付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「NASA/トレック」 コンスタンス・ペンリー

2009-08-31 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
「偉業を成しとげるために危険をおかすのを怖れてはならない。けれども、無知で無謀なギャンブルに人命を賭けたりしないよう最大の注意を払わねばならない」
 1927.8/31『アウトルック』に掲載されたミルドレッド・ドーランを偲ぶ言葉の一節。

 「/」という記号は日本のヤオイにおける「×」と同じようなものと考えれば良いんですよね?
 この本は現実世界における宇宙開発の担い手である「NASA」と架空世界において人々を宇宙冒険へと誘ってきた「スター・トレック」という似て非なるものをスラッシュすることで、アメリカ社会におけるサイエンスとセックスとポピュラー・カルチャーを浮き上がらせようというもの。ファンタジーとリアリティーは裏表なのです。

 ただ第1部「NASA神話の光と影」でイメージで誤魔化されがちなNASAの無為無策、予算獲得のためのその場しのぎ、旧態依然の女性特別視、トラブルの原因隠しなどを指摘する一方、第2部「もうひとつの『スタートレック』ではスタトレ同人誌界での傾向と対策というか、どういう組み合わせが容認され、どのようなストーリー展開が非難されるか等について語っているわけですが、今ひとつ全体の構成がしっくりと頭に入ってきません。というか、この本全体で何が言いたいか飲み込めないのは真剣に読んでいないせいなのかな。
 さっくりまとめてしまうと、どちらも宇宙テクノロジーの象徴であり、互いに影響し合っていることは事実。頭が硬直しきっているNASAは、この際、スタトレ同人誌の方も見習って、ホモエロな平等主義と反人種差別思想で徹底的に染め上げなさい……ってことなんでしょうか?
 プロローグも第1部、第2部、エピローグもそれぞれの論としては面白いです。ただ、論文の構成として考えるのであれば、もうちょい一体化した方が読みやすくなる気がします。

 訳者はあまり『スター・トレック』を知らないのかしらねとあとがきの引用箇所を見て思いました。少なくとも日本版オープニングには思い入れはない模様。

【NASA/トレック】【女が宇宙を書きかえる】【コンスタンス・ペンリー】【NASAおたく】【スター・トレックやおい】【IDIC】【集団トラウマ】【スラッシャー】【シルエット・ディザイア】【チャレンジャー事故】
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「こちら南極 ただいまマイナス60度」 中山由美

2009-08-31 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 第45次南極観測隊に同行した朝日新聞の中山由美記者の1年半の記録です。
 やはり、こういう事業は継続して行われることが重要であり、そしてただ続けるだけでなく社会の注目を集め続ける工夫が大切だということはアポロ計画の例を見ても分かります(アポロ計画は月着陸の成功がピークで以後取材なども激減し、次に注目を集めたのは13号の事故。社会の関心が薄れると共に予算も縮小され……という顛末)
 そういう意味で、これ以後、毎年取材が入るようになったのは嬉しいことです。南極に朝日新聞から記者が派遣されるのは25年ぶり、越冬隊としては36年ぶりということで、長くご無沙汰でしたから。
 記者として同行……というとお客さまで付いていくだけと受け取られがちですが、何かあっても途中で引き返せない上、持ち込める物資も送り込める人員も制限のある極地です。女性記者といえどもゴミ拾いから施設の建設作業にまで駆り出され、話のネタに困るということはありません。片道400キロ、標高4000mというドーム基地への遠征にも同行して交替でドライバーを務めています。
 かといって、隊員と完全に一体になってしまっては取材者が取材対象と近くなりすぎて記事が書けなくなりますので痛し痒し。それで人間関係がおかしくなっても、狭い基地内では逃げることもできません。いろいろ苦労もあったようです。

 菌がいなけりゃ賞味期限なんか関係ないとは『面白南極料理人』でも書かれたことですが、同じようなエピソードを配信しようとしたら「好ましくない」と編集長に没にされたあたりにぬくぬくした東京とサバイバルな現地との温度差を感じます。そして、そのことも含めて結局単行本に収録してしまったあたり、やはり納得してなかったのでしょうか。暖かくても冷蔵庫並という気温で無菌状態。まだ食べられるものを食べましたと報告するのがそんなにいけないことなのかしら?と。

 『不肖・宮嶋……』とは違って「子供に読ませたい南極紀行」ですが、難をいえば個人レポートのまとめに手を入れたものなので全体の流れが把握しづらく、また隊員の個人名を出すのは極力避けているようなので、そのときそこに誰がいるとか何人いるとかほとんど分かりません。ドーム基地遠征も女性が全部で3人いたというだけで、誰が何していたかも分かりません。名前を挙げて事細かに報告すると『不肖・宮嶋……』のように非難を受けるからなのか、「私がこうした」についてはかなりあけすけな部分まで書いてあっても「他の人がどうしたか」はあまり分かりません。それは言葉の選び方ひとつで思いも寄らぬクレームがきて詰め寄られるエピソードの数々や、子供も読むことが前提のホワイトメールという媒体でインターネットによって毎日配信ということを考えると仕方がないと思います。でも、そこだけは『不肖・宮嶋……』や『面白南極料理人』と比較して物足りない点でした。
 他にも同行していた朝日新聞社カメラマン・武田剛の『ぼくの南極生活500日』とか、日刊スポーツ新聞の女性記者・小林千穂の『南極、行っちゃいました』とかも関連書として面白そうなので近いうちに手に入れて読んでみたいものだと思います。

【こちら南極 ただいまマイナス60度】【越冬460日のホワイトメール】【中山由美】【皇帝ペンギンの黒い肉】【生理】【横転事故】【寿司】【訴訟】【高速データ通信】
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「ガンパレード・オーケストラ 緑の章」 榊涼介

2009-08-30 | 異世界結合・ゲート・ゾーン
「死神の別の名前……を英雄というの」
 その血に汚れた手を畏れることなく、災禍を狩る者となれと金城に告げる石津萌。

 幻獣の奇襲を防ぎきれず広島の戦線は崩壊した。各所で部隊が壊滅し、殿軍を担当した第105山岳師団第1山岳騎兵小隊の生き残り学兵たちは、傷病兵を多く抱えた病院が存在するにもかかわらず自衛軍の援護も受けられずに孤立した村落に辿り着く。
 芝村英吏はこの町を拠点に戦闘継続することを画策し、16歳の山岳騎兵・金城美姫を小隊長に祭上げるのだが……。

 中国地方・山岳地帯を舞台にしたオーケストラ第2章です。アマゾンのデータに「熊本要塞までの補給路確保のため、山岳地域に展開していた」などと書いてあったので混乱しましたが、2000年2月から始まる話なので、この時点では既に熊本要塞は陥落しているのですね。「伝説の小隊」とか言われている5121小隊はかなり酷使されているようです。まあ、広島なら山口からすぐだからなんとかなるだろうけれど、石津萌の衛生兵っぷりが無敵です……。
 PS2ゲームの販売に合わせて押し込んだようなところがあるので、ちょっと駆け足気味なところのある榊版オーケストラ話ですが、特にこの緑の章は駆け足気味な気がします。斎藤奈津子の活躍とかもっとじっくり読んでみたいですね。

【ガンパレード・オーケストラ】【緑の章】【狼と彼の少年】【榊涼介】【きむらじゅんこ】【伝説の小隊】【空中輸送】【共生派狩り】【河原医師】
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「トレジャー・ハンター八頭大 ファイルVIII」 菊地秀行

2009-08-30 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
 最初に表紙イラストを見たとき、女戦士シャルロットがいるのに太宰ゆきがいない!と思った私は大馬鹿です。

『敵に後ろを見せるな、というのは、自殺好きなマゾヒストの台詞だ。猛スピードで撤退すれば、すべて解決する』
 八頭大の信条。結局解決しませんでしたが……。

 島に隠された秘宝を狙ってというか、ローラン共和国の王位継承問題に決着を付けて怪しい爺を蹴り出すために八頭大は島のゲリラに協力させて、無敵の超人兵士や正体不明の怪物たちに戦いを挑み続けますが、もちろんトレジャー・ハントもきっちりこなしています。
 しかし、[上][中][下][完結編1][完結編2][完結編3]というとむちゃくちゃ長い気がしましたが、こうやってまとまるとたったの2冊。なんか不思議な気分です。
 そして、これで最終章と思ったら、なにやら続編執筆を匂わせるあとがきです。それはそれで嬉しいけれど、合本版ノベルズ用の書き下ろし短編を集めた短編集をまず出すというのは詐欺みたいなもの。まったく朝日新聞社ときたら……。

【トレジャー・ハンター八頭大】【エイリアン魔神国】【菊地秀行】【米村孝一郎】【AK47】【キンチョール】【ローレンス・シュミット】【食人鬼】
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「不肖・宮嶋 南極観測隊ニ同行ス」 宮嶋茂樹

2009-08-29 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
「カメラのことは忘れてください」
 不肖・宮嶋にダンボール箱を手渡した金戸ドーム基地旅行隊長の言葉。総出で物資100トンの揚陸作業が始まるのである。

 「週刊文春」に連載された、カメラマン宮嶋茂樹が第38次南極観測隊の夏隊に同行した2ヶ月余の記録を、「吠える40度」「狂う50度」「叫ぶ60度」など156枚の写真と共に1冊にまとめたものです。
「ほとんどの隊員のかたからは喜んでいただいたが、一部よりは大変なおしかりも受けた」とあるように、真面目な観測隊の活動の取るに足らぬ部分ばかりを取り上げ、針小棒大に誇張して面白可笑しく書いたものなので、あとがきは謝罪文の山です。「不肖・宮嶋」の文章パートを担当している勝谷誠彦のあとがきもほとんど言い訳です。でも、それが単なる詫び状や愚痴にならないところも芸だと思います。
 ただし、こういう本だけ読んでいて南極観測隊のことを知ったつもりになっていてはいけませんが、長い間、しばらくまともなマスコミの取材は行われていなかったようでしたから、その空白を埋めるという意味で重要です。とにかく南極観測は簡単で楽な大名旅行とは違うんだという点は伝わってきますので、ここんところは重要。そして、真面目な南極観測隊の活動については他の本や雑誌、新聞、インターネットの記事で幾らでも読めるので、合間にこういう本を読むのも悪くありません。
 とりあえずチェックする必要があるのは宮嶋カメラマンに怒り狂っている西村淳の『面白南極料理人』と、その7年後の第45次隊に参加した女性記者の『こちら南極~ただいまマイナス60度』でしょうか。(09.08/29)

 子供への就寝前の読み聞かせは続けるようにしています。
 就学前は童話。小学生になったら、ガリバーの冒険あたりの児童版から始まって、ロフティングや佐藤さとるあたりを経由してファンタジーやSFへ行き、高学年になったら旅行記みたいなものへ。そして「あとは自分で読め」と宣言するか「自分で読む」と言い出したら卒業。
 まだ小学生だった長男への夜ごとの読み聞かせは、西村淳の『面白南極料理人』が終わって、最後には『不肖・宮嶋 南極観測隊ニ同行ス』に突入したあたりで終わったんじゃないかな。ハリー・ポッターを自分で読めるようになったら、親は用済みさね。
 ただ、『不肖・宮嶋……』は端折って読んでいかないと、「南極大陸に南極2号」とか「胸ポケットにコンドーム」とか、親として非常に説明に困る部分が多いんだよね。いや、そんな本、最初から選ぶなと言われそうだけれど、アムンゼンとスコットとか南極探検シリーズだったんよ。(07.08/27)

【不肖・宮嶋】【南極観測隊ニ同行ス】【宮嶋茂樹】【勝谷誠彦】【平成のレイテ作戦】【不運長久】【幻日】【南極ラーメン横丁】【「捨てたのではない。置いているだけである」】
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「僕は友達が少ない」 平坂読

2009-08-29 | 学園小説(不思議や超科学なし)
 ライトノベルは終わった!といわれてもう何年? 確かに発行部数は減っているようでもラノベ系といわれるレーベルは増える一方で、8月の電撃文庫新刊は15冊、HJ文庫は6冊、富士見ファンタジア文庫は11冊、ファミ通文庫が6冊、MF文庫が12冊。よく出るなあ。買って読むどころかタイトルを抑えるのも一苦労。まあ、なんのかのといってもライトノベルというのは「アニメ・コミック系のイラストを多用した、手軽に読める中高生向けの出版形態」なので、環境適応能力はありますよね。売れるジャンルはどんどんテコ入れし、売れないジャンルは撤退し、新しいジャンルも1冊2冊は冒険し……。
 ちなみに創元推理文庫は新刊15冊で、そのうちファンタジーが3冊、いしいひさいちのコミックが1冊、あとはミステリ・サスペンス系です。SFは1冊もないじゃん……。

「友達がいないことがイヤなのではなく、学校とかで『あいつは友達がいない寂しいやつだ』と蔑むような目で見られることがイヤなのだ」
 三日月夜空の告白。これは「友達百人なんてできなくてもいいから、百人分大切にできるような本当の友達を作りなさい」と対になる言葉。

 それはともかく、先日知り合いに薦められたのがMF文庫の『僕は友達が少ない』。今月のお奨め作品。どんな話かと聞いてみると「すごく笑えるけれど話としては何も進展しない、ぬるい学園4コマみたいな話」。昔なら「学園ユーモア」でひとくくりにされていそうです。

 高校2年にもなって聖クロニカ学園に転校してきた羽瀬川小鷹には友達がいない。
 彼が偶然出会った少女・三日月夜空には「エア友達」はいる。エア友達がいるということはリアル友達はいない。けれども夜空には無駄な行動力だけはあり、小鷹を引き込んで友達作りを目指す「隣人部」などという残念な部を作って顧問まで見つけてきてしまう。しかも何を間違ったか、そんな残念な部なのに続々と残念な美少女たちが入部してくるのだが……。

 クラスに友達がいないなら部活をすればいいじゃん? 中途から部活を始めるのがイヤなら新しい部を作ればいいんじゃない? そんな連想から始まる、友達ってなんだろう?と考えさせられる1冊です。考えないけど。さんざん笑いながら一気に読んでしまっただけですが。
 確かに4コマ的に1章で1エピソードが完結するような流れですが、とりあえずこの巻は小鷹と夜空、それに性格以外は完璧な美少女・柏崎星奈の3人の関係を丹念に追っています(ほとんど罵りあいですが)。見た目は美少女な男子生徒の幸村とか小鷹の妹で電波系の小鳩とかも登場しますが、それほどぶれないところは侮りがたし。
 最後の2章で一気にフラグがポンポンッと立ったと思ったら、もう1本も立ちかけて、どうなるかと思ったところで続く。次も冒頭から荒れそうだあっ!
 うん。夜空も星奈も1対1でつきあう分には攻略可能です。真剣で斬り合っている中に飛び込む勇気が必要ですが……。

【僕は友達が少ない】【平坂読】【ブリキ】【残念な美少女】【闇鍋】【礼拝堂】【エア友達】【脳内遊園地】【キリスト教】【聖クロニカ学園】
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「南極新聞」 編:朝比奈菊雄

2009-08-28 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 第45回の南極観測隊には朝日新聞社が女性記者を派遣し、インターネットを通じての現地報告などが話題となりましたが、そもそも朝日新聞社は第1次南極観測隊から既に同行取材の記者を派遣しておりました。
 1952年に国際学術連合会議が国際地球観測年を提唱し「国際協力で地球を観測しようぜ!」と呼びかけ、日本もそれに応えたもののまだ敗戦直後。南極観測までは手が出す余力がないと渋っていたのを、朝日新聞社のキャンペーンが後押ししたという縁があってのことです。
 その1956年の第1次南極地域観測隊において往復の観測船<宗谷>の船上で発行されたガリ版刷りの日刊新聞を縮刷したもので、上中下の3巻セットです。
 船内でおこなわれた行事や売店や理容店の開店情報、気象状況・緯度経度から赤道祭、途中で購入した物品等についても記されていて、航海中の様子を知るのに最適の書です。
 一時期、航海をテーマにした同人PBMを主催していまして、その参考に何か航海の様子がわかる本がないかと訊いて回っていましたら、スギヤくんが「これがいいですよ」といって貸してくれたもの。困ったときに何かを訊くと、すぐに答えてくれる人が周囲にいるのはありがたいことです。

【南極新聞】【朝比奈菊雄】【赤道祭】
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「トレジャー・ハンター八頭大 ファイルVII」 菊地秀行

2009-08-28 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
「資料や情報は、最後の決断を容易にさせる手段にしかならない。最終のゴー・ストップは人間が下す。だからこそ、悲劇が生まれるのだ」
 18歳にして国軍を率いて冷戦下の米ソ連合艦隊を討ち下した伝説の英雄、ローラン共和国軍人コーネル・ヤンガーの言葉。

 ソノラマ文庫から刊行されていた菊地秀行のエイリアン・シリーズの合本版、「トレジャー・ハンター八頭大」もついに最終章……というか、まだ続きます。なにせ、話が伸びに伸びたエピソードです。上巻が出たから次は下巻かと待っていたら中巻で、次の下巻で終わりと思ったら完結編が続き、その完結編も「完結編3」まで行ってしまった大風呂敷です。うちの嫁さんは序盤で脱落しちゃいましたが、なるべくしてなった最終章。あの執事の弟やら死霊秘宝館館長マリアに箱船の蛮人リマも登場。さらには聖騎士シャルロット・クレマンティーもメンバーに加わって、謎のプリンスともども南洋のローラン共和国へと潜入しますが、相棒が銭の亡者にして裏切り御免の太宰ゆき、さらにイヤでも付いてくる疫病神というか貧乏神の執事・名雲陣十郎とあっては前途多難、波瀾万丈。解決させる気があるのか疑わしくなる探索行です。

 米村孝一郎の八頭大は最後まで馴染めませんでした。好きなマンガ家ですが、大ちゃんは普段は金持ちのボンボンにしか見えなかったりする人ですから、こちらのもみあげたっぷりの大ちゃんはちょっとワイルドすぎな気がします。ゆきとかプリンスは文句なしですが。

【トレジャー・ハンター八頭大】【エイリアン魔神国】【菊地秀行】【米村孝一郎】【恥かき巨人戦争】【単分子ワイヤー】【巡航ミサイル】【人狼】【ミイラ】【機械服】【地獄横丁のマリア】
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「ロビンソン・クルーソー(下)」 ダニエル・デフォー

2009-08-27 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 35年間も無人島に島流し。奇跡の生還を遂げ、その間にブラジルに持っていた農園の権利が膨らんで財産家に。素敵な奥さんを見つけてイギリスで結婚して7年、2人の子供に恵まれて早61歳。農園経営も順調というロビンソン・クルーソー。
 平均寿命が30代前半という17世紀末のイギリスの話です。私だったら「そろそろ足ることを知ってもいいんでない?」と言いたくなりますが、ダメなんですね。この男は……。
「神様が行けとあなたにお命じになっておられるのでしたら、わたしにも一緒に行けとお命じになっておられると思います」
 そんなことを言う“できた”妻が死んでしまったものだから存在意義を見失ってしまいます。まだ上の子が5歳かそこらという2人の子供は人に預けて財産を信託し、またふらふらと航海に……って、酷い親だよなあ……。碇ゲンドウって、絶対こういうタイプですよね。
 そんなロビンソンが今度はアフリカ・アジア方面にふらふら航海する旅の物語で、彼の残してきた無人島の後日譚が半分くらい。

 物語の展開そのものよりもキャラクターの描写や会話に紙幅が費やされるのが昨今のライトノベル的小説。物語の展開そのものやキャラクターの描写よりも見慣れぬ世界での風習や博物学的関心事に紙幅が費やされるのがベルヌの小説。そしてこの話は、物語の展開そのものよりも宗教的命題に関する言及と経済取引に関する克明な記録に紙幅が費やされています。これが第2部。ちなみに第3部『ロビンソン・クルーソー反省録』は文学史か経済史の研究者しか読まない、信仰と倫理と社会問題の思索ばかりなんだとか。
 キリスト教的寓話だそうだけれど、「産めよ増やせよ地に満ちよ、後は野となれ山となれ」でいいんですか? それとも反面教師? 確かに、いわゆる名作文学には『小公女』とか『秘密の花園』など「金持ちの両親に放置された少年少女の物語」が目立つ気がします。少なくとも、お金持ちの両親が子供の傍にいる名作って読んだことがないな。そういう時代だったのでしょうか?

【ロビンソン・クルーソー】【ロビンソン・クルーソーのその後の冒険】【ダニエル・デフォー】【海賊】【餓死】【宣教師】【放浪癖】
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「少女ファイト(4)」 日本橋ヨヲコ

2009-08-27 | スポーツ・武道
「特別な人間なんていねんだよ。そいつが何をやってきたかが特別なだけだ」
 だから自分のふがいなさを才能やセンスのせいにするなと、黒曜谷高校女子バレー部コーチ、由良木政子の言葉。

【少女ファイト】【日本橋ヨヲコ】【バレーボール】
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「理由あって冬に出る」 似鳥鶏

2009-08-27 | 学園小説(ミステリ)
……何が出るかというと「幽霊」が出る。

 使い道の決まらないまま放置された校舎にさまざまな文化部が寄せ集まって生まれた芸術棟。そこにフルートを吹く幽霊、もしくは行方不明の部員の霊が出るという噂に練習のできなくなった吹奏楽部をなんとかするため、吹奏楽部部長らの夜番に付き合うことになった美術部の葉山君。
 ところが予想に反して本当に幽霊が現れたため、真相解明のため文芸部部長である伊神さんに出馬を要請する羽目に陥るのだが……。

「本質的に人は皆、矢追純一だ」
 怪奇現象がそこで起きれば、怖いとか思う以前に真偽を確かめてみたくなるものなのだ。

 「コミカル学園ミステリ」というふれこみだけれど、コミカルというのとはちょっと違うかな。キャハハガハハと笑い飛ばすようなものではないですね。クリスティーのミス・マープルものとか、クレイグ・ライスの『スイートホーム殺人事件』とか、北村薫の『覆面作家は二人いる』とか、あんな感じのちょっとクスリとかニヤリとか笑ってしまう感覚の作品に、ライトノベル的な学生生活のフレーバーを振りかけた……といった雰囲気です。ちょっと前なら富士見ミステリー文庫あたりに登場していて不思議はないかもしれませんが、第16回鮎川哲也賞佳作で創元推理文庫からの登場です。等身大の高校生が直面する、謎と大人社会の暗黒面と友情の物語。
 まだ荒削りという感じなところはありますが、話として面白いので問題なし。前代未聞の斬新なトリック、議論の余地のない動機、すべての描写や会話が謎解きにかかわってくる緻密な構成……というような珠玉の本格ミステリを求める人には期待はずれだと思いますが、そういう人はクイーンの『フランス白粉の謎』かクリスティーの『オリエント急行殺人事件』あたりを読み返していればよろしい。
 ただ、あの柳瀬さおりの花言葉への反応について、葉山君はもっときちんと考えるべきです。

【理由あって冬に出る】【似鳥鶏】【toi8】【第16回鮎川哲也賞佳作】【アイヌ語】【花言葉】
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「林さんチャーハンの秘密」 林政明

2009-08-26 | 食・料理
「日本のアウトドア料理はカッコつけの域を出ていないように思うのだ」
 アウトドア料理の本だと、4駆車で乗り付け、河原で海の料理パエリアを固形スープで作らせたりするけれど、これっておかしいんじゃない?

 椎名誠の「怪しい探検隊」シリーズなどを読んでいるとしばしば登場するのが、アウトドア料理人の林(リン)さんこと林政明。この林さんが怪しい探検隊のエピソードと共に語る野外料理の秘訣とテクニック。料理本ではなく、キャンプでうまくみんなに働いてもらう秘訣からテレビ番組『椎名誠と怪しい探検隊』のぐだぐだロケの裏話まで、野外料理を中心に据えたアウトドア・エッセイです。最後の方には代表的メニューの作り方も載っています。
 カッコつけではない、実践的アウトドア料理のお話なので、ボーイスカウトなのでキャンプに行く人間は目を通す価値ありです。

【林さんチャーハンの秘密】【野外料理の真髄は<現場>と<焚火>と<心>】【林政明】【上海鍋】【焚き火】【ピー子ちゃん】【豆腐】【イワナ】【現地調達】
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「修道女フィデルマの叡智」 ピーター・トレメイン

2009-08-26 | ミステリー・推理小説
「愛が経済的に生活を保障してくれるんですか?」
 夫を失った若い妻の言葉。身も蓋もありませんね。

 諸国をめぐる修道女フィデルマは、ひとたび事件に遭遇すれば法廷弁護士として捜査に取りかかり、あざやかな推理で真相を白日の下にさらけ出すのである。
 フィデルマが遭遇した5つの事件が1冊にまとめられました……。

 眉目秀麗な若い尼僧にして先王の王女であり、知恵も知識も豊かでラテン語も堪能。さらには高位の法廷弁護士の資格を持ちつつ護身術にも優れているという……それ、なんて厨設定? まあ、正統派の「名探偵」といわれればそうかもしれませんが……。
 衆人環視のもとで実行された毒殺事件から雪山の旅籠に出現する幽霊の怪までバリエーションに富んだ短編が集められていますが、いちばん面白かったのは1500年間封印されていた霊廟でおこなわれた殺人の謎を解く『大王廟の悲鳴』でした。
 
【修道女フィデルマの叡智】【ピーター・トレメイン】【ブレホン法】【アンルー】【タラの祭典】【毒殺】【刺殺】【盗難】
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「ガンパレード・オーケストラ 白の章」 榊涼介

2009-08-25 | 異世界結合・ゲート・ゾーン
「用意された運命に逆らえ。否、と荒々しく拳を振り上げろ。存分に動き、傍若無人に振る舞え。運命をしてあわてさせ、おまえと部下たちを救え。誰も、常識的で思慮深い石田咲良なる生き物には従わんだろう」
 石田咲良はペンギンが話しかけてくるなどとは信じない。どうせ自分の内面の声に過ぎないと思っている。けれども、その助言に従うことに否はない。もはやハードボイルドに生きるか良識的に死んでいくかの二択なのだ。

 ゲームとしては面白いけれど初期バグに泣かされた『ガンパレード・オーケストラ~白の章』の小説版で、ゲームのノベライズでもないし、かといって芝村版無名世界観やCDドラマ版に直結するようなものでもなく、あくまで榊涼介解釈によるオーケストラ話です。『ガンパレード・マーチ ファンブック』を読んだ勢いで再読中です。
 本編ともいうべき榊版『ガンパレード・マーチ』が休戦に持ち込んで一区切りついたのを機会に読み直していますが、そういえば1999年12月の1ヶ月の話だったんですね。善行さんが東京であれこれ準備していた時期ですね。正月どころかクリスマスにも言及してないや。

 士官候補生として将来を有望視されていた石田咲良は、人型兵器の有効性を主張するレポートを書いたばかりに東京の陸軍士官学校から青森へ左遷。隊長として赴任した小隊は、装備劣悪にして士気最低の部隊だった……。

 新米女性士官が試行錯誤しながらダメ部隊を再生し、自分たちが生き残るだけではなく、他の人を守ることのできる部隊にするまでの物語。
 ガンパレ本編のサイドストーリーではあるけれど、もっとじっくり彼らの話を読みたいですね。

【ガンパレード・オーケストラ】【白の章】【青森ペンギン伝説】【榊涼介】【きむらじゅんこ】【分解掃除】【ハードボイルド】【ヒロイン天国小隊】【憲兵】【偽造書類】
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「ロビンソン・クルーソー(上)」 ダニエル・デフォー

2009-08-25 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 夏休みに読む本といったら、『十五少年漂流記(二年間の休暇)』や『ロビンソン・クルーソー』のような漂流記が定番のような気がします。夏=海=漂流という短絡的な発想ですが。それをいうなら『コン・チキ号漂流記』も入る気がしますが、あれは正確には漂流ではなく「航海」ですからちょっと違います。それなら『エンデュアランス号漂流』の方が遙かに漂流だけれど、あまり夏に読む本ではないかもしれません。

 子供の頃、きちんとした本として最初に読んだのが『ロビンソン・クルーソー』。まだ、小学校にあがらない自分が、薄暗い納戸を手直しした部屋に置かれた机で一生懸命に読んでいた記憶がありますが、今あらためて全訳で読み返すと長い。ストーリー的にはしょったところはないけれど、やはり描写が細かい。神への信仰について自問自答している箇所も多いし、何を幾らでどれだけ買ってどれだけで売ったとかいうような帳面上の記録が細かい。それに年月がぐんぐん流れていきます。ろくな道具もないまま無人島に孤立してしまえば、テーブル1つ作るのも何週間、家畜の柵を完成させるのに何ヶ月という作業ですから仕方がありません。10年20年があっという間です。
 今でも読んで面白かったし、岩波文庫版も思ったほど読みづらくなくて良かったですね。意表を突かれたのは、いわゆる『ロビンソン・クルーソー漂流記』として児童書で知っていた部分が上巻で終わっていたこと。そうかあ、下巻はまったく違う話なんだ……。
 『ガリバー旅行記』が巨人の国と小人の国だけでなかったのと同じですね。(2009/08/25)

 ちなみに正式なタイトルは「The Life and strange surprising Adventures of Robinson Crusoe, of York, mariner, who Lived Eight-and-twenty years all alone in an uninhabited Isiand on the Coast of America, near the mouth of the great River Oroonque, having been cast on shore by shipwreck, where-in all the men perished but himself. With an Account how he was at last strangely delivered by Pirates, Written by Himself.」、大ざっぱに訳すと「船の遭難で他の船員が全滅したにもかかわらず、ただ1人生き残り、アメリカ海岸オリノコ河の河口近くの無人島で28年間たったひとりのサバイバルし、海賊に発見されて救出されるまでの一部始終を彼自身で書き記した、ヨークの船乗りであるロビンソン・クルーソーの生涯と奇しくも驚くべき冒険」くらいな感じ。省略して『ろびんそん!』。
 昨今の「ライトノベル」やら村上春樹の新刊のタイトルが長いなどと言っても、せいぜい先祖返り。『がりばー!』こと『ガリヴァー旅行記』も正確には『船医から始まり後に複数の船の船長となったレミュエル・ガリヴァーによる、世界の諸僻地への旅行記四篇』こと「Travels into Several Remote Nations of the World, in Four Parts. By Lemuel Gulliver, First a Surgeon, and then a Captain of several Ships」なんだそうですよ。あと、有名どころだと映画『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』こと「Dr. Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb」というのがあります。
 タイトルに限らず、章題がそのままあらすじのような作品もそんなに珍しくないんですけどね。(2013/05/01)

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