付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

らのべヒロイン列伝「丹下まりも(神明解ろーどぐらす)」

2018-03-31 | 雑談・覚え書き
○丹下まりも 「神明解ろーどぐらす」比嘉智康(MF文庫J)

 小学生の頃から自宅前が学校で、通学時間がほぼ0分だった池田十勝は、ひたすら下校に憧れるようになってしまい、高校もわざわざ遠方の高校を選んだ。そして、思いっきり遠回りして下校ライフを堪能するぞと新たな生活に胸躍らせていた十勝は、3人の美少女たちと知り合い、彼女らと下校ライフを楽しむこととなったのだけれど、知り合ったのは、スーパーモデルみたいな体型の美少女なのにネガティブで自己評価が低すぎる千歳キララ、お喋り巨乳女の丹下まりも、小学生並みの身長ながら既にカメラマンとして活躍している“さきっぽ”こと富良野咲。美少女たちはとっても残念な人ばかりだったのです……という、男1人に女3人の、ゆるゆるぐだぐだ放課ライフ。だがしかしの道草あるある。
 全5巻の見事な構成になっているので、読むなら5冊一気読みをお勧め。序破急で言うと、待ち合わせの場所をどこにしようかという話で1章使ったり、ほんわりのほほんと寄り道話が進む3巻の前半までが「序」。そこから千歳の脳内イマジナリーフレンドと思われていた少女が実在することが明らかになる「破」から、サイコサスペンスな展開に十勝の漢っぷりが光る「急」で大団円。常に予想の斜め上の展開で最後までわくわくはらはらさせられます。なんというか、「はがない」と思って読んでいたら「ファントム・バレット」だったみたいな?

 メインヒロインというと、やけに自虐的でお人好しで礼儀正しい千歳キララなのだけれど、5冊一気に読むと一番物語の中で変わった“たんまり”こと丹下まりもの印象が強く残ります。
 自信家でナルシスト。胸の谷間には自信があるけど泳ぎは金槌。でも「驚愕にカワイイうちもやっぱ人間だからさ、苦手なコトとかあるのは仕方ないよね」と開き直り。自分も特に恋愛経験が豊富というわけでもないのに、お昼の放送で恋愛相談のトーク番組をやって人気沸騰。普通なら単なるウザキャラどまりなのに、いつの間にか十勝に惹かれ、「ねえ、みんな。似合わないとか勿体ないとかって気持ちを恋愛に持ち込んじゃダメ。いい恋愛しようだなんてしちゃダメ」「この人になら、身も心もボロボロにされてもいいって思える人と恋愛するの。うちはこの男になら騙されたっていいと思える人としか恋愛しないから」と、自己チューからぐるりんと裏返ります。
 そして、最後は仲間のためにみんなで身体を張って頑張ってゴールイン! タイトルの「神明解」にもちゃんとオチがついてめでたしめでたし。彼ら5人の放課後ライフはまだまだ続くのです。
 ただ、ここはファンタジー世界ではないんで、ハーレムエンドは難しいと思うなー。
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らのべヒロイン列伝「シェーナ(食い詰め傭兵の幻想奇譚)」

2018-03-30 | 雑談・覚え書き
○シェーナ 「食い詰め傭兵の幻想奇譚」まいん(ホビージャパン)

 思わぬ負け戦から所属していた傭兵団が壊滅してしまったロレンだが、今さら剣を振るう以外の仕事はできないし、冒険者なら身分証明とか面倒くさいことは言われないと、人間相手から魔物相手に鞍替えすることにした……というところから始まる剣と魔法の冒険譚。この手の話には珍しく、基本的に1巻1エピソードというのも手軽に読みやすい構成ですが、たわいのない簡単な依頼だと思って引き受けたものが、いつの間にか災禍が拡大し、畳みかけるように事態がどんどん悪化し、まっしぐらにカタストロフへと陥っていく中からいかに生還するのか……というのが基本パターン。

 ちょっとしたゴブリン狩りのはずだったのに。
 薬草を摘みに行くだけの仕事だったのに。
 迷子をうちまで送り届けるだけなのに。
 学校の生徒の引率はボランティア同然の楽な仕事と聞いていたのに。
 それがどうして、あんな大惨事になってしまうのだろうか……!?

 自分に責がないにもかかわらず、毎回酷い冒険というかカタストロフに巻き込まれるロレンのパートナーは、自称“知識神の神官”であり、機会あらば死体の懐からであろうと金目のものを回収する手間を厭わない美少女ラピスですが、この作品からヒロインを1人選ぶというなら、都市国家ハンザの盟主の娘シェーラでしょうか。
 いつでもロレンと一緒にいる、無邪気で気の良い小妖精のような少女ですが、世が世なら小国のお姫さまみたいなものです。でも、今ではロレンと一心同体のような関係で旅に出る身で、懸命に彼を助けようと奮闘します。
 けれど、意外な能力が開花してしまい、大人しくしていてくれた方が平和な感じになってしまいます。

〈お兄さん! シェーナがいれば大丈夫です!〉
〈1人も逃がしませんよ! 殲滅あるのみ! ミナゴロシです! 生まれてきたことを後悔しながら犬のえさになるがいいです!〉

 こえーよ!
 でも、普段は純朴で好奇心旺盛な少女として、ロレンとかけあいを繰り返すギャップ萌えなのです。
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★“なろう”じゃない“なろう系”小説

2018-03-29 | 雑談・覚え書き
 「最近はなろう系ばかりだ」「小説家になろうに掲載されている小説なんてワンパターンだ」なんて言われることもありますが、1)注目される作品に流行り廃りがあるだけで「小説家になろう」とかに掲載されている小説とかエッセーとかにはいろいろ種類があるよ? 2)そもそも物語の基本パターンってそんなに多くないよ?……ということかと思います。

 そんなわけで「小説家になろう」とかのウェブ掲載小説ではないけれど、そこでよく見るパターンの話をいろいろ掘り起こしましょうというのが今回の主旨で、最初にジャンルをがばっと大きく広く「主人公がいきなり異世界を体験する異世界体験談」と定義してみました。
 「いきなり」というのは、今まで暮らしていたのとは別の世界に心の準備なく放り出されるという意味で、日本に住んでいる主人公が外国旅行しようと旅に出てニューヨークにたどり着けば普通の旅小説で、旅行なんか考えていなかったのに竜巻に巻き込まれてニューヨークまで飛ばされたら異世界体験……くらいの感覚です。なろう系小説でいう「異世界召喚」とか「戦国時代転生」あたりが代表ですが、異世界転生と一口に言ってもバリエーションは無数で、なにも「小説家になろう」を中心に広まったわけでもなんでもないのです。

 古くは伊弉諾やオルフェウスが黄泉の国に向かうくだりも入りそうですが、典型的なのは『ガリバー旅行記』。
 正式なタイトルの『船医から始まり後に複数の船の船長となったレミュエル・ガリヴァーによる、世界の諸僻地への旅行記四篇』(1726)というあたりから、最近では普通になった長すぎるタイトルの原点っぽいですね。さえない医者が船医となって航海中に難破。自分は何も変わっていないのに漂着した住人が皆豆粒大なので、相対的に無敵の巨人となってしまうリリパット篇。放り出された国が巨人の国で逆に相対的に小人となり、火薬兵器の知識とか披露して疎まれるブロブディンナグ篇。高度な科学力を持つ浮遊島を訪問し、日本を経由して帰国するラピュタ篇。知的な馬が支配するフウイヌム国を訪問し、そこで粗暴で野蛮な人族と出会って絶望するヤフー篇。転生とか召喚ではないけれど、異世界転生ものの基本パターンを押さえています。18世紀の人々にとって海外への渡航は異世界転生並みの冒険だったということでしょう。

○過去の世界に転移して、現代知識で無双
『アーサー王宮廷のヤンキー』 マーク・トゥエイン(1889)
 アメリカ人技師が部下に殴られた弾みでタイム・スリップ。アーサー王の宮廷に紛れ込み、国民の教育や科学技術の導入を試みるも、近代化の反動が起こって振り出しに戻る。
 騎士の突撃を鉄条網で食い止めたり、電信網を整備したりとか、技術チートものの原点です。 

○異世界に転移して、現代知識で無双
「異世界の帝王」 H・ビーム・パイパー(1965)
 アメリカ人警官が並行世界の事故で剣と銃レベルの異世界に転移。現代の科学知識と大学や兵役で学んだ戦略戦術で無双して下克上。お姫さまを手に入れ、周辺諸王を従える大王となって、めでたしめでたし。
 知ってるかい? 大砲って砲耳をつけるかつけないかで、扱いの難易度が全然違うんだよ。

○異世界に転移して、人外生活
「ドラゴンになった青年」 ゴードン・R・ディクスン(1976)
 学者が機械の実験で異世界に転移したら、意識がドラゴンに乗り移って、ドラゴンの本能と人間の理性の間で右往左往するも、ドラゴンの肉体と人間の機知で苦難を乗り切り、婚約者を取り戻してめでたしめでたし。表紙イラストは少女マンガ界の巨匠、萩尾望都。1982年にトップクラフト製作でアニメ化もされてますが、中身はほぼ別物でした。 

○異世界に転移して、身体チートで無双
「火星のプリンセス」 エドガー・ライス・バローズ(1917)
 金鉱探索中の元南軍騎兵大尉が洞窟で死にかけてたら、幽体離脱して火星に転生。地球より重力の軽い世界で超人的な運動能力を手に入れて無双。お姫さまを手に入れてめでたしめでたし。ヒロインのデジャー・ソリスは今も根強いファンの多い、SF界のヒロイン筆頭。武部本一郎やフランク・フラゼッタ、山本貴嗣などいろんな人が表紙イラストを描いてます。 

○助けたい人を助けるために、過去に戻って何度でもやり直し
「クロノスジョウンターの伝説」 梶尾真治(1994)
 タイムトリップもののSFロマンス小説。一種のタイムマシンともいえる物質過去放出機「クロノス・ジョウンター」には重大な欠点があった。それは物質を過去に飛ばす事が出来ても長時間留まらせる事ができず、しかも戻ってくるときは元の時間より未来にはじき飛ばされてしまうのだ。恋する少女が事故で死んだとき、和彦はクロノス・ジョウンターで過去へ飛ぶが、彼女を救うことはできない。何度も試行錯誤するが、その都度、彼は遙か未来へと飛ばされていく……。 

○超科学を携えて、過去に転移
「天のさだめを誰が知る」 D・R・ベンセン(1978)
 異星人の宇宙船が20世紀初頭の地球に漂着。宇宙船修理のために地球の科学技術を底上げしようと、助けられた宇宙人たちは各国を回って戦争を起こす必要性について説いて回る……。目の前でぎしぎしと音を立てるように歴史が改編されていくSFで、読後感はひたすらポジティブ。
 イラストから連想するように、『宇宙大作戦』のタイムトラベル話にも似通ってます。

○ゲームをしてたら、ゲームのキャラのまま異世界転生
「眠れる龍」 J・ローゼンバーグ(1983)
 テーブルトークRPGをしていたら、なぜかキャラシートのデータや容姿そのままに異世界に転移。決して楽しいばかりの世界ではなく、命の危機の連続になんとかして元の世界に戻ろうとするけれど、プレイヤーの1人はもともと身体が不自由だったので今の方がマシと言いだし……たあたりで1巻終わり。ゲーム世界に転移したというパターンの原点みたいな話で、刊行当時のゲーム誌で紹介されていた期待の作品。でも続編は未訳。 

○ゲームの世界でなりきりプレイ
「ドリームパーク」 ニーヴン&バーンズ(1981)
 ホログラフ技術や特殊メイクを駆使してファンタジーやクトゥルフの世界を体験できるドリームパークを舞台にした殺人事件の捜査劇……のふりをしたカーゴ信仰をテーマにした南洋ファンタジーRPGのリプレイ小説。昨今のVRMMORPGものの原点ともいうべき1冊。当時はそんなダイブして仮想現実なんて発想はないから、コンピュータで判定処理して投げたナイフがあたるかどうか決めたらホログラフで表現するくらいしかできないのだけれど、その分、NPC役の楽屋裏みたいな部分も見えて楽しいですね。 


 いずれも王道パターンの先行例として、今でも一読に値する作品だと思います。(2017/08/31投稿 2018/03/29改稿)
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らのべヒロイン列伝「結城美沙(ダディフェイス)」

2018-03-29 | 雑談・覚え書き
○結城美沙 「ダディフェイス」伊達将範(電撃文庫)

 おんぼろアパート暮らしの大学生、草刈鷲士はある日突然、銃を持った男たちに襲われ始めた。
 本人にはまったく身に覚えがないことなのだが、草刈鷲士こそはコードネームを<ダーティ・フェイス>という凄腕のトレジャーハンターの正体であり、12の国家を滅ぼし、4つの歴史的遺跡を壊滅させた男、ナイフから戦闘機まですべての兵器を使いこなす古武道の達人だと誰もが主張するのだ。この地球には、かつて外の世界から来訪した者が(物語とか神話とかではなく本当に)バベルの塔とかアトランティスとかを築き上げており、その来訪者たちの遺産を巡って裏の世界では壮絶な争奪戦が繰り広げられているらしい。
 そんな彼の下宿に転がり込んできたのは、見た覚えもない12歳の美少女・結城美沙。
 美沙は自分が鷲士の実の娘だと宣言した。13年前、離ればなれになった幼なじみとの一夜の結果生まれた子供だ、なんならDNA検査をしたって良いというのだ。

「ギネスの世界へようこそ、ってね!」

 年の差9歳の実父娘がコンビを組んで……というか、娘が持ち込む秘宝をめぐる争奪戦に青年が巻き込まれ、素人なのに最先端の兵器からオーバーテクノロジーな改造人間までが入り乱れる戦場へと飛び込んでいくトレジャーハンターもの。
 莫大な軍資金を自ら稼ぎ出し、一国の首脳をあごで使い、自家用空母を拠点にハイテク兵器を操って世界各地の秘境に挑むトレジャーハンター、<ダーティ・フェイス>こと結城美沙も、父親の前では1人の甘えん坊の娘で、離ればなれになっている両親の仲を取り持とうと奔走したり、不仲な双子の弟と喧嘩したり……という物語。ただ、その親子の物語が壮大で、なにかというと街1つ炎上したり、地球が滅びそうになるだけで、家族思いでちょっぴりアクティブな女の子なのです……。
 系譜的にはインディ・ジョーンズよりも、菊地秀行の「エイリアン」シリーズ直系のトレジャーハンターもの。
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らのべヒロイン列伝「ゴモヴィロア(人狼への転生、魔王の副官)」

2018-03-28 | 雑談・覚え書き
○ゴモヴィロア 「人狼への転生、魔王の副官」漂月(アース・スターノベル)

 現代日本から魔族と人間が争い続ける異世界の人狼に転生した青年が、魔王の副官として魔王軍の快進撃を陰から支える異世界転生ファンタジー。でも、ピカレスクとかダークではなく、コメディ色が強い正統派英雄譚で、さくさく話が進むところも面白い話ですが、その魔王軍旗揚げ時の最古参にして第三師団長、主人公ヴァイトの師匠でもある大賢者ゴモヴィロア。この話といえば、まずリューニエ皇子がヒロインだと思うんだけれど男だしなあ……ということで師団長をピックアップ。

 もともと人間で、古王朝時代の王族でしたが、母国が滅びた際に殺され、野ざらしにされていたのが秘術で復活。以後、死霊術師として研究に邁進します。今では死霊術に限らず、世界最高の魔術師ですが、外見は殺されたときの幼女のままで停まってます。でも、中身は数百年以上生きてるお婆ちゃん。
 王族であった頃の名前は、ゴモヴィロア・ゾアケルス・ガオル・ゲルファバル・グルン。でも、長いし、可愛くないので、本人は「モヴィちゃん」と呼ぶよう強く求めています。性格は人見知りにして引きこもり。

「たとえばですけど、『同僚のみんなと食べるフルコース料理』と『書庫の隅っこで独りで食べるサンドイッチ』だったら、どっちがいいですか?」
「もちろん『書庫の隅っこで独りで食べるサンドイッチ』じゃろう」
「ですよね!」
「薄暗い部屋で独り、ひっそりとサンドイッチを食べる時間は安らぐからのう……」

 そんなモヴィちゃんも、やはり頼りになる師匠であり、知恵者であり、魔王軍を支え、ヴァイトを見守り、人々の危機を何度も救っていくことになります。陰から魔王を支える地味な副官と言いつつ、すぐに突撃する主人公より、遙かに陰からみんなを支え続けます。
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らのべヒロイン列伝「シェラ・ザード(死神を食べた少女)」

2018-03-27 | 雑談・覚え書き
○シェラ・ザード 「死神を食べた少女」七沢またり(エンターブレイン)

 貧しい村を王国軍が襲撃した。それは王国軍の仕業に見せかけ、人心の離反を狙う解放軍の策略だが、襲われる村人にとっては大差はない。
 しかし、女子供に至るまで皆殺しにされたはずの村に生き残りがいた。痩せこけた村娘のシェラだ。彼女は襲ってきた兵士をただ1人で返り討ちにすると、王国軍に志願した。解放軍は敵だし、王国軍に入ったなら腹一杯ご飯が食べられるだろうというのだ。
 彼女はまともな教育も軍事訓練も受けていないし、非力だ。普通の兵士が持つ剣すら振り回すことができない。けれど、兵士が2人がかりで持ち上げるのがやっとの大鎌だけは、まるで死神の持ち物であるかのような鎌だけは軽々と振り回し、立ちふさがる敵を片っ端から切り裂いていくのだ……という、血塗れで痩せこけた少女が戦場を駆けるファンタジー戦記。

 シェラ・ザードの名前が連想させるように、王国軍少佐シェラ・ザードが縦横無尽に戦場を駆け巡る様はまさに千夜一夜の悪夢。ただひたすら強く、情け容赦なく死をばらまき、殺そうとしても死なないし、しかも時には彼女が何人もいるかのように見えます。
 彼女の行動原理はただ1つ、「美味しい食事が食べたい」それだけ。
 エピローグまで含めて英雄神話の構成でありながら、魔法とか、異能とか、神とか関係なく、徹頭徹尾「ホラー映画」の文法でした。普通に仲間と食事している時は、痩せているのに食いしん坊な少女で「みんなとごはんを食べると愉しいね」とか言っているのに、戦場に出ると理不尽に強い。直感と本能だけで暴れ回っているのに、殺しても死なない。そして、彼女と戦い続けているうちに、仲間の兵士たちもいつしか現実世界から外れ始め、歴戦の勇者の仲間たちというより幽鬼の群に近くなって、物語の中に消えていきます。
 だから、こざかしい人間たちの権謀術数とか思惑なんて知ったことじゃないのです。敵は殺す。ご飯は美味しく食べる。ただそれだけの話なのです。
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らのべヒロイン列伝「エリス・ボレアス・グレイラット(無職転生)」

2018-03-26 | 雑談・覚え書き
○エリス・ボレアス・グレイラット 「無職転生」理不尽な孫の手(MFブックス)

 前世では無職のひきこもりで親の葬式にも顔を出さないダメ人間だった男が、剣と魔法の世界に転生し、今度こそ頑張ろうとする再起と再生の物語。
 そんな異世界転生もののヒロインその2にして、主人公の3人目の妻となるのがアスラ王国の名門貴族の令嬢エリスです。その名前から森鴎外の代表作「舞姫」を連想しないでもありませんが、そんな儚げで弱いイメージを吹き飛ばしてしまうのがエリス・ボレアス・グレイラットなのです。

 この緩やかなウェーブを描く鮮やかな真紅の髪が特徴的な少女は、祖父に甘やかされて乱暴者のワガママ娘に育ち、主人公ルーデウスが家庭教師となるまでは社交界デビューはとうてい無理で、将来は冒険者として野に放たれるのではないかと思われていました。
 しかし、ルーデウスと知り合い、教えを受け、助けられていくうちに、彼に好意を寄せるようになり、釣り合うような女性になろうと無理な努力を始めます。けれども、思わぬ大事故から社交界どころか熟練の冒険者すら1日生き残ることも困難な世界へと放り出され、ルーデウスらと共にサバイバル生活に突入。思わぬ言葉の行き違い、勘違いから袂を分かって別行動となり、ひとり剣の世界に飛び込んでしまいます。やがて剣の聖地で頭角を現して「剣王」と呼ばれるほどの達人となり、長い歳月の果てにルーデウスと再会した後は剣士として彼を支えるようになります。

 こういう主人公にべた惚れで、ハーレムの一員でも文句を言わず、しかも強くて美人というと、「男にとって都合のいい女」みたいになりがちですが、「マイフェアレディ」というか「じゃじゃ馬ならし」みたいなもので、ルーデウスがいかにエリスのために戦い続けたか、エリスがどうしてルーデウスを信頼し慕うようになったのかがしっかり書けているので、彼女の変化に説得力が生まれます。しかも、そんな「都合のいい女」でくくれるような女性ではありません。そこは乱暴なワガママ令嬢が矯正されきる前に生存競争が過酷な魔界の奥に放り込まれ、生き残ったくらいです。幼き頃の「赤猿姫」という呼び名も相当に酷いものですが、さらに「デッドエンドの狂犬」「狂剣王」とまで恐れられるようになったヒロインです。

 性格は苛烈にして熾烈。頭は昔から悪いままで、過酷な剣の修行に明け暮れるうちに殺すか殺されるかの単純思考が極まっていきます。その描写も「縄張りに侵入されたガラガラヘビのように」「爛々とした目」「恐竜のような目だ」とさんざんな言われようです。
 そんなエリスが、ことルーデウスの話になると「さすがルーデウスね」「ルーデウスは私のだからあげないわよ」とワクワクした目で見るあたり、ヤンデレな脳筋ヒロインの代表格ではないでしょうか?
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らのべヒロイン列伝「平賀つばさ(先輩とぼく)」

2018-03-25 | 雑談・覚え書き
○平賀つばさ 「先輩とぼく」沖田雅(電撃文庫)

 どの巻も背の高い黒髪の美少女と小柄な少年の2人だけが表紙イラストなので、『とらドラ!』みたいな学園ラブコメかと思うとちょっと違って、どちらかというと『涼宮ハルヒの憂鬱』寄り。
 つばさ先輩は美人で頭が良いけれど性格が悪くて変わり者。でも、そんな先輩を優しくて料理上手な後輩のはじめは大好きで、なんのかのといってもいつも振り回されてばかり。ところが聖夜のデートに誘われたら深夜のUFOウォッチングで、あろうことかUFO召喚に成功したあげくにアブダクションされてしまう。すぐに地球に帰したもらったものの、宇宙人のミスから脳みそが入れ替わってしまって「もしかして私たち……」「もしかして俺たち……」「「入れ替わってる~!?!?」」 という「先輩がぼくでぼくが先輩で」という状況に。
 つまり表紙イラストの女の子がぼくで、男の子が先輩ですね。それでたぶん、性格的にも容姿でも“ぼく”の方がヒロイン・ポジかもしれないけれど、それでもあえてつばさ先輩をヒロイン認定。

 つばさ先輩はいわゆるマッドサイエンティストの傾向があって、基本的に恋愛どころか人としての感情が欠落しているタイプ。男女入れ替わりも戸惑ったり抱え込んで苦しむのではなく、客観的に自分自身を観察対象として愉しんでしまいます。思春期の女性の身体に脳みそが入ってしまった常識人の山城はじめの方が気の毒かもしれませんが、まあ、そんな先輩を好きになったのが不幸というものでしょう。
 ただ、つばさ先輩も、はじめが自分に好意を抱いていることを分かっていて、自分自身に恋愛感情なんてものがカケラもないことを知っていて、その上でなんとか報いてやりたいと、あえて自分自身にリスクの大きい方法をとってもはじめを助けようとしてしまうあたり無私の愛といえるかもしれません。
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らのべヒロイン列伝「岳神隆子(ソリッドファイター)」

2018-03-24 | 雑談・覚え書き
○岳神隆子 「ソリッドファイター」古橋秀之(電撃文庫)

 アーケードの格闘ゲーム「ソリッドファイター」は新時代の人気ゲーム。キャラデータの攻撃モーションやアクセサリー・データなどのカスタマイズが可能で、メモリスティックにデータを保管して家庭のパソコンからゲームセンターまで持ち込みも可能だ。スダケンこと増田研二も自分の使うキャラクターをサードパーティ製のソフトを使って爆乳にして、揺れるモーションに凝ったりしている……というところから始まるゲーム青春小説。まだバーチャルリアリティとか出てない頃の話ですが、ゲームしか取り柄のない少年がいかにゲームに向き合い、ゲームのあり方について問い続けていくかという求道的な物語を「ストリートファイター」を彷彿とさせるゲームを通じて、ユーモラスかつ爽快な作品に仕上げています。「古橋秀之“幻”の名作」と言われる所以。電撃文庫版は1巻打ち切りで、後に全3巻分の原稿を1冊に合本した限定版が、アスキー・メディアワークスから刊行されました。3冊買いました。

 さて、高校の話だけに女子生徒もちらほら登場しますが、この話のヒロインは虹田北高校の教師、通称タケちゃんこと岳神隆子(たけがみ・りゅうこ)で異存はないかと思います。表紙イラストにもなってるし。
 ストーリーを引っ張るような活躍はしていなくって、主人公を見守り、遊び、時に助言するという、やってることは普通の「良い先生」。でも、そんな脇役ポジを吹っ飛ばすくらい破壊力は強力で、読み終わってから「タケちゃん、スダケンを応援してただけだよ……ね?」と考え込んでしまうくらい。
 タケちゃんは、いつでもジャージ着用してるけど体育教師ではなく、担当は国語。年齢不詳。性格は大雑把。胸は大きく、おなかがちらほら見えちゃうれど、鍛えているから平気。この学校には隠れた伝統行事があって、毎年春先には男でも女でもタケちゃんを押し倒す権利が与えられていて、体操着で格技場に集まって彼女に挑むのだけれど、片っ端から返り討ちにあうのだ。タケちゃんは生徒にがっちり関節技をかける。本気でかける。泡を吹くまでかける。
 格闘戦では無敵を誇るし、身体は柔らかく、足は原チャリよりも速い。生徒の間では米国海兵隊がNASAの技術協力で開発したサイボーグ兵士のプロトタイプだとか、一子相伝の暗殺術を継ぐ殺人マシーンだとか言われているけれど、彼女の行動はまさに「ジャッキー・チェンだってそんなことしねえ」というレベルなのだ。

「あたしも身長100メートルくらいあって口から怪光線の1つも出たら、センセイなんかしてないで、都庁壊しに行くんだけどねえ。自衛隊の砲撃をものともせず」

 一度、彼女の動きをモーションキャプチャーでトレースしてモデル化し、ゲームに組み込もうとしたらバグが起きて、レギュレーション違反でもないのにチート過ぎて採用できないキャラになってしまったりしてます。なにか、常人では諮りしれない動きをする人。
 夢枕獏の作品で主役をはれそうなくらいキャラ立ちしてるんだけれど、そこをあえて脇役に置いているところが、この作品の魅力……というか、おかしなところなのです。
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らのべヒロイン列伝「アイリーン・ベイトマン(ドラゴンは寂しいと死んじゃいます)」

2018-03-23 | 雑談・覚え書き
○アイリーン・ベイトマン 「ドラゴンは寂しいと死んじゃいます」藤原ゴンザレス(アーススターノベル)

 傭兵アッシュは身長2メートルを超える巨漢で、一騎当千の戦士。彼が味方にいるからこそ、圧倒的に不利な状況にもかかわらず、クルーガー帝国軍は連戦連勝。軍を指揮するのが絵に描いたように無能な辺境伯パトリック・ベイトマンでも軍は負け知らず。
 ところがアッシュは殺人鬼のような面相の巨漢でも、本当は心優しい少年。戦っても戦っても怖がられるばかりで誰も褒めてくれないし、お金も貯まったので傭兵を引退し、故郷の幽霊屋敷を安く購入してのんびり畑仕事でもしながらお菓子作りというスローライフに引きこもってしまった。途端に戦場では連戦連敗。もちろん1人の傭兵のがんばりなど上層部は知らないから、負けが続く理由が分からない。
 だが、ものを考えない家風のベイトマン一族にも、ごく少数のまともな貴族も存在していた。辺境伯の末娘アイリーンである。
 父親の遺伝子を無視したような美しく、強い意志を感じさせる顔の少女は前線で聞き込みをしてアッシュの存在を知る。なんとかアッシュに正当な評価を与えて謝罪し、戦場に復帰してもらおうと隠遁先のクリスタルレイクへと向かうのだが……。

……ということで、最初は優秀なツッコミ役として登場。
「ちょーっと待てーい! 明らかにおかしいだろ!」
「ほえ?」
「何を言ってるのだ貴様は」
と、しっかりツッコんで、見た目はアークデーモンなのに実は善良でお菓子作りが上手なアッシュとか、小さなドラゴンのレベッカの存在などに声を上げて右往左往していましたが、あっという間に人の本質を見抜く特殊能力が身についていて泰然自若。人の姿をした悪魔がやってきても「見ればわかるだろ」と平然と応えてスルーできるようになり、悪魔とドラゴンで溢れかえってしまったクリスタルレイク村の代官を務めるようになります。
 ツッコミ役からボケ役へと鮮やかな転身です。
 さらに怪物アッシュと恋仲に収まるに至って、すべての基準がアッシュになってしまったため、どんな天変地異が起ころうと、皇帝陛下が乗り込んでこようが気にしなくなります。そして、かつては「周囲も認める優秀な貴族」「唯一家族の尻ぬぐいに奔走する苦労人」「聖人君子」と謳われていたのが、いまや「あー、ただのダメな人だ」と納得されるようになってしまいます。ここまでで3巻。
 この凋落ぶりがこの話の見所ですが、そのためにこの話にはツッコミ役が不在となってしまうのでした。
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らのべヒロイン列伝「相馬いと(いとみち)」

2018-03-22 | 雑談・覚え書き
○相馬いと 「いとみち」越谷オサム(新潮社)

 相馬いとは、背がちっちゃくて、泣き虫で、人見知りで人づきあいも苦手な高校1年生。しかも祖母に育てられたこともあって、津軽訛りがかなりきつい。
 そんないとが自分を変えるためにと思い切って始めたアルバイトは、電車にゆられて1時間ちょい、青森市内にただ1件のメイドカフェだった。

「……お、おがえりなさいませ、ごスずん様」

 津軽三味線を奏する女子高生メイドさんの趣味は写真。本州最北端の青森市内のメイド喫茶でバイトすることになった女の子の物語です。
 基本的に悪人が出ない、頑張ったことはいつかは報われる、そういう意味で安心して愉しく読める青春小説。さまざまな出会いがあり、別れがあり、全3冊で少女の成長と彼女を取り巻く人たちの変化をかっちり描いてます。
 最初はなにもできない少女がありったけの勇気を振り絞って前へと足を踏み出し、それによって自分の得意なことを自覚し、活かす方法を知り、またそれが自信となってさらに1歩前へと歩み出していきます。そして彼女を支えるのは一癖も二癖もある大人や先輩たち。大人が子供の踏み台になっているという意味で、ジュブナイルにして青春小説なのです。
 笑えるし、泣けるし、とにかくいろんな人間が集まって、まじめに1つの仕事をやり遂げる話って面白いんです。
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らのべヒロイン列伝「ネフェリー(異世界詐欺師のなんちゃって経営術)」

2018-03-21 | 雑談・覚え書き
○ネフェリー 「異世界詐欺師のなんちゃって経営術」宮地拓海(スニーカー文庫)

 欺した相手に刺し殺された詐欺師のオオバヤシロは、気がつくと若返った姿で見知らぬ街に放り出されていた。
 その都市の名はオールブルーム。人間だけではなく、獣や虫の特徴を持った種族も居住している城郭都市だった。そして、そこがまさに異世界だとヤシロが確信したのは、目の前で嘘をついたことを糾弾された男が「精霊の審判」によってカエルにされてしまったのを目の当たりにしたからだ。
 嘘を吐くとカエルにされる……無一文の詐欺師にとっては悪夢のような世界だった……。

 そんな世界で、会話がすべて記録に残る、自分の言葉が間違いだと指摘されるとカエルになるという条件下で、いかに詐欺師ヤシロがあの手この手を駆使して、敵対する者を陥れ、周囲の人々が明るく楽しく豊かに暮らせるよう(そして自分がそれに寄生できるよう)ポンコツ料理屋を再建し、貧乏教会の孤児院をテコ入れし、都市の最貧民区である四十二区を建て直していくかという物語です。
 この物語のヒロインといえば、まず無垢で善良で頑張り屋で“パイオツカイデー”なジネット、クールで絶壁なエステラが来るのが順当ですが、あえて挙げたいのはネフェリー。養鶏場の娘ネフェリーです。
 乙女心に未来を夢見るネフェリー。完全ニワトリ顔だけど。
 女の子らしい仕草がかわいらしいネフェリー。でも、トリなんだよね。
 アニメヒロイン的な思考回路の元気少女ネフェリー。ニワトリだけど。
 いろいろ頑張って、主人公たちをいろいろサポートする出番もあるし、時には記憶を浸蝕されてしまったヤシロを案じて胸をきゅんきゅんさせたりすることもあるけれど頭がニワトリなんだよねー。
 正直、登場するヒロインの中で誰が好きかというとボケツッコミで自爆するエステラだし、書籍化4冊のうちに表紙どころかネフェリーがイラスト化された箇所は1つもないし、未書籍化部分を含めても出番は多くないけれど、ただ、ヒロイン属性なのにチキンヘッドという一点で、もうこの作品とイコールで脳裏に刻まれちゃってます。美女美少女の中にチキン・ジョージ!って感じで、インパクト無限大なのです。
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らのべヒロイン列伝「クリス・ロングナイフ(海軍士官クリス・ロングナイフ)」

2018-03-20 | 雑談・覚え書き
○クリス・ロングナイフ 「海軍士官クリス・ロングナイフ」マイク・シェパード(ハヤカワ文庫SF)

 海軍士官のクリスは、実は……というか誰でも知っているのだけれど、惑星国家首相ロングナイフの娘で、財閥総帥ロングナイフの孫娘で、ロングナイフ王の曾孫という超サラブレッドで才色兼備な美人士官。チートもチート! 唯一の欠点は胸の薄さで、胸が膨らんでいるように見えるときは、装甲板が入っているか爆弾が詰め込まれているはずです。
 けれども有力な一族の娘ということは敵も多く、しかも天然のトラブルメイカー。これだけ本人の能力も優れていてコネもあって財力は膨大。さらには地上で泥にまみれて海兵隊と人質救出作戦を成功させ、寄せ集め艦隊を指揮して惑星防衛したりと毎回大活躍しているのに、そのたびに出世するどころか左遷される一方という、逆出世スゴロク物語。ジョン・グライムズ船長の転落人生の正統な後継者かもしれません。

「わたしのやり方はこうよ。問題にぶつかったら、わたしかその問題が血を流して倒れるまで徹底的に殴りあう」

 頭は悪くないけれど、基本的に脳筋な当たって砕くタイプ。トラブルの原因になると忌み嫌われていても、いざトラブルが起きてしまうといちばん頼りになるのがクリス・ロングナイフですが、基本的にトラブルは頭から叩き潰していくのが一族の流儀なのです。
 曰く付きの戦闘メイドや勝手に拡張していく埋め込み型AIらを仲間に突き進んでいくという、アメリカ人の書くミリタリ系ライトノベルです。
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らのべヒロイン列伝「槍水茉莉花(ベン・トー)」

2018-03-19 | 雑談・覚え書き
○槍水茉莉花 「ベン・トー」アサウラ(スーパーダッシュ文庫)

 スーパーマーケットの閉店間際に値引きされる半額弁当をめぐり、夜な夜な繰り広げられる飢えた狼たちの戦いを描く『ベン・トー』は、どうしようもなく低レベルでバカバカしい争いを昇華し、どこまでも熱い漢たちの崇高な戦場として描写する、庶民派ギャグアクションです。半額弁当を争って毎晩若い男女が総菜売り場で殴りあうという酷い話に、ひたすらセガサターンのゲームやソフトは素晴らしいという力説と、誰が訊いてもホラ話としか思ってもらえない主人公一家の行状が三位一体で、なんともいえないテイストの熱い青春小説に変じてしまうのは不思議です。
 登場人物も一癖も二癖もある者たちが、由来さえ知らなければすごくカッコイイ二つ名と必殺技をひっさげて、入れ替わり立ち替わり、主人公の《カペルスウェイト》こと佐藤洋とその仲間たちの前に立ちはだかります。

 洋の先輩で、黒いストッキングと頑丈な厚底のブーツを履き、《氷結の魔女》の二つ名で呼ばれる槍水仙。無理して先輩ぶっている虚勢の張り方がかわいいですね。
 洋の従姉でイタリア人とのハーフの眼鏡少女、《湖の麗人》著莪あやめ。ナチュラルに佐藤が好きすぎて、既に熟年夫婦の領域に達しようとしています。
 成績優秀だけれどしっかり腐っていて、本来内気で他人からの接触を極端に嫌がっているのに、何かがBLの琴線に触れると邪悪な方向に暴走してしまう《幽霊(ザ・ゴースト)》こと白粉花。
 《オルトロス》の二つ名を持ち、買い物篭を使った連係攻撃が得意な沢桔姉妹。成績優秀なはずなのに意図せずして卑猥な言動を繰り返す姉とそのフォローに苦労する妹のアンバランスさ。
 ヒロイン候補はわんさかいますけれど、あえて1人を選ぶというなら、《氷結の魔女》の妹で、入退院を繰り返す病弱な10歳の少女、槍水茉莉花でしょうか。
 素直な性格で子犬のように愛らしく、いろいろなことに興味があって、おねえちゃんが大好き。おねえちゃんこそ最強の狼として信じて疑わず、その後輩である佐藤にもやたらに懐きます。やばいくらい。ここまで警戒心がなくて良いのか、それともわざと? わざとなのか!?というくらいスキンシップを求めてきます。なんというか、佐藤が「幼女に手を出す最低のペド野郎」と罵られて悪評ふんぷんになるくらい。
 これで計算が見えるとあざといなーとなるけれど、そこのさじ加減が上手いのです。
 まだブラジャーを必要としない体型ながら、無垢な天使は、アパートで、合宿で、雪山でと、無意識のうちに佐藤を誘惑し、危険なペドの世界へ引きずり込もうとするのです。
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らのべヒロイン列伝「太宰ゆき(トレジャー・ハンター八頭大)」

2018-03-18 | 雑談・覚え書き
○太宰ゆき 「トレジャー・ハンター八頭大」菊地秀行(ソノラマノベルス)


 空想の産物だと一般には思われている、神話や伝説の類いはたいてい真実なのだ。高度な文明、信じがたい奇跡、恐ろしい怪物……それらはすべて宇宙から地球に飛来したエイリアンの仕業であり、今も地球の各地に、地の底や次元の狭間に眠っている。
 それを見つけ出し、数多の危険をかいくぐって財宝を手に入れるのがトレジャー・ハンターだ。
 八頭大はまだ高校生ながら、世界トップレベルのトレジャー・ハンターで、彼自身が手に入れた財宝だけで時価数千兆円、それに伴うオーバーテクノロジーの価値は計り知れず、各国の政財界トップもあごで使える立場にある。だが、彼が挑むお宝はそんな権力や技術とか世俗の人間の力の及ばぬところにあるのだ……という、菊地秀行のエイリアン・シリーズ/トレジャー・ハンター八頭大は『吸血鬼ハンターD』と並んで作者の出世作にして日本のトレジャー・ハンターものの先駆け。

 宝探しの情報交換組織としてのITHAなんてのも冒険者ギルドの元祖みたいなものですが、顔も頭も運動神経も良くて、大金持ちで、協会ランキングが最高のGGGで、各国の政府首脳や官僚も言いなりで、軍でもNASAでも最新鋭装備がいくらでも提供されてくる……というあたり、スーパー・チート系主人公の元祖かもしれません。
 そんな彼が唯一思い通りにならない女が太宰ゆき。世界でも三本の指に入るトレジャー・ハンターだった太宰先蔵の孫娘で、17歳の女子高生で美少女。プロポーションもいいし、武道の嗜みもかなりありそう。ただし、吝嗇家、銭ゲバ、金銭妄想欲情症。

「あたし、お金のことを考えると我慢できなくなるのよ……」

 金銀財宝とか単語を聞いただけで欲情しておかしくなります。そしてケチですが、他人の金なら使い放題。金のためなら恩とか情とか気にしないで主人公も裏切り放題。『ルパン3世』の峰不二子をさらにたち悪くした感じのお色気女子高生です。好きになれるかどうかはともかく、インパクト極大なヒロイン。金だけ億単位でむしり取られて、そのくせ身体も許さない彼女を身近に置いておく八頭大は、大物なのかバカなのか?
 なろう系の主人公大好きヒロインとは対局に位置してます。これがツンデレなら、そのツンとデレの間には銀河系2つくらいは入っていそう。
 ならばと、ゆき以外のヒロインを探そうとすると、『エイリアン魔界航路』から登場する絶世の美女リマがいて、彼女はかなりなろう系に近い忠誠心篤い系ヒロインですが、彼女、人食いなんだよなー。
 ちなみにイラスト左から天野喜孝版ゆき、川原由美子版ゆき&リマ、米村孝一郎版ゆき&リマ、柴田昌弘版大&ゆき、中村龍徳版大&ゆき。服さえ変えたらイイトコのボンボンに見える大と色毛虫なゆきという視点では、作品のイメージにいちばん近いのは中村版かな。
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