Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 24

2019-07-31 10:19:05 | 日記

 いくら睨まれてみても、私の方では致し方無い。何しろ自分が見聞した事を有りの儘に伝えただけの事だ。こう訳の分らない事ばかりが続き、やたらと大人から睨まれては、子供の身でも腹が立つという物だ。私は仏頂面をして反対に母を睨んだ。

「何だい。」

母は私のしかめっ面にぷんとして、負けじとばかりに言葉を続けた。

「嘘をついて、そんな顔をして、何て嫌な子なんだ。」

そう言うと、この前だって近所の子と揉めたっていう話じゃないか、と、父から聞いたという話を始めた。その話では、以前私も父から叱られた事が有ったが、それは言葉の意味合いの違いから来た誤解だった事を既に私は知っていた。それで尚更に眉間に皺を寄せた。私は事実を把握していない母に相当な嫌悪感を持った。

「その話なら、」

私は母に言った。お父さんともう話し合って解決済みだという事や、それぞれの言葉の取違いによる誤解だという事が、父との間では理解され了解済みになっている事を。

 「お父さんから聞いてないの?。」

母が怪訝な顔をして、視線を宙に浮かせて物思いに耽るというその素振りに、もしかしたら母は、父から私の事について何も聞いていないのではないか。一瞬、私はそう感じて母に問い掛けた。

「お父さんはお母さんに、私の本当の話は何も話してないの?」

唯私が誤解されていた時の儘に、私があの子にそんな悪い事をした嫌な子だという事になっているのか、と、私は真剣に母に問い掛けた。それなら何故、父は母の手前私を悪い子の儘にして置くのだろうか?私にはそんな疑問が浮かんでいた。

「お父さんは、私を悪いこの儘にしているの?」

何だか…。私は父に対して持っていた信頼感が薄らいで行くのを感じた。

 『何だか、世の中の事は何が如何でも、何でも如何でもよい事なのかもしれない。』私は急に心の中の世界が色褪せて、虚無的な清涼感が広がるのを感じた。がっくりと首を垂れた私はしょんぼりと佇んでいた。無言だった。

 母が言っていた通り、物事何でも如何でもよい事なのかもしれない。「何でもきちんと真理を求めて、正しくコツコツと人は生きて行かなければならない。」。私を諭して、そんな事を言っていた父が真実を露わにしていないのだから、この世の中、確りと指針に出来る物など無いのだ。そんな事をこの時の私は感じていた。


今日の思い出を振り返ってみる

2019-07-31 09:43:36 | 日記
 
土筆(145)

   「所で、此処は何処の世界なんだい?」一頻の孫の思索が落ち着いた頃、祖父は光君に尋ねました。今、彼等が見回すこの世界は、どうやら元いた世界、蛍さんの家の近所、あの大きな施設......
 

 エアコン、涼しいです。どこかショッピングに出て、避暑してきたいです。避暑の反対は保養かなぁ。避暑地、保養地、静養地…、考えていないで辞書を引いたところ、避暑⇔避寒と言う言葉がちゃんと載っていました。避寒地と言う言葉もありました。そうなんですね。


うの華 23

2019-07-30 11:28:27 | 日記

   外出していたらしい母が私の傍に現れた。母は玄関方向から階段のある部屋に入って来たのだ。

「あら、如何したの?、こんな所で。」

私が部屋にポツンと1人で立っていたものだから、母は怪訝に思ったようだ。ああ、お母さん。私は今までの一部始終をこれこれと話しながら、兎に角と、

「お祖父ちゃんの具合が悪いらしい。」

うつる病気なんだって。風邪らしい。だから、今、部屋には入れない。と母に告げた。

 驚いた事に、母は私の話、箇条書きの様で細切れの様な私の話が分かったらしい。この時点でのこの事は私には特異で奇妙に感じられた。普段の母は私の説明を殆ど理解してくれなかったのだ。私はそんないつに無く聡い母を不思議に思ったが、家の緊急時ともなれば違う物らしい。母は言った。

「お義父さんの病気は風邪じゃないだろう。」

えっ?風邪じゃない?

「じゃぁ、何の病気なの?」

驚き問いかける私に、さぁてねと、母は急に彼女本来の、私に全く無関心、無頓着な姿に立ち返った。二人の間には沈黙が流れた。後、母子は2人して閉められた障子戸に目を遣った。と、母が歩みだし障子戸に手を掛けた。

「あ、お母さん、開けちゃダメだよ。」

私は、祖母が誰も部屋に入らない様にする為閉めたのだ、と言った。すると、母はピクリと肩を聳やかせると振り返って私を睨む様に見詰めた。そして、徐に気に食わなそうに言葉を投げつけた。

「それは、お前の場合だろう。」

私は大人だし、この家の嫁なんだからね。当然部屋に入っても構わないんだよ。こう言うと、母は体の向きを戻して再び祖父母の部屋に続く戸を開けようとした。

 が、障子戸はピクリとも動かなかった。中で誰かが押さえているらしい。それは父だろうかと私は思った。母の力に負けない腕力の持ち主だ。次に母は両の手を添えて迄戸を引いたのだが、戸は確りと閉じられて全くピクリともしなかった。室内にいる家族の内の誰にそんな力が有るだろうか、それは父しかないだろうと私は考えを深めた。

   「今入ってはダメだ!」

その確りした元気な男性の声は、意外な事に祖父の声の様に私には聞こえた。如何やら病で臥せっている祖父の物の様だと考えると、私には何故祖父が起きて戸の側にいるのかが妙に思われた。聞き違いだろうか?。そう考え直していると、その元気で勢いのある声を、あれれ?と不思議に思ったのは私だけでは無かった。

「どこがお義父さんが病気なんだい。」

と、障子戸の傍にいた母に私は再び睨まれてしまった。


今日の思い出を振り返ってみる

2019-07-30 10:18:28 | 日記
 
土筆(143)

 「旅に出て間もないです。20○○年から来ました。」あくまで控え目に、にこやかな笑顔で光君は男性に答えます。彼には男性の問いかけの言葉から、ここが本来の自分達の時空より未来であ......
 

 暑いですね。昨日は、暑気当たりのような感じで力が出ず、お休みしました。


うの華 22

2019-07-27 12:33:35 | 日記

 どれどれ、やや物見遊山な感じの顔で、父は私が見詰める中、彼の両親の寝所へと入って行った。

「やぁ、父さん、具合が悪いんだって。」

直ぐに父の朗らかな言葉が聞こえた。私には見えない障子の向こうだ。食事後にその儘居間にいた私は、部屋を仕切っている障子戸の、白い障子紙を見詰めた。

 私は父の言葉を頭で反芻してみた。そしてやはり祖父は具合が悪いのだと再認識した。そこで障子紙の向こうある光景、祖父の布団が引かれていると思しき辺りを見透かすように見詰めていた。

「なぁ、父さん、そう大した事は無いんだろう。」

そんな茶化すような声がした。父は自分の父にお道化たように話し掛けている。

「いやそれがな…。」

何だか祖父の声はぼそぼそとして聞き取りにくい。私の父もそうだったらしく、布団の中から何か言われても聞こえないという様な事を言っているのが聞こえた。そして、「布団を剥がすよ。」と父が言うと、「否、それは止めた方がいいんじゃないか、お前の為に。」等、祖父も祖母同様に、息子が彼の父を見ることを制しているようだった。

「さっきの母さんの声と、この部屋の様子を見て判断出来無いかい。」

そんな祖父の物言いが私には聞こえた。

 私はこの時、先ほどの祖母の妙に悲鳴めいた声を思い出した。しかし私に現在の部屋の様子は想像出来なかった。何時もなら、日中は普通に畳だけの座敷である。庭に向けた障子の面には縁側が有った。昼寝時や夜であれば、祖父母の布団が仲良く並べられて部屋の中央辺りに敷かれている。祖父が寝ているのなら、祖父の布団は未だ畳の上に敷かれているのだろうと私は思った。祖母の布団は押し入れに片付けられているのだろう。私は四角い部屋の何時もの場所に、祖父の布団が1人分だけ敷かれている光景を思い浮かべた。

 さぁさぁ、子供の機嫌でも取る様な父の声が聞こえて来た。と思ったら、次の瞬間、

「おわっ!」

ひえっ、ひぇえぇ…!。といった様な、悲鳴の2段構えとでもいう様な悲鳴が聞こえた。どどん!。何やら倒れる様な音がした。 私はその大きな物音に、箪笥か何か、大きな物が倒れたのだと思った。しかし、考えてみると祖父母の部屋には箪笥など無く、普段、畳だけしか敷かれていないのだ。

『何かしら?。』

私は倒れた物体を考えてみたが全く想像できなかった。そして障子の向こうは水を打ったような妙な静けさに包まれた。

 私は、今度こそは謎に満ちた部屋の中に真理を求めて押し入ろうと考えた。歩みかけて祖母を見ると、祖母はまだ階段下の場所にいた。私が「お祖母ちゃん、何が倒れたの?。」と聞くと、祖母は意外な事にえ、何が?と答えた。私が何を言っているのか判じられない、という様子だった。私の言葉が何故発せられたのか、前後の事の繋がりが分からないという顔付だった。

「お祖母ちゃん、部屋の中で大きな音がしたでしょう。」

何か箪笥みたいな大きなものが倒れたみたいに。そう私が言うと、祖母はへん!と言った感じで私を見ると、顔に嘲笑いを浮かべた。そんな物が、箪笥なんか部屋にはないよ。と言う。

「でも、ドン!という大きな音がしたでしょ、何か大きなものが倒れたみたいだった。」

私が真剣にこう言った物だから、私の必至な顔付に気付いた祖母は

「部屋の中で、…箪笥みたいな大きなもの…。」

そう考えながら呟いていたが、ハッと何かに思い当たったらしい。彼女は足早に素早く自分達の部屋の入り口に駆け寄ると、室内を覗くや、すいっと部屋に入り込んだ。そしてちらりと私を見やったが、待ってましたとばかりに駆け寄ろうとする私の足が1歩、2歩と出る前に、部屋の障子戸はパタリと閉じられてしまった。

 ああ、これで部屋の様子を知る術が無くなったのだ。私は事万事休すの感で閉められた祖父母の部屋の戸を見詰めていた。下から上、上から下と障害になる障子の戸を眺めてみても、これでは何も分からない。この時の私には、この閉じられた戸を押し開き、目の前の障害を突破して部屋に押し入るという、勇猛果敢な気概は無かった。成す術無く階段の下で佇んでいた。