
「人から教わった未来など……そんなもの、よくできたまがい物に過ぎない。明日は、自分で積み重ねていくものだ。誰かに語られるものではない」
予言の言葉などに振りまわされる義務はないと<黒狼公>ヤエト。
上巻が出てから下巻まで1年という(刊行ペースは)超大作。待つのは辛いけれど、それでも待てるくらいの面白さ。そして、刊行ペースに反して話がさくさく進むのは、主人公が病弱だから。
これで主人公が活劇を繰り広げるほどの気力と体力があったなら、鉱床の掃討戦とか北方からの脱出劇とかあれやこれやで膨大な紙幅が費やされてしまったろうけれど、文官なので戦闘は報告を聞くだけだし、何かあったら昏倒して病室に担ぎ込まれて1週間や2週間は平気で人事不省に陥ってしまうので、結果的に話の展開は早いです。
皇帝の策謀によって失敗に終わりかねなかった、北方との人質交換と外交交渉をとりあえず進めたヤエトはまたも人事不省で北嶺に送還。意識を回復するや、商人ナグウィンを救出するため再び北方へ飛び、塔に幽閉されていたア=ブルスたちを解放することに成功するが、帰還したヤエトを待っていたのは、皇女が第4皇子の処刑を阻止するべく籠城しているという報告だった……。
倒れても立ち上がるヒーローというのはタフガイの代名詞ですが、死にたくないのに、今にも死にそうなことばかり自分からしているヤエトは、倒れては病室に担ぎ込まれ、やっとこさ起き上がるとあっちに飛び、倒れて担ぎ込まれてはまた立ち上がりの連続。ぜんぜんタフガイではありません。案外と頑張っているなと思いつつ、確実に痩せてきているようなので、主人公の過労死で話が終わらないかドキドキです。暗殺とか、皇帝による刑死とかも十分ありうる展開です。
恐ろしい皇帝の意外な親バカぶりもちらりと垣間見え、あれは本心が思わず漏れたのか、はたまた単なる偶然かとドキドキしながら頁をめくりますが、結局結論は持ち越し。次は1年後か2年後か……。(2011-09-04)
新装版は、人質生活をセルク視点で語った短編「鳴弦の響き」収録。
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