Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

土筆(242)

2018-10-31 12:21:17 | 日記

 蛍さんが自分の口に当てられた手を気味悪くも不審にも思い、自分の小さな手でそおっと、恐る恐るその手をまさぐってみると、如何やらその手の先には腕が付いている様子です。またその腕の先には、ちゃんと人がいる様子です。これが人の手で、手だけの化け物ではないと分かると、蛍さんはほっとしました。

 『これは誰か人なのだ!』

そう思うと蛍さんは恐る恐る顔を傾け、視界をずらしながら、その手の先にいた人を見上げて行来ます。すると、そこには頬を染めて、目も細くして微笑んでいる見慣れた祖父の顔が有りました。蛍さんの口を塞いだのは祖父の手だったのです。そして、彼を見上げる蛍さんに、

「こっちにおいで」

と祖父は自分の手を孫の口に当てたまま、両の手で孫を抱え込んで引っ張る様にして、ずるずると移動して行きます。彼は孫と隣の部屋に入ると、祖母から距離を置いた事でほっと一息つきました。そうしてにこやかに、悪戯っぽい瞳をして蛍さんを覗き込み微笑んでいます。

 「あれ、お祖父ちゃん。如何したの?」

と、蛍さんは、この祖父の可笑しそうな顔つきを不思議に思って尋ねました。祖父は何時になく猫なで声で

「やぁ、ホーちゃん、お祖父ちゃんと暫くこっちにいようねえ。」

とにこやかに小声で話し掛けて来ます。

「切諫だよ、せっかん。」

お母さんの切諫は久しぶりに見るねぇと、祖父は如何にも愉快で面白そうに言いました。「あの人、間違いには厳しくてねぇ」昔からそうだと言うと、祖父は妻と、その母に呼ばれて飛んで来た息子に背を向けました。巻き添えになりたくないのです。

 「お祖父ちゃんとお前はこっちで静かにしていようね」

と、懐から飴玉など出すと、特別だよと蛍さんの手に渡します。彼はすぐに食べておしまいと、孫に飴玉を口の中にほうり込むように指示するのでした。「お母さんに見つからない内にね。」

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1年前を振り返って

2018-10-31 09:54:06 | 日記
 
美湾
 昨日からのんびりとこの旅行の資料を探していました。漸く先ほど見つかりました。日程表も出てきたのでほっとしました。やはり旅には日程表が無いといけませんね。これでようやく本格的に紀行......
 

 思い出を振り返ってみます。1年前はこの作品を書いていたんですね。もうずいぶん経った気がします。旅行ではなく執筆していた時期の事です。旅行自体、もう20年が過ぎるのだと感慨深いです。今から思うと年齢的にまだ若い頃ですね。

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土筆(241)

2018-10-30 09:58:36 | 日記

 自分の様な家族の間でならいざ知らず、この子がこの調子で人と交わり、外で他人との間にどんな厄介事を起こすだろうかと思うと、祖母は孫娘が酷い目に遭いはしないかと案じます。

 今迄は息子だけでよかったのに、この孫の身の上迄案じなければいけなくなるなんて…。何て気苦労な事だろうと、彼女はしゅんとうな垂れると、目を閉じて意気消沈してしまいました。加えて、彼女には、息子が持っている宗教の言葉や古語に対しての知識の加減がよく分かったのでした。

 「あれはよく大学へ入れたね。」

祖母は絶句しました。息子に掛かった学費が頭を過ぎりました。そして、一瞬にひゅーっと顔から血の気が引いて行くと、ツンと目が細く吊り上がり、眉間には青筋、口はきりりと引き締まると、その顔は…。

「あれ、お祖母ちゃん、あか…」

と蛍さんが言ったところで、蛍さんの口には誰かの手が当てられました。蛍さんは口を塞がれたのです。

 「三郎や!」

「三郎はおらんか、ちょっとこっちに来や!」

と家中に祖母の甲高い金切り声が大きく響き渡りました。彼女は怒りでかっと来て、息子の名を家中に響けとばかりに叫ぶのでした。そんな祖母の傍にいた蛍さんの耳には、この声ががらがらがら…と、雷でも響いたように聞こえました。蛍さんはてっきり雷が鳴ったと思い、びっくり仰天しました。そして今、この様に突然口に手が当てらたという状態も初めての事でした。蛍さんには全てが異様に感じられるのでした。

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土筆(240)

2018-10-29 09:36:34 | 日記

  蛍さんの方は、その様に慌てふためいている祖母の顔色には一切無頓着でした。相変わらずにこにこと、祖母の顔を見上げながら得意そうにこの話題を続けます。

「私も最初はお祖母ちゃんの様に分からなかったけれど、この前家で1人になった時に、漸くこの言葉の意味が分かったのよ。」

と、満面笑みで語る蛍さんです。

「だからお祖母ちゃんも、そんなに知らなかった事を恥ずかしく思わなくてもいいよ。きっとね。」

と蛍さんは祖母を慰めているつもりで話します。その円満な顔を見て

『まぁ、何て親子で似てる事。』

祖母は思いました。物や人の気持ち、道理を読み違えるなんて、息子そっくりの孫だ。そう思った祖母に蛍さんはとどめの様に言ったものです。

「これで、年寄りで物がよく分からないお祖母ちゃんにも、諸行無常がよく分かったでしょう。」

等と言うものですから、ええっと、驚いた祖母は、この息子親子のマイペースな状態というものが大変よく分かってきました。

「親子でお馬鹿が似るなんて、」

これが遺伝というものなんだねぇと、祖母は呆れかえると、物の本質について、きちんと上手く見抜く力が無い父娘だと、蛍さん親子の行く末を酷く案じるのでした。

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土筆(239)

2018-10-28 10:53:24 | 日記

 「その先を言ってごらん」それで、

「どんな…、…人でも、」

うん、と祖母は言います。「そこまでは合っているよ。」

「最後は一人になって死んでしまう。死ぬ時は一人だ。ごらん、文字通り草葉の影だ。察するに諸行無常とは、この絵の女の人の様に、人は最後は1人になって死んでしまうという事なんだなぁ。人の人生という物はこの様に空しいものなんだな。」

祖母は目をカッと見開くと、眉間には青筋が走りました。

「お前のお父さんがそう言ったのかい。」

蛍さんに確認するまでも無いのですが、彼女は目の前の孫にそう言い放ち、尋ねました。

「そうだよ、お父さん、説明が上手いでしょう。」

にこにこして父を褒める蛍さんです。

 祖母はあれこれと思案を巡らしている様子でしたが、傍に誰かいなかったかいと、心ここにあらずの様子で蛍さんに尋ねました。傍に?蛍さんは思いだしてみますが、父の後ろに、少し離れた場所には誰かいたようでした。「男の人だったかな…」そんな事を呟きます。「お父さんの、少し向こうの方に誰かいたみたいだったけど、」入口の明るい方にいたみたいだと言う彼女に、それなら息子の話は聞こえていないだろうと祖母はほっとしました。こんな話を誰かに聞かれたらと思うと、息子というより、家の恥じだと祖母は思ったのです。

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