Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

土筆(146)

2018-07-31 08:03:47 | 日記

 否。彼は呟きました。彼の目に映る数個の穴、石碑のこの場所にこの様にはっきりと開いた数個の穴等、前の世界には無かった事でした。

「前の時代と、時自体は同じでは無いんだ。」

彼は穴の様子を見詰めながら、自分に言い聞かせる様にそう言うと、孫にも注意を促すのでした。

 そこで光君は自分が立っていた場所を離れ、もっと子細にこの世界を観察しようとして、広場中央にある流線的で女性的な容姿の柳の木に足早に近寄って行きました。

 「確かに、じっちゃんの言う通りだな。」

彼は木の幹に手を置き、その細長い葉の感触をもう一方の手で確かめた後、彼自身の観察を終えて祖父の言葉の真である事を納得するのでした。

「違う時だな。今は多分春ではないね。」

こう言うと、光君は先程感じだ大気の違いに思い至るのでした。季節が違うんだ!だから大気の様子も違うんだな。季節にすると何時頃なんだろうか?。彼はより多くの情報を求めて、きょろきょろと辺りの万物に注意を向けてみるのでした。祖父もそんな孫の様子に同調するように、自身でも何かしらの季節の判断材料を見つけようと、周囲の動植物に目を向けてみるのでした。


土筆(145)

2018-07-30 10:19:15 | 日記

   「所で、此処は何処の世界なんだい?」

一頻の孫の思索が落ち着いた頃、祖父は光君に尋ねました。今、彼等が見回すこの世界は、どうやら元いた世界、蛍さんの家の近所、あの大きな施設の中にある広場のようです。

「そうだなぁ。」

光君は我に返って周囲を見回しました。

 「さっきの場所じゃないかな。」

彼は広場にある特徴的な柳の木を眺めながら言いました。「しかも、同時代みたいだ。」彼は見詰める木の様相から、時も全く同じ頃の年代だと判断したのでした。そこに有る柳の木に大した変化は無かったのです。それは前々回の世界にあった木と全くそっくりで、場所も大きさも枝ぶりも全くそのまま、前に見た時と完璧に同じ状態で広場に存在していました。

 『不思議だな、同じ年代の同じ場所にほぼ連続して移動したなんて…。』

光君は信じられない気持ちで呆然としてしまいました。

『こんな事初めてだ。』

そこで彼は、何事かを推し測るようにこの世界の大気を漫然と感じてみるのでした。彼は首を傾げました。

「じっちゃん、何だかこの世界おかしくないか?」

彼は傍らにいるはずの祖父に問いかけました。祖父はこの時、孫からやや離れ、広場の石碑の傍に立っていました。彼は石碑の下に掘られた幾つかの穴を見詰めていました。


土筆(144)

2018-07-30 10:07:01 | 日記

  「あんな人じゃなかったんだけどな…。」

光君が独り言を言う様に祖父に言いました。

「初めて会った時のあの人は、こう、にこやかで、人当たりが良くて、気のいい話の分かる、質のいい育ちの良い外国人、という感じだったんだ。で、僕の研究にも熱心に耳を傾けてくれて、興味を持って気軽に寄付してくれたんだよ。しかも当時としては結構多額に寄付してくれたんだ。それなのに…、どうしたんだろう?」彼は沈み込んでしまいました。

   また、彼はこうも言うのでした。

「あの森での場面には前にも出くわした事があって、今日と全く同じ成り行きになったんだよ。じっちゃんも一緒だったんだ。けど、覚えてないんだろう?問題だよなぁ。」

   否、じっちゃんがボケたと言う意味じゃないよ、何処かで交錯したんだ。入れ替わっているんだよ、じっちゃんと僕、僕達2人の組み合わせが何処かで別相手になってしまったんだ。でも、そう気にする程の事じゃ無いよ、こう世界を点々とした後考えてみるとね。光君は祖父の傍で、1人静かに物思いに沈んで行きました。祖父はそんな孫を横に、彼の思考の邪魔にならぬよう沈黙を守るのでした。

 「初めの時は勢いに飲まれて、流石に余裕が無かったけれど、2度目ともなると気付く事もあるさ。」

彼は唇を噛み締めて、忌々しそうに拳を握り振り回しました。いったい何が起こったというのだろう?、僕がこの発見をしてからあの人がああなるまでの間の事だよ。僕はあの人達の国に、又は世界に、何か特別な酷い事をしたんだろうか?

「私達の世界、か。」

今現在、反社会的な何か、そんな大それた事を仕出かす気持ちなど更々無い彼には、全く思いも寄らない未来予想図なのでした。


残務整理と新しい事への準備

2018-07-30 09:24:18 | 日記

 7月は今までの仕事の残務整理です。8月は新しい事への準備になるでしょう。まだまだ出来る事はありそうです。あれこれと考慮中です。

 心配なのが母の事です。お盆の墓参りもままならぬ様です。外出が出来ないのではどんな行事も組めません。でも、室内で静かにしていた方が、高齢者にはより良いのかもしれませんね。変化や刺激は良くないのかもしれません、専門家にお任せした方が良いのでしょうね。


土筆(143)

2018-07-28 05:28:50 | 日記

 「旅に出て間もないです。20○○年から来ました。」

あくまで控え目に、にこやかな笑顔で光君は男性に答えます。彼には男性の問いかけの言葉から、ここが本来の自分達の時空より未来である事が分かって来ました。実は、彼にとってこのような場面は最初ではなかったのです。

   「過去には研究費にご寄付を頂き誠にありがとうございました。」

そのように、光君は丁寧にお礼の言葉を述べました。この言葉に男性はニヤリと笑い顔になりました。そうして、それから少し彼は俯いて考えていましが、再び顔を上げた時には酷く暗い顔色で、顔には濃い影が差していました。目には鋭い険が立っていました。そして彼は、一旦ここまで近付いた2人の前から後ずさると、矢庭に背中の筒から1本の矢を抜き取り、彼の手の弓に番えました。鈍く光る鏃の先は、ぴたりと光君の左胸に照準が合わされました。彼は弓の名手の様です。

 「出て行ってもらおう。」

「一刻も早くこの私達の世界から立ち去ってもらおう。」

彼はそう言うと弓を構えたまま微動だにしません。ジーッと相手の出方を窺っています。彼のその迫力は鬼気迫る物が有りました。おかげで光君達は一刻の猶予を感じる事も無く、この世界から姿を消す羽目になったのでした。