付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「コブの怪しい魔法使い~(株)魔法製作所」 シャンナ・スウェンドソン

2009-04-30 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
「ああ、マーリン。戻ってこられたのですか? まさか、アーサーをふたたび玉座につかせるなんてばかげたことをするためじゃないでしょうね」

 自分が側にいると足手まといになると考えたケイティがオーウェンのもとを離れ、故郷のテキサス州コブへ帰って3ヶ月。実家の肥料店の手伝いにてんやわんやの日々が続いている。
 そんなある日。土地に魔力がほとんどないから魔法使いも魔法の生き物もいないはずの街で不思議な事件が起き始める。最初はモーテルのガラス窓が消えるというたわいのない事件だったが次第にエスカレート。ケイティは一癖も二癖もある兄たちや義姉、両親、祖母らに揉まれて大騒ぎしながら事件の真相解明に乗り出すが……。

 シリーズ第4弾は、おばあちゃんはなんでも知っている☆という話。
 現代社会に潜り込んで生きている魔法使いや魔法の生き物とかかわることになったOLケイティの冒険も、舞台をニューヨークからテキサスの田舎町へと移し、騒々しいケイティの家族を中心に宿敵イドリスとの戦いが繰り広げられます。続々と集結する敵の大部隊(笑)をケイティとオーウェンは撃退できるのか!? スリル満点の大決戦です。

【コブの怪しい魔法使い】【(株)魔法製作所】【シャンナ・スウェンドソン】【テキサス】【通信教育】【スターウォーズ】
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「わしらは怪しい雑魚釣り隊」 椎名誠

2009-04-29 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 椎名誠が怪しい仲間たちとあちらこちら旅してキャンプして大騒ぎする<怪しい探検隊>の釣り編。今回はあちらこちらの海で雑魚を釣り上げては「雑魚だってちゃんと料理すれば美味いんだもんねー!」とメシ食って酒呑んで大騒ぎする話だけれど、魚は別に自分で釣らなくて買ってきても良いそうです。その代わり釣れないと思いっきりバカにされますが……。

「ヒャー今回は毒のない魚が食えるんですねー!」
 大量のイワシが釣れるらしいと聞かされ喜ぶドレイの言葉。

 あいかわらずの怪しい面々。こういうぐだぐだな話は好きなんです。
 それから、実は八丈島で購入した「第一東ケト丸」という漁船がどうなったのか前から気になっていたのだけれど、それも今回消息が判明。なるほどーそうかーと納得。うーむ。こわいなー。

【わしらは怪しい雑魚釣り隊】【椎名誠】【つり丸】【ドレイ制度】【釜玉うどん】【シイラ】
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「デュラララ!×5」 成田良悟

2009-04-28 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
「青春時代っていうのは、スリルがないといけない」
 あちこちに火種をばらまき、人を煽って回る折原臨也の言葉。

 買ったのはずいぶんと前だけれど、やっとこさ読めた1冊。同じ成田作品でもこのシリーズは疲れるんだよね。まともな登場人物がセルティ・ストゥルルソンだけで、そのセルティも首がない。他のキャラは軒並み狂ったように暴れているか、静かに狂っているかのどちらかという話だから、読むのに体力と気力がいるんですよ。
 おまけに今回は穏やかな日常が終わって(?)新たな争乱が始まる話なので、とっちらかるだけとっちらかって終わる回。池袋の街を舞台に、「常識人」という言葉が誉め言葉にならない話でした。
 面白いことに間違いはないので、買ったまま放置して次巻が出てからまとめ読みした方が良かったかも。

【デュラララ!×5】【成田良悟】【首無し妖精】【ストリートギャング】【妖刀】
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「激辛!夏風高校カレー部 いもうと付」 神楽坂淳

2009-04-27 | 食・料理
 廃部寸前もしくは部そのものがない、あるいは正規のメンバーが動けなくなったため、寄せ集めのメンバーが大きな大会で実績をあげようと頑張る!というのは部活を舞台とした学園モノの王道パターン。『私闘学園』とか『ウォーターボーイズ』とか『スウィングガールズ』とか(偏ってるなあ)。
 この話もその1つなんだけれど、「カレー部」というのがミソ。全国高校カレー選手権大会をめざす夏風高校カレー部だったが、決勝直前にレギュラーチームが交通事故で出場不能となり、幽霊部員と臨時メンバーが生き残りの部長と共に挑む……とまさに王道。カレー部ってなに?とかカレー作りの全国大会ってなに?というツッコミはなし。確かに「どこの華麗なる食卓?」とは思いましたが。
 個々のエピソードは面白いし、キャラクターにも好感が持てましたが、全体の評価としては「もう一歩」。もうひとつかみチリパウダーを放り込んで一晩寝かしてもらいたい……という感じ。大会の説明についてp14とp29でほとんど同じ内容が書かれてたりしますし、全体の練り込みが少し不足気味かと思いました。
 キャラ的には主要登場人物に名前もあげてもらえないコジマ君が良い感じ。まさか本当に幽霊だったというオチかと思ったくらい。

【激辛!夏風高校カレー部 いもうと付】【神楽坂淳】【君平ユウキ】【糸電話】【コジマ君】
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「“文学少女”と飢え渇く幽霊」 野村美月

2009-04-26 | 本屋・図書館・愛書家
「オレは、精神的マゾなんです。女に愛憎の混じった目で見つめられて罵られると、ぞくぞくする。だって、人間の感情で一番強いのは憎しみじゃないですか?」
 憎んでいる方が愛も続くと語る櫻井流人の言葉。結局、愛に飢えているのです。

 文芸部の相談ポストに投げ込まれた謎の紙片。おっかなびっくり調査に乗り出す天野遠子だったが、遠子と心葉の前に現れた少女は「わたし、もう死んでいるの」と笑った……。

 名作文学をモチーフに物語が繰り広げられる文学少女シリーズも第2弾。ビターテイストのラブコメとかミステリとかキャッチコピーがつけられてますが、つまりは仮面をかぶった登場人物らの愛憎劇。妖怪「文学少女」こと遠子先輩の本一途でぽややんな性格と後輩で「おやつ」係の井上心葉のやりとりに誤魔化されていますが、今回も重く救いの見えない話です。クラスメイトでいつも落ち着いている芥川くんやツンツンな琴吹ななせも少しずつ存在感を増しながら伏線をちりばめ始め、理事長の孫娘である姫倉麻貴も単なる傍観者ではなくなっています。

 作品中で言及されていたマクドナルドの『王女とゴブリン』は岩波少年文庫版の『お姫さまとゴブリンの物語』で読みましたが、寓話的に放り投げて終わる結末で、まったく救われないエピローグでした。
 せめて文学少女は「めでたし!」と言い切れる結末で終わると良いなと思いました。

【“文学少女”と飢え渇く幽霊】【野村美月】【嵐が丘】【ハーレクイン】【マクドナルド】
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「機動内親王 澪子様の冒険1~女皇の帝国外伝」 吉田親司

2009-04-25 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 本編は読んでいないのだけれど、『機動内親王』というネーミングに負けて購入。本来あり得ない単語の組み合わせには弱いのです。普通だったらスパイ映画や小説のタイトルをもじりそうなところを「機動」と来たか!という侠気に負けました。「宮内中央情報調査室」ってのもすごいな。

 とある1941年12月。空路ベネチアへ降り立った旅客機が爆発。乗客であった大日本帝国の内親王・駒条宮澪子はからくも難を逃れると、負傷した斉藤侍従長が残した謎の言葉「銀盤を手に入れよ」に従ってヨーロッパを駆ける。共に従うのは執事・黒磯に看護婦のハツ。それを追うのはソ連の刺客3人組チーム<カサノヴァ>。
 華麗な黒ドレスに身を包んだ帝国プリンセスの大冒険が始まる!

 背丈の小さなプリンセスと長身看護婦の凸凹コンビが活躍し、男装の執事やらメカマニアが加わって、空に陸にの冒険の旅。
 ただ、表紙はイラストに紛れて気がつかなかったのだけれど、最後に物語は「続く」で終わっていて、背表紙を見たら確かに「1」の文字が入っています。しまった! 一発ネタだと思っていたら続き物なんだっ!?(まあ、面白かったからいいや)

【機動内親王】【澪子様の冒険】【女皇の帝国外伝】【吉田親司】【飛行船】【温泉】【秘密基地】【ピザ】【鍋焼きうどん】【アラン・チューリング】【氷山空母】
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「マリア様がみてる/レディ、GO!」 今野緒雪 15

2009-04-24 | 学園小説(不思議や超科学なし)
『やってみなければわからないかもしれないけれど、やってみなくてもだいたいわかってしまえることはある』

 学園祭の前にまず体育祭。手術を受けて人並みに動けるようになった由乃は実行委員にもなって大張り切りだが、その舞台裏で彼女はできもしない約束をしてしまう。
 一方、喧嘩別れしてしまった可南子と賭をしてしまった祐巳は……。

 楽しい体育祭編。祥子との絆を深めてきた祐巳は、いつの間にかしっかり者の副官タイプに成長。扱いにくい上官の面倒を見るのが上手になりました。そりゃあ、ファンもつくわなあ。いがった。
 そして苦手なタイプの人であっても一度縁があった人なら大事にしていこうと考えるようになった祐巳は、瞳子や可南子との縁も積極的につないでいくわけですが……、そのわりには柏木さんには冷たいなあ。

【マリア様がみてる】【レディ、GO!】 【今野緒雪】【体育祭】【借り物競走】
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「となりのウチナーンチュ」 早見裕司

2009-04-23 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
「かなう程度の夢を見ているのでは、その人間はたかが知れている。絶対に無理なことに向かって挑戦し続けるのが、夢だよ」
 青蛙神のお言葉。いつか仮面ライダークウガになれるといいね。

 15歳の新垣彩華は物書きの父親と沖縄で2人暮らし。貧乏だがそれで困ったと思ったことはない。
 だが、ある朝、つい声をかけてしまったリビングの蛙が返事をしたのには驚いた。だから、彩華は神経科のお医者へ行った。お金がかかるがやむを得ない。でも、あいかわらず蛙は話しかけてくる。自分は神様だ。明日、隣の部屋に人が引っ越してくるから、そうしたら少しは信用しろという。
 次の日、失業して東京から引っ越してきた和久と夏海の父娘が隣の部屋に姿を現した……。

 沖縄を舞台にした、ちょっと不思議な都市奇譚。
 早見裕司は文庫売り場でしかチェックしていなくて、「ここのところメイドものばかり出ているなあ」と思いこんでいたら、オンライン書店で学園ミステリでも『メイド刑事』でもない新刊が出ていると気づいて慌てて注文。そうしたら、お馴染みのキャラがちらっと顔を出していたのでなんか嬉しくなってしまいました。ああ、同じ世界なんだと。ただ、そうするとクウガが2000年の放送だから、この作品とは時系列がちょっと合わない。まあ、気にしなくて良いか。
 日常の延長線上で起きる、ちょっと不思議な物語。2人の少女が出会い、仲良くなり、海に行って沖縄そばを食べるまでの物語……というと何のことかと思われるかも知れませんが、そういう話なんです。神通力があるのかないのかよく分からない蛙の神様が素敵です。

【となりのウチナーンチュ】【早見裕司】【蛙の神様】【クーリングオフ】【生き霊】【台風】【水淵季里】
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「精霊海流」 早見裕司

2009-04-22 | 学園小説(不思議や超科学あり)
「来るときは来る、来ないときは来ない。心の準備をして待っていれば、会いたい人は、向こうからやってくるものだよ」
 国際市場のおばあさんの言葉。

 高校生・水淵季里はこの世でないものを見たり聞いたりできる「力」を持つが虚弱体質であり、また「力」の影響で人混みに出るだけでも消耗してしまうので大きな街へ出かけるのも避けるようにしている。
 そんな季里が沖縄へ飛ぶことを決意した。
 彼女の初めての友人、比嘉告未から助けを求める手紙が届いたのだ……。

 沖縄から来た少女・告未と季里の交流を軸に、今なお息づく沖縄の神々を描いた1冊で、水淵季里が高校2年生だった1998年夏の物語。美砂と陣内はあいかわらず活躍していますが、恭司はあいかわらず空気のような存在です。保護者役に徹していてどうする!?
 さて、季里と上出委員長の対比も面白いですね。どちらも、端からは他人のために頑張っているように見えるのに、見えるものが違うばかりに最後まで相容れないのです。季里がはっきり自己主張できるようになっただけ、骨を折った甲斐があったということでしょうか。
 この作品でTMRに言及されていますが、「米米CLUBの世代には今の音楽はついていけない」という文脈なので、当時流行りの歌という位置づけですね。メモめも。
 
【精霊海流】【早見裕司】【サーダカ】【水淵季里】【米米CLUB】【TMレボリューション】【沖縄戦】
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「ずっと、そこにいるよ。」 早見裕司

2009-04-21 | 学園小説(不思議や超科学あり)
 古びた図書館の書庫の一角に、文芸部の部室が設けられている。
 部室を来訪した男は文芸部員たちに1枚の写真を差し出して何が写っているか訊ねるが、それはこの図書館の書庫の写真だった……。

 家族の死をきっかけに、人に見えないものを視たり聞いたりすることができるようになった水淵季里の物語で『夏の鬼・その他の鬼』の続編。高校2年生になった季里が出会った6つの物語。

 『夏の鬼・その他の鬼』がエニックスEXノベルズからソフトカバーで2000年12月に刊行、その続編の『精霊海流』がソノラマ文庫から2004年3月。そして2007年12月の『となりのウチナーンチュ』を挟んで、理論社からハードカバーで2008年6月。原型となったアニメージュ文庫版は1988年だから、実に20年以上判型を変え、出版社を変えて水淵季里シリーズは続いているわけで、作者もエライが追いかけ続ける読者も誉めて欲しい。

 あくまで都市奇譚であり季里の物語なので、背筋も凍る学園ホラーとか、邪霊と戦うバトルアクションを期待すると拍子抜けだし、ラブコメとかスポ根の要素だって微塵もない。かといって、普通の青春小説のつもりで読むと、誰もいないのに足音だけするとか写真に少女が写るとか不思議な現象を誰もが自然に受け止めていて調子が狂うかも知れません。この静かで不思議な空気を味わい、最後に少しホッとするというのがこの作品の楽しみ方ではないでしょうか。
 ただし、これだけ高校生男女がいて色気のある話がこれっぽっちも出ないので、はっきり言って幼なじみにして同居人の相沢恭司は空気みたいなものです。生徒を見守るだけの森本先生も同様で、実は季里以外は、反省することの多いアネゴ肌の美砂と名前を口に出すとどこからともなく現れる理系の陣内の2人がいればレギュラーは事足りるという感じ。
 保健室の宇崎先生がいつの間にか土岐先生になっていたのも気になります。他のメンバーはそのままなだけに、異動はない方が良かったですね。

【ずっと、そこにいるよ。】【早見裕司】【ミルクコーヒー】【傘】【図書館】【水淵季里】【三日月】
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「俺の妹がこんなに可愛いわけがない(3)」 伏見つかさ

2009-04-20 | 学園小説(不思議や超科学なし)
 美人でプロポーションも良くて勉強も運動もできるけれど、性格に裏表があって隠れた趣味がアニメ鑑賞と18禁ゲーム(妹もの)という中学生の少女・桐乃。その桐乃に兄・京介は振り回され、創作活動に目覚めてケータイ小説を書き始めた妹のために京介はあちらこちらの取材に付き合わされるのだが……。

 自分勝手でわがままだけれど運と才能に恵まれた少女がトントン拍子に成功を手に入れ、世の中を甘く見て窮地に陥っても普段はバカにしている兄や友人が「妹だから仕方がない」「トモダチだから仕方がない」と助けてくれるけれど、せっかく手に入れた成功も「もう飽きた」とあっさり手放すような少女の話。編集者の創作指導付。

 後ろから蹴りを入れて良いですか?

 このアニキもいい加減お人好しですね。かなり徳を積んだ御方とお見受けしました。このおたくな妹とその友人、そして一般人の兄だけの話だったら1冊目で投げてます。京介とその幼なじみの田村麻奈実、麻奈実の弟のロックのエピソードが定期的に挟まっているからこそ読んでいるんです。
 ただ田村姉弟は普通にイイヒトなので、彼女たちだけだと話が持たないかも知れません。ゲキ辛料理の合間に食べるあっさり味の白菜漬けみたいな感じ。もうゲキ辛とかデカ盛りに心ときめく歳ではないので、美味しいお漬け物を熱いお茶と一緒にゆっくり愉しみたいのですが、そこだけが残念。
 話の山場は、京介が黒猫と編集部に乗り込んだシーン。読者ウケを優先して書き飛ばす桐乃より、文章作法をしっかり勉強して自分の書きたい物を書いている黒猫の方に好感をもてますので、この経験で「読者の視点」を学んだ黒猫の成長が見たいものです。まだ中学生なので、これからに期待しましょう。書きたい気持ちを持ち続け、書き続けることが重要なのです。

【俺の妹がこんなに可愛いわけがない】【伏見つかさ】【かんざきひろ】【ケータイ小説】【妹】【デリヘル】【編集部】
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「夏の鬼 その他の鬼」 早見裕司

2009-04-19 | 学園小説(不思議や超科学あり)
「運命っていうのは、人間を、流れに乗せて運んでくれるものじゃないの。意味を与えて、やってごらん、っていう……そう、試験ね。人間は、生きている限り、何かの試験からは逃げられないのよ」
 水淵栄子の言葉。

 小学生のときに両親と姉を交通事故で失うことを予知して以来、水淵季里は「常ならざるもの」を見るようになっていた。身寄りのなくなった季里は姉の婚約者であった相沢紘史が後見人となり、今は彼の弟・恭司と共に私立逝川高校へと通うようになっている。
 しかし、入学式の会場で季里は誰かが良くない気を発しているのを感じ取ってしまう。誰かが誰かに強い悪意を放っているのだ……。
 私立逝川高校を舞台にした「不思議な現象」をめぐる季里と友人たちの物語が始まる。

 中学の頃はいじめられっ子で恭司以外に友達らしい友達のいなかった季里にも、少しずつ友人知人が増えていきます。すれ違ってしまったクラスメイトやどうしても理解してもらえない教師もいるけれど、それでも季里は理解し認めてくれる友達や見守ってくれる先生らと助け助けられつつ「力」の使い方とその意味を見つけ出していきます。
 
 NHK教育の番組っぽくSF者の生態をさらしまくった「明るいSFなかま」を読みたさに、『SFマガジン』も買わないのに『SFイズム』を買っていた自分としては、早見裕司はこんなリリカルな話も書けるんだ!?と(失礼ながら)意外な感じがしたものです。
 それ以来、もう何年も季里の物語を追いつづけています。

【夏の鬼 その他の鬼】【早見裕司】【川原由美子】【都市奇譚】【鬼神】【つくも神】【YMO】【沖縄料理】【水淵季里】【精霊海流】
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「先生、巨大コウモリが廊下を飛んでいます!」 小林朋道

2009-04-18 | エッセー・人文・科学
 なによりもタイトルの勝利だと思います。続編の『先生、シマリスがヘビの頭をかじっています!』もそうだけれど、思わず目を止め、内容を確認したくなってしまうじゃありませんか。

 内容は副題通り「鳥取環境大学の森の人間動物行動学」。大学周辺に出没する動物についてのエピソードを紹介するとともに、その動物と人間、動物と周辺環境へのかかわりまで易しく愉しく解説してくれています。
 怪我をしたタヌキの話からは遺伝子プールとそれへのタヌキの貢献、孤島にただ1頭だけ暮らしているシカからは島の植生への影響、その他ドバトやらヘビやらアリやらヤギやらカエルやらあれこれ動物のエピソードがいっぱい。
 そして、こうした動物の行動や存在に人がどうして気づくのか、その心理まで考察しているので真偽はともかく話が広がって、読んでいて飽きません。
 でも、こういう大学って、教授や学生はともかく、事務局がたいへんなんじゃないかと思いました。

【先生、巨大コウモリが廊下を飛んでいます!】【鳥取環境大学の森の人間動物行動学】【小林朋道】
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「江戸忍法帖」 山田風太郎

2009-04-17 | 時代・歴史・武侠小説

 水面下でひそかに動き出した5代将軍綱吉の世継争い。先代将軍家綱の御落胤の存在を知った将軍家御用人である柳沢吉保は、手飼いの甲賀七忍に葵悠太郎の暗殺を命じる。
 自らが将軍の御落胤であると知りつつも、権力欲もない悠太郎は江戸の長屋でのんびり暮らしていたが、3人の家来のみならず同じ長屋の角兵衛獅子の幼い少年までが殺されるに至り、遂に動き出した。将軍の地位など望まない。求めるはただ復讐のみ!

 時代劇の定番を集約した1冊。高貴な血筋の素浪人、怪しげな術を使う忍者、気の強い姫君や総領娘、角兵衛獅子の姉弟、水戸のご隠居に助さん角さんと……山田風太郎としてはかなり人物配置はオーソドックス。著者自身の評価は低くて初期選集からは外れているのだけれど、これだったらそのままテレビシリーズにしても大丈夫……というか、見たい。エログロ描写がないわけではないけれど、必殺仕事人がOKなら問題ない程度だし、絶対面白いよ。ヒロイン役は3人で、みんな個性が強いけれど良いキャラだし。
 あえて問題点を指摘するなら、悠太郎が動くのが遅いこと。仕事人で良い人がみんな死んでしまってから依頼が入るようなもので、あんたがのんびりしすぎたから、あいつもこいつもあの子も彼女もみんな死んでしまったんでない?
 そういう意味では問題主人公。まあ、忍法帖はどのみちみんな死んでしまう話ばかりなんですが……。

【江戸忍法帖】【山田風太郎】【世継ぎ騒動】【水戸光圀】【肉鎧】【すり替わり】
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「“文学少女”と死にたがりの道化」 野村美月

2009-04-16 | 本屋・図書館・愛書家
 野村美月は『赤城山卓球場に歌声は響く』から読み始めてはいたけれど、あまり熱心な読者ではなく、卓球シリーズだけは抑えておこう程度。ありふれた舞台に奇想天外だけれどもゆる~い展開、脱力系の笑いにほんほり暖かいストーリーというのが自分にとっての野村美月作品です。それが上手くいくときもありいかないときもあり。
 それで久しく読んでいなかったのだけれど、気がつくと息子の本棚に文学少女シリーズが並んでいて、「野村美月を面白いと思うんだ」と手にとって読んでみたら確かに面白かったわけで、借りてきて久々に堪能させてもらいました。

 部長が勝手に相談ポストを設置したことから、文芸部に「どうかあたしの恋を叶えてください!」と相談が舞い込んできた。もちろん部長は責任をとらず、もう1人の部員にして後輩である井上心葉はひたすら恋文の代筆をするはめに。
 おかげで依頼者の恋は順調だというのだが、心葉は恋文の宛先人が存在しないことに気づいてしまう……。

 元覆面少女作家な少年と本のページを食べてしまう文学少女の2人を主人公に、太宰治の「人間失格」を軸に展開される学園ミステリー。太宰治をモチーフにしている段階でハッピーエンドでは終わらないことが約束されているようなものだけれど、それを「ほろ苦い」程度で収めてしまうのが野村美月かな。普通に書いたらドロドロの人間関係が交錯するサイコスリラーにでもなりそうなところを「ビター&ミステリアス・学園コメディ」にしちゃってるんですから。
 ミステリアスだラブコメだといってもほんわかゆるゆるで、あまり萌えとかコメディといった感じもないけれど、続きが楽しみなシリーズです。きついことばかり言う琴吹ななせとか、ちょっとだけの出番のキャラクターたちの今後も気になるところです。

追伸。玄関先に高校図書館から借りてきたと思しき文学全集の太宰治が……。

【“文学少女”と死にたがりの道化】【野村美月】【太宰治】【弓道】【図書室】【人間失格】【恋文代筆】
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