Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 129

2019-12-31 15:13:35 | 日記

 さぁさぁと、おばさんに導かれるままに店内を進むと、この家のご主人も珍しく笑顔でやって来た私を出迎えてくれる。

「こんにちは、元気かい?。」

等と彼の愛想もよかった。そしてほらほらと、目の前の椅子によっこらしょと私を持ち上げると、ちょこんと座らせなどしてくれた。

 「いやぁ、驚いただろう。」

頭上から掛けられた言葉に、私がご主人の顔を椅子の上から見上げると、彼のその目は笑っていたが、内面には何だか悲しそうな色が浮かんでいた。

「何というか、…。」

そう言うと彼は私から顔を逸らして背を向けると、うっくく…と、声を漏らした。彼の背は片肘を顔に当てがった。そして、この子の顔を見ていると目から汗が出て困る、お前言ってくれと奥さんの方に話を任せた。

 おばさんの方はあらまぁと、私の目の前で相変わらず笑顔の儘だった。彼女は困った事は皆私にやらせるんだから、と少々不平を言いながらも、ふふふと笑うと、

「まぁいいわ、私も知りたいのよね。」

と、何だか楽しそうで、興味津々という様な、好奇心に溢れる様な面差しで私を見た。

 「ねぇ、智ちゃん。あんたの家今日は何だかバタバタしてたんだってね。」

と彼女は言った。私はこのお店の前のお店、そのお店で聞いたその家のおばさんの言葉を思い出した。あんたの家バタついてたねという言葉だ。

「内がバタついてたって言う事?。」

私は目の前のおばさんに尋ねた。「あら、この子分ってるんだね。」おばさんは急に笑顔を引っ込めた。

 「じゃあどう話したらいいんだろうね、あんまり笑顔で聞くのはおかしくないですか?。」

彼女はそうご主人に問い掛けた。ご主人の方は相変わらずこちらに背を向け、無言で返事をして来なかった。それで奥さんの方は、如何したんです、如何しますと彼に何度か声を掛けなくてはいけなかった。

 するとその内、蚊の泣くような声でご主人は言った。

「内にも似たような年端の子がいるだろう。」

…、それを思うと、…泣けて来てね。途切れ途切れに、そうこちらに背を向けてご主人が言う物だから、奥さんは夫に近付いて何やら声を掛けていた。妻の言葉に数回頷いた夫は、本人が分かってるんだったら、と、

「笑顔は引っ込めてお悔やみ風にした方がいいぞ、だがなぁ、こんな小さい子に本当の事が理解出来ているのかどうか、怪しいもんだな。」

と答えた。

 それでも商談だからと、奥さんは夫に声を掛けると、頼まれた事は伝えないといけないからと、自分の方から言いますかと彼に尋ねた後、やや緊張した面持ちで私の方へ数歩あるき掛けた。そんな奥さんに、商談ならとご主人は言うと、自分の方から話すよと奥さんを制して、一呼吸置くと、彼はふんと体に気合を入れてぐっと踏ん張ると、くるりと振り向きやや下を向いた。視線を落としたまま、彼は私に近付いて来た。


今日の思い出を振り返って見る

2019-12-31 15:03:29 | 日記
 
蝶ちょう(15)

 「私嘘なんかついてないよ。」相手はそう言うと、不思議そうな顔をして私が散々罵倒する言葉を黙って聞き流していました。如何にも怪訝で訳が分からないという相手の顔つきや、私を見詰め......
 

 いよいよ大晦日です。今年も最後になりました。

今年の思い出と言うと、昔聞いて長く信じていた事(元々まさかと信じないでいましたが、長く経つ内に半信半疑という感じでいました。)が、実際に自分で調べると全く根拠のない事柄でびっくり、とても驚いた事です。

 この様に、聞き伝えは当てにならない事が多いのでしょう。真実という物は、実際に自分自身で調べなければいけませんね。また、このいい加減な話について、今まで誰からもそうだとか、そういう訳ですみません、ごめんなさい等、謝罪の言葉も無かったのです。そう言った事も不思議に思える本年でした。


うの華 128

2019-12-27 10:25:48 | 日記

 道の角に差し掛かると、この角にある店のおばさんが、ひょいっとばかりに戸口から顔を出してこちらを見た。

「来た来た。」

彼女は店内に振り返り、店の中に向かってそう言った。この彼女の言葉は私の耳にも聞こえて来た。

 『誰だろう?。』彼女の声に釣られるように、私は自分の背後を振り返って見た。しかし予想に反して、そこには誰も来る気配の無い灰色の舗装路が広がっていた。道の端には木造りの電信柱が数本続いて立つばかりだ。遠くに人影がない事も無さそうだったが、こちらにはっきりと向かって来る人を私は見出す事が出来なかった。

『誰が来たんだろう!?。』

不思議に思いながら、私が元通り振り向いてその店の扉を見ると、そこに立っていたおばさんの視線は、明らかに私の顔を注視していた。そして、今や歩を進め店の前に到達した私を、如何にも出迎える様に道路に迄出て来た。

 このお店のおばさんは、普段から忙しい忙しいが口癖のような人だ。実際にも、このお店は見るからに繁盛していた。何時も誰かしら幾組かの客達が集い、入れ代わり立ち代わりこの店を訪れていた。店内は何時も数人の話声と商談で溢れていた。そんな中、それでも年端の行かない、ましてや客でも無い私がひょいと顔を出し、「こんにちは。」と言って立ち寄ると、こんな訪問者では何の得にも為らないし邪魔になるだけだったのだが、一応御近所だからという名目で多少は相手をして貰えない事も無いお店、気の良いおばさんだった。しかし一度客が混むと、これでねときっぱり、私の相手を打ち切ると立ちどころにそそくさと客の所へ行ってしまう。公私の緩急というのか、仕事と余暇の時間を分ける歯切れの良さという物が確りとあった。そんな点は冷たい感じも受けた私だったが、これが商売人という物なのだなあと、同じ店という物を家に持つ身としては、客大事、商売大事というお手本として感銘を受けた場所だった。

『だから儲かるんだなぁ…。』

一人店内で取り残された私は、そんな内心の呟きと共にこのお店を去ったのだ。

 それが今日の様に、如何にも私のお出でをお待ちしていました、と言わんばかりに目に歓喜の色を浮かべたこの店のおばさんが、さぁさぁと、にこやかに私を店内に招き入れるのだから、私は今日はこのおばさんは一体如何したのかしら?、と思った。大体、このおばさんが店先の道にまで顔を出している事自体が非常に珍しい事だった。店内に何時もいるおばさんはそれだけで忙しいのだ。彼女は商品管理から帳簿付け迄していたようだ。ご主人はおろか店員迄、あちらこちらから声が掛かると彼女は店内を右往左往していた。そして客が混むと、店内の接客が忙し過ぎて益々入口の透明なガラス戸には近付けないでいた。だから彼女は一歩も店の外へ出る事が出来ない様な人だったのだ。事実、私を迎え入れた彼女はその儘戸口から往来を遠く眺め、久しぶりの外の息吹に触れた儘の状態で、暫くガラス戸に手を置き考え込むように佇んでいた。ある種の感慨に浸っていたのだ。

「埃臭い空気が…。」

懐かしく感じるなんてね。そんな事を呟いたおばさんに、埃臭い?私が問いかけると、彼女はややしんみりした感じで、埃でも砂埃の匂いだとぼんやりと言った。そんな彼女に、案じるように視線を送る私の顔に、彼女は気を取り直したように明るく笑って見せた。


今日の思い出を振り返ってみる

2019-12-27 10:21:11 | 日記
 
蝶ちょう(11)

 そうして、再度私が気が付いてみると、何だか急に体が軽くなり思考も視界もすっきりとして見え、頭は段々と冷えてきた感じになりました。更に状態が落ち着いて来ると、私の目に周囲の街並みが......
 

 今日は寒そうです、段々と晴れてくる予報ですが。強が仕事納めの人、多い日でしょうね。


うの華 127

2019-12-26 09:56:21 | 日記

 「ほらほらそれだ。お前さんのそんな所がいけないよ。」

ご主人はそう言うと、「また客を減らすつもりじゃないだろうね。」と付け足して注意した。

 奥さんの方はこのご主人の言葉に非常に驚いた様子になった。えっ!という感じで、咄嗟に振り向いてご主人を見た。そして無言でまたこちらに向き直った。彼女は肩を落とし顔を曇らせていたが、次に困惑したようにご主人に言った。

「減らすって?、お前さん、それは一体如何言う意味だい?。」

今迄縮めていた首をぐっと上げると、彼女はその儘後ろに首を振り向け夫に挑むように彼を見詰めた。

「私が何時客を減らしたって言うんだい。」

「こうやってお前さんの目の前で、何時も身を粉にして働いているのを、お前さんも何時も見ているだろうに。」

そう言うと、彼女はこちらに向き直り、如何にも立腹したという様に口を尖らせた。そして自分の夫に聞こえよがしに

「お前さんの方こそ、お愛想が過ぎて向かいの奥さんから嫌われたくせに。」

と言った。これには今迄無言だったご主人が、「何だって?、今の言葉聞き捨てならないな。」、と返して来た。ここで如何やらこの夫婦は夫婦喧嘩を始めたらしい。

 「智ちゃん、おばさん達これからちょいと仕事で忙しくなるからね。」

「また今度ね、また遊びにおいで。」

そうおばさんにバイバイをされて、私は瀬戸物屋の店先から追い出されるようにして往来に出て来た。

 さて、これから何処へ行こうか。私が思い迷って道に佇んでいると、ドカン!バタン!。今し方出て来た背後の店の中から物音がする。『商品の荷物整理だな。箱を積み上げたり降ろしたりしているのだ。』おばさん仕事に忙しいんだなと私は思った。その後もどこへ行く当てもなく行き先が決まらない私は、家にだけはもう暫く帰らない方が良いとだけ考えると、家と反対の方向へ足を向けた。去って行く店の中から怒鳴り合う声が聞こえてきた。「大体お前は間が悪すぎるんだよ。」「言いたいこと言ってどこが悪い。」等、ご夫婦の仕事熱心が高じてお互いの意見を言い合っているのだ、何処も商売屋さんは同じだなと私は一人合点すると、時間を潰す為にやや普段よりものんびりとした足取りで、往来の側溝に沿って町並みを歩いて行った。