付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「冬海の人魚~ダディフェイス3」 伊達将範

2009-10-15 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
 隠された財宝を捜すというのは冒険小説の定番ネタで、ハガードの『ソロモン王の洞窟』とかスチーブンソンの『宝島』あたりは定番中の定番、王道の中の王道。江戸川乱歩の『怪奇四十面相』もそういう話でした。それを現代に蘇らせたというか復権させたのがスティーブン・スピルバーグの『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981)で、以後トレジャーハンターものの映画がドッと出たりします。
 日本でも1980年代以後、トレジャーハンターものの数が増えますが、かなり早い時期にそれを取り入れたのが菊地秀行の小説『エイリアン秘宝街』(1983)。栗本薫の『魔境遊撃隊』(1984)、田中光二の『秘宝狩り~トレジャー・ハンター得能次郎の冒険』(1988)、さらにメディアミックスで岡崎武士が描いた『エクスプローラーウーマン・レイ』(1989)があり(これは意外にオーソドックス)、たかしげ宙と皆川亮二による『スプリガン』(1991)、広江礼威の『翡翠峡奇譚』(1994)になるわけですね。
 他にもあるだろうけれど、多いといえば多いけれど1ジャンルになるほど多くはないという微妙なラインです。ただ、日本のトレジャーハンターものにおいては、菊地秀行の系譜が印象強いですよね。
 主人公は一般人はもちろん軍人や研究者でも普通は入手不可能なハイテク機器を装備した少年少女であり、謎の超古代文明の秘宝を巡って戦いを繰り広げる。そして遺跡にあるのは太古の呪いとか神の祟りの代わりに「超古代文明のオーバーテクノロジー」なんですね。それも宇宙人の技術と言い切ってしまったりします……。本家ともいうべき「インディー・ジョーンズ」は『クリスタルスカルの王国』で一周して並んでしまった気がしますが……。
 『ダディフェイス』(2000)はこうした流れの中で登場した作品です。

 結城美沙は親孝行な娘であった。
 実父である歳の差9歳の草刈鷲士を世界中引っ張り回して危険な冒険に叩き込むのも愛と信頼あればこそ。鷲士と彼が思いを寄せる学園のマドンナ麻当美貴の仲を取り持とうと、2人に三重県まで泊まり込みのバイトをこっそり斡旋するのだが、途中で鷲士が記憶喪失の女の子を拾ってきたことから大騒ぎ。さらにはバイト先の旅館の界隈で勃発する怪事件に海坊主の出現。
 ついに美沙は近海に待機させていた原子力空母に出動を命じるのだが……。

 以前の巻では「ミニッツ級」になっていた空母が「ニミッツ級」になってますね。誤植だったのか、開き直ったのか。
 鼻に絆創膏を張りつけエヘンと胸をそらす綾代いずなさんが可愛い。こういうキャラに弱いのですが、全体的に寒々しい冬の海のイメージに覆われた伝奇アクション。人魚伝説の解釈も面白いし、敵はいずれも一筋縄でいかないくせ者ぞろいでシリーズ最高傑作だと思います。ラブコメ分が若干不足していますが、基本的に純愛の回なので無問題です。

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「俺の剣道(2) 嵐のように轟々と」 左近士諒

2009-10-15 | スポーツ・武道
「つまらなく囚われて、身動きできなくなるのは馬鹿だ! 世の中にはいろいろな花があり、いろいろな風が吹く! 囚われずに行け!!」
 無責任で良いということではないと念押ししての国分竹史の言葉。

【俺の剣道】【嵐のように轟々と】【左近士諒】【林律雄】【男子個人戦】
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「時の娘」 編:中村融

2009-10-15 | 時間SF・次元・平行宇宙
 ロマンティックな時間SFのアンソロジーということで、表題作『時の娘』はジョゼフィン・ティの安楽椅子探偵+歴史ミステリの方ではなく、タイムパラドックスを語るときに引き合いに出されることも多いハーネスの名作の方。なんか「アキレスとカメ」の命題みたいな人の悪さが感じられます。

「やましさというのは、じつは誇りのべつの形でもあるんだよ」
 年をとらないとわからないだろうけれどと謎の老人。

 『台詞指導』と『インキーに詫びる』は知らず知らずのうちに現在が過去と交錯する瞬間の物語で、『時のいたみ』と『かえりみれば』はやり直しパターンだけれど、同じテーマであっても素材の料理手法が違うところが比較すると面白いです。そこが作家の個性なんですね。
 シラスの、『むかしをいまに』は時間の流れが異なる世界の物語、C・L・ムーアの『出会いのとき巡りきて』は時空漂流譚。
 リーの『チャリティのことづて』は海外ロマンチックSF傑作選『たんぽぽ娘』に収録されていたものの新訳。そのヤングの収録作品が『たんぽぽ娘』ではなくタイムマシンで恐竜時代へ飛ぶ『時が新しかったころ』なのは、どこかが別にアンソロジーの準備をしているからだとか。それも楽しみだけれど、こちらの方がハッピーエンドで好みです。

「チャリティのことづて」 ウィリアム・M・リー
「むかしをいまに」 デーモン・ナイト
「台詞指導」 ジャック・フィニイ
「かえりみれば」 ウィルマー・H・シラス
「時のいたみ」 ハード・K・ファイラー
「時が新しかったころ」 ロバート・F・ヤング
「時の娘」 チャールズ・L・ハーネス
「出会いのとき巡りきて」 C・L・ムーア
「インキーに詫びる」 R・M・グリーン・ジュニア

【時の娘】【ロマンティック時間SF傑作選】【鈴木康士】【ボーイ・ミーツ・ガール】【タイム・パラドックス】【火星】【魔女裁判】【輪廻転生】
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