖母の顔を見上げながら得意そうにこの話題を続けます。「私も最初はお祖母ちゃんの......
 

 良いお天気です。薄曇りにお日様。


うの華 89

2019-10-29 11:20:50 | 日記

 何処の家庭でも相関図と言うのは有るのだろう。元々私の祖父と父は相性が悪かったらしい。そこに祖母と私の母、私が加わると、矢印への書き込みは多岐に渡り始める。長年の犬猿の仲が固まった感の祖父と私の父。祖父母と私の両親は共に夫婦仲は良かった。祖母と私の母が諦めの関係だろうか、共に仕様が無いだったのだろう。家の2世代親子関係はそんな感じの図といえる。

 この時期、父と私の親子関係は険悪になりつつあった。共に互いが気に食わない状態なのは確かだった。今後その一線を越えてしまうと、相手が大嫌いな奴になり互いに相容れない仲となったのだろう。親子間で常に嫌悪感を抱く存在になったのかもしれない。一つ家に共にいればの場合だが。

 この時の私達父子は互いに嫌悪感が爆発寸前まで行っていたと思う。それが表面化する1歩手前で祖父の声掛けがあったのだ。私は父の返答に言い返そうと待ち構えていたし、若し彼が筋の通らない事を言えば、即座にそれを指摘して彼に抗議しようと考えていた。また、父は父で、多分私に手を出そうと迫って来ていたのだ。生意気な、子の分際で親に逆らってと、力ずくでねじ伏せようという魂胆だったのだろう。私にもそれは父の顔付きと雰囲気から薄々感じ取れた。それならそれで、私は彼との一戦も辞さない覚悟を決めていた。その後どうなっても、それはそれでよいと考えていた。

 私達のこの劣悪な関係にいち早く気付いたのは、多分、家ではやはり祖母だったのだろう。祖父と共に私達親子を何とかしておこうと思ったらしい。この日以来追々と、息子である父は勿論、孫である私にも先手を打って語り掛けて来た。

 「お前のあの時の態度は良くないよ。」

私の、父が祖父に呼ばれた時の歓喜の態度を諭された。

「あの時のお前の態度をお祖母ちゃんは見ていたけどね…。」

祖母はその時の私の態度を実際に見ていたのだと言う。彼女から最初この話をされた時の私は、『何時の事だろう?、どんな態度の事だろう?。』と訝ったが、彼女の話を聞いて行く内に、この時の父との対決寸前の場面だった事だと合点が行った。

 多分、祖母は隣の部屋から障子の穴越しに私の様子を覗いていたのだろう。祖父の声しかしなかったが、あの時彼女も部屋の中に居たのだろう。もし彼女が廊下に居たなら、確かに私の飛び跳ねる歓喜の様子は見れたかもしれない。が、廊下側に背を向けていた私の表情までは決して見えなかっただろう。それはどう考えても廊下からは不可能だったのだ。何でも分かる聡明な祖母であっても、流石に自分に背を向けている人物の顔付き迄分かろう筈は無かった。

 祖母は私に、「あんなにニヤニヤして…、」と言っていた。その言葉を聞いた時の私は何処から彼女が眺めていたのだろうかと怪訝に思ったものだ。その時は、あの生真面目な祖母が障子の穴からこちらを覗くという事が有ろうとは想像だにしなかった。が、後になって考えると、あの時私の表情が分かる位置は障子の裏側、そこしかなかった。しかし、そうと気付いてさえ、私にはあの祖母がそんな姑息な真似をするとは到底信じられないでいた。

 やはり祖母は子の親だ。自身の息子の為に、その時の父と私の親子関係を案じたのだろう。私の性格を量り、その後の未来に、彼女の息子である私の父一家の家庭未来図を予想して、その安全で安泰な方向付けをしたかったのだろう。息子の家族が社会的により良い方向に進んで行ける様に計ったのだろう。祖父と自分の子孫達の行く末を彼女、そして祖父もだが、きっと案じていたのだろう。 


今日の思い出を振り返ってみる

2019-10-29 11:15:42 | 日記
 
土筆(239)

 「その先を言ってごらん」それで、「どんな…、…人でも、」うん、と祖母は言います。「そこまでは合っているよ。」「最後は一人になって死んでしまう。死ぬ時は一人だ。ごらん、......
 

 雨が降ると寒くなりますね。室内は17度程でしたが、肌寒く感じます。ストーブの試運転も間近かな。


うの華 88

2019-10-28 09:39:50 | 日記

 お、お前なぁと、父は真剣な顔で私に迫って来た。とその時、

「四郎!」

襖の向こう側から父の名を呼ぶ祖父の声が響いた。その時の祖父の声は怒りを帯びていた。

 「ちょっとこっちに来なさい。」続いてそう声が掛かった。私はもしかすると…、と、この声は自分が呼ばれている声なのではないだろうか?、と迷った。祖父は私を怒っているのだろうか?、父だろうか?、どちらだろうかと少々思い惑ったが、それは父も同様だった様だ。

「ほら、お祖父ちゃんもお前の事を怒っているぞ。」

と父。さも私にいい気味だというような顔付をして決めつけて来たりした。私はそんな父に、内心やはりそうなんだろうかと思うと不安感が増して来た。

 すると、

「四郎、お前だよ。」

と祖父の声が響いた。私はほっとした。思わず笑みを浮かべそうになった。が、父の、私の顔を見詰めている目付きに気付いたので、私は無表情を決めて取り澄ました顔をすると、しゃんとしてその場に両足を着けて立った。しかし内心小躍りしたいくらいに嬉しかった。叱られるのは父の方なのだと思った瞬間、実際私は嬉しくて祖父に感謝した。祖母は元々好きだったけれど、祖父も大好きだなと思った。

 父は黙って障子の向こうを睨んでいたが、続いて、「お前だけこっちに入っておいで。」と言う声と、「急いで!。」と言う祖父の声に、彼は小さく舌打ちすると、渋々くるりと私に背を向けた。そして彼は自分の両親の部屋へと向かった。私は父の遠ざかる背を見詰めながら。抑えていた喜びをつい全身で表現し始めた。私は抑えていた笑顔で相好が崩れ、思わずその場でぴょんぴょんと飛び跳ねたのだった。