付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

私的年間ベスト2016

2016-12-31 | ランキング・カテゴリー
 今年も読んで面白かったものを順番にまとめて総括。
 こうして見ると「この話って、刊行始まってまだ1年足らず?」と思うものもしばしばです。
 ウェブから読んでいるせいでしょうけれど。

『戦国小町苦労譚』 夾竹桃
 農業系女子高生が戦国時代にトリップして信長配下となり、異世界DASH村を建設する話。
 チートな異能力に頼らない内政系タイムトリップもの。そのうち外交とか戦争とかにも関わるけれど、すぐに村に戻って開墾と農産物の開発に取り組む日々です。
 話も進んで、もはや女子高生という歳ではなくなりましたが……。

『人狼への転生、魔王の副官』 漂月
 瞬く間に辺境都市を陥落させた魔王軍。しかし、その指揮官である人狼ヴァイトは、元人間の転生者だった。魔物の力に人間の知謀……。
 主人公は自己評価が低すぎで、その一方で周囲は勘違いから実際以上に高評価され、結果としてギャップがすごく大きくなる話。文章の緩急が効いていて、さくさく話が進むのに急いでる感じがしないのは、場面転換が巧いからかな。
 自分は所詮小物で副官レベルがお似合いと卑下しながら、実は彼が倒れれば国一つ倒れかねないのに自覚のないのに周囲が苦労する物語でもあります。おとなしく後ろで控えてくれれば良いのに、すぐ突貫、特攻しちゃうから、周囲の気苦労はいかほどのものか。

『銀河連合日本』 松本保羽
 地球に突如飛来した異星人たち。しかし、ファーストコンタクトを求めてきた異星人たちは、なぜか日本にしか興味を示さなかった……という展開で、アニメやコミックなどサブカルが第一の理由にならないのは珍しいかも。
 真っ当なファーストコンタクトSFというより、人類が銀河文明に加わっていこうとする過程でぶつかる政治問題を描いたラブストーリー。やっぱ日本人ってスゴイよな! 陛下万歳!という話ですが、ウェブ版では最後の最後に(それまでみそっかす扱いだった)アメリカ海兵隊が見せ場をかっさらっていくのがツボ。

『銭(インチキ)の力で、戦国の世を駆け抜ける。』 Y.A
 宇宙の事故で時間と空間を飛び越えて戦国期の地球に漂着した日系宇宙人の運送業者一家が、宇宙船で沈没船の財宝を引き上げて売り払ったり、オーバーテクノロジーな機械で干拓事業をごり押ししつつ、信長配下として着々と勢力拡大していく話。
 よくある戦国内政系チートものなんだけれど、メリハリがしっかり効いていて痛快。戦いは火力だよ、アニキぃ!とばかり長距離殲滅戦志向で戦場を蹂躙していきます……。

『火輪を抱いた少女』 七沢またり
 ひとことでいうと、血に飢えた愛少女ポリアンナ。
 この作者のシリーズは、可憐な少女が巨大な武器を振りかざして無双する、そして少女のものの考え方が常人からかけ離れていて理解困難というのが特色で、その少女がリアルに血肉を持った存在なのか、単なる悪夢が見せた幻影なのか、物語が進むうちに境界線が分からなくなり、最後には周囲の多くを巻き込んで歴史の彼方に消えていく姿が魅力です。

『異世界詐欺師のなんちゃって経営術』 宮地拓海
 騙した相手に殺された詐欺師が異世界に転生したものの、そこはウソをつくとカエルにされてしまう世界だった……というところから始まる異世界コンサルティング物語で、巧妙な語り口で繰り返されるノリツッコミが印象的。最近読んだコンサルものの中ではいちばん面白く、物語としてもまとまってました。
 ウェブ連載で気になっていた部分も書籍版でさりげなく差し替えられていて、安心して読めました。

『アラフォー賢者の異世界生活日記』 寿安清
 異世界の神様の手抜きで死んでしまったVRMMOゲーマーが、アバターの能力そのままに異世界転生。“黒の殲滅者”と異名を取るほどのトップキャラが異世界でやりたい放題、日々平穏を求めて好き勝手に生きる冒険譚。
 異世界転生系のテンプレ要素をことごとく詰め込みながら、無理矢理感がないまま面白く読めてしまう、ジャンルを体現した1冊。

『嫌われ者始めました』 くま太郎
 もはや定番となった「ゲームの悪役に転生しちゃった」話の男性版。悪女なら才色兼備で性格だけ悪いというのが定番だけれど、男なのでひたすら貧相。よくあるのは設定だけ貧相とか普通といっているのにイラストは格好良いというやつですが、安心してください。イラストも終始貧相です。
 そして真面目に将来設計して民草のために仕事してるのに、なぜかヒロインたちには毛虫のごとく嫌われますが、ここで気にせず、むしろ距離を置いてもらった方が好都合と黙々と働く主人公のワーカーホリックぶりが格好良いです。

『セーブ&ロードのできる宿屋さん』 稲荷竜
 初心者冒険者を短期養成で一人前に育ててくれるという噂の宿屋さんの物語。
 ネタ的にはタイトルでモロバレなんだけれど、これを天丼で押し込んでこられると物量で負けます。ハッピーエンドなので笑って読めるけど、「とりあえず死にましょう」「たすけて」「死ななければ殺人じゃありません」「たすけて」と客観的に一言でまとめると「静かなる狂気」。そして「豆」。

『武姫の後宮物語』 筧千里
 新しい王の後宮に呼び集められた美姫たちのうち、最年長のヘレナがなぜか皇帝のお気に入りに。皇帝の年増好き疑惑が持ち上がる中、権謀術策が蔓延する後宮の勢力争いに巻き込まれたヘレナは、何も考えず、ただ肉体の鍛錬に専念していた。
 本来の彼女は淑女ではなく、次期将軍候補と謳われるほどの武勇に優れた戦士だったのだ……という、脳筋ヒロインの武勇譚という、熱血スポーツ根性後宮小説。


 最近ではアルファポリスとかカクヨムもありますが、あいかわらず「なろう系」の書籍化が多いですね。
 でも、こういうウェブ小説は、最初は面白くても長編化していくうちにルーチンに陥り、「水戸黄門」化くらいならともかく「くれくれタコラ」「ウルトラファイト」全話視聴くらいの単調な展開になりがちです。新しい街や迷宮に到着、大暴れでモンスター退治、戦利品を持ち込んで驚かれる、みんなで日本食を愉しむ……の繰り返しとか、いつまでもいつまでも戦争を繰り返していたり。
 そういう中で書籍換算して5冊10冊と飽かせず続けられる作品は本当にスゴイと思います。
 願わくば、そういう作品はすべてそれなりに売れて完結できますように。

 それでは皆様、よいお年をお迎えください。
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「失われた部屋」 F=J・オブライエン

2016-12-31 | その他SF(スコシフシギとかも)
「朝食っていうのは軽い食事でなければならないのよ。活力のもとにはなっても、負担になってはいけないのよ」
 フランス人は念入りすぎるし、イギリス人はこってりしすぎていて、アメリカ人の朝食は消化できないものばかりだと麗しのロザモンド。

 ポーとビアスをつなぐシュールレアリスムの幻想作家、オブライエンの短編集。
 見えない怪物と格闘したり、顕微鏡の中の水滴に仙女の姿を見つけたり、SFぽかったりファンタジーぽくもあるけれど、全体的には、どこか科学のフレーバーをちりばめた怪異譚って感じでしょうか。
 ホフマン風メルヘン(?)「ワンダースミス」なんて、勝手に動き出して人を殺す人形を玩具として売りまくって、サンタクロースを待つキリスト教徒の子供たちを殺そうとするジプシー集団の陰謀譚で、こいつらどこのチブル星人?

【失われた部屋】【フィッツ=ジェイムズ・オブライエン】【空山基】【サンリオSF文庫】【シュールレアリスム】【重力】【明王朝】【ワンダースミス】【幽霊屋敷】
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「楽園への清く正しき道程4」 野村美月

2016-12-30 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
 カテリナ王妃が失踪した。
 愛妾が5人もいれば自分はいらないでしょ!?と飛び出したのだ。王妃が懐妊するまでは、寵姫といえどもキスから先を許してもらっていないのに。
 だが、雪の降る中、カテリナを追って飛び出したルドヴィークは、妖精の森に迷い込んで消息を絶ってしまう……。

 皇帝陛下、あなたの判断は正しい。惜しむらくは準備が遅かったということです。
 ごめんなさい。カテリナ王妃の良さが分からなかった。マッチポンプのポンプ抜きなキャラで、「飽きさせない」という意味では満点。けれど、この思い込みが激しく、ひとりで突っ走るキャラを御せるなら国王の資質ありですね。そして見事な妊ませっぷりで、王としての務めを果たして見せてくれます。
 そして、これだけ政務を放置してたら、やっぱりそれも選択肢でしたね。アーデルハイドが最後まで理詰めでなくて良かったね。

【楽園への清く正しき道程】【国王様と楽園の花嫁たち】【野村美月】【竹岡美穂】【ファンタジー・ハーレム・コメディ】【地下牢】
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「ハーン・ザ・ラストハンター」 編:ブラッドレー・ボンド

2016-12-29 | ホラー・伝奇・妖怪小説
「ヨーカイはただしく日本国の資源である。富国強兵に逆行する国賊を今ここで討ち果たし、後顧の憂いを断たん!」

 アメリカ視点のニッポンテーマ同人小説セレクションで、発行部数推定50部のホチキス留め同人誌あたりまでフォローしつつ、特徴的かつ面白いものをピックアップした1冊で、帯の内容紹介だけでお腹いっぱいになりそう。

 『幽霊十両』『妖怪五十両』のノボリを立てた黒い軍馬を駆り、ウィンチェスターライフルで妖怪を狩る隻眼のガイジン(ラフカディオ・ハーンがモデルらしい)が大暴れする妖怪ハンターもの『ハーン:ザ・ラストハンター』シリーズからスタート。番町皿屋敷とかのっぺらぼうのエピソードが銃弾飛び交い、ダイナマイトが炸裂する妖怪バトルに。初っぱなから怪作。「アイエエエエエエエエエエ!」って、なんだよ!?

 交換留学生として日本にやって来たチート少女が巨大ロボット〈ジュウ・ニ・ヒトエ〉のメインパイロットとして怪獣と戦う『エミリー・ウィズ・アイアンドレス』は、巨大ロボットと超人バトルと恋愛シュミレーションとパラノーマル・ロマンスを足したもので、これまた怪作。解説によれば、この世界での「センパイ」とは「ジェダイ」とかに近い概念らしい。

 映画「サイレント・ランニング」みたいな、たった1人で豆腐ステーションを管理する男の物語、『阿弥陀6』も怪作……って、怪作しかない作品集ですね。巨大マニ車が幾つもくるくる回る宇宙ステーションって、「サイレント・ランニング」まんまだよ!

 日本にやって来た交換留学生がバスケット勝負に巻きこまれる学園スポーツもの『流鏑馬な!海原ダンク!』は、怪作が続いただけに普通の小説が逆におかしく見える……かと思ったら、やっぱりこいつもおかしかったよ!

 カナダからの観光客を乗せ、カラオケしながら1週間の格安バス・ツアー。ところが山間の村でツアーは殺人鬼の群れに襲われ、次から次に殺されていく『ジゴク・プリフェクチュア』は筋立ては定番のホラー。不思議なジャパニーズ・テイストだけれど、これならなんとなくコミックとかカルト映画にありそう。

 『隅田川』シリーズは、隅田川沿いの料亭「お深山」で繰り広げられる宴会を、ただただリアルかつ幻想的に描いたもので、「小説現代」「小説新潮」あたりに普通に載っていそう。でも、頭割りの会費は立地と客層と芸者が出入りする格式からすると安すぎるかな。

 地獄の軍勢と戦う魔女狩師ウィルヘルムが、争いのない不思議な街プライムガルドに紛れ込んでしまう『ようこそ、ウィルヘルム!』は、欧米のMMORPGの世界から日本のオンラインゲームに紛れ込んでしまった男の「往きて帰りし物語」。
「整列している!? 狩り場で整列だと!? 伝説の通りだ……」
 ゲームの世界に転生してしまうパターンはいくらでもあるけれど、このパターンはなかったなあ。シリーズ傾向としては『SAO』みたいな異世界渡り歩きファンタジー小説のゲーム版。

 つまり「同人小説はどんな自由な発想で書いてもいいんだ」ということ。

【ハーン・ザ・ラストハンター】【ハーン:ザ・ラストハンター】【ハーン:ザ・デストロイヤー】【トレヴォー・S・マイルズ】【マッシュアップ小説】【のっぺらぼう】【シマヅ・クラン】【番町皿屋敷】【ゾンビ】【ボンファイア】【舟幽霊】【地蔵オベリスク】【ベトベトサン】【エミリー・ウィズ・アイアンドレス~センパポカリプス・ナウ!】【エミリー・R・スミス】【メアリー・スー系小説】【イチゴ大佐】【シブヤ・センパイ・ハイスクール】【阿弥陀6】【スティーヴン・ヘインズワース】【SFサスペンス】【マニ車】【燃料貴族】【軍貴族】【奴隷貴族】【オカラ】【流鏑馬な!海原ダンク!】【アジッコ・ディヴィス】【熱血ハイパー・スポーツ・アクション】【入れ墨】【四十九日】【帝王学バスケットボール】【ジゴク・プリフェクチュア】【ブルース・J・ウォレス】【ソリッド・ゴア・ホラー小説】【松茸】【隅田川オレンジライト】【隅田川ゲイシャナイト】【デイヴィッド・グリーン】【ジャパニーズ・ペーソス】【屋形船】【ようこそ、ウィルヘルム!】【マイケル・スヴェンソン】【久正人】【筑摩書房】【アメリカン・オタク小説集】
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「アンバーの九王子」 ロジャー・ゼラズニイ

2016-12-28 | 時間SF・次元・平行宇宙
「片手で思い、もう片方の手で何かほかのことをしてみろよ。そして、両方を握りしめて、どちらが正しいか見てみるがいい」

 地球も含めて並行世界は無数にあれど、それはすべて真の世界であるアンバーの影にすぎない。
 自動車事故で入院させられた病院で目覚めたコーウィンは、自分が記憶喪失だということに気づいた。そして、自分の正体を探るべく向かった、妹フロリメルの屋敷でアンバーへと到る手段を手に入れる。
 コーウィンは真世界アンバーを統べるオベロン王の九王子の1人であり、記憶を取り戻さないまま、再び王位継承争いのただ中に飛び込むこととなったのだ……。

 剣と魔法の多元世界SFの代表作。
 ゼラズニィといえば、80年代頃までは、ハードSFみたいに数字や理論は振りかざさないけれど、重厚で面白いSF作家の代表でした。麻宮騎亜の『神星記ヴァグランツ』も、さまざまな異世界を徒歩や乗り物に乗って移動するという、いかにも真世界シリーズのイメージを具象化しました、みたいな感じで影響ありありです。
 タロットのような、王族1人1人が描かれたカード(訳はトランプだけど)を使って互いに連絡を取り合ったり行き来したりというイメージも新鮮でした。
 はっきり言って、王族間の骨肉の争いなんてどうでも良くて、この地獄騎行とかカードとかのイメージ、平凡な一市民のはずが発動する未知の力!みたいな展開に酔いしれていたのです。

【アンバーの九王子】【真世界シリーズ1】【コーウィン5部作】【真世界アンバーシリーズ】【ロジャー・ゼラズニイ】【ハヤカワ文庫SF】【パターン】【地獄騎行】【審判の宝石】【国盗り】


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★キャラクターの顔が突然変わる

2016-12-27 | ランキング・カテゴリー
 劇画タッチ、リアルっぽい絵のキャラクターが突然に頭身が小さくなってギャグっぽくなるマンガというのも今では普通になったかな。

『ホモホモ7』みなもと太郎(1970)
 劇画調のキャラが一瞬で3頭身そこそこに変貌するスパイもののコメディ。
 単なる一発ネタとして突然のキャラの変貌というだけなら手塚治虫のマンガが(ひょうたんつぎとか)普通にやっているので、どこが最初かきちんと調べようとすると、まず手塚治虫の作品をチェックしないといけませんが、作品としてそれを売りにしたのはたぶんこの作品が最初。

『がきデカ』山上たつひこ(1974)
 でもヒットした大きさで言えば、『がきデカ』にはかなわない。
 日本初の少年警察官と自称するこまわり君の暴走に、彼が通う小学校の同級生たちが巻き込まれるギャグ漫画。下品でエッチで絶対親には読ませちゃいけないやつ。
 イメージソングの「恐怖のこまわり君」もヒットしたらしい。どれくらいヒットしたかは知らないけれど、当時のラジオでは頻繁に「がんばれがんばれ ぼくのパンツ」の歌詞が流れてました。

『マカロニほうれん荘』鴨川つばめ(1977)
 真面目な高校生が、クラスメイトで下宿も同じという2人の落第生が巻き起こす騒動に巻き込まれる、スラップスティック・ギャグ漫画。頭身変化をギャグのメインに据えた作品。
 「トシちゃん25歳」とか「きんどーちゃん40歳」とか、当時の小中学生はみんな読んでた。

『軽井沢シンドローム』たがみよしひさ(1981)
 別荘地・軽井沢を舞台にした女性ヌード専門のフリーカメラマンと若者たちの青春群像で、女と女と女と女と暴走族の抗争の物語。基本的にシリアスな話なのに、登場人物がリアルな八頭身からギャグ頭身にひんぱんに切り替わったり、アニメや特撮ネタが随所に出てきたりして、重苦しさを吹き飛ばしてました。
 OVAでは、エッチなシーンになるとアニメから実写のイメージ映像に切り替わってたなあ……。
 エロマンガ以外で肯定的にハーレムエンドを描いた先駆け。

 ただ、前述したけれど、油断できないのは手塚治虫。
 新しい試みをどんどん考えていた人だし、何か流行りそうだとすぐに自分もマネして取り入れてくるし、しかも作品数が多いので、なにか「マンガ初めて」を考える時には、「この技法は先にどこかで手塚治虫が使っていないか」「この手塚治虫が使っている技法は、他で誰かが先に使っていないか」検証が必要な存在。
 手塚治虫はコミックや全集やCOMで一通り読んだけれど、手元にあるのは『白いパイロット』だけなので検証不能。とりあえず「手塚治虫以外で」としておきましょう。
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「エレメンタル・ローズ」 芝村裕吏

2016-12-26 | その他フィクション
「ゲームというものは、選択すること、選ぶことだ」
 エレメンタル・ローズ開発者の遺児、宮林忠義の言葉。

 AR(仮想現実)を取り入れた位置情報ゲーム「エレメンタル・ローズ」は、火土水風の4つのエレメントをそれぞれ属性とした陣営に分かれて拠点争奪をするゲームで、国内400万人のユーザーを誇る大規模なものだ。
 しかし、当初はスキルや戦術を磨き、エレメントごとの個性を活かして勝つための工夫を凝らすゲームだったが、研究していくうちに数合わせの動員力が勝敗の鍵となるものへと変じており、それが忠義には面白くない。
 だが、ある雨の日、忠義の属する火の陣営の拠点が集中する池袋に、水の陣営の一大攻勢がかけられ……。

 ゲームを真剣にプレイするゲーマーたちの物語。
 ゲーム世界の物語ではなく、プレイヤーたちがゲームの内外でぶつかり合い、意地を張り、莫迦なことをしては叩かれ、逆境から逆転し、戦術で負けて戦略で勝ち、リアルの人間関係をゲームに持ち込もうとして失敗し、自分のプレイスタイルを貫こうとし、ゲームの楽しみ方を見つけていく話です。
 システムとしての「エレメンタル・ローズ」は「Ingress」での対人戦闘とARを強化したようなイメージだけれど、陣営が別れてリアルな生活にまで影響する情報収集や欺瞞工作、作戦立案など右往左往してプレイする姿は「ネットゲーム'88」を彷彿とさせるし、プレイしている最中は愉しむ暇もなくゲームに忙殺され、勝ったら喜び、負けたら本気で悔しがるのは「アイドレス」。
 「負けたら本気で悔しがるのがゲームの礼儀だ」「大規模動員は大規模動員でいいものだよ」などのセリフは、まさにこうしたゲームをプレイしてきた経験を反芻させるものでした。
 ただ、自分としては行動力はあっても自己中心的で他人を理不尽に振り回し、都合が悪くなると泣いて逃げる女は勘弁して欲しい。そういう意味で、彼の趣味はよく分からないし、ある意味、洗脳は成功してるんだと思う。
 カラーイラストのフシギドサイタマは、濁流のサイトウこと勅使河原さんの誤植みたいですね。

【エレメンタル・ローズ】【芝村裕吏】【もりのほん】【アスキーメディアワークス】【史上最強の青春国盗りラブバトル】【われは剣王っ】
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「武姫の後宮物語2」 筧千里

2016-12-25 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
 後宮で日夜肉体の鍛錬に明け暮れるヘレナのもとに、弟子入り志願のちょっと変なのがやってきた。やはり後宮の姫君の一人であるフランソワだ。来る者は拒まずで稽古をつけ始めたヘレナだが、教える相手が少しずつ増えていく。後宮なのに。
 そこに後宮警備の増員が行われ、女騎士の一団が配属されることとなった。
 指揮するのは銀狼騎士団を率いる八大将軍『銀狼将』ティファニー・リード。童女のような容姿でありながら歴戦の勇士であり、既に騎士団入りしている2人の息子を持つ42歳、そしてヘレナ様公式ファンクラブ『ヘレナ様の後ろに続く会』会長である。
「私のことは会長と呼ぶように。後ほど会規則と会員証、それに会報を持ってゆく」
「会報はどのくらい欲しいか? 一応、半年前までは持ってきているが」

 馬鹿ではないけれど考えることは苦手で、他国からは“千人斬り”“金髪の悪魔”“殺戮姫”と怖れられている主人公が、それでも今なお届かぬ目標である、亡き母を目指して日夜鍛錬する後宮の物語。陽天姫というより能天気。後宮ものにありがちな陰謀とか嫉妬とか虐めとかは真っ正面から真っ二つに縦断して蹂躙してしまうので、読後感は熱血スポーツ根性青春小説です。ラブコメにも入りかけているかな。
 ウェブ版から幾つかエピソードをカットして、夜会まで収録。飛ばされた猫耳バトルとか、どこにでも差し込めるけれど、3巻以降に収録されるかなあ。短編集でもいいけれど。
 主人公であるヘレナもたいてい変なやつですが、あらたに登場したフランソワとかティファニーとか輪をかけて変なので、相対的にヘレナが「脳筋だけれど常識人」に見えてくる不思議です。
 軍や貴族・商会を中心にメンバーが15000を超えるファンクラブって何よ?

【武姫の後宮物語2】【筧千里】【kyo】【カドカワBOOKS】【小説家になろう】【カクヨム】【脳筋だって、乙女です!!】【どうしてこうなった】【腕立て伏せ】【酔っ払い】【ヘレナ様の後ろに続く会】【鍋パーティー】
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「10年ごしの引きニートを辞めて外出したら (2)」 坂東太郎

2016-12-24 | 異世界転移・召喚
 開拓の許可も得て、家の周りの農地を拡げようとした矢先、ゴブリンの大群に襲われてしまったのだ。上位種のゴブリンが率いているらしく、統率された動きでユージのささやかな開拓地はモンスターに包囲されてしまう。
 掲示板の助言もあり、ユージやヨーコも戦場に立つのだが、ゴブリンやオークの数は多く、しかも狡猾だった……。

 完結したウェブ版だと第9章あたりまでに相当して、全体の1/3をちょっと超えたくらい。
 ただ、大筋はそのままでも文章そのものには大きく手を入れていて、村の防衛戦を大規模にしている一方で、異世界話と大きな対比構造になっていた現代日本パートをかなりスッパリ削除しているのが気になるところ。異世界に放り出されたニートと現代日本に縛り付けられたままのニートたちとの二面構造が、この話が他の異世界転移ものと大きく差別化している部分であり、面白さのキモなのに何してるんだろう。女騎士のイチャ恋話を入れるなら、キャンプオフをやろうよ。
 今回はウェブ版では起きていたエルフ少女保護イベントが発生していなかったし、自宅の機能停止も早いし、これからどう展開していくのか予想が難しくなりました。

【10年ごしの引きニートを辞めて外出したら (2)】【異世界で開拓民になりました】【坂東太郎】【紅緒】【オーバーラップ文庫】【快適環境で異世界交流する@ホームコメディ】【小説家になろう】【開拓】
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「救わなきゃダメですか?異世界4」 青山有

2016-12-23 | VRMMO・ゲーム世界
 ミチナガの指揮する部隊「チェックメイト」はラウラ姫というカードを手に、ルウェリン伯爵との関係を強化していく。迷宮を攻略しなければいけないのだろうが、まずこの状況を何とかしないと話にならないのだ。
 ミチナガたちは神器や使役獣などを確保して戦力を強化しつつ、邪魔な味方は陥れ、因縁の敵は叩きつぶし、この世界に更に深く入り込んでいく……。

 ウィンディーネがいきなり脳キンという回。
 ミチナガの言動が年寄り臭いので、ついつい中年オヤジを想像しながら読んでいるのだけれど、表紙を見ると意外に若く、そういやそういう設定になっていたなあと再確認。違和感あるある。

【救わなきゃダメですか?異世界4】【青山有】【ニリツ】【ぽにきゃんBOOKS】【なろうコン大賞】【異世界ファンタジーバトル】【世界を懸けた、世界を巻き込む、世界の為の物語】【斧】
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「人狼への転生、魔王の副官5」 漂月

2016-12-22 | 異世界転生
「死神は例外を作らない」
 『冷たいミーチャ』の物語が語り継がれるロルムンド帝国は、その統一過程も苛烈だ。敵は完全に根絶やし、降伏していても全員農奴にして文化も宗教も微塵も残さない。それが帝国スタイルなのだ。

 エレオラを敗って南北統一を成し遂げ、ミラルディア十七都市連邦を立ち上げた魔王軍だが、北の帝国を放置するのも危険だ。
 そこでヴァイトたちは、皇女エレオラの「凱旋」に付き従ってロルムンド帝国へ向かうこととした。
 正当な帝位継承権を持つエレオラに帝位簒奪をさせて、親ミラルディア政権を打ち立てようというのだ……。

 弟弟子リュッコも加わり、北の帝国編が開幕。
 パーティでの会食は毒殺の可能性があるので誰も口にしないというロルムンドですから、皇帝が危篤状態となって、海千山千の皇位継承者たちが水面下で丁々発止の駆け引きを繰り広げていきます。個人的に善人かどうか有能か否かは関係ないのですね。基本的にみんなそれぞれに有能で、ちゃんと志があり、でもそれが互いに相容れず隙あらば……という世界です。
 どんどん話が進むけれど、常に話が二転三転して、この陰謀劇がどこに着地するか読めません。
 ところで、留守を任されて「モンザちゃんのおちゃめ」と言い切るファーンお姉ちゃんは大物。それともこれが人狼の常識なのかな。
 手紙だけの登場がほとんどとなってもアイリアの存在感はますます大きくなっています。

【人狼への転生、魔王の副官5】【氷壁の帝国】【漂月】【西E田】【アース・スターノベル】【小説家になろう】【転生ファンタジー】【薬草園】【鎮魂】
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「ロード・マークス」 ロジャー・ゼラズニィ

2016-12-21 | 時間SF・次元・平行宇宙
 レッド・ドラキーン老人(仮称)は青いピックアップ・トラックで〈道〉を走る。積み荷はブローニング自動ライフルに手投げ弾、M1ライフルと武器がどっさり。彼はマラトンの戦いでギリシア軍が勝つと信じて、時間を貫通するハイウェイ<道>を使って紀元前490年への武器密輸を謀っていたのだ。
 そんなレッドを狙う者がいる。ゲーム局公認の復讐ゲーム「黒の十殺」の標的にされたのだ。敵は警察などの妨害を受けず、無警告で10回の攻撃ができる。
 レッドは次々に送り込まれる殺し屋と戦いながら、過去へ過去へと走って行く……。

 時間と空間を車で疾走して移動するという、真世界シリーズ以来のゼラズニィならではの十八番芸。無数の可能性を秘めたパラレル・ワールドへ通じる回廊を舞台にしたロードムービー小説です。
 登場人物が重複する3つのストーリーがカットバックで並行して展開しているので、これがいつの話か分からない序盤は戸惑うかもしれないけれど、すぐに気にせず一気読み。後で読み返すか解説を読めば良いのだ。襲ってくる殺し屋はありきたりのギャングっぽいのもいれば魔術師もいるし宇宙人が遺した殺戮機械の陶芸家もいるし、カメレオン変化する殺人狂の兵士とお腹いっぱいになる殺し屋ばかり。そして頼りになるパートナー、三井財閥製の書籍型人工知能も忘れてはいけませんね。
 ライトノベル風の装丁で再版されるのを見たいところです。この表紙はちょっと違うよね?
 そして、読んだ人誰もが、誰とは言わないけれど自分の勝った時間線を探し続け、フォルクスワーゲンで〈道〉を走り続けているチョビひげのアドルフが気になるようです。

【ロード・マークス】【ロジャー・ゼラズニィ】【中西信行】【サンリオSF文庫】【サド侯爵】【サイボーグ戦車】【ティラノサウルス】【若返り】【ドラゴン】【ヒットラーのパラドックス】【サン=テグジュペリ】【ドク・サヴェイジ】
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「深き森は悪魔のにおい」 キリル・ボンフィリオリ

2016-12-20 | ミステリー・推理小説
「学生さんはビールを飲み、ボートを漕ぎ、本を読んでいるべきです。卒業すればそんなセックスに使う時間なんていくらだってあるんですからね」
 スコーン・カレッジの食料品貯蔵室の用度係のヘンリーの言葉。

 70年代末から80年代にかけてサンリオSF文庫なるものが刊行されていました。
 キティちゃんに代表されるメルヘンとファンシーが売り物のサンリオがSFですよ。10年足らずで終わってしまった理由が、高すぎたせいとはいうけれど、当時はハヤカワもサンリオも1冊360円くらいでどっこいどっこい。訳が悪かったともいうけれど、誤訳は他のレーベルでもいくらでもありました。やはり、先発の創元やハヤカワと差別化を図ったのか、あまりにもマイナーでマニアックなラインナップのせいだったのでしょう。
 ゼラズニィとフィリップ・K・ディックが多かったのはともかく、SFといっておきながら、当時流行りのスペキュレイティヴ・フィクション(思弁小説)までSFの範疇にひっくるめたのか、SFだかファンタジーだか怪奇小説だか純文学だかなんだか分からない物までてんこ盛り。高校の図書館に入っていた『手で育てられた少年』なんて著者こそ英国ニュー・ウェーブの代表作家のブライアン・W・オールディスですが、内容はホレイショ・スタブズという少年が18歳になるまでの性の遍歴を描いた自伝的小説。SFじゃねーよ!という生徒の声に気づいた司書の手によって、閉架書庫へ移動させられてしまいます。

 連続強姦事件が発生する。
 犯人はゴムのマスクをかぶり、山羊のような臭いのする男。伝説のけもの男か、はたまた悪魔主義者か?
 盗品売買も生業とするチャーリー閣下だが、友人の妻たちが次々に被害に遭い、やがてジョアンナにも魔の手が伸びるとなれば、解決に本腰を入れざるを得ないというものであった……。

 そんなサンリオSF文庫だけに、『深き森は悪魔のにおい』もサイコ・オカルトミステリの皮を被ったブラックユーモア・ピカレスク。怪しい美術商“チャーリー・モルデカイ閣下”が、飲んだくれのスナイパー・チャーリー、片目の用心棒ジョック、美人妻ジョアンナを相棒に事件に挑むミステリ。どこにSFがあるんだ!?といえば、彼の作品群には1作だけSF短編があるんだって。

【深き森は悪魔のにおい】【モルデカイ・シリーズ】【キリル・ボンフィリオリ】【サンリオSF文庫】【サイコ・オカルト・ミステリ】【ユーモア・ピカレスク】【悪魔的自由】【ジャージー島】【トロッキーは生きている!】【ベーコンエッグ】
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「むいむいたん」 無為無策の雪ノ葉

2016-12-19 | 異世界転生
 目が覚めたら芋虫になっていた。
 糸が吐ける。魔法もあるらしい。現状確認しながらむしゃむしゃ葉っぱを食べていたら、近くの葉っぱにいた別の芋虫が通りすがりの冒険者パーティーにちょっかいを出して真っ二つに。
 こりゃ真面目にやらないと生き残れないと、巨大な樹の幹をえっちらおっちら登り始めるのだが……。

 イモムシに転生しちゃった男が冒険者として異世界で(いろんな意味で)成長していく冒険譚。
 世の中はもはや男女逆転どころか魔族や魔王に転生くらいは当たり前。スライムに転生した話もガイコツもゴブリンもありますし、畑や自販機すらあるご時世ですから、もはやイモムシに転生くらいで驚いていちゃいけないわけですが、ちゃんと話として面白いんですよね。一発ネタで序盤の勢いだけ良いというわけではなく、単行本10冊分くらいはあるだろうウェブ版も、水戸黄門的な同じパターンにはまり込むことなく、大河ドラマ的に二転三転しながら物語が動いているんですね。
 これもきちんと完結して、最後まで刊行されると良いなあと追い続けたいと思います。

【むいむいたん】【無為無策の雪ノ葉】【柏井】【マックガーデンノベル】【世界樹】【迷宮王】【星獣】
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「俺の転移した異世界がクソゲー年間大賞」 小山タケル

2016-12-18 | VRMMO・ゲーム世界
「これはゲームであって、遊びである」
 当たり前の言葉なんだけれど、帯のこのあおり文句を見たせいで、たぶんこの話は自分に合わないだろうなあという予感があったにもかかわらず購入。
 遊びは真剣にやらなきゃ。

 元ゲーオタの嘉凪爽太はトラック事故に巻き込まれて異世界転生を果たした。
 そこはマジックショップで普通のゲーム機が売っている世界。あふれる魔法技術が娯楽につぎ込まれていたのだ。
 だがソータが拾われたのは、倒産目前のクソゲー溢れるマジックショップ。しかし開発を担当する店員の美少女たちは趣味嗜好が偏っていて、まともなゲームの開発などできそうになかった……。

「異世界に逃げたって、ダメ人間はダメ人間のままなんだよ!」
 自分自身が生き証人だと嘉凪爽太。
 その言葉通り、主人公が転生してもダメ人間でなければ成立しない話でした。

【俺の転移した異世界がクソゲー年間大賞】【マジックアイテムでも物理で殴ればいい】【小山タケル】【檜坂はざら】【MF文庫J】【裸エプロン】【巨乳エルフ嫁】【ゲーム依存症】
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